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連載
312 メア①
しおりを挟む木々をすり抜け、岩山を駆け上り、荒野を爆走し……どれくらい走っただろうか、バイロードの乗り心地にも少しは慣れてきた頃である。
遠くの方に何やら奇妙な建物が見えてきた。
木と石で造られた建築物には見た事もない様な文様が刻まれている。
恐らくあれがイエラの言っていたエルフの村だろう。
「ねーゼフっち、エルフの村ってあれかな?」
「うむ……そう……だな」
バイロードにも慣れてきたので、頑張れば喋れない事もない。
舌を噛まぬように注意しなければならないが。
「ミリィちゃん着いてきてないし、ちょっち待とうか」
どうやらミリィがついて来ていなかったようだが、当然ワシにそんなのを気にする余裕はない。
レディアがバイロードが旋回させながら土煙を上げ、停止した。
ふう、やっと一息つけるな。ふらつきながらバイロードから降りる。
うぐぐ……地面が回っている……
自分の足で立つのがこんなに素晴らしい事だとは思わなかったぞ。
「ミリィちゃんは……あそこだね」
レディアの視線の先を見れば、豆粒のように小さな飛行物体が見える。
ウルクですら置いてけぼりにするとは……バイロード、とんでもない速さだが……課題は乗り心地だな。
しばらく待っていると、ヘロヘロ飛びながらミリィを乗せたウルクが降りてきた。
「は、早すぎるよぉ~」
「ならば代わってやろうか?」
「遠慮しとく!」
ワシの問いにミリィは即答した。
数時間前まではあんなにバイロードに乗りたがっていたくせに……よほど懲りたらしい。
「あっはは、ごめんねぇまだ運転に慣れてなくってさ~」
「早く慣れてまともな運転になることを切に願うよ……」
「あっははは」
今、笑って誤魔化された気がする。
レディアの運転は慣れてないというより、本人の資質に問題がありそうだ。
普段から曲芸染みた動きをしているからな。
「……まぁいい。それよりあそこに見えるのがエルフの村だ。ここからは歩いて行ったほうがいいだろう」
「確かに、バイロードやウルクに乗ってったら村の人がびっくりしちゃうよね」
「そだね~じゃあどこかに隠して……」
レディアがそう言いかけた瞬間である。
不意にワシの横に気配が生まれた
思わず飛び退くと、そこにいたのは一人の少女である。
「うわぁ、何ですかぁコレ、すごいですねぇ~」
白い髪が、ふわりと風になびく。
気づけば褐色肌の少女が、バイロードに小さな手でペタペタと触っていた。
「どぉやって走ってるのでしょうかぁ……中に魔物や動物が入ってるとか……? んー……そういうわけでもなさそうですしぃ」
間延びした喋り方で、首をかしげる少女。
バイロードを色々な角度から眺めながら、長い耳をピコピコと楽しげに動かしている。
少女の持つ長い耳は、エルフ固有のモノと似ているように思われた。
いきなり出てきた少女に、ミリィが声を上げる。
「な、何よあんたっ!? 一体どこから出てきたのっ!?」
「え~とぉ、私は普通に歩いてきただけだけですけどぉ?」
「そんなわけないでしょ! 私ずっとここにいたもんねー! 普通に歩いてきたなら、気づかないわけ無いじゃない!」
「それはぁ、あなたがどんくさいだけじゃないんですかぁ~それとも背が低く気付かなかったとかではぁ?」
「あんたの方がちびじゃない!」
「そんな事ないですぅ~」
……いきなりミリィと少女の低レベルな喧嘩が始まってしまった。
戦いは同じレベルの者同士でしか発生しないという言葉を知らないのだろうか。
ムキになるほど残念だぞ二人とも。
それを見て微笑ましそうに笑っているレディアにこっそり訊ねる。
(おいレディアはあのコの事、気づいていたか?)
