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309 陸地②
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――――小舟が往復すること数回、昼になる頃には乗組員数十名を残し、メンバーの殆どが陸へと渡っていた。
何人かは船のメンテナンスとその護衛である。流石に無人にしておくわけにはいかないからな。
帰る時も使うわけだし。ちなみにレディアとセルベリエも船に残ったままだ。
「レディアたち、何やってるんだろ?」
「あの二人の事だし、何か新兵器でも造っていたのかもな」
この義手を造ったのもあの二人だし、エイジャス号の造船も手伝ったらしい。
技術と魔導、レディアとセルベリエの出会いは人類の技術レベルを押し上げたのかもしれないな。
ちょっと大げさかもしれないが。
「それよりしっかり食べ物を探せよ」
「わかってるって♪」
ワシらは現在、食料を調達すべく辺りを散策していた。
エイジャス号での食事は保存食と魚ばかりだったし、たまには野菜や動物の肉が恋しい。
とはいえ未知の大陸、見た事もない動植物だらけで何が食べられるのかもわからない。
「ねーゼフ、これ食べられるのかな?」
「……さあ?」
ミリィが差し出してきたのは、その小さな手に収まりきらない程のデカいキノコである。
黒光りするその様が何とも怪しげだ。
うーむ、ワシにはそういうの、よくわからないんだよな。
というわけでここは彼女たちの出番である。
ミリィの手にしたキノコをクロードとシルシュが覗き見る。
「二人はコレ、どう思う?」
「……色形から見て、毒っぽいですね」
「ニオイもひどいですっ! こんなの絶対食べられないですよっ!」
強い口調で食べられないと主張するクロードとシルシュ。
これはヤバそうだな。
二人は貧乏暮らしをしていたので、野山のモノをよく採って食べていたから、経験と勘で何が食べられるのかがわかるらしい。
「じゃー捨てるね」
ミリィがキノコを岩に叩きつけると、真っ二つに割れて白濁の汁が飛び散った。
辺りに漂う生臭いニオイ……確かに食べられるようなものではなさそうだ。
他のギルドの者たちも似たような感じで、集めた食料をサバイバル能力に長けた者に見せ、食べられるかの判断を仰いでいるようだ。
人数が多いからか選別も早く、もう食事の準備も始めている。
「ふぅ、大分集まりましたし、ボクたちも食事にしますか?」
「そうしよーっ! お腹すいてきたしね!」
「では準備いたしますねっ!」
シルシュが待ちきれないといった感じで尻尾を振りながら調理器具を取り出し並べ始めた。
しかしやれやれ。動いたからか結構汗をかいてしまったな。
そうでなくともここは暑いからな。
クロードなどは鎧を着ているし、流石に蒸すのだろう。
時折首元を仰いで、中に風を入れていた。
ふむ、皆をねぎらう為にも、少し涼しくしてやるか。
「どこかいい場所は……っと、ここにするか」
丁度良い具合にえぐれた岩へ手をかざし、タイムスクエアを念じる。
時間停止中に念じるのはブルーボール、グリーンボール、ブラックボール。
――――三重合成魔導、アイシクルボール。
を、丁度手元に出現させるように念じると、パキパキ音を立てながら空気中に氷の玉が生まれていく。
出来るだけ散らばらないように、大きく大きく育てていく。
魔導に指向性をもたせるのは結構難しいのだ。
集中しなければ、すぐに散らばってしまう。
「……ふぅ、こんなものか」
額の汗を拭い、人間大ほどの氷の塊が完成した。
岩のくぼみに生成したそれは、地熱で解け始めくぼみの中に水がたまっていく。
一陣の風が吹くと、それに乗せられた冷たい空気が心地よく頬を撫ぜる。
「おおっ! ゼフやん魔導で氷が出せるんかい! わいにもちょい分けてくれんか?」
