効率厨魔導師、第二の人生で魔導を極める

謙虚なサークル

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328 「本体」②

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 翌日、精神的にも安定を取り戻したクロードはあらわれた魔物を斬り伏せていく。

「翠烈断っ!」

 斬撃と共に叩きつけられた衝撃が、枯れ葉のような模様を持つ長細い蛇のような魔物、レプトゥルスを捉えた。
 吹き飛ばされたレプトゥルスは粘液を纏い、地面に潜ろうとする。
 そこへ炸裂する炎弾の嵐。
 ――――三重合成魔導、レッドバレットトリプル。

 広範囲を焼き尽くし、潜りかけていたレプトゥルスがたまらず跳ね出て来る。
 レプトゥルスは身体に粘液を纏い、地面を水のように泳ぐ魔物だ。
 先刻も地面からいきなりあらわれ、面食らった。
 だが地面ごと熱してやれば、潜るのも不可能なようである。

「緋凰衝っ!」

 クロードの繰り出す突きがレプトゥルスを貫くと、炎がその身を包み焼く。
 レプトゥルスはジタバタと暴れていたが、しだいに力尽き、燃え落ちるようにして消滅していった。

「うむ。よくやったぞクロード」
「ありがとうございます、ゼフ君の料理で元気でましたから!」

 えへへと幸せそうに笑うクロード。
 下手くそな料理に喜び過ぎである。

「……しかしクロード、本来は技名を叫ぶのをだな。くっくっ」
「あ、あれは……そ、その方が気合が入るんですよ……」

 クロードはそう言って、恥ずかしそうに口ごもる。
 別に責めてはいないのだがな。気合いを入れるため、魔導発動時にその名を叫ぶ者は多い。
 魔導師に成り立ての頃は、上手く扱えぬので魔導名を叫んで発動させるよう教える。
 ワシはもう慣れたし、発動時に攻撃方法がバレるのでもうやっていないがな。

「と、とにかく! 早く進みましょう!」
「わかったわかった」

 ぷいと後ろを向き、大股で森を進むクロードについていく。
 それにしても、ここの魔物は色物揃いで面白い。
 こういった機会でなければ、ゆっくりとレポートでも書きたかったのだがな。
 せめて記憶に留めながら進んでいると、不意に頭の中に音が響いてきた。

(こ……まま……っ……す……)

 掠れた少女の声だ。もしやミリィの念話だろうか。
 立ち止まり、耳を澄ませる。

(……の……で……い)

 だが声は弱くなり、次第に聞こえなくなっていった。

(おい! 誰だ! ミリィなのか! 答えろ!)

 念話で呼びかけるが、返答はない。
 今のは奇跡的に一瞬繋がっただけだろうか。くそっ。

「ゼフ君、どうかしましたか?」
「あぁいや、念話が届いてな。クロードは聞こえなかったか?」
「聞こえませんでしたけど……もしかしてミリィさんでしょうか?」
「他の何者か、かもしれんがな」

 とはいえどうしようもない。
 諦めて進もうとすると、また頭の中に音が響く。

(そのまま……まっすぐ……)

 今度は確実に聞こえた。
 だがこれはミリィの声ではない。どこかで聞いたような気はするが……わからん。

「クロード、先刻の声がまた聞こえたぞ。このまままっすぐと言っていた。そして声の主はミリィではないな」
「誰かはわからないのですか?」
「うむ、声が掠れていて聞き取りづらいがな」
「それは……判断に困りますね」

 クロードの言う通りだ。
 ここは迷いの森、この声が何らかの罠である可能性も十分にあり得る。
 とはいえ、他に手掛かりのないのも事実。

「……声に従ってみよう。現状まともな手がかりはないし、それにあの声が仲間のものである可能性もなくはない。どこかで聞いた事のある声な気がするからな」
「憶えていない女性の声ですか……全くゼフ君には困ったものです」

