効率厨魔導師、第二の人生で魔導を極める

謙虚なサークル

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301 ゴーストシップ①

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 霧の向こう、遠くに見えていた影が次第に鮮明になっていく。
 ぎし、ぎしという不気味な音が響く中、あらわれたのはエイジャス号と同じくらい大きな船だ。
 ただし船体も帆もボロボロ、今にも沈みそうではあるが。

「ふ、船……? まさか遭難船だったりして……あはは……」
「何十年前の船か、知れたものではないがな……」

 恐らく船員が全員死んでも船だけ沈まず、朽ちて尚、海を漂い続けているのだろう。
 境界に内、外海から様々なものが流れ着くと聞くからな。

「ひっ!」

 クロードが悲鳴を上げ、ワシの腕に抱きついてくる。
 酷く怯えた様子で、震える指で船の甲板を指した。

「あ、あそこで何か動きました……っ!」
「ん、何も見えないではないか」
「本当ですよっ! 幽霊かも……」

 そう言ってクロードは、ワシの服を強く握り締める。
 ふむ、幽霊かどうかはともかく、もしかしたら生き残りがいるのかもしれないな。
 魔物が住み着いている可能性の方がどう考えても高いが。
 どうしたものかと考えていると、イエラの声が甲板に響く。

『おおーいそこの船ーっ! 中に人がおるなら出てこーい!』

 魔導により遠くまで響くイエラの声が、辺り一面に響き渡る。
 しばし待っただろうか。不意にボロ船の甲板の上で何かが動くのが見えた。
 それを見たクロードが、更に強くワシにしがみついてくる。
 おい、さっきから鎧を押し付けてくるんじゃない。甲冑が当たって痛いではないか。

「あ、あれっ! あれあれあれっ! 骨っ! 骨が動いますっ!」
「やはり魔物か……」

 甲板の上に蠢いているのは、大量の白骨死体である。
 船の上で白骨化した死体が魔物化したのであろう。
 白骨死体へスカウトスコープを念じる。

 スケルトンパイレーツ
 レベル45
 魔力値14521/14521

 大した魔物ではない……が、甲板の上で蠢くスケルトンパイレーツの数は増えていく。
 数が多いな。乗組員全員の死体が魔物化したと考えると、あのサイズの船なら数百体はいてもおかしくはないか。
 カタカタと不気味に骨を鳴らす様子は、ワシらを見て笑っているかのようだ。

「あれはお化けじゃなくて魔物、あれはお化けじゃなくて魔物、魔物魔物魔物魔物……」
「お、おい……大丈夫かクロード」
「大丈夫です。足手まといにはなりませんから……ふふ、ふふふ……」

 あまり大丈夫ではなさそうだが……
 虚ろな目でぶつぶつと呟くクロードはちょっと怖い。
 クロード的には相手が悪いかもしれないな、船内に戻した方が良いかもしれない。

「来るよっ!」

 レディアの声を皮切りに、各々戦闘態勢を取る。
 スケルトンパイレーツたちが、桟橋をこちらの船に渡してきた。
 そこを足場に、次々と雪崩込んでくる。
 ならば橋をぶっ壊わせばいい。
 ――――レッドスフィア。

 橋を渡っていたスケルトンパイレーツごと、炎が包み込む。
 というか魔物の船なら、丸ごと燃やしてしまえばいいだけなのではないか。
 そうワシがふと考えた瞬間、艦橋の上にとてつもない量の魔力と風が集まっていくのを感じた。
 イエラだ。
 唱えている呪文は空系統大魔導――――

『――――ブラックゼロ』

 ごぉん、と爆風が吹き荒れ、魔物ごと船に風の槍が突き刺さる。
 斜線上にあった海が抉れ、荒れ狂う波が船を揺らす。
 先手必勝……とはいえいきなりやってくれるではないか。

「ふい、やったかのう……」

 そう言って息を吐くイエラだが、収まっていく波の隙間から見えたのは悠然と海を漂うボロ船である。
 あんなもの喰らったらまともな船でも沈みそうなものだが……まさか!?
 船にスカウトスコープを念じてみると、案の定だ。

