効率厨魔導師、第二の人生で魔導を極める

謙虚なサークル

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327 「本体」①

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 イワマネの木(今名づけた)の茂る荒野を進んでいくと、次第に緑が増えてきた。
 頭上には、いつの間にか鬱蒼とした枝葉が茂っている。
 遠くから見た時はなかったのだが……まるで森が迫ってきているようだ。
 クロードも不気味に思っているのか、ワシの傍から離れない。
 どれ、ちょっとからかってみるか。

「くっくっ、幽霊でも出そうな雰囲気だなぁ。クロード?」
「幽霊だろうがなんだろうが、立ち塞がるものは切り捨てて見せます……!」

 真っ直ぐ前を向いたまま、決意に満ちた声でそう答える。
 ったく、切羽詰まったような顔をしおって。
 クロードの後頭部に、チョップを入れてやる。

「あいた! な、何するんですかゼフ君っ!」
「気を張り過ぎだ。そんなんではいざという時に何も出来んぞ。ワシの役に立つのではなかったのか?」
「そう……ですね! ありがとうございます、ゼフ君」

 クロードは気合を入れ直すよう、両手で顔をぺちんと叩く。
 やれやれ、世話の焼ける事だ。



「……ゼフさんとクロードさんのニオイは、ここで途切れています」

 一方その頃、行方不明となったゼフとクロードを、シルシュがニオイで追跡していた。
 だが、途中でニオイが途切れ、二人を見失ってしまったのである。
 ミリィたちは、心配そうに顔を見合わせた。

「ゼフってば、多分狩りに行ったのね。よく一人で朝早く起きて修行してたもん」
「それにクロちゃんがついていった……か」
「でも、ここでニオイが途切れています。……まさか魔物に?」
「それはないと思いますわぁ」

 シルシュの言葉を否定するように、メアが首を振る。

「ここらの魔物は厄介なものも多いですが、ゼフさまはとてもお強いですし大丈夫でしょう。恐らく迷いの森に飲まれちゃったのですわぁ」
「迷いの森って……この辺りに森なんかないじゃない。それにもっと距離があるって言ってなかった?」
「迷いの森は変幻自在、岩場の姿をして近づき、人を迷わせるくらいワケはありませんわぁ」
「なるほど、メアちゃんの言うとおり常識の通用しない森ってわけね」
「ニオイが途切れたのは、森に飲まれたから……ですか。念話も通じませんし……うぅ、どうしましょう……」

 困り果てる皆の前に、ミリィが腕を組んで立つ。
 じっと三人を見渡した後、小さな口を大きく開いた。

「私たちも迷いの森を目指しましょう」

 ミリィの言葉に、場の空気が変わった。

「目的地である迷いの森に入ることが出来たのだ。このまま中心部を目指せばいいではないか……ゼフならきっとこう言うわ」

 ゼフの口調を真似たミリィを見て、レディアとシルシュが噴き出した。

「くすくす、ミリィさん、それ似ています」
「あっはは! 確かに言いそうだね~」

 二人の不安が薄れたのを見て、ミリィがため息を吐くのをメアは見逃さなかった。
 後ろに隠した手が小さく震えていたのも、である。

「だから……行きましょう!」
「はいっ!」
「そうだね~」
(へぇ……)

 二人を従えて進むミリィ見て、メアは正直驚いていた。
 意外だったのだ。一番ゼフに依存していそうなミリィが、皆をまとめ上げた事が。

「お飾りなだけのリーダーではない、という事ですわねぇ……一番大した事はないと思っていたのですがぁ。少しだけ認識を改めてもいいかも、ですわぁ」
「何やってるのーっ! 早く行くわよ、メアっ!」
「わかっていますわぁー!」

 そう返事をして、メアはタイタニアへ駆ける。
 強敵揃い、それもまた上等だ。メアは相手が難敵であればあるほど燃えるという性格なのである。
 ぺろりと上唇を舐めると、メアは皆について行くのだった。


「でやあっ!」

 緑と白の入り混じった、虎のような魔物をクロードの剣が捉える。
 しかし分厚い毛皮に阻まれ、斬撃が通らない。
 グランドリガー、毛色を保護色のように変え、背景に紛れて襲い来る魔物だ。
 吹き飛ばされながらも、グランドリガーは起き上がりまた草むらに隠れた。
 ガサガサとざわめく草むらに向け、レッドスフィアを発動させるとグリンドリガーの悲鳴が上がる。

「ふん、逃しはせぬよ」

 また隠れられては厄介だからな。
 炎を目印に、クロードが草むらに飛び込む。
 ざくり、とグランドリガーを突き刺す音が森に響いた。

「はぁ……はぁ……や、やりました……」
「うむ」

 草むらをかき分けて出てきたクロードは頬についた葉を払い、剣を収める。
 傷だらけの身体で荒い息を吐くクロードは、まさに満身創痍といった感じだ。
 森を進むにつれ、魔物も強くなっているのだ。
 それにワシの言葉に奮起したのか、身体に力が入りすぎている。
 そろそろ休んだ方がいいな。

「今日はもう終わりだ。休む準備をするぞ。クロード」
「でも……」
「するのだ。お前は少し座っていろ」
「……はい」

 くしゃりと髪を撫でてやると、クロードは岩に腰掛けた。
 やはり相当に疲れていたようで、ぐったりともたれ掛かっている。
 ふむ、そうだな。今日は頑張ったし、少し労ってやってもいいかもしれない。

「よし、今日はワシが食事を作ってやろう」
「え……? ゼフ君が、ですか……?」

 きょとんとした顔でワシを見るクロード。
 おい、どういう意味だ。

「えぇとその……大丈夫ですか……?」
「当たり前だ。一人で飯くらい作れる」

 今まではレディアやクロードが料理上手だったので作る機会もなかったが、前世ではよく一人で作って食べていたものだ。

「まぁ楽しみに待っていろ。調理道具があるだろう? 貸してくれ」
「は、はい……」

 不安そうな顔で袋から調理道具を取り出すクロード。
 通りすがりに採取した食えそうな野菜と、巻き添えで焼けた兎の肉を切って鍋にぶち込み、魔導で火をつけた。
 滴り落ちる油が鍋を伝い、ジュウジュウと白い煙が上がる。
 義手についていた刃物部分だが、結構役に立つな。
 ざくざくとかき混ぜると、いい匂いが鼻をくすぐる。

「あとは塩コショウで味をつけて……っと」

 完成である。
 肉と野菜の炒め物だ。
 皿に盛り付け、クロードに一つを差し出す。

「うわぁ! すごいですゼフ君っ!」
「大げさだぞ全く……」
「えへへ、ごめんなさい。……いただきますっ!」

 ワシもいただくとするか。
 皿に持った野菜と肉を絡め、口に運んでいく。
 ……むぅ、少し焦げ臭いし、味が薄い。
 久しぶり過ぎて味の調整と火の加減をミスってしまったな。
 皆の料理に慣れたから、舌が肥えてしまったのかましれないな。

「美味しいですっ! ゼフ君っ!」

 だがクロードは文句も言わず、ぱくぱくと食べていた。
 目には涙を浮かべ、噛みしめるようにして。

「無理をしなくていいのだぞ。クロード」
「無理なんて……本当に美味しいですよ。それに、嬉しいんです。その、ゼフ君の手料理を食べられて……えへへ」

 消え入りそうな声を、クロードは笑って誤魔化すのだった。
 ったく、可愛らしいことを言いおって。照れくさいではないか。

「……ほら、食ったし寝るぞ」
「はい」

 毛布に包まると、クロードも潜り込み身体を寄せてくるのだった。
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