 呆れ顔で笑うクロード。
 おい失礼だぞ。

「ふふ、冗談ですよ。……そうですね、他に手がかりもないし、このまままっすぐ進みましょう。最悪の事態はボクが防いで見せますよ。この身を持ってしても」
「おいクロード、馬鹿な事を考えるなよ」
「それも、冗談ですよ。では進みましょう」
「……うむ」

 口元は笑っているが、その目は笑っていない。
 クロードはあれで頑固だからワシには前を歩かせそうにないし、気をつけてやらねばな。

(その……太い木を東へ……)

 また声が聞こえた。
 今度はより、はっきりとである。
 声の方に近づいているとのだろうか。

「クロード、その木を東だ。十分に気を付けてな」
「はい」

 クロードは言わずもがなといった風に頷くと、足を進めるのだった。
 ふん、面白い。毒を食らわば皿までである。
 罠ならば、食い破ってやるだけの事だ。

 それからしばらく、ワシらは周囲に警戒しながら進んでいく。
 森が本来持つ天然の罠はあるものの、それ以外の脅威は見当たらずワシらの歩みは順調であった。
 だが往々にして、こういう時こそ何かが起こるものである。

 注意しながら進んでいくと、不意にクロードが立ち止まる。
 クロードの視線の先にあるのは、毒々しい色を持つゼルのような魔物。
 この色、そして形の魔物にワシは見覚えがある。

「ゼフ君、これは……!」

 ぽよん、とこちらに跳ねて近づいてきたゼリー状の魔物へスカウトスコープを念じる。

 ゼリースヴァンプ
 レベル102
 魔力値15043692/15043692

 ワシらのいた大陸で見たものと比べやや色が薄く、中身が透けて見えるが、その姿はダークゼルに非常に似ている。
 何よりこの膨大な魔力と存在感。

「黒い魔物……ダークゼルのオリジナル、ですよね」
「あぁ、間違いあるまい」

 メアの話では、精霊の森の奥で黒い魔物のオリジナルを見たとの事だ。
 謎の声の言う通りに進んだおかげだろうか。
 迷い込ませようとしているのか、それとも導いてくれているのか……

 ともあれ目の前のダークゼル……いや、ゼリースヴァンプを相手にせねばならない。
 ゼリースヴァンプはブルブルとその身を震わせながら、体内にある闇のような瞳でこちらを睨みつけてきた。

「白閃華っ!」

 先手必勝。
 クロードが剣を振るうと、幾重にも折り重なった剣閃がゼリースヴァンプを刻む。
 白閃華は黒い魔物に抜群の効果を発揮するクロードの技で、高い魔力値を持つダークゼルを数発で倒すことも出来るのだ……本来は、であるが。

「ピギギギギ……」
「そんな……白閃華が……っ!?」

 嘲笑うように鳴くゼリースヴァンプを見て、驚愕し目を見開く。
 もしやと思ったが、やはり大して効かないか。
 白閃華は魔導師殺しであるスクリーンポイントを剣に乗せて相手を斬り刻む技。

 マナにより具現化し、存在の薄いダークゼルには効果が高いが、オリジナルのこちらには効果が今ひとつなのだ。

「ピギィ!」

 奇声を上げて飛びかかってくるゼリースヴァンプの攻撃を盾で受け止めるクロード。

「くっ……つ、強いっ!」

 だが余程強烈な一撃だったのか、押し負け、弾き飛ばされてしまった。

「退いてろ、クロード!」

 盾を構え直すクロードの前に出ると、ゼリースヴァンプは様子を窺うようにぴょん、ぴょんとワシの周りを飛び跳ねる。……そして、一瞬見せた隙を狙うように飛びかかってきた。
 凄まじい速度、だがその隙はワシが敢えて作ったものなのだよ。

 まっすぐ、飛びかかってくるゼリースヴァンプへ義手の一撃を叩き込み、タイムスクエアを念じる。
 時間停止中に念じるのは、レッドクラッシュとブルークラッシュ。
 ――――二重合成魔導、バーストクラッシュ。

