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342 誰がために鐘は鳴る⑦
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「メア=エルヴィン、ゼフさまのお呼びに応じてただ今参上! ですわぁ!」
堂々たる名乗りを上げるメアの横で、セルベリエ青い顔をしてぐったりしている。
「う……もうすこしゆっくり……たのむ……」
「あらぁ、申し訳ないですわ。急げとの仰せだったのでぇ。でももう着きましたわよぉ」
「そ、そう……ついたの……」
タイタニアに取り付けた後部座席の後ろから、ミリィがよろよろと起き上がる。
ミリィは完全に目を回しており、フラフラだ。
それを見て、メアはクスクスと悪戯っぽく笑う。
「ミリィさまのおっしゃられた通り、すっごぉく急いで到着いたしましたわぁ。褒めてくださいますわよねぇ?」
「……うん」
厭味っぽく言うメアに、ミリィは弱々しく頷いた。
そしてメアの頭に手を載せ、ゆっくりと撫でる。
「ミリィさま……?」
「あり……がと…………がくっ」
そう言い残して、力なく崩れ落ちるミリィ。
「お、おいミリィ! 起きろ……っ!」
落ちそうになるのをセルベリエが捕まえようとするが、こちらも既に力は残っていない様だ。
あわや落下という所で、むんずと二人を掴んだのはシルシュである。
「大丈夫ですか。お二人とも」
「……なんとかだ」
「私がせっちんを持つよ。シルっちはミリィちゃんを」
「はい、わかりました」
レディアがセルベリエを背負い、シルシュがミリィを抱きかかえる。
ちなみにシルシュもレディアもピンピンしており、タイタニアの全力疾走なんのそのといった感じだ。
メアが二人の方を向き、呆れたように首を振る。
「ミリィさまとセルベリエさまは、限界のようですわねぇ。ここはお二人を任せても構いませんかぁ?」
「おっけーメアちん」
「はい、こちらはお任せください! メアさんは、黒い竜を!」
「うふふ、お任せですぅ……ゼフさまぁ、このメアの活躍をご覧に……」
言いかけたメアの目に、ボロボロにされたワシの姿が映る。
一瞬、動き目を見開くメアだったが、すぐに目を細めた。
と共に、メアの雰囲気が変わっていく。
「……よくも、ゼフさまを……っ!」
静かに、低い声でそう呟くメア。
黒い竜を睨みつけたメアが――――タイタニアが拳を振り上げる。
そしてそのまま、大岩の如き拳を打ち下ろした。
ずずん、と轟音を響かせ黒い竜の頭へタイタニアの拳が撃ち込まれる。
何度も、何度も、何度も。
「このっ! このこのこのぉっ! 私のっ! ゼフさまにっ! なんてことをっ!!」
一撃のたびに立ち昇る土煙、地面が大きく揺れ、まともに立っていられない程だ。
な、何という恐ろしい攻撃だ……敵に回すと恐ろしいが、味方にしても恐ろしい。
鬼のような形相である。ヤバいぞメア。
「ゼフさんっ! ご無事でしたかっ!」
「レディアにシルシュか。二人とも元気そうだな」
黒い竜がタイタニアに殴られているその隙に、シルシュがミリィを抱えて飛び降りてくる。
続いてセルベリエを抱えたレディアも。
「あっはは、こっちはグロッキーしてるけどねぇ」
「う、うるさい……」
力なくレディアを殴るセルベリエ。
ちなみに、ミリィの方は完全に気を失っているようで、口から液体がだらしなく漏れていた。
……あまり大丈夫ではなさそうである。
「ゼフさんたちがはぐれた後、私たちは凄く慌てていました。でもミリィさんが言ったのですよ。ゼフなら大丈夫、必ず合図を送ってくるから、信じて待ちましょうと」
――――ミリィにはあらかじめ、何かあれば合図を送ると言っておいた。
だがやはりというか、心配はさせたのだろう。
それでもなお、ワシの言う事を守って合図を待ったのだな。
「そうか。よくやってくれたな。ミリィ」
ぐったりとしているミリィの額に手を載せ、撫でてやる。
「二人はミリィとセルベリエを安全な場所へ運んでくれるか」
「ゼフっちはどうするのよ」
「なぁに、そろそろクロードの準備が出来る頃だ」