「構わないぞ。食料と交換でな」
「ほな、これとこれでどないや?」
「いいだろう。この辺りを持って行くといい」
「へっへっ、おーきに」
ダインはそう言うとデカい刀を抜くと、氷目がけて切りつけた。
剣閃が氷塊の上を走り、ばらばらと砕けた氷が宙を舞う。
それをダインは袋に詰めていく。いい切れ味だ。本人の技量もあるのだろうがな。
「私も貰って構わないか? 皆に冷たいものを飲ませてやりたい。無論、礼はさせて貰う」
「わかった。持って行くといい」
ダインと交代にあらわれたのはセシルにも、食料と交換に氷を渡してやる。
というか……おいおい、それを見ていた者たちが何人も集まってきているではないか。
各々、氷を寄越せとばかりに交換用の食料を大量に抱えている。
ミリィとクロードが呆れた顔でそれを見て呟いた。
「あはは……氷、もっといりそうねぇ」
「あれだけ交換したがるのでしたら、食料は集めなくても良かったかもしれません」
「……全くだな」
ええい面倒だ。
こうなったらまとめてでっかい氷を作ってやろうではないか。
若干ヤケクソ気味になりながら、サモンサーバントを念じ大神剣アインベルを呼び出す。
大神剣アインベルを用いて時間停止中に念じるのはブルースフィア、グリーンスフィア、ブラックスフィアを二回ずつ。
――――六重合成魔導、アイシクルスフィアダブル。
を、加減なく全力でぶっ放す。
振り抜いた剣閃から、巨大な大樹が生えていくかのように氷の柱が空へと伸びていく。
バキバキと音を立て、伸びていく氷柱を皆が仰ぎ見て感嘆の声を漏らした。
ふっ、どうだ。これで好きなだけ氷を堪能できるだろう。
……少々やり過ぎた感があるのは否めないが。
「氷は適当に持って行くがいい。食料も好きに置いて行け」
「おおっ! すげーぜゼフさん!」
「太っ腹~」
並んでいた連中が食料を置いていく代わりに氷塊を削って持って行く。
レディアがいれば商売の種にしたかもしれないが、こいつらも仲間だからな。
少しはよくしてやっても損はなかろう。
「わぁ、冷や冷やしてるね~気持ちいい~」
「近くにいるだけで涼しいです」
ミリィとクロードが氷に近づいて、涼み始めた。
全身を氷に抱きつけていたミリィだったが、しばらくして何やら身体をもぞもぞと動かし始める。
……氷に身体がくっついて取れなくなったのだろう。
「……どうしよ、取れない……」
「馬鹿者、調子に乗るからだ」
「あはは……水にぬらせば取れますよ」
そう言ってクロードがたまった水を掬い、ミリィと氷の接続部にかけると無事解放されたのであった。
無理矢理剥がしてやってもよかったのだがな。
「ゼフ殿、拙者にも氷をいただけるか?」
いつの間にかサルトビが後ろに立っていた。
一応さっちゃん姿である。
「別に構わんぞ」
「それはありがたい。代わりと言っては何だがいいモノを持ってきた。皆で食べるでゴザル」
そう言ってサルトビが取り出したのは白色の細い麺である。
「これは拙者の郷土料理、流し素麺というモノでゴザル」
「ナガシソーメン?」
「うむ、これをこうやって立てかけてな」
サルトビがどこから切り出したのか、長い筒を半分に割ったモノを取り出し、氷塊が乗った岩に立てかける。
冷水が筒の中を通り、地面の方へと流れていく。
そこへナガシソウメンとやらを一掴み、流し込んだ。
「あ! 落ちちゃう」
とミリィが叫んだ次の瞬間、下の方へ一瞬にして回り込んだサルトビが麺をキャッチした。
まるで瞬間移動である。流石シノビ。
サルトビはいつの間にか手に持っていた黒いスープにつけ、麺をすする。
「うむ、やはり暑いときはこれでゴザルな。さぁ皆も召し上がられよ」
満面の笑みを浮かべるサルトビに勧められ、渡された麺を筒へと流した。
これを下でキャッチして……と、駆けだそうとしたところで麺をミリィが捉える。
