効率厨魔導師、第二の人生で魔導を極める

謙虚なサークル

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300 境界④

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「――――ここは……私は一体……」

 セシルが目を覚ましたのは自室のベッドの上だった。
 混濁していた意識が少しずつはっきりしていく。

「そうだ……私は確か混乱した者たちを止めようとして……」

 セシルが戦闘音に気づき甲板に出ると、霧の中で下品な水竜と、無名のギルドが同士討ちをしていたのが見えた。
 彼らは明らかに正気を失っており、魔物に襲われ身体を乗っ取られた様子だったのである。

 それを見たセシルは、共々懲らしめるいい機会だ、と考えた。
 魔物に操られた者を治すには、ダメージを与える方法もある。
 大手を振って気に食わない奴らに攻撃出来るチャンスだったのだ。
 邪な考えに口角を歪むのを堪えつつ、セシルは仲間に攻撃する苦しみに耐える演技をしながら、部下にゼフたちへの攻撃を命じたのである。

「それがこのザマ……ですか……」

 だがセシルは逆に倒され、またも部下の前で恥を晒してしまった。
 薄々感じてはいたが、彼らは自分より、一枚も二枚も上手なのだ。
 目を瞑り、大きく息を吐くセシル。だが落ち着いていたように見えたセシルの表情は、みるみるうちに歪んでいく。

「くそ……くそぉっ! ありえない……私はレイツォルト家当主、白鷹の旅団ギルドマスターのセシル=レイツォルトだぞっ! ここまでコケにされて黙っていられるものかっ!」

 激昂し、思いきり壁を殴りつけると1本のヒビが入った。
 ヒビの入った壁の向こうから、何やら楽しげな声が聞こえてくる。

「おおーい、飲んでるかぁお前らぁー」
「あっははー飲んでるよぉー」
「レディア、その辺にしていた方がいいんじゃ……」
「だいじょぶよーこのお酒美味しいし、いくらでも飲めるからさー」
「つかマジ、そろそろやめてくれへんと、持ってきた酒がなくなるやんけ!」
「くっくっ、いくら飲んでもいいと言っていたのではなかったかな?」
「勘弁してーな……」

 聞こえてくるのは、正にその連中たちの楽しげな声である。
 宴でもしているのだろうか。非常に騒がしい。
 静かなセシルの部屋にも響き、聞くまいとしてもどうしても聞こえてくる。

「うるさいぞ! クソ共っ!」

 もう一度拳を叩きつけると更に壁のヒビが増え、声も大きく聞こえだす。
 明らかに自身のせいではあるが、セシルは壁の向こうへと呪詛の言葉を吐き続ける。

「お、おのれ……許さんぞあいつら……何としてでもぶち殺してやるからな……!」

 秀麗な表情を歪ませながら、セシルは呟き続けるのであった。



 ――――そして翌日。
 ワシは飲み過ぎて少し疼く頭を押さえながら、甲板へと登る。
 うぅ……くそ、気持ち悪いぞ……ダインの奴め、無理やりに飲ませおってからに……

「いやー気分いいねーっ!」

 レディアは大きく伸びをしている。
 一晩中飲んでいたハズなのに、やはりザルだ。
 ちなみにセルベリエとミリィは無理やり酒を飲まされ(一口だが)今は部屋で死んでいる。
 代わりのクロードを加えた三人での戦闘待機である。

「今日は戦闘待機の人、少ないですね」
「あまり多くいても先日のようにパラスミストに操られる可能性もあるからな。境界内での編成は少数精鋭で頼むとイエラに言っておいたのだ」
「流石ゼフ君、手が早いですね」

 そう言って笑うクロード。
 何だかひっかかる言い方だが、気のせいだろう。

「よぉーう、ゼフやん! 先日は楽しかったでー! またやろなー」
「……おう」

 ダインがワシらに挨拶をし、それに続くように部下たちも手を振ってくる。
 先日一緒に飲んだ者たちだ。中々気のいい奴らである。
 ワシらも手を振って返す。

「こういうのもいいよねぇ~」
「旅は道連れ、というしな」
「ゼフ君も、ああいう人たちと絡んでくれればボクらとしてら安心なんですけどね」
「んだねぇ~」

 二人で笑うレディアとクロード。
 何だか引っかかる言い方だが、気のせいだろう。
 ダインたちの行った方向と反対側から声が聞こえる。

「やぁ」

 セシルだ。それも一人である。
 何だかぎこちない様子で微笑みながら、こちらに近づいてきた。

「……先日はすまなかったね」
「ん……あぁワシらを矢で射ってきた事か? 気にするな。慣れてない時はあぁいう対応を取ってしまっても仕方ない」
「ぬぐ……っ!」

 ワシの言葉にセシルの表情が、歪む。
 クロードが服の袖を抓んで、小声で呟いた。

(ぜ、ゼフ君! 折角謝りに来てくれたのに煽っちゃダメですよ!)
(あぁ? いいのではないか? ワシらもひどい目に遭ったのだ。この程度の厭味を言う権利くらいはあるだろう)
(はぁ……そういう性格ですよねゼフ君は……)

 諦めたようにため息を吐くクロード。そういう性格なのだよワシは。
 それに少しは懲りて貰わんと、足を引っ張られると困るからな。
 セシルは顔をひきつらせながらも、何とか笑顔を作り直しながら震える手を差し出してくる。

「そ、その件に関しては本当にすまないと思っている……」
「冗談だ。本当に気にしてはいないさ」

 セシルの差し出した手を取り、握手を交わしてやる。
 一応共に戦う仲間だ。わだかまりは残さない方がいい。

「私はレディア、よろしくね~」
「ボクはクロードと申します」
「む、そう言えばまだ名乗っていなかったかな。私は白鷹の旅団ギルドマスター、セシル=レイツォルトという」
「レイツォルト……あのレイツォルト家ですか?」
「ほう、知っているのか」

 クロードがセシルの名前に食いついた。
 ワシは見た事も聞いた事もないが、有名人なのだろうか。
 クロードにこっそり尋ねる。

「クロード、何だそれは?」
「レイツォルト家は最も古き騎士の血と呼ばれる由緒正しき家柄です。ボクも祖父に聞いただけで実際にお会いするのは初めてですが……」

 古いが名は知れていない……つまり没落した家柄というわけか。
 セシルはクロードの言葉に気をよくしたのか、前髪を払いながら得意げな顔をする。

「クロード君と言ったか。君は中々見どころがあるね。気が向いたら是非ウチのギルドに来るといい。歓迎するよ」
「えぇと……折角のお誘いですが……」
「コラコラ、人の仲間を勝手に勧誘してるんじゃないぞ」

 クロードの手を取るセシルを払い除ける。
 油断も隙もないなコイツ。
 というか用が済んだら持ち場に帰れよ。
 戦闘待機中なのだぞ。

「っ!? ゼフっち!」

 不意にレディアが船べりに乗り出す。
 見据えるのは遥か彼方の薄い霧。
 そこには黒い影が、幽かに見える。

「……魔物か!」
「ふっ……いい機会だ」

 そう言って、セシルは立派な剣を抜き放つ。
 流麗な動作は、流石大手のギルドマスターと言ったところか。

「先日の詫びも兼ねて、私も共に戦わせてもらおうか」

 自信有りげなセシル。
 うーむ、少し不安ではあるが……お手並み拝見といこうではないか。
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