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294 外の世界へ⑦
しおりを挟む「よぉし、風が出てきたぞーっ! 帆を張れーっ」
「おおおーっす!」
船員たちがマストに登り、帆を下ろしていく。
広げられた帆は風を受け、エイジャス号の速度がぐんと上がった。
マストの上で作業する船員を、ミリィが見上げている。
「うわぁ……あんな所に登って怖くないのかなぁ……」
「マストから落ちて甲板に叩きつけられて死ぬものは、海に落ちて死ぬ者よりも多いらしい」
「そ、そうなんだ……」
「あっはは、怖いねぇ~」
ビビってしまったのだろうか、ミリィの顔が少し青ざめている。
レディアならあそこから落ちてもあっさり着地しそうであるが。
ちなみに今ここにいるのはミリィとレディアのみで、他の皆は船の中で休憩中だ。
他のギルドの連中も、何人かを残して殆どの者は船の中に入っている。
その理由はというと……
「魔物だぁーっ!」
……これである。
船尾の方で聞こえてくる声に、周りの者も身構えた。
マストに登っていた船員たちも、危険を感じて降りてきている。
「彼らに近づかせるなよ」
「わかってるって♪」
ミリィがそう答えると同時に、空中に影が舞う。
見上げると、日の光にキラリと反射する黒い弾丸のような魚の姿をした魔物。
マグナムフィッシュだ。
弾丸のような速度で海面から飛び出し、その通り道にいたモノを丸ごと喰らってしまう魔物だ。
大して強い魔物ではないが、群れをなす上に一瞬しか姿を現さない為、倒すのは少しコツがいる。
何匹ものマグナムフィッシュの群れが、マストから降りようとしている船員たちに襲いかかる。
「ブラックスフィアっ!」
叫び声と共にミリィがブラックスフィアを発動させると、船員たちの手前に魔力球が生まれた。
風の刃で構成された魔力球、そこに飛び込んできたマグナムフィッシュは、ズタズタに切り裂かれていく。
一度海中から飛び出したマグナムフィッシュは空中で方向転換が出来ない。
そう、奴らの軌道を見切り、そこへ待ち構えておくのがこいつと戦うコツである。
風の刃に切り裂かれ、弾き飛ばされたマグナムフィッシュの群れがバラバラと落ちてくる。
だがまだ、マグナムフィッシュの目は死んでいない。
鋭い歯を持つマグナムフィッシュは船体に落ちると甲板に噛み付き、穴を開けてしまうのだ。
そうはさせまいと甲板を蹴り、レディアが飛ぶ。
「あとは私に……任せなさーいっ!」
ずらりと抜き放った長斧を振るうと、落ちてきたマグナムフィッシュが全て海へと叩き返す。
十数匹はいたはずだが……恐るべしレディア。
「なーいすレディアっ」
「あっははーミリィちゃんもね」
着地したレディアがミリィと勢い良く手を合わせると、パシーンと良い音が響く。
周りの者たちの力もあり、何とか大した被害もなくマグナムフィッシュの撃退に成功した。
「魔物が多くなってきたね。前に船旅した時はここまでじゃなかった気がするけど」
「うむ、恐らくマナが濃いのだろうな」
人も近寄らぬ場所にはマナも溜まる。人の手が入らぬゆえ生物も繁殖し、大型に育つものも多い。
巨大生物の存在する場所では生まれる魔物も大きく、強い傾向があるのだ。
「お疲れ様です」
「クロードか」
「もう交代の時間?」
クロードとシルシュ、セルベリエが弁当を持って甲板へ上がってきた。
他のギルド連中も上がってきているようだ。
丁度昼頃、交代の時間である。
クロードの持ってきた弁当を広げると、いい匂いが潮風に乗って鼻をくすぐる。
「うわぁーいい匂い♪」
「蒸した魚と海草の混ぜゴハンです。お口に合うといいのですが」
「三人で作ったのですよっ!」
「私たちは殆ど見ていただけだがな……」
三人で作ったとの事だが、まぁシルシュとセルベリエはあまり料理などしないし、本当に軽く手伝っただけなのだろう。
しかし美味そうだ。ミリィが早速口に運んでいく。
「いただきまーす! はむっ! ……美味しい!」
「本当だ! おいしーよ、クロちゃん!」
「よかったぁ。初めて作った料理だったので不安だったのですが……沢山ありますから、よかったらおかわりして下さいね」
ホッとしたように胸に手を当てるクロード。
確かに珍しい料理だな。どれワシも一口……美味い!