「わ! おいしー♪ これならいくらでも食べられそう!」
「おいミリィ……」
「えへへ~早い者勝ちだもーん♪」
ワシが睨みつけると、ミリィはクロードの後ろに隠れまた麺を口に運ぶ。
おのれミリィ……中々いい度胸をしているではないか。
「あはは……ゼフ君、ボクが流しますから……」
「流し素麺は、皆で交代に流すのがしきたりでゴザル。クロード殿の次はミリィ殿でゴザルぞ」
「はーい」
返事をしながらも、ミリィは流れてきた面を掬ってパクパクと口に運ぶのであった。
相当気に入ったようである。
氷水で冷やされた麺と濃口のスープ(メンツユというらしい)が絡み合い、確かに美味い。
「あーっ! 私の前に陣取らないでよっ!」
「早い者勝ちなのだろう? くっくっ」
ワシの横でぴょんぴょん飛び跳ねながら手を伸ばすミリィだが、ワシが邪魔で手が届かない様だ。
ちょっとした仕返しである。
いい気味だ。
「お? おお~? あれはなんでしょ~」
小山程度はあろうかという高い建物の屋根の上で、のんびりした声を上げるのは一人の少女。
健康的に焼けた小麦色の肌と正反対の真っ白な髪。
少女の瞳には、先刻ゼフが生成した巨大な氷柱が映っていた。
「何か見えるのか? メア」
「ん~透明のキラキラした山がありますわねぇ~」
男はメア――――そう呼ばれた少女の指さす先に目を凝らすが、遠くの鳥が獲物を捕らえるのが見えたのみだ。
「……残念ながら見えんの」
「ちょっと遠いかな~行きたいのですけれどもぉ~」
うずうずと子猫のように身体を揺するメアを見て、男はため息を漏らした。
「だめじゃぞメア。お前には色々やる事があるじゃろうに」
「う~つまらないですわぁ」
不満そうに身体を揺するメア。
男はこうなったメアを止める事は出来ないと知っていた。
だから仕方なく、条件を付ける。
「……やることが終わってから行くのじゃぞ」
「ほんとですかぁ! やったぁ♪」
許しを得て、メアは嬉しそうに声を上げる。
現金なメアに、男はまた、ため息を吐くのであった。
何人かは船のメンテナンスとその護衛である。流石に無人にしておくわけにはいかないからな。
帰る時も使うわけだし。ちなみにレディアとセルベリエも船に残ったままだ。
「レディアたち、何やってるんだろ?」
「あの二人の事だし、何か新兵器でも造っていたのかもな」
この義手を造ったのもあの二人だし、エイジャス号の造船も手伝ったらしい。
技術と魔導、レディアとセルベリエの出会いは人類の技術レベルを押し上げたのかもしれないな。
ちょっと大げさかもしれないが。
「それよりしっかり食べ物を探せよ」
「わかってるって♪」
ワシらは現在、食料を調達すべく辺りを散策していた。
エイジャス号での食事は保存食と魚ばかりだったし、たまには野菜や動物の肉が恋しい。
とはいえ未知の大陸、見た事もない動植物だらけで何が食べられるのかもわからない。
「ねーゼフ、これ食べられるのかな?」
「……さあ?」
ミリィが差し出してきたのは、その小さな手に収まりきらない程のデカいキノコである。
黒光りするその様が何とも怪しげだ。
うーむ、ワシにはそういうの、よくわからないんだよな。
というわけでここは彼女たちの出番である。
ミリィの手にしたキノコをクロードとシルシュが覗き見る。
「二人はコレ、どう思う?」
「……色形から見て、毒っぽいですね」
「ニオイもひどいですっ! こんなの絶対食べられないですよっ!」
強い口調で食べられないと主張するクロードとシルシュ。
これはヤバそうだな。
二人は貧乏暮らしをしていたので、野山のモノをよく採って食べていたから、経験と勘で何が食べられるのかがわかるらしい。
「じゃー捨てるね」
ミリィがキノコを岩に叩きつけると、真っ二つに割れて白濁の汁が飛び散った。
