効率厨魔導師、第二の人生で魔導を極める

謙虚なサークル

文字の大きさ
上 下
201 / 208
連載

342 誰がために鐘は鳴る⑦

しおりを挟む
「メア=エルヴィン、ゼフさまのお呼びに応じてただ今参上! ですわぁ!」

 堂々たる名乗りを上げるメアの横で、セルベリエ青い顔をしてぐったりしている。

「う……もうすこしゆっくり……たのむ……」
「あらぁ、申し訳ないですわ。急げとの仰せだったのでぇ。でももう着きましたわよぉ」
「そ、そう……ついたの……」

 タイタニアに取り付けた後部座席の後ろから、ミリィがよろよろと起き上がる。
 ミリィは完全に目を回しており、フラフラだ。
 それを見て、メアはクスクスと悪戯っぽく笑う。

「ミリィさまのおっしゃられた通り、すっごぉく急いで到着いたしましたわぁ。褒めてくださいますわよねぇ?」
「……うん」

 厭味っぽく言うメアに、ミリィは弱々しく頷いた。
 そしてメアの頭に手を載せ、ゆっくりと撫でる。

「ミリィさま……?」
「あり……がと…………がくっ」

 そう言い残して、力なく崩れ落ちるミリィ。

「お、おいミリィ! 起きろ……っ!」

 落ちそうになるのをセルベリエが捕まえようとするが、こちらも既に力は残っていない様だ。
 あわや落下という所で、むんずと二人を掴んだのはシルシュである。

「大丈夫ですか。お二人とも」
「……なんとかだ」
「私がせっちんを持つよ。シルっちはミリィちゃんを」
「はい、わかりました」

 レディアがセルベリエを背負い、シルシュがミリィを抱きかかえる。
 ちなみにシルシュもレディアもピンピンしており、タイタニアの全力疾走なんのそのといった感じだ。
 メアが二人の方を向き、呆れたように首を振る。

「ミリィさまとセルベリエさまは、限界のようですわねぇ。ここはお二人を任せても構いませんかぁ?」
「おっけーメアちん」
「はい、こちらはお任せください! メアさんは、黒い竜を!」
「うふふ、お任せですぅ……ゼフさまぁ、このメアの活躍をご覧に……」

 言いかけたメアの目に、ボロボロにされたワシの姿が映る。
 一瞬、動き目を見開くメアだったが、すぐに目を細めた。
 と共に、メアの雰囲気が変わっていく。

「……よくも、ゼフさまを……っ!」

 静かに、低い声でそう呟くメア。
 黒い竜を睨みつけたメアが――――タイタニアが拳を振り上げる。
 そしてそのまま、大岩の如き拳を打ち下ろした。

 ずずん、と轟音を響かせ黒い竜の頭へタイタニアの拳が撃ち込まれる。
 何度も、何度も、何度も。

「このっ! このこのこのぉっ! 私のっ! ゼフさまにっ! なんてことをっ!!」

 一撃のたびに立ち昇る土煙、地面が大きく揺れ、まともに立っていられない程だ。
 な、何という恐ろしい攻撃だ……敵に回すと恐ろしいが、味方にしても恐ろしい。
 鬼のような形相である。ヤバいぞメア。

「ゼフさんっ! ご無事でしたかっ!」
「レディアにシルシュか。二人とも元気そうだな」

 黒い竜がタイタニアに殴られているその隙に、シルシュがミリィを抱えて飛び降りてくる。
 続いてセルベリエを抱えたレディアも。

「あっはは、こっちはグロッキーしてるけどねぇ」
「う、うるさい……」

 力なくレディアを殴るセルベリエ。
 ちなみに、ミリィの方は完全に気を失っているようで、口から液体がだらしなく漏れていた。
 ……あまり大丈夫ではなさそうである。

「ゼフさんたちがはぐれた後、私たちは凄く慌てていました。でもミリィさんが言ったのですよ。ゼフなら大丈夫、必ず合図を送ってくるから、信じて待ちましょうと」

 ――――ミリィにはあらかじめ、何かあれば合図を送ると言っておいた。
 だがやはりというか、心配はさせたのだろう。
 それでもなお、ワシの言う事を守って合図を待ったのだな。

「そうか。よくやってくれたな。ミリィ」

 ぐったりとしているミリィの額に手を載せ、撫でてやる。

「二人はミリィとセルベリエを安全な場所へ運んでくれるか」
「ゼフっちはどうするのよ」
「なぁに、そろそろクロードの準備が出来る頃だ」

 ニヤリと笑いクロードの方を向くと、構えた剣に魔力が溜まっているのが遠目からでもわかる。
 準備は出来ました、そう言わんばかりにクロードは閉じていた目を開き、こくりと頷く。

「……考えはあるみたいね。わかった、任せたよゼフっち」
「二人を安全な場所に連れて言ったらすぐに戻りますっ! ゼフさん、クロードさん、ご武運を!」
「あぁ」

 そう言ってワシは、黒い竜と格闘するタイタニアの方を見やる。
 黒い竜を一方的に殴りつけていたはずのメアだったが、いつの間にか攻守は逆転し、防戦一方になっていた。
 やはり、あのまま倒すというわけにはいかんか。

「ぐ……こ、このっ! ナマイキな……ですわぁ……っ!」
「メア! 少しの間押さえて貰いたいのだが、いけるか!?」
「ご要望には……お応えしたいのですけれど……ぉ……!」

 ワシの声に応じ、黒い竜を押し返そうとするメア。
 だが相手は強く、それもままならないようだ。
 メアの表情にはいつものような余裕はない。
 このままでは厳しいか……致し方あるまい。

