効率厨魔導師、第二の人生で魔導を極める

謙虚なサークル

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289 外の世界へ②

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「というわけでレディア、これは旅の支度金だ」
「おおっ! すっごい大金じゃなーい! こんなに貰っていいの?」
「うむ、使い方はまかせる。……それに普段レディアには世話になっているからな」
「ありがと、ゼフっち! 嬉しいよっ!」

 そう言って袋ではなく、ワシを抱きしめてくるレディア。
 おい、そっちではないぞ。
 レディアを引き剥がし、予定通りに金を手渡す。
 それをミリィが羨ましそうに指を咥えて見ている。

「いいなぁ~私も欲しい~」
「残った分は皆で山分けだ。各自、装備を整えよう」
「わーいっ!」

 残った分を等分し、皆に手渡していく。
 最後にミリィに手渡すと、えへへとだらしなく笑った。

「久しぶりの大金だぁ♪ 何に使おうかな~」
「……よし、ではミリィは今からワシと買い物だ」
「えっ!? な、なんで……?」
「前に小遣いを渡した時、菓子だのおもちゃだの買って殆ど装備を買わなかったではないか。ちゃんと知っているのだぞ」
「ち、ちょっとくらい、いいじゃない……」
「ちょっと、ならな。小遣いの半分以上使っておるだろう」
「ううっ!? 何故それを……?」
「馬鹿者め。部屋に増えていくガラクタの数がそれを物語っているわ」

 そもそも最近はまともに装備も整えていないしな。
 いい機会だからミリィの装備を一新してやらねばならないだろう。

「ボクもついて行っていいですか?」
「わ、私もお供してよろしいでしょうかっ!」
「あっはは~みんなで行けばいいじゃん、ねぇせっちん」
「私は別に、構わないがな」

 レディアが両腕で皆を抱き込み、ぺちぺちとワシの頭を叩く。
 何やら大人数になってしまったが……まぁたまには皆でというのも悪くないだろう。

 ――――というわけで辿り着いたのは首都プロレア屈指の品ぞろえを誇るシロガネ商店の巨大デパート。
 品揃え自体はかなりいいが、結構お高い店なのであまり来る事がなかったのだよな。
 今は金があるし、外の世界へ行くにはそれなりにいい装備も必要だろう。

「う……結構人が多いですね……」

 帽子を被り、尻尾をスカートの下に仕舞いこんだシルシュが気分悪そうに呟く。
 シルシュは外出時には耳と尻尾を隠している事が多い。獣人だからと因縁をつけてくる輩も時々いるからな。

「あらシルシュちゃん、買い物かしら?」
「えと……はい、そうなのです」
「人混みが苦手なのでしょう? 無理をしちゃあだめよ。あんたたちも気をつけなさい」
「う、うむ……申し訳ない」

 通りがかったおばちゃんが、一方的に声をかけて去っていった。
 結構バレバレである。
 まぁシルシュの大人しい人柄もあり、最近は近隣住民に理解も得られてはいるのだがな。

「いらっしゃいませー!」

 中に入ると白い制服を着た女性が出迎えてくれた。
 彼女たちはデパートガールと言うらしく、結構高い金を払って雇われているそうだ。
 他の店との大きな違いの一つであり、彼女たちを見る為だけにここへ足を運ぶ者もいるとかなんとか。

「いらっしゃいませレディア様」
「やっほ~久々だね~」
「今日は会長との面会でございますか?」
「いやいや、普通に買い物だよん」
「左様でございましたか。それではごゆっくりお楽しみください」

 ぺこりと頭を下げるデパートガール。
 そういえば商業組合に入っているレディアは、ここの会長とも知り合いなのだよな。
 というか、今まで忘れていたが、一応ワシらも知り合いでもある。

 ――――シロガネ商店会長、アードライ。
 昔、船でこの大陸に渡る際に偶然彼を助け、その時に知り合ったのだが……なんというかちょっと変わり者で、正直言うとあまり会いたくない。
 特にミリィを連れては……まぁ会わない事を祈るか。