辺りに漂う生臭いニオイ……確かに食べられるようなものではなさそうだ。
他のギルドの者たちも似たような感じで、集めた食料をサバイバル能力に長けた者に見せ、食べられるかの判断を仰いでいるようだ。
人数が多いからか選別も早く、もう食事の準備も始めている。
「ふぅ、大分集まりましたし、ボクたちも食事にしますか?」
「そうしよーっ! お腹すいてきたしね!」
「では準備いたしますねっ!」
シルシュが待ちきれないといった感じで尻尾を振りながら調理器具を取り出し並べ始めた。
しかしやれやれ。動いたからか結構汗をかいてしまったな。
そうでなくともここは暑いからな。
クロードなどは鎧を着ているし、流石に蒸すのだろう。
時折首元を仰いで、中に風を入れていた。
ふむ、皆をねぎらう為にも、少し涼しくしてやるか。
「どこかいい場所は……っと、ここにするか」
丁度良い具合にえぐれた岩へ手をかざし、タイムスクエアを念じる。
時間停止中に念じるのはブルーボール、グリーンボール、ブラックボール。
――――三重合成魔導、アイシクルボール。
を、丁度手元に出現させるように念じると、パキパキ音を立てながら空気中に氷の玉が生まれていく。
出来るだけ散らばらないように、大きく大きく育てていく。
魔導に指向性をもたせるのは結構難しいのだ。
集中しなければ、すぐに散らばってしまう。
「……ふぅ、こんなものか」
額の汗を拭い、人間大ほどの氷の塊が完成した。
岩のくぼみに生成したそれは、地熱で解け始めくぼみの中に水がたまっていく。
一陣の風が吹くと、それに乗せられた冷たい空気が心地よく頬を撫ぜる。
「おおっ! ゼフやん魔導で氷が出せるんかい! わいにもちょい分けてくれんか?」
「構わないぞ。食料と交換でな」
「ほな、これとこれでどないや?」
「いいだろう。この辺りを持って行くといい」
「へっへっ、おーきに」
ダインはそう言うとデカい刀を抜くと、氷目がけて切りつけた。
剣閃が氷塊の上を走り、ばらばらと砕けた氷が宙を舞う。
それをダインは袋に詰めていく。いい切れ味だ。本人の技量もあるのだろうがな。
「私も貰って構わないか? 皆に冷たいものを飲ませてやりたい。無論、礼はさせて貰う」
「わかった。持って行くといい」
ダインと交代にあらわれたのはセシルにも、食料と交換に氷を渡してやる。
というか……おいおい、それを見ていた者たちが何人も集まってきているではないか。
各々、氷を寄越せとばかりに交換用の食料を大量に抱えている。
ミリィとクロードが呆れた顔でそれを見て呟いた。
「あはは……氷、もっといりそうねぇ」
「あれだけ交換したがるのでしたら、食料は集めなくても良かったかもしれません」
「……全くだな」
ええい面倒だ。
こうなったらまとめてでっかい氷を作ってやろうではないか。
若干ヤケクソ気味になりながら、サモンサーバントを念じ大神剣アインベルを呼び出す。
大神剣アインベルを用いて時間停止中に念じるのはブルースフィア、グリーンスフィア、ブラックスフィアを二回ずつ。
――――六重合成魔導、アイシクルスフィアダブル。
を、加減なく全力でぶっ放す。
振り抜いた剣閃から、巨大な大樹が生えていくかのように氷の柱が空へと伸びていく。
バキバキと音を立て、伸びていく氷柱を皆が仰ぎ見て感嘆の声を漏らした。
ふっ、どうだ。これで好きなだけ氷を堪能できるだろう。
……少々やり過ぎた感があるのは否めないが。
「氷は適当に持って行くがいい。食料も好きに置いて行け」
「おおっ! すげーぜゼフさん!」
「太っ腹~」
並んでいた連中が食料を置いていく代わりに氷塊を削って持って行く。
レディアがいれば商売の種にしたかもしれないが、こいつらも仲間だからな。
少しはよくしてやっても損はなかろう。
「わぁ、冷や冷やしてるね~気持ちいい~」