「聞け! メア!」
「なん……ですのぉ……?」
「奴を倒したら、何か一つ言う事を聞いてやる。だからすまんが……」

 言いかけた瞬間である。
 メアの目がギラリと光り、押されかけていたタイタニアが息を吹き返したかのように上体を起こし始めた。
 黒い竜の両腕を握り、押しのけていく。

「うふ……うふふ……何でも……何でも言う事を聞いてくれるのですねぇ……ゼフさまぁ……?」
「い、いや、何でもとまでは……」
「っっっしゃぁあああああ!! わかりましたわああぁぁぁぁぁあっ!!」

 奇声を上げながら黒い竜をはねのけ、タイタニアが立ちあがる。
 黒い竜の両腕を押さえつけたまま、どてっぱらに蹴りを入れて吹き飛ばした。
 狂気に染まった瞳のメアが、ワシの方を向いてにたりと笑う。

「あはぁ、ゼフさま。こやつめの相手は、お任せくださいなぁ」
「……う、うむ……」

 だからやりたくはなかったのだが……まぁいいか。メアのやる気に水を差す事もない。
 いざとなったら逃げよう。
 タイタニアと黒竜はがっぷり四つで組み合い、そのまま固まっている。

 今がチャンスだ。ワシはクロードの傍へと駆け寄った。
 クロードの手に触れると、かなり熱くなっている。
 あまり魔力線を酷使しすぎると、オーバーヒートして体温が上がってしまうのだ。

「よく頑張ったなクロード……いけるか?」
「はい。……ゼフ君と一緒なら」

 消え入りそうな声で、そう付け加えるクロード。
 ほんのり顔が赤くなっているのは、自分の言葉に照れているのかそれとも身体が熱を持っているからか……ま、両方だろうな。そんな顔をしている。

「ならばついて来てもらうぞ」
「はいっ!」

 クロードの背中から、抱きしめるようにしてその手の上から剣を握りしめる。
 テレポートを連続して念じ、黒い竜と組み合うタイタニアの背に降り立った。

「そのまましっかり押さえていてくれよ、メア」
「うふ……うふふ……あははははぁ……!」
「き、聞こえていないようですね……」
「……そのようだ」

 不気味に笑うメアに、ワシもクロードもドン引きである。
 だがまぁ、そのおかげでこいつを押さえつけてくれているのだ。
 今のうちに事を成し遂げるとしよう。

 クロードと共に剣を振りかぶり、タイムスクエアを念じる。
 時間停止中に念じるのは、レッドクラッシュ、ブルークラッシュ、グリーンクラッシュ、ブラッククラッシュ。
 ――――四重合成魔導、テトラクラッシュ……を、クロードの持つ剣へ乗せるようにして、発動させる。

 金色の光に包まれた剣から、ミシミシと軋み音が聞こえてくる。
 絡ませたクロードの魔力線が、徐々に裂けていくのも。
 その痛みは相当だ。クロードも、額に脂汗を浮かべている。
 余裕はないか……一撃で終わらせるしかあるまい。

「グルゥ!?」

 黒い竜もワシらに気付いたのか、こちらを見上げてきた。

「ふん、今更気づいたとて……遅いぞっ!」

 タイタニアから飛び降りると同時に、クロードが金色の剣を振るう。
 黒い竜の喉元に突き刺さった剣は、そのまま重力に従い腹を切り裂いていく。
 あの強靭な黒い竜の身体を、まるで水でも切るかのように。

 魔導と武術を融合させた技は、バラバラに撃つよりも遥かに威力が高い。
 だがそれを可能とするには長い修練が必要で、使える者は非常に少ないのだ。
 まして他人の魔導でもってそれを発動させるなど、至難の技だろう。

「はあああああああああああああああああああっ!!」

 だがクロードはそれを習得した。
 ワシらの力となる為に、そしてそれは今、確かにワシらの力となっている。

(ま、流石に負担は大きかったようだがな)

 バキン、と音を立てて剣がへし折れる。
 同時に剣を握るクロードの手が緩み、折れた柄が飛んで行ってしまった。
 クロードが気を失ったのだ。

「限界か……後は任せておけ」
「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオゥ!?」

 咆哮を上げる黒い竜。
 腹を切り裂かれた奴の体内へ、ワシはティアドロップを投げ込んだ。
 すぐに再生を始める黒い竜の腹に、ティアドロップが埋め込まれていく。
 よし、準備オーケーだ。
 クロードを抱きかかえ、着地したワシはメアの方を向き、叫ぶ。

「メア! もう十分だ! こっちへ来い!」
「はっ!? わ、私は何を……? えと、わ、わかりましたわぁ」

 ワシの言葉に我に返ったのか、メアの表情が普段のモノに戻り、こちらに飛び降りてきた。
 どこかぼんやりした感じのメアを連れ、テレポートを念じる。
 十分に離れ、一息ついたところでメアがワシの袖をくいくいと引いてくる。

「ん? どうしたのだ?」
「え、えーっとぉ……私、途中からの事をよく憶えていないのですがぁ……ゼフさまに何か激励をされて、がんばっていたような……」
「うむ、頑張ってくれていたぞ。本当に助かった」

 そう言ってメアの髪を撫でてやると、メアはうっとりとした顔で息を吐く。
 どうやら件の約束は忘れているようである。
 やれやれ、命拾いしたといったところか。

「あちらの方もな」

 後ろを見ると、ワシらが逃げた後も黒い竜は動かなくなったタイタニアへ攻撃を続けていた。
 ボロボロになったタイタニアを見下す黒い竜の腹が、強い光を発する。
 そして―――――光の柱が空へと立ち昇る。
 大爆発の中、吹きすさぶ爆風が城の鐘を、ごおんと鳴らすのであった。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った

冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。 「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。 ※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。