「見事なものだ。クロード」
「えへへ、嬉しいなぁ」
指をくねらせながら照れ笑いするクロード。
昔から上手かったが、随分と上達したものである。
レディアや母さんに教わったものを生かし、自分なりに昇華しているのだろう。
食事が終わり、あとはクロードたちに任せワシらは休憩だ。
「じゃあ後はよろしくーっ!」
「はい、ゆっくり休んできて下さい」
三人に手を振り、船の中へと入っていく。
慣れない船旅の上、戦闘も結構こなしてきたからか、若干疲れたな。
早く部屋に入って休みたいものだ。
ミリィは小走りで先頭を歩いている。
元気なのはいいが転ぶなよ。
階段を降りていくと、通路の先で二人の男が罵り合っているのが見えた。
「おいおい、どこに目をつけて歩いてんねん?」
タバコを咥えたねじり鉢巻きの男、まくり上げられた腕に嵌めた腕章に『水竜の咢』のエンブレムが輝く。
イクサ=グランディア、『水竜の咢』のギルドマスターだったか。
相変わらずのシャツ一枚。海の上は結構寒いのにもかかわらず、薄着である。
「通路は自分たちだけのモノでは無い事を自覚すべきです。それに時間は有限なのですよ? 早く譲ってしまった方がよろしいかと存じますが」
鳥を模した兜を被り、装飾された全身鎧を着た男。
胸に『白鷹の旅団』のエンブレムが象られている。
セシル=レイツォルト、『白鷹の旅団』のギルドマスターだったな。
相変わらず重そうな鎧である。
「ならあんたが退けるのが効率的やと思うけどなぁ?」
「人を指差すのは止めなさい。お里が知れますよ?」
「……なんやとオラ? やるんかい!?」
二人はどうやら道を譲れとかどうとかで揉めているようだ。
一触即発の空気。これは面倒な所に出くわしてしまったな。
レディアも同じことを思ったのか、小声で話しかけてくる。
(どーしよ、ちょっと時間潰してから部屋に戻る?)
(うーん……でも長引きそう……)
見たところ二人共プライドも高そうだし、簡単に引き下がりはしないだろう。
だからこそこんな事態になっているわけだしな。
こういう時は目を合わせず、通り抜けてしまえばいい。
「行くぞ。連中に構わなければどうと言う事はない」
「あっ、ゼフ!?」
ミリィが声をかけるが、気にせず歩いていく。
どうせ待っていても埒があかん。疲れたしとっとと部屋に帰って寝たい。
絡まれても無視していけばいいだけの話だしな。
ミリィも少し考えた後、ワシに小走りでついてきた。
「あぁんもうミリィちゃんまで……もう知らないんだから!」
諦めたようにレディアもコソコソと後をつける。
男たちの横を通り過ぎようとすると、イクサとワシの目が合う。
が、無視だ。
こういった輩は目を合わすと絡んでくるからな。
ミリィとレディアもワシに続く。
「あははー……失礼しまーす」
「……ハッ、こんなちみっこも来とるんかい」
ぼそりと呟いたイクサの言葉に、ミリィの耳がぴくりと動く。
「あぁアホらし、いがみ合ってるんが馬鹿みたいやんか」
「……ふ、そうですよイクサさん、子供も見ているのに我々大人がこんなくだらない事で争っていてどうするのですか」
「はははーっ! せやせや、ここは大人として手本になるような行動をせなぁな!」
二人は何やら納得したようで、大笑いしながら部屋へと戻っていく。
……何だかよくわからんが収まりがついたらしい。
彼らを見送っていると、イクサがポケットから何かを取り出しミリィへと差し出した。
「お嬢ちゃん、アメちゃんいるかー?」
「あああありがとう……お、おじさん」
「おいおいワイはまだ35ぉや、お兄さんと呼んでや。はははーっ」
大笑いしながらイクサは去っていった。
プルプルと震えるミリィの頭にぽんと手を置き撫でてやると、怒りで真っ赤になった顔でワシを見上げてきた。
「ゼフぅ~っ……」
「うむ、よく我慢したな。偉いぞミリィ」
「……うん」
そのままミリィはごしごしと頭を擦り付けてくる。
ちょっと泣いているようだ。
ワシが少々絡まれた程度で相手にするなと言っておいたのを、ちゃんと実践したのだろう。
この程度で感情を動かされているようではまだまだだが、それでもミリィにしては上出来だろう
「何よあの人たち! 腹立つわね~っ!」
「気にするなレディア。冒険者というのはあんなものさ」
「でもさ~」
珍しく怒っているレディア。
そう、冒険者と言うのはあんなものだ。
力を誇示し、無闇に争う、非効率的な連中。
それを黙らせるには、圧倒的な力の差を見せつけてやるのがいい。
「……ワシらとの力の差を知れば、すぐに態度を変えるだろうさ」
くっくっと笑いながら、ワシは部屋へと足を向けるのであった。
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