効率厨魔導師、第二の人生で魔導を極める

謙虚なサークル

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332 本体⑥

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 翌日、ワシらはヴィルクの案内で森を歩いていた。
 危ないのでこなくていいと言ったのだが、案内すると言って勝手についてきたのだ。
 嫌っているなら放っておけばいいと思うのだが、いまいち何を考えているのかわからん。

「それにしても、全然魔物と会いませんね」
「魔物のいない場所です故」

 すたすたと歩きながら、ヴィルクは説明を続ける。

「まだここは、アインベルさまの張った結界内ですから、安心してついてきてください。ですがもうすぐ結界の外へ出ます。魔物もあらわれますのでご注意を」

 なるほど、アインベルが守護結界のようなものを自力で発動させていたのか。
 同じ仕組みとも限らないが、あれは個人では生み出せぬほどの魔力を必要とする。
 精霊自体のポテンシャルはわからんが、流石ワシの使い魔といったところか。

「この辺りから結界の外です。気をつけてついてきてくださいませ」
「あぁ待て、それ以上進むことはない」
「は……ですが、ミリィさまを探すのでしょう?」
「探すというと語弊があるがな……正確には知らせるだ。少し耳を塞いでいろ」

 疑問の表情で耳を塞ぐクロードとヴィルク。
 ワシも片耳を塞ぎ、空へ手をかざしてタイムスクエアを念じる。
 時間停止中に念じるのはレッドスフィアとブルースフィア。
 ――――二重合成魔導、バーストスフィア。

 ごおん、とはるか上空で爆音が響いた。
 耳をつんざくような音がして、木々がざわめく。
 空から降り落ちる魔力の残滓が、キラキラと光を反射しながら森に降り落ち消えていく。
 耳を塞いでいたクロードが恐る恐る手を下した。

「な、なるほど。確かにバーストスフィアなら離れた場所にいるミリィさんも気づきますね」
「そういう事だ」

 巨体のタイタニアに乗っていれば、今の大爆発にも気づくだろう。
 目印として何度か見せているしな。

「ゼフさま、少しよろしいでしょうか」

 ヴィルクの声に振り向くと、彼女は眉間にしわを寄せワシを睨みつけている。

「お言葉ですが今の大爆発で黒い魔物もおびき寄せてしまうのではないでしょうか」
「まぁな」
「困りますっ! あなた方は黒い魔物を退治して下さるのではなかったのですか!? これでは……んむっ」

 言いかけたヴィルクの口を、人差し指で塞ぐ。

「慌てすぎだ。話は最後まで聞くものだぞ。だから人里離れた場所まで案内して貰ったのだ。魔物が来ても倒せばいいだけの話だろう? これは一石二鳥というやつだ」
「それはそうですが……いえ、そうですね。わかりました。お手並み拝見といたします」

 ジト目でワシを睨みつけながらも、ヴィルクは少し下がる。
 文句も言わない代わりに手も貸さないぞ、とそういう事なのだろう。
 生憎だが元より手を貸してもらう必要などはない。むしろ下手に手など出されると邪魔なくらいだ。

「……む、来るぞクロード」
「はいっ!」

 先刻の「合図」で、魔物たちが集まってきたようである。
 クロードが剣を抜き放ち、ワシもいつでも魔導を撃てるよう構える。

「クカカカカ……」
「ギギギ……!」

 音に集まってきたのは、蛾とムカデの姿をした虫型の魔物が何匹かずつ。
 ……そういえば虫嫌いなセルベリエは無事だろうか。そんな考えがふと頭をよぎる。まぁ皆がいるから何とかなるか。
 蛾とムカデにスカウトスコープを念じる。

 ムスパーダ
 レベル46
 15952/15952

 ギロヂオン
 レベル60
 19538/19538

 結界の周りだからか、魔物も若干弱めだ。
 ワシらの大陸にある守護結界も、基本的に強い魔物ほど近づきにくい。

「たあああっ!」

 気合いを込めたクロードの一撃が、ムスパーダの羽を捉える。
 だがひらりと躱され、空中に逃げられてしまった。
 一匹だけではない。二匹、三匹と空中に集まっていく。
 そして集まったムスパーダが踊るかのように舞い始め、辺りに霧が立ち込めてきた。

