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311 陸地④
しおりを挟む「おおう、何だいありゃあ……」
「すっげぇな。レディアさんが造ったらしいぜ」
「とんでもない速度で走ってやがる……まさに鉄の馬だな」
皆が感嘆の声を上げながら、バイロードを慣らし運転をするレディアを眺めている。
レディアがバイロードの前輪を持ち上げ、後輪だけで跳ねて岩壁を登り、また同じようにして降りてくる
ふむ、片輪だけで走行する事により、あんな風に走る事も出来るのか。
降りてきたレディアは、バイロードをギャリギャリと音を上げ旋回させながら停止させた。
「ん~走行テストは良好って感じかしらね~」
ゴーグルを外し、バイロードから降りるレディアにキラキラと目を輝かせたミリィが駆け寄る。
「レディアカッコい~! 私も乗りたいっ!」
「いいよ~じゃあミリィちゃん、私の後ろに乗って~」
「ほんとは運転してみたかったけど……」
「あっはは、後で運転させてあげるよ」
「やったぁ!」
嬉しそうにレディアの後ろに乗ろうとするミリィだが、手足が短くて登るのに苦労しているようだ。
見かねたレディアがミリィをつまみ上げるようにして、後部へと乗せている。
乗るのにも苦労しているではないか……そのざまでは運転などとても出来ないと思うぞ。
「よーっし、じゃあしっかり掴まっててよ~」
「おっけー……ひゃっ!?」
ミリィが返事をした瞬間、バイロードが前輪をグラウンドさせながら発進した。
そのまま猛スピードで森の奥へと消えていった。
ガサガサという草をかき分ける音が遠ざかるのを聞いていると、セルベリエが話しかけてくる。
「……どうだろうゼフ、あれを調査に使えないだろうか?」
「なるほど、ウルク単騎ならともかく、馬車を引かせると小回りが利かないからな」
ミリィの使い魔である天馬ウルクは、飛行能力があり数人が乗れる馬車を引かせて飛ぶこともできる。
だが飛行に耐える為、馬車は頑丈に重く設計されている。
飛び立つ時には助走が必要なのだ。
安全で長距離で、なお整備された道などこんな未踏の地にあるわけがない。
降りる時もそれは同じで、下手に着地すると乗っている者が激しく揺さぶられ非常に危険だ。
よって馬車を使うのはよっぽどのことがない限り止めた方がいいだろうな。
それに比べれば、レディアの用意したバイロードとやらは二人乗りだがスピードも出るし、悪路でも走行できそうだ。
「よし、ではレディアとミリィが帰ってきたら、検討してみるとするか」
「そうですね、それまでは食料などを集めて……っと、もう帰ってきたみたいですよ?」
クロードが指差す方から、土煙と爆音が近づいてくる。
噂をすれば戻ってきたようだな。
「ただいま~っと」
のんきな声を出しバイロードを止めるレディアの後ろでは、ミリィが目を回していた。
「だ、大丈夫ですか? ミリィさん……」
「う……ぎぼぢわるい~……」
クロードに支えられ、ミリィはフラフラと森の木陰に消えていく。
……少しして、吐瀉物が地面に撒き散らされる音が聞こえてきた。
うーむ、魔導二輪車バイロードか……とんでもない乗り物である。
危なっかしい乗り物であるバイロードだが、その機動力は折り紙つきだ。
普通に歩いていくのとは比べ物にならないし、この速度があれば魔物に襲われる危険も少ない。
少々問題はあるが、徒歩で行くよりは安全だろう……多分。
という訳で、ワシらはバイロードとウルクを移動手段として使う事にしたのである。
「えーそれでは、私と一緒にバイロードで行く人ーっ♪」
「「「…………」」」
レディアの問いに、皆が無言で応える。無理もない。
レディアがちらりとミリィの方を見ると、サッとクロードの後ろに隠れた。
「いやほら! わ、私はウルクで行くからね! あはっ、あはははっ」
ブンブンと手を振りながらあとずさるミリィ。
おい、運転したかったんじゃないのかよ。
「えーじゃあクロちゃん」
「ボクはその……遠慮しておきます……」
「じゃせっちんは?」
「私はババアの介護で忙しいからな……」
「シルちゃんは……」
「わわわ、私もすみませんっ!」
皆、あの運転を見てビビってしまったようだ。
無理もないか。やれやれ、やはりワシが行くしかないようだ。
「はぁ……仕方ないな」
「ゼフっち! 一緒に来てくれるのっ!?」
「レディアだけ行かせるわけにはいかんだろう?」
「やったぁ~ゼフっち大好きっ!」
勢い良く抱きついてくるレディアの柔らかい感触が心地よい。
皆の視線が少々痛いが、これくらいの役得はあってもいいだろう。
「では偵察はワシとレディア、ミリィで行くとするか」
「すみませんゼフ君……」
「待機も重要な仕事だ。ワシらが留守の間は任せたぞ」
クロードの頭をぽんと撫で、レディアの後ろへと乗り込んだ。
細い腰に腕を回すと、長いポニーテールがふわりとなびく。
ミリィもウルクを呼び出し、その背に跨がった。
「んじゃ、行ってくるよ~」
「お気をつけてーっ!」
「無事帰ってきて下さいねーっ」
皆の声に手を振りながら、レディアがアクセルを踏み込むとバリバリと爆音が上がり始めた。
土煙を巻き上げながら、バイロードが走り出す。
うおっ!? こ、これは物凄い速度だぞ……ウルクとは比べ物にならぬ速さだ。
とんでもなく揺れるし、口を開いたら舌を噛みそうだ。
振り落とされぬよう、しっかりとレディアの腰を掴んだ。
「あっひゃひゃっ!? ぜ、ゼフっちどこ触ってるのよ~くすぐったいってば~!」
そう言われてもこっちも必死である。
グネグネと蛇行するバイロードは、気を抜くと転がり落ちてしまうだろう。
より強くしがみつかざるを得ない。
「ほ、ほんとに……ダメだかっ……あんっ」
いや、ほんとにダメはこちらのセリフなのだが……ツッコミを入れたいのは山々なのだが、こちらもしがみつくだけで精一杯だ。
早くも気分が悪くなってきたぞ……これはミリィが吐くのもわかる気がする。
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