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331 本体⑤
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「……では、ワシらはしばらくここに留まり、黒い魔物を狩っていくとしよう」
「はい、お願いできますでしょうか」
「あぁ。……それとついでに、ミリィたちがこの森に入ってきているかもしれない。見つけることが出来たら、ここまで導いてもらえるか?」
「それが……そうしたいのは山々なのですが、ゼフ以外の気配は上手く探れないのです……申し訳ありません」
ワシの言葉に、アインベルは顔を曇らせる。
元、ワシの使い魔だからこそ、こうしてここまで導くことが出来たのか。
だがミリィなら、ワシらが森を目指したと判断できるはず。
タイタニアに乗ってくるだろうし、近づけば合流できるだろう。
「……わかった。だが見つけたら、頼む」
「勿論でございます」
ふぅ、やっと話が終わったか。首を回すとボキボキと音が鳴る。
「……しかし疲れたな」
「ふふ、長旅でお疲れでしょう。客室を用意しております」
「悪いな」
「いいえ、助けていただくのはこちらですから」
両手を前で組み、にっこりと微笑むアインベル。
なんとも調子が狂う……中身別物とはいえ、アインの見た目でこんな仕草をされるとな。
「それではヴィルク、彼らを部屋まで案内して貰えますか?」
「……は」
アインベルの言葉に、入口に立っていたメイドが恭しく頭を下げる。
「それではゼフ、クロード、ゆっくりお休みください」
「あぁ、また明日な」
アインベルに別れを告げ扉を閉めると、メイドのヴィルクがワシらの前に一歩踏み出す。
「それでは私についてきて下さい」
そう言ってワシらを一瞥すると、ヴィルクはスタスタと歩きだす。
おい早すぎるぞ。案内する気があるのかよ。
しかも遠いし、無駄に歩き回らされた気さえする。
「着きました」
「う、うむ……しかし妙に遠回りではなかったか?」
「気のせいでは」
しれっと言い放つヴィルク。絶対気のせいじゃないぞ。
まぁいい。スルーしてやるか。ワシは大人だからな。
「こちらがゼフさまの、向かいがクロードさまのお部屋ですので」
「わかった」
「では私はこれで。御用があれば、お呼びください」
ヴィルクはそう言って、このフロアの入り口へと立つ。
見張りの意味も兼ねているのだろうな。そんな事を考えながら、部屋へと入る。
中は簡素ながらも手入れの行き届いた部屋で、居心地は悪くなさそうだ。
ベッドに身体を投げ出すと、一気に疲れが押し寄せてきた。
久しぶりのベッドの感触を全身で楽しんでいると、コンコンと扉を叩く音が聞こえる。
「ゼフ君、入っていいですか?」
「クロードか。構わないぞ」
「では、失礼します……」
遠慮がちに扉を開くと、クロードが部屋の中に入ってきた。
後ろには、ヴィルクの姿がちらりと見えた。どうやら監視役でもあるらしい。
流石に中には入ってこないようで、扉を閉めるとクロードが安堵の息を吐いた。
「……ふぅ、息が詰まりそうですね。ヴィルクさん、ボクが扉を開けたらすぐ駆けつけてきてゼフ君の部屋に行くまでべったりでしたよ」
扉の方を警戒するように見るクロード。
あのヴィルクとかいうメイド、ワシらを目の敵にしているように感じる。
大事なお姫さまがワシらを特別扱いしているのだから、機嫌が悪いだけのような気もするが。
「まぁ、気にすることもあるまい。相手にするだけ時間の無駄というやつだ」
「あはは……ボクもゼフ君みたいに割り切れたらいいんですけど」
「クロードは色々と気にしすぎなんだよ。……それより何しに来たのだ?」
「っとと、そうでした。……えぇと耳を貸して貰っていいですか?」
クロードはベッドに乗り、耳に顔を近づけてくる。