「……こ、これは……っ!?」
「吸い込むなよクロード」

 ワシの言葉にこくりと頷き、マントで口元を覆うクロード。
 霧に触れた小動物がバタバタと暴れるように走り回っている。
 恐らく神経毒、あれを吸い込むと混乱してしまうのかもしれない。
 ならばもろとも、吹き飛ばすまでだ。
 ムスパーダの群れに手をかざし、タイムスクエアを念じる。
 時間停止中に念じるのはレッドスフィアとブルースフィア。
 ――――二重合成魔導、バーストスフィア。

 ムスパーダの中心に生まれた光がぎらりと輝いた直後、凄まじい大爆発が全てを吹き飛ばす。
 広範囲を焼かれ、煙を上げながら無残な姿で落ちてくるムスパーダ。
 鱗粉も衝撃で吹き飛んだことで、クロードも問題なく。
 ワシらは弱ったムスパーダを一匹ずつ、確実にトドメを刺す。

「残りも仕留める。おびき寄せろ、クロード」
「はい!」

 とん、とんと後ろへ下がるクロードを、残ったギロヂオン共が追う。
 丁度いい具合に集まってくれたな。
 奴らの進路を狙いグリーンウォールを念じると、魔力の蔦が地面から生まれギロヂオンの多足を次々と絡め取っていく。
 速度の鈍ったギロヂオンの群れを狙い、タイムスクエアを念じる。
 時間停止中に念じるのはグリーンスフィアとホワイトスフィア。
 ――――二重合成魔導、ビートスフィア。

 ぱきん、と割れるような音がしてギロヂオンの甲殻に細かい亀裂が入った。
 魔導による衝撃波で内部を揺さぶるビートクラッシュの遠距離版である。
 だが遠距離では効果が薄い。細かいひび割れが入ったくらいで、まだぴくぴくと動いている。

 うーむ、範囲は狭いし威力もいまいちだな……元々翠の魔導は遠距離攻撃に適さないし仕方ないか。
 この程度の魔物なら十分だが、高レベルの魔物には通用しないだろう。
 ともあれ全部倒すことが出来た。
 それなりの魔物ではあるが、今のワシらの敵ではない。

「おつかれさまです、ゼフ君」
「あぁ、とりあえず今ので集まってきた魔物は倒したな。とはいえ戦闘音でまた集まってくるかもしれない。しばらくはここで待機して……」

 そこで言葉が止まったワシの顔を、クロードはきょとんとした顔で見ている。
 だが、ぴしぴしとひび割れ音が自分の胸元からなっているのに気づき、慌てて胸甲を押さえた。……しかし時すでに遅し。
 砕けた胸甲は無残にも崩れ落ちてしまった。

「きゃっ!? よ、鎧が……っ!?」
「あー……すまんクロード。衝撃波がかすってしまったようだ」

 衝撃波により内部を破壊する魔導が、見事に鎧の内部を破壊したようである。
 スクリーンポイントを張っていても、装着しているモノはある程度は魔導の影響を受けるからな。

 気を付けて撃ったつもりだが、運悪く範囲内に入っていたようだ。
 森で戦っていた時も、スクリーンポイントを使用したクロードごと魔導を当てていた。
 魔導を受け付けないのは使用者のみ。
 直撃は避けていたつもりだった、金属が疲労していたのかもしれない。

「参ったな……まだ魔物が来るかもしれないし、戦えるかクロード?」
「戦えない事はないですが……その、揺れるので集中できないんですよね……」

 胸を押さえ、ワシから目を逸らすクロード。
 うーむ、胸甲にはそんな役割もあったのか。
 大きいとそれはそれで大変なのだな。とくに前衛だと……いや、一部例外がいたな。
 レディアとか。
 ガードするものが必要か。帰りに店にでも寄ってみるとするか。
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