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連載
308 陸地①
しおりを挟む「あっ! 陸が見えてきたよーっ!」
ミリィの指差す先、水平線の向こうに小さくだが陸地が見えてきた。
境界を抜け数日の航海を経て、ワシらはついに外の大陸を発見したのだ。
感動を共有すべく、船内の皆が甲板に集まっており、涙ぐんでいる者すらいる。
「いやぁ大変だったからねぇ」
「イエラは境界が最大の障壁と聞いていたが、むしろそれを超えてからが本番だったな」
「あの大嘘つきめ……」
セルベリエが毒づく。
実際境界を超えてからの魔物の出現率は高くなり、しかも強くなっていった。
エイジャス号よりも大きな海獣が出て来る事もしばしばで、そのたびに皆で力を合わせ撃退したものである。
「がはは、リーダーってのはどんな時でも下の者を萎えさせちゃあかんねん、エサをちらつかせて頑張って貰うのも仕事なんやで」
「そういう事です。少々やり方が汚くはありますがね」
『水竜の咢』ギルドマスターのダインと『白鷹の旅団』ギルドマスターのセシルがイエラをフォローする。
ワシらとも最初はぎこちなかったが、彼らとも随分と仲良くなっていた。
彼らも同じように感じているようだ。ダインがセルベリエの肩に手を載せようとする。
が、ぺちんとそれを払いのけ、セルベリエはダインを睨みつけた。
「……殺すぞ」
「おうおう手厳しい姉ちゃんやで」
殺気を込めた声に、ダインはおどけた声で返しつつ、飄々とした様子で立ち去っていった。
……あの男のように少々馴れ馴れしすぎるのも困りものだがな。
今度釘の一つでも刺しておこう。そんな事を考えていると、海面が微かに揺れた。
と、同時に海面からいくつもの水柱が立ち昇る。
水柱の中からあらわれたのは、まるで大木を思わせる巨体。
ラージサーペント、内海であらわれるシーサーペントの上位種で、内海最強の魔物の一種である。
「シャアアアーアアアーッ!!」
咆えるラージサーペント、だがしかし既に迎撃体制は整っている。
「……ブラックゼロ」
詠唱短縮されたセルベリエのブラックゼロが、ラージサーペントに直撃する。それを皮切りに、甲板にいた者たちが各々武器を手にラージサーペントへと斬りかかっていく。
水竜の連中の攻撃を受け怯んだラージサーペントは距離を取り、警戒しながらエイジャス号の周りをぐるりと回り始めた。
だがそれでいい。魔導を使えぬ者の役割は深追いせず、海上の魔物を近づかせぬのが目的だ。
遠距離攻撃手段を持つ者は、魔導や矢などを撃ちまくる。
そろそろ頃合いか、スカウトスコープでラージサーペントの魔力値を確認する。
ラージサーペント
レベル91
514725/1158369
「ゼフっ!」
「うむ」
ミリィも同じく確認したのだろう。
ワシの手を取り、きゅっと握り締めた。
その手をラージサーペントへとかざし、ミリィとの魔力線を絡ませていく。
「空の魔導の神よ、その魔導の教えと求道の極地、達せし我に力を与えよ。黒き刃紡ぎて共に敵を滅ぼさん」
「緋の魔導の神よ、その魔導の教えと求道の極地、達せし我に力を与えよ。赤き刃紡ぎて共に敵を滅ぼさん」
ミリィと二人、同時に詠唱を開始する。
構えた手が魔力光に包まれ、辺りに火の粉とつむじ風が吹き荒れる。
「――――ブラックゼロ」
「レッドゼロっ!」
――――二重合成大魔導、パイロゼロ。
赤と黒、混じり合った魔力光が螺旋を描き混じり合う。
そして、放たれた閃光は一筋の光を残し、ラージサーペントを貫いた。
「ァァァ……アアア……」
断末魔の声を上げるラージサーペント。
海に溶けるかのように、消滅してしまった。
海の魔物はある程度傷めつけると海中へと逃げてしまう。
確実に倒すには、ある程度削った後に大ダメージを与えて倒す必要があるのだ。
それには高い連携が必要とされるので、トドメはもっぱらワシとミリィの合成大魔導であった。
ミリィもこなれてきたのか、タイミングもバッチリだ。
「いえーい!」
小さな手を挙げるミリィと、ハイタッチを交わすとペチンといい音が鳴る。
「素晴らしい一撃でした、ミリィ、そしてゼフ」
その様子を後ろから見ていたセシルが手を叩き、微笑んでいる。
最近のセシルは人が変わったかのように穏やかだ。
船出の頃は偉そうで戦闘の時も仕切りたがる事が多かったが、最近ではおいしいトドメの役をワシらにやらせたり、裏方でカバーに回る事も多い。
ま、それだけワシらの事を認めてくれたと言う事だろうか。
ワシがセシルを女と知っているから、その口止めのつもりなのかもしれんが。
ワシが意味深に笑うと、セシルは懇願するようにじっと見てきた。ちょっとおもしろい。
『えーおほん、そろそろ陸に着く。皆の者、準備をして甲板にて待機!』
艦橋にいるのであろう、イエラの声が響く。
エイジャス号の速度が遅くなり、陸地が大分近くなって来たところで、止まった。
これ以上進むと座礁する可能性がある。錨を下しているのだろう。
「よぉし、では行くとするかのう!」
いつの間にかイエラが副官たちを連れ、甲板に降りて来ていた。
とりあえず小舟を使って何人かずつ、浅瀬を渡る予定だ。
小舟にはイエラと副官、それと何名かの乗組員が乗せられ、陸へと向かっていく。
第一陣でこの中で一番戦闘力のあるイエラを送り、陸と船上から小舟を襲おうとする魔物を撃退しようというわけである。
特に魔物があらわれる事もなくイエラたちはあっさり渡りきってしまった。
「……魔物の気配も感じられないな。この辺りなら船を置いておいても安全かもしれない」
セルベリエが使い魔のクロを指で弄びながら呟く。
確かに、結構長い時間いるのに魔物も出てこないな。
恐らくマナが極端に薄い場なのであろう。こういった場所では魔物が発生しにくいので、昔の人々が街を造っていたのだ。
セルベリエの言うとおり、ここを拠点にするのは悪くないかもしれない。
「次は私たちが行こうよ!」
「ふむ、そうさせてもらうか」
ミリィに引っ張られながら小舟に乗り込もうとすると、レディアがセルベリエの腕を絡ませ引き止める。
「レディア?」
「アレ、出そうと思ってさ~ちょっち手伝ってくれない?」
「む……成程、確かに探索には便利かもしれないな……」
「うんうん、じゃあそういうことで……あーゼフっち、悪いけど私とせっちんはちょっとだけエイジャス号に残らせて貰うね~」
ぱたぱたと手を振りながら、レディアはセルベリエを引き連れて船内に入っていくのであった。
ミリィが不思議そうな顔でレディアたちを見送る。
「何を出すのかな?」
「二人とも、航海中によく二人でどこかに出かけていたから、その関係じゃないでしょうか?」
「ふむ、まぁ楽しみにしておこうではないか。……ワシらは先に舟で行かせて貰おう。あとが詰まっている事だしな」
「すみませんっ! すみませんっ!」
後ろで並ぶ者たちに平謝りするシルシュ。
そこまでしなくてもいいだろうに……生真面目な事だ。
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