ニヤリと笑いクロードの方を向くと、構えた剣に魔力が溜まっているのが遠目からでもわかる。
準備は出来ました、そう言わんばかりにクロードは閉じていた目を開き、こくりと頷く。
「……考えはあるみたいね。わかった、任せたよゼフっち」
「二人を安全な場所に連れて言ったらすぐに戻りますっ! ゼフさん、クロードさん、ご武運を!」
「あぁ」
そう言ってワシは、黒い竜と格闘するタイタニアの方を見やる。
黒い竜を一方的に殴りつけていたはずのメアだったが、いつの間にか攻守は逆転し、防戦一方になっていた。
やはり、あのまま倒すというわけにはいかんか。
「ぐ……こ、このっ! ナマイキな……ですわぁ……っ!」
「メア! 少しの間押さえて貰いたいのだが、いけるか!?」
「ご要望には……お応えしたいのですけれど……ぉ……!」
ワシの声に応じ、黒い竜を押し返そうとするメア。
だが相手は強く、それもままならないようだ。
メアの表情にはいつものような余裕はない。
このままでは厳しいか……致し方あるまい。
「聞け! メア!」
「なん……ですのぉ……?」
「奴を倒したら、何か一つ言う事を聞いてやる。だからすまんが……」
言いかけた瞬間である。
メアの目がギラリと光り、押されかけていたタイタニアが息を吹き返したかのように上体を起こし始めた。
黒い竜の両腕を握り、押しのけていく。
「うふ……うふふ……何でも……何でも言う事を聞いてくれるのですねぇ……ゼフさまぁ……?」
「い、いや、何でもとまでは……」
「っっっしゃぁあああああ!! わかりましたわああぁぁぁぁぁあっ!!」
奇声を上げながら黒い竜をはねのけ、タイタニアが立ちあがる。
黒い竜の両腕を押さえつけたまま、どてっぱらに蹴りを入れて吹き飛ばした。
狂気に染まった瞳のメアが、ワシの方を向いてにたりと笑う。
「あはぁ、ゼフさま。こやつめの相手は、お任せくださいなぁ」
「……う、うむ……」
だからやりたくはなかったのだが……まぁいいか。メアのやる気に水を差す事もない。
いざとなったら逃げよう。
タイタニアと黒竜はがっぷり四つで組み合い、そのまま固まっている。
今がチャンスだ。ワシはクロードの傍へと駆け寄った。
クロードの手に触れると、かなり熱くなっている。
あまり魔力線を酷使しすぎると、オーバーヒートして体温が上がってしまうのだ。
「よく頑張ったなクロード……いけるか?」
「はい。……ゼフ君と一緒なら」
消え入りそうな声で、そう付け加えるクロード。
ほんのり顔が赤くなっているのは、自分の言葉に照れているのかそれとも身体が熱を持っているからか……ま、両方だろうな。そんな顔をしている。
「ならばついて来てもらうぞ」
「はいっ!」
クロードの背中から、抱きしめるようにしてその手の上から剣を握りしめる。
テレポートを連続して念じ、黒い竜と組み合うタイタニアの背に降り立った。
「そのまましっかり押さえていてくれよ、メア」
「うふ……うふふ……あははははぁ……!」
「き、聞こえていないようですね……」
「……そのようだ」
不気味に笑うメアに、ワシもクロードもドン引きである。
だがまぁ、そのおかげでこいつを押さえつけてくれているのだ。
今のうちに事を成し遂げるとしよう。
クロードと共に剣を振りかぶり、タイムスクエアを念じる。
時間停止中に念じるのは、レッドクラッシュ、ブルークラッシュ、グリーンクラッシュ、ブラッククラッシュ。
――――四重合成魔導、テトラクラッシュ……を、クロードの持つ剣へ乗せるようにして、発動させる。
金色の光に包まれた剣から、ミシミシと軋み音が聞こえてくる。
絡ませたクロードの魔力線が、徐々に裂けていくのも。
その痛みは相当だ。クロードも、額に脂汗を浮かべている。
余裕はないか……一撃で終わらせるしかあるまい。
「グルゥ!?」
黒い竜もワシらに気付いたのか、こちらを見上げてきた。
「ふん、今更気づいたとて……遅いぞっ!」
タイタニアから飛び降りると同時に、クロードが金色の剣を振るう。
黒い竜の喉元に突き刺さった剣は、そのまま重力に従い腹を切り裂いていく。
あの強靭な黒い竜の身体を、まるで水でも切るかのように。
