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連載
293 外の世界へ⑥
しおりを挟む空高く船の煙突から蒸気が吹き立ち、エイジャス号が港を離れていく。
振り返り、見送るエリスの姿もどんどん遠くなっていく。
「うわーっすごく早いねー! てかこの船、帆を張ってないのにどうやって動いてるの?」
「この船は風で動くんじゃあないんだなぁ~蒸気機関っていってね、熱のエネルギーで動くんだよね~」
ミリィの問いにレディアが答える。
そういえば蒸気機関が生まれたのはこの頃だったか。
懐かしいもんだな。蒸気により生み出されるパワーは凄まじく、あっという間に世の中に広がっていったものである。
だが今はまだ、一部の技術者しか知らない単語である。
聞き慣れない単語にミリィは首を傾げている。
「じょーき? ねつ?」
「機械に入れた水を熱したら蒸気が出るでしょ? その勢いでタービンを回し、駆動エネルギーに……」
「????」
「……ま、まぁとにかくすごいって事よ! あっはは!」
よくわかっていないといった顔のミリィの背を、ペシペシと叩くレディア。
まぁ初めて聞いた者にはよくわからんだろう。特に相手はミリィである。
「でも本当にすごいですね。ほら、陸がもうあんなに遠く!」
「私、こんな大きな船に乗るの初めてですっ!」
クロードとシルシュもはしゃいでいるようだ。
……確かにこうして見ると、カップルに見えなくもないな。
『あー、あー、諸君! すまんが船首の方に集まって貰えんかのう』
イエラの声が響く。
――――空系統魔導、ワイドボイス。
遠くまで声を伝える魔導だ。
「イエラだ。何かしら?」
「行ってみましょうよ!」
ミリィに手を引かれ、船首へ辿り着くと、既に他のギルド連中も集まっていた。
乗船者の7割はいるだろうか。手の空いている者は全員来たようである。
『えーごほん! ではちょっと聞いてもらいたい事がある』
船首の少し上がった所で、イエラが台に登って大きく咳をすると、皆はイエラの方に注目した。
緊迫した空気を感じ取ったのか、イエラはおどけたように笑う。
『……いやはや、これだけのいい男たちに見つめられると、少々照れるではないか」
イエラの冗談めかした言葉に、先刻まで緊張していた者たちの中からくすくすと笑いが起きる。
長い事五天魔をやっているイエラだ。この手の演説は慣れているのだろう。
緊張がほぐれたところで、イエラは本題に入るぞという合図とばかりにおほんと咳ばらいをした。
「……とりあえず挨拶をしておこう。既に知っておる者も多いと思うが、わらわは空の五天魔、イエラ=シューゲル。皆のリーダーを務めさせて貰う。と言っても大まかな事くらいで、基本的に船では各自で行動して貰いたい。その方がお主らもやりやすいじゃろうしな。ともあれこの場では、今回の調査の大まかな目標を話しておきたいと思う……おい持ってきて貰えるか』
イエラの声に、脇に控える副官が大きな紙を抱えて駆けつける。
風に飛ばされぬように広げると、そこには外の世界を含めた世界地図(といっても殆どが未知で黒く塗り潰されているが)そして船の航路が示されていた。
『これは外の世界を含めた世界地図。そしてこの黒い部分は、未だ誰も足を踏み入れておらぬ未開拓の部分じゃ。このエイジャス号はしばらく直進し、七日後に境界を越え外の世界へ入る。更に七日程後に外の世界にあるこの部分へと辿り着く予定じゃ』
イエラが棒で地図を指し、船の航路をなぞるように動かしていく。
外の世界の入江とやらの周辺は、他の場所に比べるとそれなりに書き込まれている。
恐らく前回探索した地域なのだろう。
『そして辿りつくと共に、拠点の設営だの。その辺に関しては優秀なスタッフもおるから、お主らはとにかく襲ってくる敵を排除して欲し――――』
ざざん、と大きな音がイエラの声を遮る。
大きく船体が揺れ、水面が盛り上がり巨体が姿をあらわす。
ヒレのような四足を持ち、この船ほどの巨体から長い首を伸ばしたのは海獣、シーサーペント。
大きな口を開け、吠えた。
『クァァァアアア!!』
シーサーペントは沿海に住む魔物で、船を襲っては中の人間を右往左往させて遊び、最後には沈めてしまう。
攻撃しようにもすぐに海水に潜ってしまう為、対処が難しいのだ。
沿海で最も注意する魔物の一つ、である。
「てめぇら戦闘準備だっ! 『水竜の咢』の実力を見せてやれ!」
「おおおっ!」
半裸の男、ダインの叫び声に応じ、周りの者も叫ぶ。
手に武器を持ち、船に絡みつくシーサーペントを攻撃し始めた。
分厚い皮を纏ったシーサーペントの防御力は非常に高い。いくら熟練の戦士と言えど、簡単に撃退は出来ないだろう。
「……何じゃ全く、話の邪魔をしおってからに」
バランスを取り直したイエラが身体を起こし、シーサーペントをぎろりと睨みつける。
と、同時に凄まじいまでの魔力を、両手に集中させていく。
それに気づいたシーサーペントの表情が、変わる。
『クァア!?』
「少し、黙っておれ」
襲い来るシーサーペントの攻撃を躱し、その頭に乗せたイエラの手から、圧縮された風が渦巻く。
――――空系統大魔導、ブラックバースト。
イエラがシーサーペントの頭に押し当てた手から爆風が巻き起こり、船が少し、沈んだ。
逆にシーサーペントの巨体は浮き上がり、彼方へと吹き飛んでしまった。
「きゃああーーっ!?」
悲鳴を上げ、ミリィがワシにしがみついてくる。
な、なんつー衝撃波だ。反動で船が傾き、皆も転びそうになっているぞ。
ブラックバーストは圧縮した空気を爆発させ、対象を吹き飛ばす魔導である。
ちなみにワシの合成魔導にも似たようなものがあるが、実はこれから名前を取っているのだ。
「……っ! ババアっ! 無茶苦茶をするなっ!」
「なにーっ! わらわのおかげで助かったのじゃぞーっ! それをババアとは何事じゃーっ!」
イエラがぶんぶんと手を振りながらと指差す先には、爆風による衝撃で目を回したシーサーペントがぷかぷかと浮かんでいる。
ブラックバーストは大魔導の中では念唱時間が長く、射程も威力も微妙な使い勝手の悪い魔導なのだが……流石は空の五天魔と言ったところか。
「おい何事だ!」
「魔物が見えたぞ!」
「今の衝撃で沈みかけたじゃねえか! 冒険者共は何してやがるんだ!?」
声を上げながらバタバタと甲板に上がってきたのは、中に残っていた船員たち。
今の衝撃で驚いて出てきたのだろう。皆がイエラを白い目で見ている。
「い、いやははは……全く以って申し訳ない……」
謝るイエラをセルベリエが、ほれ見た事かとばかりに睨みつけるのであった。
……こんなのがリーダーで大丈夫なのだろうか。
不安そうな顔の皆に、イエラは誤魔化し笑いを返すのであった。
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