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326 精霊の森へ⑦
しおりを挟む「やりました、ゼフ君! レベルアップですよ! レベルアップ!」
「よかったな。クロード」
「はい! これでもっとゼフ君の……っと、皆さんのお役にたてます!」
両手を前にやり、力の上昇を確かめるように拳を握るクロード。
タイタニアが米粒ほどの大きさになる程に離れた場所で、ワシらは狩りをしていた。
ここいらは魔物の数も多く、得られる経験値も悪くない。
「また出てきたぞ。油断するな」
「はいっ!」
クロードが剣を向けた先に、ニワトリのような身体の、尾が蛇の魔物があらわれる。
既にスカウトスコープで確認済みのこいつはコカトリス。
ニワトリ部分と蛇の部分、二つの頭で前後をカバーしている為、隙がない。
「クルル……」
そう喉を鳴らしながら、コカトリスは首を持ち上げクロードへ唾を吐きかけてきた。
難なく躱すクロードであるが、唾の落ちた先で地面が白い煙を上げている。
あの唾を浴びたモノはまるで石のように硬化するのだ。
だが直前の動作も分かりやすく、素直に食らうワシらではない。
「今です! ゼフ君っ!」
盾でニワトリ部分を殴り、剣で蛇部分を切り落としたクロードが叫ぶ。
呼ばれるまでもなくコカトリスへ手をかざし、タイムスクエアを念じる。
時間停止中に念じるのは、レッドスフィアを3回。
――――三重合成魔導、レッドスフィアトリプル。
コカトリスを中心に、渦巻く炎塊が炸裂した。
飛び散る炎も、スクリーンポイントを展開しているクロードには効果はない。
クロードとのペア狩りは、タイミングや狙いが少々適当でも巻き添えさせにくいから楽でいい。
(それにしても気兼ねなく緋の魔導を扱えるというのは何とも心地よいものだな)
今までは緋の限界が近かった事もあり、出来る限り他系統の魔導を主に使ってきた。
それを気にせず、むしろメインで使っていけるのだ。素晴らしい解放感である。
やはりワシは緋系統の魔導が性に合っているな。
「ふふ、何だかうれしそうですね。ゼフ君っ」
「まぁな。……だがクロードも何となくそんな感じではないか?」
「ぼ、ボクはその……えへへ」
ワシの言葉に赤くなり、誤魔化すように笑うクロード。
燃えカスとなったコカトリスのいた場所に、爪のような形をした宝石がドロップしていた。
これは非常に割れやすい石で、その粉末をかけるとコカトリスの唾のような効果がある。
とはいえコカトリスのそれと比べると、効果は微々たるものだが……まぁぶつけて動きを鈍らせるくらいは出来るだろう。
それにしてもこの辺りの魔物は石をよく落とすようだ。
メアのいた街で石商売が成り立っていたが、恐らく死んだ魔物がドロップした石が地層に溜まったのだろうな。
「ゼフくーん! こっちにも魔物ですっ!」
「待て待てクロード。あまり張り切りすぎるなよ」
瞑想しながら、クロードの呼ぶ方へと歩いていく。
そこへいたのは3匹の犬のような魔物。
小型ではあるが、鋭い歯と機敏な動きで襲ってくるディーゴという魔物である。
「ヴヴヴヴヴ……!」
唸り声を上げるディーゴが動き出す前に、念じるのは緋系統大魔導レッドインフェルノ。
ごうん、と大爆発がディーゴを飲み込み周囲を焼き払う。
攻撃範囲が広すぎるので、一対多数くらいでしか使えないレッドインフェルノだが魔導の効かないクロードとのペアなら使いやすい。
「ギャウン! ギャウン!」
「ゼフ君っ!」
鳴き喚きながら炎から転がり出てきたディーゴを、クロードが剣で貫き、ワシの方へとぶん投げてきた。
ナイスクロード。
義手へレッドクラッシュを込め、拳を叩きつける。
――――レッドクラッシュインパクト。
強烈な衝撃と共に弾ける炎、弾き飛ばされたディーゴは何度かバウンドした後、動かなくなった。
残った炎に焼かれるように、消滅していく。
「次、行きますっ!」
「ようし、いいぞクロード」
二匹目、三匹目も同じようにして撃破。
お、緋の魔導レベルが上がったな。
自身にスカウトスコープを念じる。
