効率厨魔導師、第二の人生で魔導を極める

謙虚なサークル

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243 レオンハルト家②

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(というワケでワシらはしばらくクロードの実家へ行く。二、三日で戻ると思うがな)
(うん、わかった。気を付けてね)

 フローラに無理矢理連行され、ワシらは隣街の宿にまで辿り着いていた。
 ここまで来たら今から帰るのも面倒なので、そのままレオンハルト家へと行く事にしたのだ。
 一応ミリィに念話で連絡をしているのである。

(それにしてもクロードの家かぁ~私も行きたかったなぁ~)
(どちらにしろミリィはまだ動けないだろうが)
(もう大分回復したもんねーっ♪ 今はゼフのおかあさまに、色々お料理を教わってるんだから)

 以前自分が作ったスープについて思うところがあったらしく、ミリィは母さんから料理を習っているようだ。
 クロードが母さんに教わったスープ、あれに完敗したのが余程ショックだったのだろう。
 同じ条件でと修行に励むのはミリィらしいのではあるが……。

(まぁあまり母さんに迷惑をかけないようにな)
(ちょっとどういう意味よっ! 迷惑なんてかけてないも――――)

 ぶちり、と抗議が終わらぬうちに念話を切ってしまう。
 やれやれ、ミリィの事だからまた妙なアレンジを加えて失敗しそうだな。

「ゼフ君、ミリィさんは何て?」
「気をつけて行ってらっしゃい、とさ」
「ふふ、どうせまたミリィさんを苛めていたのでしょう?」
「少しからかっただけさ」

 やれやれとばかりにワシが首を竦めると、クロードがくすくすと笑う。
 どうやら会話内容を悟られているようだ。相変わらず妙なところで鋭い。

「そんな事より久しぶりの母親との再会なのだ。少しは親交を深めてきてはどうだ? その為にわざわざ部屋を二つ取ったのだからな」
「う……そ、それはそうですけど……」

 今、クロードはワシの部屋に来ており母親は一人で別の部屋にいるのだ。
 あちらに行けと言っているのだが、恥ずかしいのかそれを渋っている。

「……確かに母上と話す事は沢山あるハズなのですが……沢山ありすぎて何を話していいかわからなくて……」
「それは向こうも同じだろう。肩の一つでも揉んできてやるといい。こんな風にな」
「きゃっ!? ぼ、ボクは肩凝ってないですからっ!」
「そうか? こんな重そうなモノをぶらさげているではないか」
「こ、これは好きで重くなったワケじゃないですから……」

 真っ赤になって両手で胸を押さえるクロードを見て、ワシはくっくっと笑う。

「……ワシは鎧の事を言ったのだがな?」
「なっ……もう、ふざけないで下さいっ!」

 クロードはワシの言葉に憤慨し、枕を投げてつけてくる。
 相変わらずからかい甲斐のある奴である。
 投げてきた枕を避けながら、ワシはベッドへとクロードを押し倒した。

「……っ!?」
「ほら、この部屋にはベッドは一つしかないぞ? 今日は母親の元へ行け。それともここで寝るか?」
「……ゼフ君」

 ごくり、と息を呑むクロードだったが、しばし沈黙の後、ため息をついて目を閉じた。

「……はぁ、わかりました。母上の所に行ってきます」
「うむ、それでいい」

 寝転がるクロードの頭をよしよしと撫で、ベッドから送り出す。
 軽く会釈をしながら部屋を出ていくクロードを見送り、ワシはベッドに寝そべるのであった。

(……失礼します)

 と、ウトウトとし始めたところでクロードの声が聞こえてくる。
 クロードの奴、帰ってきたのか?
 そう思い部屋の入口を見るがその姿はない。
 どうやら壁の向こうから聞こえてくるようだ。

(どうぞ、入りなさいクロード)

 続いて母親の声も、ガチャリと扉を開ける音、クロードが歩くたび床が軋む音も聞こえてくる。
 壁が薄いのだろう。
 これでは嫌がおうにも二人のやり取りが聞こえてしまうではないか。
 ……くっくっ、おもしろい事になってきたな。

(まぁ座りなさい、クロード)
(は、はい……)
(ふふ、何よ緊張しているの?)

 声の感じからしてクロードめ、どうも緊張しているようである。
 ワシと三人だった時はそうでもなかった癖に、二人っきりになるのは恥ずかしいのか。
 しばし沈黙の後、フローラの声が壁越しに聞こえる。

(クロード、本当に大変だったわね……)
(いえ、母上の方こそ息災なく)
(もう、そんな話はナシにしましょう? 折角の母娘水入らずなのですから)
(母上……)

 クロードの奴、どうやら緊張気味のようである。
 ほぐしてやったのに、全く世話の焼ける……結局母親のペースではないか。
 そら、とっとと揉んでこい。

(クロード、ちょっとこっちに来なさい)
(きゃっ! は、母上っ!?)
(あら、あなた少し身体が固いんじゃない?)
(ん、はぁ……や、やめて……ください……)

 いきなり聞こえるクロードの嬌声。
 思わず噴き出しそうになるのを堪えつつ、ワシは壁に耳を近づけた。
 壁に耳を当てると、二人の声がよく聞こえてくる。
 音から察するに、母親にマッサージをして貰っているようだ。
 クロードめ、肩の一つも揉んでこいと送り出したのに、逆に揉まれているではないか。

(ぁ……はは……うえ……っ)
(立派に成長したわね、クロード)
(そこは……んっ……ふ……)

 熱っぽいクロードの喘ぎ声、ぎしぎしとベッドの軋む音、目を瞑ると母娘のじゃれ合う姿が浮かぶようである。
 む……たまにはこういった趣向も悪くないか。
 そのまま仰向けになりそれを楽しんでいると、フローラの悪戯っぽい声が聞こえてきた。

(ふふ、ところでクロード。この声、隣の部屋に聞こえてるって知ってる?)
(はぁ……はぁ……え……ど、どういうことですか……?)
(ゼフさんの部屋に筒抜けよ、この声)
「ごふっ!?」

 その言葉に思わずむせてしまう。
 げほげほと咳き込んでいると、ドタドタと隣の部屋で何かが転げ落ちる音が聞こえてきた。
 そして壁の向こうから、クロードが壁越しに叫ぶ。

「ぜぜぜゼフ君っ! き、聞いていたんですかっ!」
「……悪いな、聞くつもりはなかったのだが……壁が薄いから仕方ないだろう」
「と、と言う事はボクがゼフ君の部屋でしていた話も……」
「聞いていたわよ? ゼフさん、いい人じゃない。あなたにお似合いだと思うわ」
「~~~~っ」

 声なき声を上げたクロードは、そのまま黙りこくってしまう。
 恐らく真っ赤になって布団を被り、じたばたとしているのであろう。
 ぽふぽふと布団を蹴る音が聞こえてくる。

 しかしクロードの母親も中々に策士だな。
 ワシらとの会話を聞いた直後にこんな手を打ってくるとは。
 薄い壁の向こうで聞こえる、クロードの布団を蹴る音を聞きながらワシは眠りに落ちるのであった。
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