179 / 208
連載
320 精霊の森へ①
しおりを挟む握っていた手を離すと、メアの手にじわりと血が滲んでいる。
先刻、アイシクルウェーブで凍りつかせた為、皮が剥がれたのだろう。
一応、さっきヒーリングをかけたのだが、それでも裂けた跡が残っている。
「悪いな。折角の綺麗な肌を、こんなにしてしまって」
「いえ、いいのですよぉ。手当てして下さっただけありがたいですぅ……それにゼフさまにつけられた傷だと思うとぉ……」
やや興奮しながら、メアは指で地面に丸を描き始める。
地面をゴリゴリと削る音が聞こえてくる。
怖いぞメア。
そんなメアに気づかれぬよう、レディアが小声で話しかけてくる。
(ねぇゼフっち、メアちゃん皆と上手くやっていけるかしら……)
(うーむ……少し心配ではあるが、案内人は必須だろう)
(そうなのよねぇ……はぁ、気が重いなぁ)
手首まで埋まりながらも地面をゴリゴリと抉るメアを見ながら、ワシとレディアは互いに顔を見合わせるのだった。
「ぜーふーっ!」
「お、ミリィちゃんが戻ってきたみたいよ」
声の方を向くと、遠く空の彼方から近づいてくる白馬の姿が見えた。
噂をすれば、である。ミリィの駆るウルクは馬車を引いている。
クロードたちも乗せているようだ。
「降りるわよーっ! 皆、しっかり掴まっててーっ!」
「は、はひっ!」
ミリィの声にクロードが応えた直後、土煙を巻き上げながら馬車が駆け落ちてくる。
落下したのではないかと思えるほどの衝撃音の後、馬車をガコガコと揺らしながら、何とか着地するウルク。
……やはりこの荒地では、馬車を使うのは困難だな。次に着地したらぶっ壊れるかもしれん。
煙を上げる馬車の中から青い顔をしたクロードたちがよろめきながら這い出してきた。
「うぅ……酷い目にあいました……」
「……乗り心地はバイロードといい勝負だったな……うぷ……」
「でもちょっと楽しかったですねっ!」
クロードとセルベリエは今にも吐きそうといった感じだが、どうやらシルシュは平気だったようだ。
むしろ楽しげにパタパタと尻尾を振っている。
そういえば以前、ウルクの引く馬車に乗った時も凄く楽しそうにしていた気がするな。
ウルクから飛び降りたミリィが、ワシの元へと駆けてきた。
「ただいまゼフ。メアは……止められたみたいね」
「あぁ、この通りだ」
「……ふーん」
ワシの横にちょこんと座るメアとミリィの目が合う。
瞬間、周りの空気が凍りつくような感じがした。
メアがゆっくり立ち上がりミリィに一歩近づくと、それに合わせてクロードとセルベリエがいつでも動けるよう、構える。
ミリィから大まかな話は聞いているのだろう。
まさに一触即発の空気というヤツだ。
「皆さま、先刻はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
だがワシの心配を無用と言わんばかりに、メアは頭を下げミリィの前に跪いた。
面喰ったのか、ミリィは慌てて後ずさる。
「う、うん……?」
「せめてお詫びさせてください。私に皆さまを黒い魔物の住処へと案内させていただけないでしょうか……! どうか、よろしくお願いします」
礼儀正しく頭を下げるメアに皆、あっけにとられている。
だれしも警戒していた相手に頭を下げられ下手に出られると、拍子の一つも抜けてしまうものだ。
めちゃくちゃに見えてメアのヤツ、案外やり手なのかもしれない。
ミリィたちの警戒心も揺らいでいるとようだ。小声でワシに話しかけてくる。
「ちょっと! どういうことなのよ、ゼフ」
「改心したんだとさ。この辺りには詳しいらしいので、お詫びにワシらの目的、黒い魔物のオリジナルがいる場所へ案内してくれるそうだ」
「……ゼフは、信じたの?」
じっと、ミリィが大きな瞳でワシを見つめてくる。
真っ直ぐなまなざしに、ワシは頷いて応えた。
「うむ、信用してもいいと思うぞ」
7割方な、と内心で付け加える。
ワシとて完全に信用したわけではないが、どちらにしろメアの案内がなければ目的は果たせない。
ま、攻撃してきた事に関しても、完全な悪意をもってというわけでもないしな。
ワシの言葉に、ミリィはくるりとメアの方を振り返り、手を差し出した。
「――――そ、じゃあ私も信じるわ! よろしく、メアちゃん」
「ミリィさま……ありがとうございますぅ!」
そう言って思いきりミリィの手を握るメア。
みしみしという音が響き、ミリィの顔が見る見るうちに青ざめていく。
「あだっ! あだだっ! ちょっとメアちゃん、力強すぎよ!」
「あ、あら申しわけありません……」
力加減を間違えたようで、メアは慌てて手を離す。
ミリィが赤く型の付いた手にふーふーと息を吹きかけている。
……本当に大丈夫だろうか。
「ゼフとレディアがいいなら何も言うつもりはない。私はセルベリエと言う者だ」
「私はシルシュと申します。よろしくお願いしますね。メアさん」
「はいですわぁ! セルベリエさまに、シルシュさまですね」
メアは二人にペコリと頭を下げた。
「少しいいですか」
だが最後にクロードがメアの前に立つ。
その口元はきりと結ばれ、厳しい顔でメアを見下ろしていた。
「ボクはクロードと申します。ミリィさんから話は聞いています。ゼフ君をその……ごほん、その……襲おうとしたとか」
「えぇと……はい、まぁ……」
「……今後、そういった事は一切やめていただきたい。皆がキミの同行を許可するのであればボクとしてもやぶさかではありませんが、問題を起こすのであれば話は別ですから」
冷たい口調、突き放すようにクロードは言う。
クロードは普段こういうことを言う奴ではない。
恐らくあえてメアに厳しく接することで釘を刺しているのだろう。
「もちろんです! もう私に下心など全く……えぇ全くありませんとも! ゼフさまへのお詫びの気持ち……それのみですわ!」
「…………」
メアの言葉に少し驚いたような顔をするクロードだったが、不意に優しげな微笑みを浮かべた。
「……そうですか。約束して下さるのでしたら、ボクはこれ以上何も言いません」
「クロードさま……」
クロードのイケメンスマイルに、メアの顔が赤く染まっていく。
目にハートマークが浮かんでいるかのようだ。
おーい戻ってこいメア。
「あぁそれと」
そう言って立ち止まり、クロードが振り返り、にっこりと笑う。
「ボクは女ですよ」
「……へ?」
大きく口を開けて固まるメア。
もしかしたらワシの次はクロードに迫るつもりだったのかもしれない。
意外と見境がない奴である。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。