203 / 208
連載
344 誰がために鐘は鳴る⑨
しおりを挟む
「クゥゥゥァァァアア!」
ティアマットが大きく息を吸い、炎を吐き出した。
迫る炎。ワシは動けなくなったクロードとメアを抱えたまま、テレポートで飛ぶ。
先刻までワシらがいた場所を、ティアマットの炎が焼き払う。
「くそっ! いくらなんでもこの状況はマズイぞ!」
動けない二人を抱えていては、ろくに戦闘も行えない。
アインベルには悪いが、ここは一旦引かせて貰うか。
「ゼフ!!」
頭上から聞こえる声の方角を見やると、空に翼を広げた一角馬が見えた。
あれはウルク!? ミリィが復活したのだろうか。
いや、ウルクに乗っているのはミリィではなく、アインベルとベルだ。
「こちらです! 早く!」
「む……」
何故あの二人がウルクに……いや、今はそんな場合ではない。
ともあれワシはテレポートでウルクの降り立とうとしている場所へと、飛ぶ。
「ゼフ、無事で何よりです!」
「そっちの二人は……あんま大丈夫じゃなさそうねぇ」
ぐったりとしたクロードとメアを見て、ベルが呟く。
「それ程の激戦だったのだ。まぁ戦闘は以前続行中だがな。それよりその馬はもしかしてウルクなのか」
「ヴィルクです。まぁミリィさまはウルクとお呼びになられていましたが」
おいおいまさかと思ったが、本当にそうなのかよ。
あの馬鹿馬の本体がメイドのヴィルクとは……ミリィが呼び出した時はアレな性格なのに、信じられんくらいまともである。
呼び出された使い魔は、術者の性格が交じるとはいえ……まぁ混じったのがミリィだからかもしれない。
「それよりアインベル、何をしにここへ来た? まさか応援しに来たというわけではあるまい」
「……もちろんです、とっておきの手を持ってきました」
「ほう、ならば期待させて貰おうではないか」
「えぇ、これを見てください」
そう言って、アインベルは肩にかけていたケープをするりと地面に落とした。
胸元のボタンを外し、服をはだけさせていく。それを見て慌てるベル。
「な、何やってんのよっ! アインベル!?」
「私は異界を渡り、その身を剣と化する神剣アインベルという力を得ました。それでティアマットを――――倒します」
本体であるアインベルの神剣化……か。
だがアレが相手では、それでも厳しいかもしれない。
何しろ以前首都にあらわれたティアマットの分体ですら、五天魔の力を集結してやっと倒せたのだ。
いくら神剣アインベルがあろうと……
「大丈夫です」
ワシの考えに気づいたのか、アインベルは言った。
その目は自身に満ち溢れている。
「私はベルと別れた時、その力の半分をベルに渡しました。元通り一つになり、その上で神剣化すれば、その力は今までの神剣アインベルとは比べ物になりません」
だが慌てたのはベルである。
「ちょ! 元通り一つにって……もしそうなったら、どうなるのよ?」
「同じ身体に二つの魂は存在できません。……片方の人格のみが残る事になるでしょう」
アインベルの言葉に、ベルが慌てて首を振る。
「いやよそんなの! それって私が消えちゃうってことでしょ!? 絶対ヤダ!」
「その心配はありません」
そう言って、今度はアインベルが首を振る。
「……今回の件でよくわかりました。私のような弱王では、有事の際に何も出来ずただ慌てるだけ……その点ベル、あなたはこのような状況になっても立派に民を導き、救い出しました」
「はぁ? ……いきなり何を言って……」
「ベル、貴方こそが王にふさわしい」
「……っ! あんた、何考えてるのよっ!」
ベルは差し伸べる手を払う。
アインベルが何を考えているのか、察したのだろう。
だが拒絶されようとも、アインベルの目は決意に満ちていた。
「……自分が、いなくなっちゃうのよ……!」
「いなくなるわけではありません。私はベルの中にいますから」
「そういうことじゃなくって!」
ベルの叫び声に呼応するように、遠くでティアマットが土を踏む音が聞こえる。
「……時間がないのです。こんな言い方は卑怯でしょうが、ティアマットが来ればこの国の全てが塵と化すでしょう。あなたが守っていた子供らも」
「ひ、卑怯よっ! 本当にっ!」
「卑怯……ですか。ふふ、確かにこういうところは、王に向いているのかもしれませんね」
