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連載
329 「本体」③
しおりを挟む「ふぅ、さっぱりしたな」
「お疲れ様です。お食事出来ていますよ」
「おお、美味そうだ」
ワシが水浴びをしている最中にクロードが魚を釣り、焼いてくれていた。
はらわたも抜き、簡素な味付けではあるがシンプルに美味い。やはり魚の丸焼き一つとっても手馴れているな。
「ゼフ君の手料理も魅力的でしたけどね。ふふ」
「茶化すなよ」
まだ引っ張るのかよ、ったく。
ワシが睨みつけるも、クロードは機嫌良さそうに笑う。
それでも相当疲れていたのだろう。食事の後、毛布に包まると、すぐに眠ってしまった。
ワシの肩に頭を預け、すぅすぅと寝息を立てるクロードの体温を感じながら、ワシの意識も沈んでいく。
「……フくん……ゼフ君っ、起きて下さい! ゼフ君っ!」
「んあ……?」
もう朝か。どうやら少し眠りすぎたようだ。
しかしクロードは何を慌てているのだろうか。
眠い目をこすりながら身体を起こすと、辺りは白い霧に包まれていた。
霧の中にうっすらと覗くのは、先日いたはずの小川ではなく奇妙な木々が群生している。
「動くなっ!」
声の主は、ワシらを取り囲んでいる者たちだ。
子供ほどの背丈だが見た目は青年だ。おとぎ話に出て来る小人のような見た目である。
他にもやたらと背の高い者、羽の生えた者、明らかに人の形をしていない者と様々だ。
彼らがメアの言っていた精霊だろうか。
気付かれぬよう、小声でクロードに話しかける。
「……おいクロード、これはどういう事だ?」
「わかりません。目が覚めたら囲まれていて……ですが、襲ってくる気配はないようです」
確かに、ワシらを取り囲んでいる者たちに襲ってくるようなそぶりはない。
それどころか、どちらかというと怯えているようにも見える。
「ともあれ、このままでは埒が明かんな。ちょっと話しかけてくる」
「ぼ、ボクも行きますっ!」
クロードがついてこようとするが、それを制する。
「ワシ一人の方があちらも警戒しないだろう。クロードはここにいろ。……だが何かあったら頼む」
「……わかりました」
頷くクロードを置いて、精霊たちに近づいていく。
「すまない、少し話がしたいのだが……」
「ひっ!?」
「く、くるなっ!」
……しかしワシに応えるどころか、隠れる者や逃げる者ばかりで、挙句の果てには泣き出す者までいる始末だ。
うーむ困ったな……どうしたものかと頭を抱えていると、彼らがにわかにざわめき始めた。
奥の方から何かが近づき、人混みが割れていく。この気配、ワシを呼んでいた声……か?
身構えるワシの前にあらわれたのは、金色の髪をなびかせた、ドレス姿の少女である。
その背には見覚えのある金色の翼が生えていた。
「やっと……逢えた……」
森で語りかけてきたのと同じ声で、少女が呟く。
どこかで聞いた声だと思ったが、今ようやく理解した。
声の正体は精霊の森に住まうアイン、その本体だったのだ。
「よくぞ……本当によくぞお越しくださいました。私の王子さま!」
「は?」
そう言って、アインはワシの手を握りしめる。
思わず目が点になる。アインとは思えぬ口調、仕草。
というか王子さまとは一体何事だろうか。
混乱するワシを、アインは潤んだ目で見上げてくる。
「夢ではないのですね……嬉しいです」
「ちょちょちょ! ちょっと待って下さいっ!」
アインがワシに顔を近づけるのを見て、クロードが慌てて止めに入る。
「君は何者ですかっ!? ゼフ君にいきなり何をするんですっ!」
「これは申し遅れました。私はアインベル=ルビーアイ。不肖ながらこの国の王女です」
真っ直ぐにクロードを見つめるアインの頭には、金の冠が据えられていた。
アインが王女だと? タチの悪い冗談である。
だがその立ち振る舞いには、言葉を裏付ける高貴さが漂っていた。
「……クロードにも随分とお世話になりました」
「王女って……ほ、本当にアイン……さん、なのですか?」
「えぇ、いつも通りアインちゃん、でいいですよ。ふふ」
思わず敬語になるクロードを見て上品にほほ笑むアイン。