扉の外のヴィルクに聞かれぬ為だろうか、耳元で囁く。
「……何だか怪しくないですか?」
「ふむ?」
「アインベルさんの言っている事はわかりますし、筋も通っています……ですがすごく違和感を感じるんですよね……上手く言えませんけど何かを隠している、みたいな」
中々鋭い事だ。敢えて言うまいと思っていたが、気づいたなら仕方ないか。
「実はな、ワシも連中に不信感を持っている。アインベルは黒い魔物は精霊のなれの果てと言っていたが、協会の調べでは大昔から存在していたようだからな」
「では嘘を……?」
「わからん。協会の記録が絶対とも限らぬし、実際大昔に彼らの祖先が黒い魔物となったのかもしれない……とはいえ警戒に越したことはあるまい」
何せここは迷いの森なのだ。
全てが嘘、という事もあり得なくはない。
クロードも同じ事を考えたのだろう。真剣な面持ちである。
「だが森を彷徨うよりはマシだろう。しばらくはここに厄介になろうではないか」
「そうですね。ミリィさんたちが森に入ったとしたら、恐らくここに辿り着くでしょうから」
黒い魔物と戦うのも、任務の内だしな。
どちらにしろ、当面はここで精霊たちと暮らす事になりそうである。
「クロードさま。そろそろよろしいでしょうか」
「ひゃっ!? ヴ、ヴィルクさんっ!?」
扉の外から聞こえてくるヴィルクの声に、クロードがびっくりしたのかワシに抱きついてきた。
こっちの方がびっくりしたではないか。……今の話を聞いていたのではあるまいな。
クロードが心臓を押さえ、扉の方へと向き直る。
「もう夜も遅いですし、そろそろお戻りになってください」
「で、でも来たばかりですし……」
言いかけたクロードに、ワシは首を振る。
一瞬戸惑った顔でワシを見るクロードだったが、こくりと頷いて呟く。
(不安だったので進言に来たのですが、流石はゼフ君ですね。余計なお世話でした)
(ふん、それほどでもあるがな)
ワシの言葉に、クロードは苦笑しながら部屋を出ていくのであった。
それにしてもアインベルにヴィルクか。一筋縄ではいかなそうだな。
「はい、お願いできますでしょうか」
「あぁ。……それとついでに、ミリィたちがこの森に入ってきているかもしれない。見つけることが出来たら、ここまで導いてもらえるか?」
「それが……そうしたいのは山々なのですが、ゼフ以外の気配は上手く探れないのです……申し訳ありません」
ワシの言葉に、アインベルは顔を曇らせる。
元、ワシの使い魔だからこそ、こうしてここまで導くことが出来たのか。
だがミリィなら、ワシらが森を目指したと判断できるはず。
タイタニアに乗ってくるだろうし、近づけば合流できるだろう。
「……わかった。だが見つけたら、頼む」
「勿論でございます」
ふぅ、やっと話が終わったか。首を回すとボキボキと音が鳴る。
「……しかし疲れたな」
「ふふ、長旅でお疲れでしょう。客室を用意しております」
「悪いな」
「いいえ、助けていただくのはこちらですから」
両手を前で組み、にっこりと微笑むアインベル。
なんとも調子が狂う……中身別物とはいえ、アインの見た目でこんな仕草をされるとな。
「それではヴィルク、彼らを部屋まで案内して貰えますか?」
「……は」
アインベルの言葉に、入口に立っていたメイドが恭しく頭を下げる。
「それではゼフ、クロード、ゆっくりお休みください」
「あぁ、また明日な」
アインベルに別れを告げ扉を閉めると、メイドのヴィルクがワシらの前に一歩踏み出す。
「それでは私についてきて下さい」
そう言ってワシらを一瞥すると、ヴィルクはスタスタと歩きだす。
おい早すぎるぞ。案内する気があるのかよ。
しかも遠いし、無駄に歩き回らされた気さえする。
「着きました」
「う、うむ……しかし妙に遠回りではなかったか?」
「気のせいでは」
しれっと言い放つヴィルク。絶対気のせいじゃないぞ。
まぁいい。スルーしてやるか。ワシは大人だからな。