「ふざけないでっ!」
――――ぱしん、と。
自嘲気味に笑うアインベルの頬を、ベルが平手で叩いた。
だがアインベルは、ベルを優しく見つめるのみだ。
「お願い、します……!」
「……っ!」
アインベルの迫力に飲まれたのか、ベルはごくりと息を飲む。
答えを急かすかのように、ティアマットの足音がずしんと辺りに響いた。
ベルは目を瞑り考え込んだ後、大きなため息を一つ吐いた。
「はぁ……わかった、わかったわよ。やればいんでしょやれば」
「ベル……! ありがとうございます!」
「言っとくけど、私がベースだからね! もしあんたがしゃしゃり出てきたら、噛みついてでも奪い返してやるんだから!」
「ふふ、その心配はいりませんよ……では、時間もありません。ベル」
「……ん」
言葉と共にアインベルが服を脱ぐと、その身体が眩い光に包まれた。
アインベルがベルの手を取ると、光は更に強くなっていく。
光はベルに重なっていき、そして徐々に収まっていった。
「……………………」
光が収まり、ベルが無言で立っていた
確かめるように、自分の手のひらを見つめている。
見た目はベルのままだが、どこか雰囲気が違うように感じられる。
一体化とやらには成功したのだろうか。
「ベル……なのか?」
「うーん……あー、うん、ベル……って言っていいのかな」
何やらぶつぶつと呟きながら、ベル(?)は頭をわしわしと掻いた。
確かに姿や口調はベル(?)のモノだが、彼女が今まで持ち合わせていなかった雰囲気を感じる。
なるほど、これが一体化というわけか。
ベル(?)はワシを見て、悪戯っぽく笑う。
「アインベルでもなく、ベルでもなく……そうね、私の事はアインとでも呼んでもらおうかしら?」
「アイン……か」
「ふふ、よろしくね、おじい?」
……なるほど。アインベルでもなく、ベルでもなく、か。
苦笑するワシの手を取ると、眩い光と共に剣の形を成す。
神剣アインベル――――いや、これは違う。
「真なる王の剣――――アインヴェルクとでも呼んでもらおうかしら」
アインの言葉と共に、真なる王の剣が静かに鳴りだした。
ティアマットが大きく息を吸い、炎を吐き出した。
迫る炎。ワシは動けなくなったクロードとメアを抱えたまま、テレポートで飛ぶ。
先刻までワシらがいた場所を、ティアマットの炎が焼き払う。
「くそっ! いくらなんでもこの状況はマズイぞ!」
動けない二人を抱えていては、ろくに戦闘も行えない。
アインベルには悪いが、ここは一旦引かせて貰うか。
「ゼフ!!」
頭上から聞こえる声の方角を見やると、空に翼を広げた一角馬が見えた。
あれはウルク!? ミリィが復活したのだろうか。
いや、ウルクに乗っているのはミリィではなく、アインベルとベルだ。
「こちらです! 早く!」
「む……」
何故あの二人がウルクに……いや、今はそんな場合ではない。
ともあれワシはテレポートでウルクの降り立とうとしている場所へと、飛ぶ。
「ゼフ、無事で何よりです!」
「そっちの二人は……あんま大丈夫じゃなさそうねぇ」
ぐったりとしたクロードとメアを見て、ベルが呟く。
「それ程の激戦だったのだ。まぁ戦闘は以前続行中だがな。それよりその馬はもしかしてウルクなのか」
「ヴィルクです。まぁミリィさまはウルクとお呼びになられていましたが」
おいおいまさかと思ったが、本当にそうなのかよ。
あの馬鹿馬の本体がメイドのヴィルクとは……ミリィが呼び出した時はアレな性格なのに、信じられんくらいまともである。
呼び出された使い魔は、術者の性格が交じるとはいえ……まぁ混じったのがミリィだからかもしれない。
「それよりアインベル、何をしにここへ来た? まさか応援しに来たというわけではあるまい」
「……もちろんです、とっておきの手を持ってきました」
「ほう、ならば期待させて貰おうではないか」
「えぇ、これを見てください」
そう言って、アインベルは肩にかけていたケープをするりと地面に落とした。
胸元のボタンを外し、服をはだけさせていく。それを見て慌てるベル。
「な、何やってんのよっ! アインベル!?」
「私は異界を渡り、その身を剣と化する神剣アインベルという力を得ました。それでティアマットを――――倒します」
本体であるアインベルの神剣化……か。