魔導と武術を融合させた技は、バラバラに撃つよりも遥かに威力が高い。
だがそれを可能とするには長い修練が必要で、使える者は非常に少ないのだ。
まして他人の魔導でもってそれを発動させるなど、至難の技だろう。
「はあああああああああああああああああああっ!!」
だがクロードはそれを習得した。
ワシらの力となる為に、そしてそれは今、確かにワシらの力となっている。
(ま、流石に負担は大きかったようだがな)
バキン、と音を立てて剣がへし折れる。
同時に剣を握るクロードの手が緩み、折れた柄が飛んで行ってしまった。
クロードが気を失ったのだ。
「限界か……後は任せておけ」
「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオゥ!?」
咆哮を上げる黒い竜。
腹を切り裂かれた奴の体内へ、ワシはティアドロップを投げ込んだ。
すぐに再生を始める黒い竜の腹に、ティアドロップが埋め込まれていく。
よし、準備オーケーだ。
クロードを抱きかかえ、着地したワシはメアの方を向き、叫ぶ。
「メア! もう十分だ! こっちへ来い!」
「はっ!? わ、私は何を……? えと、わ、わかりましたわぁ」
ワシの言葉に我に返ったのか、メアの表情が普段のモノに戻り、こちらに飛び降りてきた。
どこかぼんやりした感じのメアを連れ、テレポートを念じる。
十分に離れ、一息ついたところでメアがワシの袖をくいくいと引いてくる。
「ん? どうしたのだ?」
「え、えーっとぉ……私、途中からの事をよく憶えていないのですがぁ……ゼフさまに何か激励をされて、がんばっていたような……」
「うむ、頑張ってくれていたぞ。本当に助かった」
そう言ってメアの髪を撫でてやると、メアはうっとりとした顔で息を吐く。
どうやら件の約束は忘れているようである。
やれやれ、命拾いしたといったところか。
「あちらの方もな」
後ろを見ると、ワシらが逃げた後も黒い竜は動かなくなったタイタニアへ攻撃を続けていた。
ボロボロになったタイタニアを見下す黒い竜の腹が、強い光を発する。
そして―――――光の柱が空へと立ち昇る。
大爆発の中、吹きすさぶ爆風が城の鐘を、ごおんと鳴らすのであった。
堂々たる名乗りを上げるメアの横で、セルベリエ青い顔をしてぐったりしている。
「う……もうすこしゆっくり……たのむ……」
「あらぁ、申し訳ないですわ。急げとの仰せだったのでぇ。でももう着きましたわよぉ」
「そ、そう……ついたの……」
タイタニアに取り付けた後部座席の後ろから、ミリィがよろよろと起き上がる。
ミリィは完全に目を回しており、フラフラだ。
それを見て、メアはクスクスと悪戯っぽく笑う。
「ミリィさまのおっしゃられた通り、すっごぉく急いで到着いたしましたわぁ。褒めてくださいますわよねぇ?」
「……うん」
厭味っぽく言うメアに、ミリィは弱々しく頷いた。
そしてメアの頭に手を載せ、ゆっくりと撫でる。
「ミリィさま……?」
「あり……がと…………がくっ」
そう言い残して、力なく崩れ落ちるミリィ。
「お、おいミリィ! 起きろ……っ!」
落ちそうになるのをセルベリエが捕まえようとするが、こちらも既に力は残っていない様だ。
あわや落下という所で、むんずと二人を掴んだのはシルシュである。
「大丈夫ですか。お二人とも」
「……なんとかだ」
「私がせっちんを持つよ。シルっちはミリィちゃんを」
「はい、わかりました」
レディアがセルベリエを背負い、シルシュがミリィを抱きかかえる。
ちなみにシルシュもレディアもピンピンしており、タイタニアの全力疾走なんのそのといった感じだ。
メアが二人の方を向き、呆れたように首を振る。
「ミリィさまとセルベリエさまは、限界のようですわねぇ。ここはお二人を任せても構いませんかぁ?」
「おっけーメアちん」
「はい、こちらはお任せください! メアさんは、黒い竜を!」
「うふふ、お任せですぅ……ゼフさまぁ、このメアの活躍をご覧に……」
言いかけたメアの目に、ボロボロにされたワシの姿が映る。
一瞬、動き目を見開くメアだったが、すぐに目を細めた。
と共に、メアの雰囲気が変わっていく。
「……よくも、ゼフさまを……っ!」
