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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード52-14

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ゲームセンター『モナカ 太刀川店』 リナ回想――

 二階の隅っこに設けられた『レトロコーナー』に、数人の人だかりが出来ていた。
 薄暗い店内にテーブル筐体が並び、デモ画面の淡い光がさしている。
 その中で蘭子は、リナの取り巻きたちが見守る中、レトロゲームである『ディグデグ』をやっている。

「そこだ蘭の字、岩落とせ!」
「うっせぇ! 気が散るだろ!」

 『ディグデグ』とは、縦型固定タイプのゲームである。
 レバーとボタンを使用してキャラクターを操作し、地中を縦横無尽に掘りながら進んでいく。
 風船のようなものと、怪獣の二種類の敵が配置されており、触れるか、怪獣の吐く火炎放射に当たるととミスとなる。
 敵への対抗手段は、空気銃の先端を敵に打ち込み、空気を送り込む事で敵を破裂させる直接攻撃と、地中に設置してある岩を駆使する事で、敵を押し潰す間接攻撃がある。

「まだ一匹もやってねぇじゃねぇか?」
「膨らますだけで割らねぇのか?」
「おめぇ……誘ってんのか?」

 蘭子は襲って来る敵を捕らえて空気を送り込むが、破裂までは行わず、放置している。
 徐々にしぼんでいくが、膨らんでいる間は敵に触れてもミスにならない。

「ん? 仕掛ける気だな? よし! おびき寄せろ!」
「うるせぇな、黙って見てろ」
 
 蘭子が操るキャラが岩のある所を縦に掘り進み、岩を下から支え、敵が来るのを待っている。

「来たぞ、岩落とせ!」
「まだだ……もっと引き寄せて……よし、 今だ」ズゥーン

 岩を押さえていたキャラがタイミングを見計らって退くと、岩が落下し、敵を押し潰した。   

「「「よっしゃぁー!!」」」

 周りの奴らが、自分の手柄のように興奮して喜んでいる姿に、蘭子は表情を緩めた。
 その瞬間、周囲との壁が消え、一体になった感覚を蘭子は心地いいと感じた。 

「スゲェぜコイツ! 一気に五体潰しやがった!」
「やるなぁおめぇ、気に入ったぜ!」

 敵がいなくなると、その面はクリアとなった。

「よし、これで53面クリアだ!」

「「「おぉー!!」」」

 淡々とこなしていく蘭子に、取り巻きたちは興奮していた。

「おい、スゲェな……今までノーミスだぜ!? 」
「操作に無駄がねぇ……まるであの方、アネキのプレイを見てるようだ……」



              ◆ ◆ ◆ ◆



アドワーズ 太刀川店――

 勝負の前に、作戦タイムをもらったアケミたち。
 『バーチャ・ファイターズ』は、初の3D対戦格闘ゲームである。
 低い3D技術の為か、キャラクターのポリゴン処理が粗く、グラフィックに問題があったが、それが逆に斬新で後に人気を博したゲームである。

「フム。基本は殴る・蹴る・ガードで、あまり派手な必殺技とかは無いみてぇだな?」 
「うん。 公式ではまだ技の発動条件が発表されて無くて、全部口コミだけどね」 
「スティックとボタンのタイミングがミソだと思うのよね……」
「単純だけに難易度が高いってわけか……骨が折れそうだな」

