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連載
317 メア⑥
しおりを挟むバイロードとタイタニアのデッドヒートは凄まじく、大地を削り木々をへし折り、なおも荒野に破壊の跡を撒き散らしていた。
ゼフが手をかざすたび、矢は風の壁に防がれ、炎が鉄を焼き、氷が舞い散り、大地は隆起する。
初めて見る魔導の華やかさに、メアはぞくぞくと震えた。
「……ゼフさんとの子が生まれれば、あのような力を得られるのでしょうかぁ」
うっとりとした顔でそう漏らすメア。
やはり逃がすわけにはいかない。地の果てまででも追いかけ、捕まえる。
「逃げられないように鎖をつけて……いえ、その程度ではきっとまた逃げられてしまいますわぁ……四肢を、感覚を、思考を……全てを奪い、何も出来なくなったゼフさまは私を頼るしか出来なくなる……あはぁ」
恍惚とした顔で、メアはぶるりと震えた。
びくん、びくんと小さな身体を痙攣させながら、メアは大きく息を吐く。
「……ふぅ、いけませんわぁ。獲物を前に舌なめずりは何とやらといいますし、続きはゼフさまを捕まえてからゆっくりと……あら?」
物騒な事を考えるメアの視線の先で、バイロードからミリィが飛び降りる。
そして何やら念じたかと思うと、翼の生えた馬が出現しミリィを受け止め空へと舞い上がった。
そのまま二手に別れ、ミリィの方は森の中へと飛んでいく。
「あら驚いた、ミリィさんまで同じような事まで出来ますのねぇ。あちらの方が与し易そうですけれども……雑魚は無視ですわぁ……!」
飛び去るミリィからバイロードへ視線を移すと、メアはぺろりと唇を舐めるのだった。
「やはりこっちを追ってきたな」
ミリィには目もくれず、タイタニアはこちらへ向かってくる。
狙い通りではあるが、少しは迷ってくれれば時間も稼げたのだが。
「そりゃも~ゼフっちに夜這いかけてきたくらい情熱的ですもんねぇ~」
レディアがジト目でワシを睨んで来る。
だから前を見ろというのに。
「茶化すなよ……ともあれ時間を稼ぐ必要がある。頼めるか、レディア?」
「はぁ……ゼフっちの頼みを断われるわけないじゃん」
やれやれといった具合に、レディアはため息を履く。
そして前を向くと、ぼそりと呟いた。
「……じゃ、しっかり掴まってよね」
「わかった」
レディアの腰を掴むと、バイロードは一気に加速する。
凄まじい速度だ。レディアの長いポニーテールがばさばさと真横になびいている。
で、出来れば安全運転で頼む。
稲妻のような軌跡を描き、バイロードは大岩を避け進んでいく。
タイタニアはそれを踏み砕きながら、こちらを追ってきているようだ。
だが辺りの岩のサイズは徐々に大きくなっていく。そういう風に道を選んでいたのだ。
さしものタイタニアも自身の身体程の大岩を突破できないようで、いつの間にか視界から姿を消してしまった。
「振り切った……とは思えんな。きっとまだ追ってきているだろう。恐らく迂回して追ってきているな」
「あっはは~愛が重いねぇ、ゼフっちぃ?」
全然笑い事ではないのだがな。
あの性格だ、絶対に諦めてはいないのだろう。
仮にここで振り切っても、また追ってくるだろう。
どうにかして確実に止めておく必要がある。
とはいえ今はタイタニアの姿も見えない。しばし休戦といったところかな。
レディアも同じことを思ったのか、スピードを少し緩め全身をリラックスさせたようだ。
「……いい風だね」
気持ちよさそうにレディアが髪を撫でると、長いポニーテールがふわりとなびく。
確かに、今まで必死で気づかなかったがバイロードに乗って受ける風は格別だ。
「……あぁ、そうだな」
景色が猛スピードで流れていく。
海が近づいているのか、ほんのりと潮の香りが風に乗って流れてきた。
こんな状況でなければ、悪くはないな。
レディアの呟きが、風に乗って耳を掠める。
「こんな時間がずっと続けばいいのに……」
「何か言ったか?」
「……なんでもないわよ!」
「そうか? ……くっくっ」
「あーっ! 聞こえてたわねっ!」
レディアが頬を膨らませ、ひじ打ちを食らわしてくる。
……確かにこんな時間が続けばいいが、そうは問屋が卸さない様だ。