(え? うん、でも敵意とかなかったから別にいいかなーって)
(そ、そうか……)
こっちはこっちでのんきである。
見知らぬ人間が近づいてきたら少しは警戒しそうなものだが……まぁ下手に排しようとして、敵意を持たれたら面倒というのもあるかもしれない。
レディア曰く敵意はないとの事だし、こんな小さな子供だしな。
ミリィをなだめながら、少女のそばに腰を下ろす。
「えぇと、君の名前を聞いてもいいか?」
「私はぁ、メアという者ですわぁ。あそこに見えるガイム村から来ましたのよぉ」
「そうか、ワシはゼフ。遠くの島から辿り着いたのだ」
「遠くの……というとミゼラ島ですかぁ? それともクレウ火山島?」
この辺りの地名だろうか。
よくわからない名前が出てきたな。
ここは適当にはぐらかせておこう。メアは子供のようだしな。わかりはすまい。
「……多分もっと遠くだ」
「へぇ~……私、この辺りには相当詳しいつもりだったのですがぁ。世界は広いですねぇ」
子供と思って侮ったが、意外と地理には詳しそうだ。
案内を頼んでもいいかもしれない。
「ちなみにこっちの大きいのがレディア、そして小さいのがミリィだ」
「誰が小さいよっ!」
「うふふ、おちびさぁん」
「喧嘩はやめろというのに……」
話が進まんではないか。
レディアがにらみ合う二人の間に割って入る。
「まぁまぁ二人とも……ね! メアちゃんはあの村の出身? 私たちこれからあそこに行こうと思ってるんだけど、入っても大丈夫かな? よそ者は入れない~とかはない?」
「それはないですわよぉ。暴れたりしなかったら、誰でも歓迎しておりますしぃ」
「それは開放的な事だな」
ワシらの大陸での身分は証明しようがないからな。
騒ぎを起こすのは本意ではない。
「メア、ワシらを村に案内して貰いたいのだが、構わないだろうか?」
「いいですけどぉ……アレの事教えてくれたら考えてもいいかなぁ~」
そう言って科を作りながら、猫なで声でワシに擦り寄ってきた。
おい、くっつきすぎだ。ミリィがすごい目で睨んでいるではないか。
「ち、ちょっとあんた! ゼフに何してるのよっ!」
「えぇ~何もしていませんわよぉ。ただお願いしてるだけじゃないですかぁ? ……それにぃ、ミリィさんには関係ないと思いますけどぉ」
「大有りよっ! ゼフが困っているじゃないっ!」
「あらぁ? ゼフさんお困りでしたかぁ?」
ミリィを煽るようにワシにしなだれかかってくるメアを、ワシはぐいと押しのける。
「……言っておくがメア、バイロードを造ったのはレディアだぞ」
「あら、そうなのですかぁ?」
「媚びるならあっちにした方が得策だぞ」
「そうよ、ほらっ! しっ! しっ!」
「んふふ、それはそうですわねぇ。では……レディアさ~ん」
メアはにっこりと笑った後、くるりとレディアに駆け寄る。
ワシの時と同じようにぺったりとくっつくと、レディアの表情がだらしなく緩んだ。
「この子、何という名前なんですかぁ~?」
「え、えーっとね……バイロードっていうんだよ~……」
レディアの顔が、ほんのり赤くなっている。
ミリィと言い、小さい子がタイプのようである。
「バイロード! かっこいいですわぁ! もっと詳しく教えて下さりませんかぁ。どんな理屈で動いてるとか、中に何か入ってるとか……あ、開けてみてもいいですかぁ~?」
「え、えぇ~それはダメだよ~」
「そう仰らずにぃ~」
更に素肌を合わせるようにすがりつくメア。
上目遣いでじっと見つめるその仕草にキュンと来たのか、レディアの目がハートマークになるのが見えた。
「し、しょうがないにゃあ~……でも村は案内してよね」
「それはもちろんですわぁ~……うふふ、でもすごいですわねぇ~レディアさんってもしかして、天才なのですかぁ~」
「い、いやいや、ほんとに大した事はないよ~」
「またまたぁ~謙遜なさらないでくださいましぃ~」
レディアは完全にメアの手の内に落ちている。
ちょろい、ちょろすぎるぞレディア……
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