だがアレが相手では、それでも厳しいかもしれない。
何しろ以前首都にあらわれたティアマットの分体ですら、五天魔の力を集結してやっと倒せたのだ。
いくら神剣アインベルがあろうと……
「大丈夫です」
ワシの考えに気づいたのか、アインベルは言った。
その目は自身に満ち溢れている。
「私はベルと別れた時、その力の半分をベルに渡しました。元通り一つになり、その上で神剣化すれば、その力は今までの神剣アインベルとは比べ物になりません」
だが慌てたのはベルである。
「ちょ! 元通り一つにって……もしそうなったら、どうなるのよ?」
「同じ身体に二つの魂は存在できません。……片方の人格のみが残る事になるでしょう」
アインベルの言葉に、ベルが慌てて首を振る。
「いやよそんなの! それって私が消えちゃうってことでしょ!? 絶対ヤダ!」
「その心配はありません」
そう言って、今度はアインベルが首を振る。
「……今回の件でよくわかりました。私のような弱王では、有事の際に何も出来ずただ慌てるだけ……その点ベル、あなたはこのような状況になっても立派に民を導き、救い出しました」
「はぁ? ……いきなり何を言って……」
「ベル、貴方こそが王にふさわしい」
「……っ! あんた、何考えてるのよっ!」
ベルは差し伸べる手を払う。
アインベルが何を考えているのか、察したのだろう。
だが拒絶されようとも、アインベルの目は決意に満ちていた。
「……自分が、いなくなっちゃうのよ……!」
「いなくなるわけではありません。私はベルの中にいますから」
「そういうことじゃなくって!」
ベルの叫び声に呼応するように、遠くでティアマットが土を踏む音が聞こえる。
「……時間がないのです。こんな言い方は卑怯でしょうが、ティアマットが来ればこの国の全てが塵と化すでしょう。あなたが守っていた子供らも」
「ひ、卑怯よっ! 本当にっ!」
「卑怯……ですか。ふふ、確かにこういうところは、王に向いているのかもしれませんね」
「ふざけないでっ!」
――――ぱしん、と。
自嘲気味に笑うアインベルの頬を、ベルが平手で叩いた。
だがアインベルは、ベルを優しく見つめるのみだ。
「お願い、します……!」
「……っ!」
アインベルの迫力に飲まれたのか、ベルはごくりと息を飲む。
答えを急かすかのように、ティアマットの足音がずしんと辺りに響いた。
ベルは目を瞑り考え込んだ後、大きなため息を一つ吐いた。
「はぁ……わかった、わかったわよ。やればいんでしょやれば」
「ベル……! ありがとうございます!」
「言っとくけど、私がベースだからね! もしあんたがしゃしゃり出てきたら、噛みついてでも奪い返してやるんだから!」
「ふふ、その心配はいりませんよ……では、時間もありません。ベル」
「……ん」
言葉と共にアインベルが服を脱ぐと、その身体が眩い光に包まれた。
アインベルがベルの手を取ると、光は更に強くなっていく。
光はベルに重なっていき、そして徐々に収まっていった。
「……………………」
光が収まり、ベルが無言で立っていた
確かめるように、自分の手のひらを見つめている。
見た目はベルのままだが、どこか雰囲気が違うように感じられる。
一体化とやらには成功したのだろうか。
「ベル……なのか?」
「うーん……あー、うん、ベル……って言っていいのかな」
何やらぶつぶつと呟きながら、ベル(?)は頭をわしわしと掻いた。
確かに姿や口調はベル(?)のモノだが、彼女が今まで持ち合わせていなかった雰囲気を感じる。
なるほど、これが一体化というわけか。
ベル(?)はワシを見て、悪戯っぽく笑う。
「アインベルでもなく、ベルでもなく……そうね、私の事はアインとでも呼んでもらおうかしら?」
「アイン……か」
「ふふ、よろしくね、おじい?」
……なるほど。アインベルでもなく、ベルでもなく、か。
苦笑するワシの手を取ると、眩い光と共に剣の形を成す。
神剣アインベル――――いや、これは違う。
「真なる王の剣――――アインヴェルクとでも呼んでもらおうかしら」
アインの言葉と共に、真なる王の剣が静かに鳴りだした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。