ドゴオオオン! と、爆音が響きワシらの前方にあった岩壁が崩れ落ちる。
土煙の中からあらわれたのは、メアの駆るタイタニアだ。
「うふふ、見つけましたわぁ……!」
ずぅん、と地面を響かせ、ワシらの前に立ちはだかるタイタニア。
両手、両足を大きく広げたその姿は、まさに山の如しである。
「通せんぼね。……どうする? ゼフっち」
「走っている際にちょっと思いついた事がある。このまま突っ込んでくれるか?」
「……オーケイ」
レディアがゴーグルをかけ直しアクセルを回すと、バイロードが猛々しく音を掻き鳴らす。
まるでレディアの気合を表すかのように、ガオンガオンと。
最後に一度、強くアクセルを回すとバイロードの排気筒から勢いよく煙が吹き上がる。
向かい来るバイロードに、タイタニアは深く腰を落とし構えた。
「勝負ですわぁレディアさまと私、どちらがゼフさまにふさわしいか!」
「……あっはは」
そう、笑いながらもレディアは速度を落とさない。
伸びてくるタイタニアの腕に向け、一直線に突っ込んでいく。
「おぉぉぉ止まりなさいなぁぁぁあ!」
タイタニアが巨腕を薙ぐように振るうと、大地が削れ、ワシらの眼前に壁を思わせるかのような石弾の嵐が吹き荒れる。
だがレディアはスピードを落とさない。ワシの言うとおり、爆走していく。
「あれは任せたよ、ゼフっち」
「応とも」
それに応えるべくワシは手をかざし、タイムスクエアを念じる。
時間停止中に念じるのは、ブルーゲイルとレッドインフェルノ。
――――二重合成大魔導、ゲイルインフェルノ。
時間停止が解除されると共に、石弾の嵐の中心で一瞬、小さな光が灯る。
――――直後、凄まじい爆発が全てを吹き飛ばした。
壁の如く立ち昇っていた石は散り散りになり、タイタニアへの道が開かれる。
「道は開けたぞ、レディア」
「ん、後は任せといて……っ!」
撃ち漏らした小さな破片を最小限の動きで躱しながら、レディアはタイタニアへと迫る。
「させませんわぁっ!」
股下を潜られる、そう思ったのかタイタニアは座り込み道を封じた。
それでもぐんぐん加速するバイロード。視界の先に岩が見えた瞬間、レディアがアクセルをさらに踏み込む。
まっすぐ岩へと向かうバイロードはそれを踏み台にして、跳んだ。
土煙の尾を引きながら、高く、高く。
ガシャン、とバイロードはタイタニアの上で一度着地し、そのまま後方へと飛び越えていく。
「私を踏み台に……? 勝負から逃げるつもりですか? レディアさまぁ!?」
「ごめんね、でも私より本人に話をつけなさい」
「どういう事ですの……っ!?」
遠ざかっていくレディアの声を聞きながら、メアは目を見開く。
バイロードにはレディアしか乗っていない。
振り返るメアとワシの目が、合う。
「……よう、先刻ぶりだな」
「あら……あらあらぁ……? 私のものになりに来て下さったのですかぁ?」
メアは笑みを浮かべているが、彼女の纏う空気はびりびりと痺れるようだ。
強烈な威圧感、狂獣化したシルシュとどこか似た空気を感じる。
だが気圧されること無くワシはメアを睨み返す。
「いいや……説得に来たのだよ。この辺で止めておけメア。そうすれば悪いようにはしない」
「お断りしますわぁ。私、欲しいと思ったものは必ず手に入れる性格ですのよぉ」
「まぁそうなのだろうがな……だから力づくで止めに来た」
「あははぁ、無理矢理というも嫌いではないですわぁ」
メアは口角を吊り上げて笑うと、手に握っていたハンドルのようなモノから手足を離す。
同時にガコンと音を立てタイタニアの動きが止まった。
巨腕が地面に落ち、ずしんと土煙が上がるのが見える。
「……おい、まさかそのタイタニアの動力源は……」
「お察しの通り、私ですわぁ、タイタニアの動きは心臓部ともいえるここを通り、私の一挙一動によって動かすことが出来ますのよぉ?」
簡単に言ってくれるが、これだけの巨大な石の塊を身体一つで動かしているだと……?
身体能力が高いという程度の話ではないぞ。
冷や汗を浮かべるワシを睨みつけ、メアはぺろりと舌なめずりをする。
「……では、私と踊ってくださいますかぁ?」
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