静かに、低い声でそう呟くメア。
黒い竜を睨みつけたメアが――――タイタニアが拳を振り上げる。
そしてそのまま、大岩の如き拳を打ち下ろした。
ずずん、と轟音を響かせ黒い竜の頭へタイタニアの拳が撃ち込まれる。
何度も、何度も、何度も。
「このっ! このこのこのぉっ! 私のっ! ゼフさまにっ! なんてことをっ!!」
一撃のたびに立ち昇る土煙、地面が大きく揺れ、まともに立っていられない程だ。
な、何という恐ろしい攻撃だ……敵に回すと恐ろしいが、味方にしても恐ろしい。
鬼のような形相である。ヤバいぞメア。
「ゼフさんっ! ご無事でしたかっ!」
「レディアにシルシュか。二人とも元気そうだな」
黒い竜がタイタニアに殴られているその隙に、シルシュがミリィを抱えて飛び降りてくる。
続いてセルベリエを抱えたレディアも。
「あっはは、こっちはグロッキーしてるけどねぇ」
「う、うるさい……」
力なくレディアを殴るセルベリエ。
ちなみに、ミリィの方は完全に気を失っているようで、口から液体がだらしなく漏れていた。
……あまり大丈夫ではなさそうである。
「ゼフさんたちがはぐれた後、私たちは凄く慌てていました。でもミリィさんが言ったのですよ。ゼフなら大丈夫、必ず合図を送ってくるから、信じて待ちましょうと」
――――ミリィにはあらかじめ、何かあれば合図を送ると言っておいた。
だがやはりというか、心配はさせたのだろう。
それでもなお、ワシの言う事を守って合図を待ったのだな。
「そうか。よくやってくれたな。ミリィ」
ぐったりとしているミリィの額に手を載せ、撫でてやる。
「二人はミリィとセルベリエを安全な場所へ運んでくれるか」
「ゼフっちはどうするのよ」
「なぁに、そろそろクロードの準備が出来る頃だ」
ニヤリと笑いクロードの方を向くと、構えた剣に魔力が溜まっているのが遠目からでもわかる。
準備は出来ました、そう言わんばかりにクロードは閉じていた目を開き、こくりと頷く。
「……考えはあるみたいね。わかった、任せたよゼフっち」
「二人を安全な場所に連れて言ったらすぐに戻りますっ! ゼフさん、クロードさん、ご武運を!」
「あぁ」
そう言ってワシは、黒い竜と格闘するタイタニアの方を見やる。
黒い竜を一方的に殴りつけていたはずのメアだったが、いつの間にか攻守は逆転し、防戦一方になっていた。
やはり、あのまま倒すというわけにはいかんか。
「ぐ……こ、このっ! ナマイキな……ですわぁ……っ!」
「メア! 少しの間押さえて貰いたいのだが、いけるか!?」
「ご要望には……お応えしたいのですけれど……ぉ……!」
ワシの声に応じ、黒い竜を押し返そうとするメア。
だが相手は強く、それもままならないようだ。
メアの表情にはいつものような余裕はない。
このままでは厳しいか……致し方あるまい。
「聞け! メア!」
「なん……ですのぉ……?」
「奴を倒したら、何か一つ言う事を聞いてやる。だからすまんが……」
言いかけた瞬間である。
メアの目がギラリと光り、押されかけていたタイタニアが息を吹き返したかのように上体を起こし始めた。
黒い竜の両腕を握り、押しのけていく。
「うふ……うふふ……何でも……何でも言う事を聞いてくれるのですねぇ……ゼフさまぁ……?」
「い、いや、何でもとまでは……」
「っっっしゃぁあああああ!! わかりましたわああぁぁぁぁぁあっ!!」
奇声を上げながら黒い竜をはねのけ、タイタニアが立ちあがる。
黒い竜の両腕を押さえつけたまま、どてっぱらに蹴りを入れて吹き飛ばした。
狂気に染まった瞳のメアが、ワシの方を向いてにたりと笑う。
「あはぁ、ゼフさま。こやつめの相手は、お任せくださいなぁ」
「……う、うむ……」
だからやりたくはなかったのだが……まぁいいか。メアのやる気に水を差す事もない。
いざとなったら逃げよう。
タイタニアと黒竜はがっぷり四つで組み合い、そのまま固まっている。
今がチャンスだ。ワシはクロードの傍へと駆け寄った。
クロードの手に触れると、かなり熱くなっている。
あまり魔力線を酷使しすぎると、オーバーヒートして体温が上がってしまうのだ。