その可憐ともいえる仕草に、クロードも戸惑っているようだ。
無理もない。なにせあのアインと、あまりに雰囲気が違いすぎるからな。
「ここでは少々目立ちます。よろしければ城へ来て頂けませんか?」
「……うむ、そうだな」
精霊たちに遠巻きにジロジロと見られ、非常にうっとおしい。
こんなところでは落ち着いて話もできん。
色々と聞きたい事があるしな。ゆっくりと話したいところである。
精霊たちの視線を浴びながら、ワシとクロードは奇妙な形の森を往く。
この奇妙な木は精霊たちが繰り抜き、建物として利用しているようだ。
風変わりな住民といい、本当におとぎ話のようなところだな。
しかもアインがそのまとめ役とはな。
「それにしても見違えたぞアイン……いや、ややこしいしアインベルとでも呼ぶべきか?」
「お好きなように及び下さい。王子さま」
アインベルに微笑まれ、ぞくりと背筋が寒くなる。
先刻もそうだが、何だその呼び方は。
「ではアインベルト呼ばせてもらう。……というか王子さまはやめろ。気色悪いぞ」
「あら、お気に召しませんでしたか?」
「お気に召すわけがないだろうが。そもそも何故王子なのだ」
ワシにジト目を向けられたアインベルは、うっすらと顔を赤く染めて目を逸らす。
「……籠に閉じ込められた鳥のようだった私に手を差し伸べてくれた王子さまですから……」
「つ、つまり……えーと……?」
「それはその……きゃっ、もう! クロードったら、言わせないでくださいっ!」
両手で頬を押さえ、よじよじと身体をくねらせるアインベル。
本体の性格は、ワシが普段呼び出しているものとは違うのだろうか。
はっきり言って怖い。ドン引きである。
「あ、もしかしてそれで普段、おじいって呼んでいたんでしょうか。アインちゃん、最初は小さかったから「おうじ」を「おじい」といい間違えて、そのままだったとか……それとも単純に、自分が王女様だからゼフ君のことを王子様と?」
「……まぁどうでもいいがな。とにかく王子は止めろ。アインベル」
「わかりました。ではゼフとお呼びいたします」
「頼むからそうしてくれ」
怖気が走るではないか。
やれやれとため息を吐いていると、霧の向こうに巨大な木が見えてきた。
巨大な木は、窓や階段、外壁などが取り付けられており、まるで城のようである。
その上部には、象徴するかのような大きな鐘が設置されていた。
「これはまた……立派な建物ですねぇ」
「二人とも遠慮なさらず、どうぞ」
アインが中に進みワシらがついて行こうとすると、何人かの武装した精霊たちが手にした槍をこちらに向けてきた。
それをアインが制する。
「お下がりなさい。私の大事な客人ですよ」
「しかし王女……」
「いいから、下がりなさい」
「……は。失礼をしました。どうぞお通り下さいませ」
アインベルの迫力に飲まれ、兵士たちはおずおずと武器を下す。
城の中へと進みながら、クロードはぶつぶつと呟いていた。
「それにしてもアインちゃんがお姫様だったなんて……ここれからどうやって接していけば……」
「別に普段通りでいいと思うぞ。使い魔として呼び出しているのはここにいる本体と同じ性質を持ってはいるが、全く別の存在なのだ」
使い魔は、異界にいる使い魔本体の力を、術者自らの魔力で具現化したもの。
本体自体の能力を持ってはいるが、術者の性格や能力に大きく影響されるのだ。
そう考えると、使い魔本体と術者の間の子と考えるとわかりやすいかもしれない。
「そういう事です。私とはアインと同じように気安く接してくれて構わないのですよ。クロード」
「は、はい……アインベル……さん」
アインベルの言葉に、クロードは気安くなるどころかむしろ表情を固くするのだった。
王女と聞いて気後れしているのだろう。騎士であるクロードらしいな。
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お前誰だよ!?みたいに思った方はこっちも見よう!
http://www.alphapolis.co.jp/manga/viewOpening/69000123/
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