「私、服を見たい~」
「そうですね、行きましょうか」
「服は……4階だねぇ~」
「行くか」

 階段を上り、4階に辿り着くと所狭しとばかりに服や鎧などが並んでいる。

「じゃあ行きましょうか♪」

 そう言ってミリィが向かう先は、ひらひらとした動きにくそうな普段着の売り場である。
 おい待て違うだろうが。
 走り出すミリィの襟首を掴むと、勢いをつけすぎていたのか滑って転んでしまった。

「痛~っ!? 何するのよっ!」
「今日はまともな装備を買う日だったな? ミ・リ・ィ~」
「う……わ、わかったわよ……」

 ずっこけていたミリィを睨み下ろすと、ぽんぽんとスカートの埃を払い立ち上がる。
 ったく予想通りの行動である。
 やっぱりついて来てよかったな。

「え、えーと……ではあっちは後でと言う事で……ミリィさん、軽鎧とかつけて見ますか?」
「鎧かぁ~どうなんだろう?」

 アドバイスを求めるようにワシを見るミリィ。

「ふむ、防具自体はカードを使えば強化出来る……が、素材が硬いに越したことはない。動くのに邪魔でなければいいのではないか?」
「ではつけてみましょうか」

 クロードがそこらに置いてある、一番小さな鎧を手に取る。
 普段クロードがつけているボディプレートを、更に小さくしたものだ。

「ミリィさん、バンザイしてください」
「はーい」

 バンザイをするミリィの上から、クロードが鎧を被せる。
 何とも微笑ましい光景だな。
 仲の良い兄妹のようだ。そう思った瞬間クロードがワシを見てにっこり笑う。
 相変わらず鋭い。

「離しますね」
「うん」

 クロードが手を離すと、鎧はミリィに装着された。
 ミリィの小さな身体にジャストフィットしている。
 サイズをちゃんと把握していたのであろう。いい目利きだ。

「……ぅ重っ!?」

 だがしかし、うめき声を上げて崩れ落ちそうになるミリィ。
 鎧は肩にギリギリと食い込み、重すぎるのかフラフラと蹌踉めいている。

「おろろ、大丈夫? ミリィちゃん」
「うぅ……重すぎるぅ……」
「鍛え方が足らないのだ」

 ミリィの鎧を持ってやると、そこから虫が脱皮するようにズルズルと抜け出す。
 と、そうは言ったがこれ案外重いぞ。
 クロードのやつ、よくこんなモノを付けて満足に動けるな。
 意外とムキムキなのかもしれない。
 ワシの視線に気づいたのか、慌てたように弁明を始める。

「よ、要は慣れですよ! 力の入れようで重いものを着たままでも動けるようになるんですっ!」
「そうそう、慣れよ慣れ」
「……レディアさんはむしろ一番薄着じゃあないですか」
「私はほら、避けるからね。動きやすい方がいいのよ」

 自慢げに胸を張るレディアだが、言っているのは長斧についての事だろう。
 あれは前に持たせて貰った事があるが、相当に重かった。
 ちなみ何故あんな重いものを軽々振り回せるのか、という問いに対する答えが「慣れ」だったのである。
 高い戦闘センスを持つレディアには、そうとしか説明できないのかもしれない。

「ではこういうのはどうでしょう?」

 シルシュが持ってきたのは厚手のローブ。
 足首まである長いスカートは少々華やかさに欠けるが、これはこれで清楚な雰囲気が出ている。
 着替え室から出てきたミリィは、スカートの裾を持ち上げながらくるりと回った。

「んー……ちょっと動きにくいかも」
「普段はミニだからねー」

 両手を離した状態でくるくる回っていると、スカートを引っ掛けてよろめいた。

「わっ!? たたっ!?」
「危ない!」

 咄嗟に手を伸ばし、服をかけている棚を支える。
 グラグラ揺れてはいたが、何とか倒さずに済んだ。
 やれやれとため息を吐いていると、ミリィがワシの足元で顔面からずっこけていた。

「……大丈夫か? ミリィ」
「痛い……」
「あっはは、ミリィちゃんは小さいからさ、ブカブカで動きにくいんだねぇ」

 というわけで、ミリィは普段と同じ感じで装備を揃える事にしたのであった。
 結局慣れた格好が一番という事か。
 レディアの言葉も頷ける部分はあるかもしれないな。
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