ゼフ=アインシュタイン
レベル96
「緋」魔導値70 限界値99
「蒼」魔導値66 限界値92
「翠」魔導値68 限界値99
「空」魔導値64 限界値93
「魄」魔導値78 限界値97
魔力値5046/5046
ふふ、つい夢にまで見た限界超え、というやつだな。
未だこの程度では大した差はないが、もう少しレベルが上がってくれば実感が湧いてくるだろう。
以前のワシを超えたという実感がな。
「……本当にうれしそうですねぇゼフ君」
「くっくっ、まぁな」
呆れた様子でワシを見てほほ笑むクロード。
そういえば、そろそろ戻ったほうがいいかもしれないな。
ふと思い出したようにタイタニアの方を見た。
「……ゼフ君、そろそろ戻った方がいいかもしれません」
「うむ。そうだな。少し長居をし過ぎたかもしれん」
「太陽はまだ昇ってはいませんし、今からなら皆が目を覚ます前に戻れるかも……」
クロードの視線の先には、来た時と同じように佇むタイタニアと昇りつつある太陽。
「……待て、妙だぞクロード」
「? どうかしましたか?」
「太陽の位置を見ろ。来た時と変わっていないと思わないか?」
そう、ワシらはなんだかんだでかなり長時間狩りをしていた。
なのに太陽が全く動いていないのはおかしい。
「……まさか!」
「きゃっ! ぜ、ゼフ君っ!?」
クロードの手を掴み、テレポートを念じる。
目印にしていたタイタニアへ向け、飛ぶ。……だが飛べども飛べども、タイタニアは近づく事はない。
やはりか……くそ、いつの間に!
クロードも事の重大さに気づいたようで、見る見るうちに顔を青くさせていく。
「ぜ、ゼフ君……もしかしてボクたち、迷っちゃったんですか……?」
「そのようだな……見ろ」
ワシらとの戦闘で、少し欠けた岩に手をやるとレッドクラッシュを念じる。
大岩を包んだ炎は徐々に表面を焼き焦がし、鱗が剥がれ落ちるように岩の破片が欠けていく。
表面が焼け中に見えるのは樹の幹だ。
「これ、岩じゃなくて木……!?」
「土と埃でカモフラージュしているがな。よく見れば周りの岩にも幾つか混じっている」
岩のような木から香るニオイ。これはワシらの大陸にあった、惑いの香に似ているな。
旅人がよく迷う森に生えており、木のニオイを吸うと視界と方向感覚が狂ってしまうのだ。
くそっ、しまったな。
念話も……どうやら通じない様だ。マナの薄いこの大地では、距離が離れると念話が届かない事がある。
どうやら知らぬ間にかなり移動してしまったようだ。
「……恐らくワシらはメアの言う迷いの森に入ってしまったようだな。思い返せば陸を泳ぐ魚や、海に潜る鳥とはワシらが先刻戦った魔物の事だろう」
「そんな……!」
クロードはへなへなと崩れ落ちる。
そしてぶつぶつと、視線の定まらぬ目でなにか呟いている。
「ボクのせいで……あの時ボクが、ゼフ君を無理に誘ったから……?」
「おい、落ち着けクロード。お前のせいではない」
「でも……ボクはゼフ君の役に立つと……もう足手まといにはならないと決めてたのに……っ!」
泣きそうな顔で肩を、声を震わせるクロードを落ち着かせるべく、頭に手を載せゆっくりと撫でてやる。
「泣くな馬鹿者。逆に考えてみろ。ワシらの目的は元々迷いの森だったのだ。手間が省けて良かったではないか」
「ゼフくん……ぅ……」
「タイタニアからはそんなに離れていないはずだ。皆もすぐに追いついてくるさ。案内人のメアもいる事だしな」
「ですが……」
「クロード」
うだうだと言葉に並べようとするクロードの口を、塞ぐ。
呆気にとられたクロードの目をまっすぐに見て、問いかける。
「ワシらがここに来た目的は何だ?」
「精霊の森に入り、黒い竜を倒すこと……です」
「そういう事だ。それだけ考えていればいい」
「……はい」
「良い返事だ」
そう言ってクロードの背をぽんと叩く。
「では行くぞ」
「は、はいっ!」
慌ててついてくるクロードを従え、ワシは岩の多くなる方へと進むのだった。
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