 ゴーストシップ
 レベル99
 魔力値4535215/4614153

 やはり……船の魔物か。
 大地の魔力マナは地上に吹き出る際に透過した物質を模倣し、具現化する。
 あれは難破船がまるごと魔物化したものなのだ。
 マナにより具現化されたその身体を破壊するのは非常に難しい。

「うわお……どうすんの? ゼフっち」
「どうもこうも何とかして沈めるしかないだろう……しばらく頼む」
「わかりました!」

 スケルトンパイレーツの群れをレディアたちに任せつつ、サモンサーバントを念じる。
 光と共にあらわれたのは大神剣アインベル。

(えーっ! 何で剣なのーっ! ぶーぶー)
(大物狩りは大物で、と相場が決まっている)
(しょーがないわねぇ……)
(文句を言うな……行くぞ)

 大神剣アインベルを振りかざし、タイムスクエアを念じる。、
 時間停止中に念じるのはレッドクラッシュ、ブルークラッシュ、グリーンクラッシュ。

(ん……くぅ……っ!)

 アインがくぐもった声を上げると、大神剣アインベルが鈍く、まだら色に光り始める。
 そして更に、剣を振るいながらタイムスクエアを念じる。
 時間停止中に念じるのはブラッククラッシュ、ホワイトクラッシュ。
 ――――五重合成魔導、プラチナムブレイク。

 剣閃と共に、白金の光がゴーストシップに向け放たれる。
 海を裂き、スケルトンパイレーツたちを消し飛ばしながらも閃光の刃はゴーストシップを貫いた。
 じゅうじゅうと白煙を上げながら、揺らめくゴーストシップ……だが硬い!
 ダメージはあるようだが、破壊までは至らないようだ。

 城や屋敷など、建築物が魔物化したモノは高い防御力を持つ事が多い。
 丈夫で崩れぬな建物を、という製作者の想いがそうさせるそうだ。
 立派な思想だが……敵に回すと厄介だな。
 やれやれどうしたものかと考えていると、隣でセシルが口をパクパクと動かしている。
 なんだか動揺しているようだ。まさかこいつもお化けが怖いとか言わないだろうな。

「……お、おいゼフ、何だ今のは……?」
「ん? ワシの魔導だがそれがどうかしたのか?」
「あれをっ! お前がっ!? ご、五天魔にも引けを取らぬ威力ではないかっ!」
「……まぁ威力だけならな。手間もかかるし使い勝手はそれほど良くないが……それより戦闘中だぞ。ぼうっとするな」

「そ、そう……だな……ははは……はははは……」

 腰を抜かしているのか、乾いた笑いを浮かべているセシル。大丈夫かこいつ。

「白、閃、華ぁーっ!」

 こっちはこっちで、クロードがヤケクソな声で叫んでいる。
 ワシのドン引きな視線に気づいたのか、クロードが半笑いで振り返ってきた。

「ふふ……心配いりませんよゼフ君……ボク自身に……暗示をかけて戦いやすくしただけ、ですから……ゼフ君の足手まといにならないように、色々と克服、しましたので……ふふ、ふふふ……」
「そ、そうか……」

 そういえば以前、からかいがてらに一人で旅していた時、幽霊のような魔物をどうしていたのかと聞いた事がある。
 クロード曰く、自分に強烈な暗示を込め、幽霊嫌いを無理やり押さえ込んで戦っていたらしい。
 以前暗示の魔導をかけられ、操られていたのを逆利用したと言っていたが……不気味に笑いながら、骨と斬り結ぶクロードの姿は思った以上に怖い。

 スケルトンパイレーツの攻撃をひょいひょいと躱しながら、レディアが話しかけてくる。

「いやぁ~クロちゃんてば、危なっかしいよねぇ~」
「ある意味レディアもそうだがな……」
「えー何それひどいよ~」

 ワシと談笑しながらも、しっかりと背後からの攻撃を躱し長斧での一撃を叩き込むレディア。
 だから相手を見て戦えと言うに。
 ったく見慣れていても心臓に悪いのだぞ。
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