「近くにいるだけで涼しいです」
ミリィとクロードが氷に近づいて、涼み始めた。
全身を氷に抱きつけていたミリィだったが、しばらくして何やら身体をもぞもぞと動かし始める。
……氷に身体がくっついて取れなくなったのだろう。
「……どうしよ、取れない……」
「馬鹿者、調子に乗るからだ」
「あはは……水にぬらせば取れますよ」
そう言ってクロードがたまった水を掬い、ミリィと氷の接続部にかけると無事解放されたのであった。
無理矢理剥がしてやってもよかったのだがな。
「ゼフ殿、拙者にも氷をいただけるか?」
いつの間にかサルトビが後ろに立っていた。
一応さっちゃん姿である。
「別に構わんぞ」
「それはありがたい。代わりと言っては何だがいいモノを持ってきた。皆で食べるでゴザル」
そう言ってサルトビが取り出したのは白色の細い麺である。
「これは拙者の郷土料理、流し素麺というモノでゴザル」
「ナガシソーメン?」
「うむ、これをこうやって立てかけてな」
サルトビがどこから切り出したのか、長い筒を半分に割ったモノを取り出し、氷塊が乗った岩に立てかける。
冷水が筒の中を通り、地面の方へと流れていく。
そこへナガシソウメンとやらを一掴み、流し込んだ。
「あ! 落ちちゃう」
とミリィが叫んだ次の瞬間、下の方へ一瞬にして回り込んだサルトビが麺をキャッチした。
まるで瞬間移動である。流石シノビ。
サルトビはいつの間にか手に持っていた黒いスープにつけ、麺をすする。
「うむ、やはり暑いときはこれでゴザルな。さぁ皆も召し上がられよ」
満面の笑みを浮かべるサルトビに勧められ、渡された麺を筒へと流した。
これを下でキャッチして……と、駆けだそうとしたところで麺をミリィが捉える。
「わ! おいしー♪ これならいくらでも食べられそう!」
「おいミリィ……」
「えへへ~早い者勝ちだもーん♪」
ワシが睨みつけると、ミリィはクロードの後ろに隠れまた麺を口に運ぶ。
おのれミリィ……中々いい度胸をしているではないか。
「あはは……ゼフ君、ボクが流しますから……」
「流し素麺は、皆で交代に流すのがしきたりでゴザル。クロード殿の次はミリィ殿でゴザルぞ」
「はーい」
返事をしながらも、ミリィは流れてきた面を掬ってパクパクと口に運ぶのであった。
相当気に入ったようである。
氷水で冷やされた麺と濃口のスープ(メンツユというらしい)が絡み合い、確かに美味い。
「あーっ! 私の前に陣取らないでよっ!」
「早い者勝ちなのだろう? くっくっ」
ワシの横でぴょんぴょん飛び跳ねながら手を伸ばすミリィだが、ワシが邪魔で手が届かない様だ。
ちょっとした仕返しである。
いい気味だ。
「お? おお~? あれはなんでしょ~」
小山程度はあろうかという高い建物の屋根の上で、のんびりした声を上げるのは一人の少女。
健康的に焼けた小麦色の肌と正反対の真っ白な髪。
少女の瞳には、先刻ゼフが生成した巨大な氷柱が映っていた。
「何か見えるのか? メア」
「ん~透明のキラキラした山がありますわねぇ~」
男はメア――――そう呼ばれた少女の指さす先に目を凝らすが、遠くの鳥が獲物を捕らえるのが見えたのみだ。
「……残念ながら見えんの」
「ちょっと遠いかな~行きたいのですけれどもぉ~」
うずうずと子猫のように身体を揺するメアを見て、男はため息を漏らした。
「だめじゃぞメア。お前には色々やる事があるじゃろうに」
「う~つまらないですわぁ」
不満そうに身体を揺するメア。
男はこうなったメアを止める事は出来ないと知っていた。
だから仕方なく、条件を付ける。
「……やることが終わってから行くのじゃぞ」
「ほんとですかぁ! やったぁ♪」
許しを得て、メアは嬉しそうに声を上げる。
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