 時間停止中が解除されると共に、衝撃がゼリースヴァンプを大きく歪める。
 そのまま振り抜くと、鬱蒼と茂る枝木を突き破り彼方へとぶっ飛んでいった。

「奴の魔力値は高すぎる。まともに戦っていては時間がかかりすぎるだろう。白閃華も効かぬしな」
「すみません、ゼフ君……」
「責めてはおらんよ」

 ゼリースヴァンプはターゲットではないし、バカ正直に相手をする必要はない。
 大量の経験値を持っていそうではあったがな。

「それより奴がダークゼルのオリジナルとすると、黒い魔物の本体は影より大分強そうだな」
「そうですね……ダークゼル相手なら大して苦戦もしないのですが」

 パワー、スピード共に大きく上回っているように感じる。
 ワシが敢えて見せた隙に喰らいついてきたという事は、恐らく知能も。
 やれやれ、一番弱っちいダークゼルでこれとは、先が思いやられるな。
 ため息を吐いていると、また頭の中に声が聞こえてきた。

(右寄りに進むと川があります。そこまで来ればもうすぐ……)

 そこまで来ればもうすぐ、か。
 最後の方は上手く聞き取れなかったが、やはり何処かで聞いた声だ。

「ゼフ君、また例の声ですか?」
「あぁ、もうすぐゴールが近いらしい」
「ここからが本番、ですね」
「そういう事だ」

 はてさて、鬼が出るか蛇がでるか……
 声の通り進んでいくと、言葉の通り小さな川が見つかった。
 浅いが綺麗な川で、魚も住んでいる。周りも開けており視界もよく、休むには最適な場所だ。
 声によると「もうすぐ」らしいし、ここで一度休憩をしておくべきだろう。

「今日はここで一晩明かそう」
「そうですね。川がありますし、水浴びもしたいです」

 クロードの髪は少し乱れており、身体も随分汚れている。
 ワシもそうだが、クロードは前を歩いていたから余計にだ。

「見張っているから、ゆっくり身を清めてくるといい」
「ありがとうございます、ゼフ君」

 クロードが大岩の後ろに隠れると、カチャカチャと鎧を脱ぐ音が聞こえてくる。続いて衣擦れの音、そして水の音が鳴り始める。

「ふはぁ~……冷たくて気持ちいいです」
「危険があったらすぐに呼べよ」
「はい」

 クロードの鼻歌と、水鳴りを聞きながら辺りに気を張らせていく。
 辺りにはワシとクロードの気配のみだ。
 どれ、クロードが上がってくるまでに、料理の準備でもしておいてやるか。

「クロード、釣り竿を貸せ」
「あ、はい。わかりました」

 返事をすると、クロードはこちらに袋を投げ渡してきた。
 中には餌と竿のセットが入っており、有事の際には役に立っている。
 釣り針を投げ入れると、すぐに浮きがピクンと跳ねる。

 慌てて引き上げるが……むぅ、少し小さすぎるな。
 小指ほどの大きさで、食べるには物足りない。
 そうだ。こいつを餌にして大物を狙うとしよう。
 今度は小魚のエラに針を付け、泳がせるようにして放してやる。
 ようし、上手く食いついてくれよ。
 釣り竿を垂らして待つ事しばし、いきなりバシャンと水が大きく跳ねる音が聞こえてきた。

「きゃっ!?」

 続いてクロードの悲鳴も。
 竿を投げ捨て、岩陰を覗き込むと裸のクロードが川底に尻もちをついていた。

「あ、足に藻が絡み付いて……」

 クロードの足には藻と、それに巻き付いた糸がキラキラと光が反射しているのが見える。
 糸の先にはワシが針を取り付けた小魚が、一生懸命暴れていた。

「じ、自分で取りますから! 後ろを向いて下さいーっ!」
「……すまん」

 胸元を隠し、背を向けるクロードからワシも目を逸らす。
 どうやら別の意味で、大物を釣り上げてしまったようである。
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