「こちらがゼフさまの、向かいがクロードさまのお部屋ですので」
「わかった」
「では私はこれで。御用があれば、お呼びください」
ヴィルクはそう言って、このフロアの入り口へと立つ。
見張りの意味も兼ねているのだろうな。そんな事を考えながら、部屋へと入る。
中は簡素ながらも手入れの行き届いた部屋で、居心地は悪くなさそうだ。
ベッドに身体を投げ出すと、一気に疲れが押し寄せてきた。
久しぶりのベッドの感触を全身で楽しんでいると、コンコンと扉を叩く音が聞こえる。
「ゼフ君、入っていいですか?」
「クロードか。構わないぞ」
「では、失礼します……」
遠慮がちに扉を開くと、クロードが部屋の中に入ってきた。
後ろには、ヴィルクの姿がちらりと見えた。どうやら監視役でもあるらしい。
流石に中には入ってこないようで、扉を閉めるとクロードが安堵の息を吐いた。
「……ふぅ、息が詰まりそうですね。ヴィルクさん、ボクが扉を開けたらすぐ駆けつけてきてゼフ君の部屋に行くまでべったりでしたよ」
扉の方を警戒するように見るクロード。
あのヴィルクとかいうメイド、ワシらを目の敵にしているように感じる。
大事なお姫さまがワシらを特別扱いしているのだから、機嫌が悪いだけのような気もするが。
「まぁ、気にすることもあるまい。相手にするだけ時間の無駄というやつだ」
「あはは……ボクもゼフ君みたいに割り切れたらいいんですけど」
「クロードは色々と気にしすぎなんだよ。……それより何しに来たのだ?」
「っとと、そうでした。……えぇと耳を貸して貰っていいですか?」
クロードはベッドに乗り、耳に顔を近づけてくる。
扉の外のヴィルクに聞かれぬ為だろうか、耳元で囁く。
「……何だか怪しくないですか?」
「ふむ?」
「アインベルさんの言っている事はわかりますし、筋も通っています……ですがすごく違和感を感じるんですよね……上手く言えませんけど何かを隠している、みたいな」
中々鋭い事だ。敢えて言うまいと思っていたが、気づいたなら仕方ないか。
「実はな、ワシも連中に不信感を持っている。アインベルは黒い魔物は精霊のなれの果てと言っていたが、協会の調べでは大昔から存在していたようだからな」
「では嘘を……?」
「わからん。協会の記録が絶対とも限らぬし、実際大昔に彼らの祖先が黒い魔物となったのかもしれない……とはいえ警戒に越したことはあるまい」
何せここは迷いの森なのだ。
全てが嘘、という事もあり得なくはない。
クロードも同じ事を考えたのだろう。真剣な面持ちである。
「だが森を彷徨うよりはマシだろう。しばらくはここに厄介になろうではないか」
「そうですね。ミリィさんたちが森に入ったとしたら、恐らくここに辿り着くでしょうから」
黒い魔物と戦うのも、任務の内だしな。
どちらにしろ、当面はここで精霊たちと暮らす事になりそうである。
「クロードさま。そろそろよろしいでしょうか」
「ひゃっ!? ヴ、ヴィルクさんっ!?」
扉の外から聞こえてくるヴィルクの声に、クロードがびっくりしたのかワシに抱きついてきた。
こっちの方がびっくりしたではないか。……今の話を聞いていたのではあるまいな。
クロードが心臓を押さえ、扉の方へと向き直る。
「もう夜も遅いですし、そろそろお戻りになってください」
「で、でも来たばかりですし……」
言いかけたクロードに、ワシは首を振る。
一瞬戸惑った顔でワシを見るクロードだったが、こくりと頷いて呟く。
(不安だったので進言に来たのですが、流石はゼフ君ですね。余計なお世話でした)
(ふん、それほどでもあるがな)
ワシの言葉に、クロードは苦笑しながら部屋を出ていくのであった。
それにしてもアインベルにヴィルクか。一筋縄ではいかなそうだな。
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