 勝利条件はKOかリングアウトで1ポイントで、2ポイント先取で勝利となり、ここまでがワンコイン分である。
 時計を見た片桐がリナたちに声をかけた。
 
「作戦会議は終わったか? もっとも単純な殴り合いのこのゲームに、作戦なんかいらないけどな」
「ああ。いつでもイイぜ? 早く殴りたくてウズウズしてる」

 片桐は大きく頷き、ゆっくりとしゃべり出した。

「勝負は3勝した方が勝ちな。 禁じ手とかは一切なし。 わかりやすいだろ?」 
「わかった。 とっとと始めよう」

 対戦相手がそれぞれの筐体に座った。
 取巻きたちはそれぞれの主側に移動し、画面に食いついている。

「リナ、ゴメン、結果的に巻き込んじゃった……」
「気にすんなって。 但し、 次にこんな事があったら――」

 リナはそこで言葉を切って、サチコの方を向いた。

「生チチ、揉ませろよなっ♪ フフフ」

 そう言って白い歯を見せて笑ったリナに、サチコは顔を赤くして、小さい声で言った。

「……アンタなら、イイよ……」
「はぁ!? 今何つった?」

「「「「うぉぉぉー」」」」

 サチ子がしゃべるのと同時に、男子どもが叫び出した。
 リナが会話している間に、向こう側の誰かがコインを入れたようだ。

「おい、金入れて早くキャラ選べ。 俺は忍者って決めてんだ」
「アタイは……コイツでイイや」

 慌ててアケミがコインを入れ、エントリーを済ませる。
 予想通り片桐は忍者を選択した。リナは金髪ポニーの女格闘家を選んだ。

「イイね……実にリアルでイイね。 アリだよリナ♪」
「気安く呼ぶんじゃねぇ! 反吐が出らぁ!」

 すぐに最初の試合の1セット目が始まった。

「オラオラオラ、オラァ!」
「くっ!」 

 始まって直ぐに忍者が突進し、パンチとキックをコンビで打って来た。
 たまらず女格闘家はガードをとり、防戦一方になる。

「ほらほらどうした? ガードしてるだけじゃ勝てねぇぞ?」
「ヤバいよリナ、ジリジリ削られてるよ?」

 そこでリナはガードを解除し、わざと相手のキックを食らい、ダウンする。

「イェーイ! うぉ!?」

 しかし、女格闘家が起き上がりざまに繰り出したムーンサルトキックを浴び、今度は忍者がダウンした。
 そして倒れている忍者にパンチを数回当てた。

「そうだ! やっちまえリナ!」
「おい……ダウン状態で何でダメージが入るんだ? バグか?」

 お互いのHPも無くなり、あと一打で勝敗が決まりそうだ。

「うりゃぁぁ!」
「くっ!?」

 忍者が突進し、タックルをかますと、女格闘家が場外に吹っ飛んだ。

『RING OUT』

「いよっしゃあ! 先ずは1ポイント先取だぜぇ!」
 
 いちいち口に出す男子たちが、アケミたちには鬱陶しかった。
 勝利の余韻もなく、2セット目が始まった。

「くわぁぁぁー!」
「ぐっ!?」

 2セット目開始早々に、女格闘家がローキックを繰り出し、ひるんだ忍者にパンチ三連打を浴びせ、ハイキックを見舞うと、忍者が膝から崩れ落ちた。

『K.O.』

「よし! イイわよリナ! その調子!」
「な、秒殺……だと?」
「速い、早過ぎる」
「おい、単純なコンボみてぇだったが、何だよあのパワー。 ガードの意味ねぇじゃんか……」

 お互いに1ポイントを取った為、試合はサドンデスに移行した。

「リナ! サドンデスはリングが狭くなるの! リングアウトに注意して!」

 サチコが言った通り、リングが通常の半分ほどに縮小されていた。

「やっちまえアニキ! 危険タックルだ!」

 開始早々に仕掛けて来たのは忍者だった。
 すると女格闘家はハイジャンプで忍者をかわし、着地と同時に後ろ蹴りで忍者を転ばせ、場外に突き出した。

「う、嘘だろ? 何だよあの決まり手は……」

『RING OUT』
『WINNER』

 女格闘家が何か英語でしゃべっているが、意味が解らなかった。

「勝ったのか? アタイが?」
「やったぁ! リナの一勝だ!」

 アケミたちがきゃいきゃい喚いている一方、片桐は小さい声で呟いた。

「洗練された無駄の無い動き……美しい。 イイね。 実にイイ」

 片桐の顔は、悔しさと喜びが入り混じったような顔つきだった。
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