「よく頑張ったなクロード……いけるか?」
「はい。……ゼフ君と一緒なら」
消え入りそうな声で、そう付け加えるクロード。
ほんのり顔が赤くなっているのは、自分の言葉に照れているのかそれとも身体が熱を持っているからか……ま、両方だろうな。そんな顔をしている。
「ならばついて来てもらうぞ」
「はいっ!」
クロードの背中から、抱きしめるようにしてその手の上から剣を握りしめる。
テレポートを連続して念じ、黒い竜と組み合うタイタニアの背に降り立った。
「そのまましっかり押さえていてくれよ、メア」
「うふ……うふふ……あははははぁ……!」
「き、聞こえていないようですね……」
「……そのようだ」
不気味に笑うメアに、ワシもクロードもドン引きである。
だがまぁ、そのおかげでこいつを押さえつけてくれているのだ。
今のうちに事を成し遂げるとしよう。
クロードと共に剣を振りかぶり、タイムスクエアを念じる。
時間停止中に念じるのは、レッドクラッシュ、ブルークラッシュ、グリーンクラッシュ、ブラッククラッシュ。
――――四重合成魔導、テトラクラッシュ……を、クロードの持つ剣へ乗せるようにして、発動させる。
金色の光に包まれた剣から、ミシミシと軋み音が聞こえてくる。
絡ませたクロードの魔力線が、徐々に裂けていくのも。
その痛みは相当だ。クロードも、額に脂汗を浮かべている。
余裕はないか……一撃で終わらせるしかあるまい。
「グルゥ!?」
黒い竜もワシらに気付いたのか、こちらを見上げてきた。
「ふん、今更気づいたとて……遅いぞっ!」
タイタニアから飛び降りると同時に、クロードが金色の剣を振るう。
黒い竜の喉元に突き刺さった剣は、そのまま重力に従い腹を切り裂いていく。
あの強靭な黒い竜の身体を、まるで水でも切るかのように。
魔導と武術を融合させた技は、バラバラに撃つよりも遥かに威力が高い。
だがそれを可能とするには長い修練が必要で、使える者は非常に少ないのだ。
まして他人の魔導でもってそれを発動させるなど、至難の技だろう。
「はあああああああああああああああああああっ!!」
だがクロードはそれを習得した。
ワシらの力となる為に、そしてそれは今、確かにワシらの力となっている。
(ま、流石に負担は大きかったようだがな)
バキン、と音を立てて剣がへし折れる。
同時に剣を握るクロードの手が緩み、折れた柄が飛んで行ってしまった。
クロードが気を失ったのだ。
「限界か……後は任せておけ」
「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオゥ!?」
咆哮を上げる黒い竜。
腹を切り裂かれた奴の体内へ、ワシはティアドロップを投げ込んだ。
すぐに再生を始める黒い竜の腹に、ティアドロップが埋め込まれていく。
よし、準備オーケーだ。
クロードを抱きかかえ、着地したワシはメアの方を向き、叫ぶ。
「メア! もう十分だ! こっちへ来い!」
「はっ!? わ、私は何を……? えと、わ、わかりましたわぁ」
ワシの言葉に我に返ったのか、メアの表情が普段のモノに戻り、こちらに飛び降りてきた。
どこかぼんやりした感じのメアを連れ、テレポートを念じる。
十分に離れ、一息ついたところでメアがワシの袖をくいくいと引いてくる。
「ん? どうしたのだ?」
「え、えーっとぉ……私、途中からの事をよく憶えていないのですがぁ……ゼフさまに何か激励をされて、がんばっていたような……」
「うむ、頑張ってくれていたぞ。本当に助かった」
そう言ってメアの髪を撫でてやると、メアはうっとりとした顔で息を吐く。
どうやら件の約束は忘れているようである。
やれやれ、命拾いしたといったところか。
「あちらの方もな」
後ろを見ると、ワシらが逃げた後も黒い竜は動かなくなったタイタニアへ攻撃を続けていた。
ボロボロになったタイタニアを見下す黒い竜の腹が、強い光を発する。
そして―――――光の柱が空へと立ち昇る。
大爆発の中、吹きすさぶ爆風が城の鐘を、ごおんと鳴らすのであった。
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