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連載
242 レオンハルト家①
しおりを挟む「ぅ……よかった……元気そうで本当によかったわ……クロード」
「母……上……?」
所々に白髪の混じる金髪を首元でまとめた女性、彼女がクロードの母親か。
クロードは泣きすがる母親を少々困惑気味に、だが目を潤ませながらも抱き止めている。
「……本当にごめんなさいクロード、小さなあなたを旅に出してしまった事……きっと恨んでいるわよね
……」
「いえ、気にしていませんよ。家の為でしたし。それに母上から頂いた盾のおかげで、ボクは一人じゃありませんでしたから」
母を抱き寄せたまま笑いかけるクロード。
イケメンスマイルは錆びついていないようである。
「クロードぉ……っ」
声を震わせながら、母親はクロードを強く、強く抱き締めた。
クロードが家を出たのは10歳頃だから、約7年ぶりの再会か。
確か金銭的に困窮したレオンハルト家は、跡継ぎである兄は家に残して妹のクロードを旅立たせたのだったか。
家の方針とはいえ、半ば無理矢理にクロードを追い出してしまった事を相当に気にしてしたのだろう。
クロードと母親はずっと抱き合ったままだ。
折角の母娘水いらずだ、ワシは席を外すとしよう。
「あなたはクロードのお友達ですか?」
そう思い立ち去ろうとすると、声をかけられてしまった。
仕方ない、本意ではないが水を差させて貰うとしよう。
「……うむ、ワシの名はゼフ、クロードの仲間だよ」
「あらそうでしたの! 自己紹介が送れました。私はクロードの母親でフローラ=レオンハルトと申します。娘がお世話になっております」
そう言って深々と頭を下げるクロードの母親、フローラ。
お辞儀一つ取ってもその動作は気品に溢れ、色あせた装いにもかかわらず高貴さを感じさせる程だ。
流石は騎士の家柄と言ったところか。
「それにしても、何故母上がこんな所に……?」
「聖騎士様、とやらの噂を聞きつけてきたのですよ。仮面をつけた金色の髪の正義の味方……ほらクロード、貴女小さい頃仮面をつけて正義の味方ごっこをして遊んでいたでしょう? もしかしたらと思って」
「は、母上っ!? 何言ってるんですかっ!」
とたん、真っ赤になってパタパタと手を振り、フローラを黙らせようとするクロード。
あの仮面、顔を隠す為仕方なくかと思っていたが単純にクロードの趣味だったようである。
仮面を付けて駆けまわるクロードの幼少時代を想像すると……くっくっ、何とも微笑ましいではないか。
ニヤニヤと笑っていると、クロードが涙目でワシを睨みつけてくる。
おお怖い怖い、正義の剣士に退治されてしまうな。
「うぅ、ゼフ君……この事は……」
「わかっている、皆には言わないさ」
「……絶対ですよ」
「はいはい」
クロードの髪を撫でてやると、ワシを睨みつける視線が緩む。
どうやら少し機嫌を直したようだ。
しかし正義の味方ごっこか、小さな頃から正義感の強いやつだったのだな。
その様子を見たフローラが目を丸くして、呟く。
「あらあらまぁまぁ……もしかしてあなたたちったら……」
「ち、違うのですよ母上っ!? こ、これはその……何と言いますか……えぇと……」
真っ赤に染めた頬を膨らませ、涙目になるクロード。
その肩を抱き寄せて耳元で呟く。
「何だ? 違うのかクロード」
「……っ! ぜ、ゼフ君まで……もうからかわないで下さいよぉ……」
口では嫌がっているクロードだが、その表情は満更でもないと言った感じだ。
その様子を、微笑ましげに眺めていたフローラだったが、不意に手をぽんと叩く。
「そうだクロード、折角ですしウチに来なさいな。ゼフさんも是非っ!」
「は、母上っ!?」
フローラの言葉にクロードはすっとんきょうな声を上げる。
ふむ、クロードの実家か……少し興味があるな。
レディアたちが来るまでには時間があるし、守護結界もある程度は調べ終えた。
数日くらいなら別に構わないかもしれない。
「いくらなんでも急すぎますよ……それにレオンハルト家があるトナミの街は歩いて十日はかかるのでは?」
「ワシがテレポートで二人を連れて行けばすぐに行って帰ってこれるのではないか?」
「ゼフ君っ!? ……いいのですか?」
「二、三日程度ならな。それにクロードも久しぶりの実家を見てみたいだろう?」
「それは……そうですけど……」
「決まりですわねっ♪」
複雑な顔で承諾するクロードと、嬉しそうに微笑むフローラ。
だが今は夕方、少し時間が遅すぎるな。
トナミの街へは今のワシのテレポートでも丸一日はかかるし、今日はウチにでも泊まらせてから明日にでも……そう思った矢先であった。
ワシとクロードの手を取り、フローラがニコリと笑ったのは。
「では行きましょうか!」
そしてテレポート。
止めるまもなく一気に景色が流れ、気づけば街の外へと飛び出してしまっていた。
「ちょ……母上っ! いきなりすぎやしませんかーっ!?」
「いいのいいの、こういうのは早い方がいいのよっ!」
フローラは制止の言葉も聞かずテレポートを続けている。
うーむ、そういえばクロードの噂を聞いてすぐ駆けつけたとか言っていたか。
余程嬉しいのかそれともフットワークが軽いのか、両方なのだろう。
やれやれ、母さんたちに一言くらい行ってくると言いたかったのだがな。
ため息を吐くワシの目の前の背景が、また流れるのだった。
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