上 下
381 / 520
第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード52-15

しおりを挟む
アドワーズ 太刀川店 リナ回想――

 片桐から一勝をもぎ取ったリナ。

「あと二勝すれば勝ちよ!」
「頑張ってリナ!」

 アケミとサチコが興奮気味にリナを鼓舞するが、当のリナは乗り気でなはかった。

「簡単に言ってくれるなよ……」

 それを見ていた片桐が、芝居がかった口調でリナに言い放った。

「見事だリナ。 やはり俺の目に狂いはなかった!」
「おぇぇ……気持ち悪りぃ事言うな!」
「次は負けない。 全力でお前に拳を叩き込む!」
 
 そう言って片桐が椅子に座ると、取巻きがコインを入れた。
 それを見たリナも椅子に座り、アケミがコインを入れた。

「さぁ、始めようぜ!」

 二回戦が始まった。


              ◆ ◆ ◆ ◆



モナカ 太刀川店――

 その頃蘭子は、黙々と『ディグデグ』をやっていた。

「おい蘭の字、敵の動きが素早くってきたぞ?」
「大丈夫だ、問題無い」

 蘭子は器用に敵を膨らませ、破裂する一歩手前で止め、岩トラップを用意する。

「ホント職人芸だよな? 寸止め」
「結構『S』の気があったり?」
「そんなんじゃねぇよ。 強いて言えば、 ポリシー?」
「一度に全部の敵を葬る事が?」
「そう。 待って待って、 罠にハメる。 コレがこのゲームの醍醐味だとアタイは思うね」
「ふぅん。そんなもんかね?」

 ヤス子としゃべりながら、器用に罠を張る蘭子。

「ときに欄の字、おめぇんとこに、『ピンク頭』、いるだろう?」
「な、なんだ? 唐突に?」
「隠すなって。 同い年の男子にいるんだろ? 『桃髪の美少年』がよ♪」

 ヤス子の質問に動揺したのか、操作をミスりそうになる蘭子。

「桃髪かぁ……確かに興味あるよな?」
「確かB組のトシ子が見たって。 遠くからだけど」

 取巻きたちがヤス子の話題に食いついた。

「なっ!? おまっ、 どこでそれを? うぉ!? 危ねぇ……」

 蘭子の慌てっぷりに、ニヤリと笑みを浮かべるヤス子。

「その筋の情報屋から聞いた。 別に隠すこたぁねぇだろ?」
「クラスがちげぇから、 あまり良く知らねぇんだ。 目が悪りぃのか、 分厚いメガネかけてるな……」
「恐らくメガネはカモフラージュだ。 なぁ、ピンク頭紹介してくれよぉ♪」
「ば、馬鹿言うな! アイツとは別クラスで話したこともねぇんだぞ?」

 ヤス子の無茶ぶりに、蘭子は取り乱した。

「つうか、アイツには関わらねぇ方がイイぞ? 上級生に目を付けられると面倒だからな」
「あんだよ? 結構詳しいじゃんか? クックック」
「う、うるせぇ、手元が狂うだろ!」

 次に発したヤス子の言葉が、蘭子に決定的なダメージを与えた。

「やっぱよぉ、サチコ先輩みたいな『G』に限りなく近い『F』くらい胸がおっきくないと、超絶イケメンは堕とせねぇか……」
「な、何ぃ!? うっ!」

『ピ! ピュゥゥゥゥゥン』

 蘭子が操作を誤り、敵に突進され、ミスをした。

「おい! 一機無駄にしたじゃねぇか? 今から五十嵐の事はNGワードにすっから! 一回百円だかんな!」

 蘭子が顔を赤くしてそう言った。

「ふむふむ。 そうか、 ピンク頭は五十嵐クンって言うのか♪」
「ヤス、百円な……」



              ◆ ◆ ◆ ◆


アドワーズ 太刀川店――

『REDY GO』

 二回戦の1セット目が始まった。
 開始早々仕掛けたのは、リナだった。

「うらうらうら、うらぁー!」
「ぐっ!」

 一回戦目とは逆に、片桐がガードで反撃をうかがう形となっていた。

「よし! いけぇリナ! やっちまえ!」
「今ですぜアニキ! カウンターだ!」

 次の瞬間、忍者がくるりと女格闘家の後ろに回り、バックドロップを食らわせた。

「ちっ、これを狙ってたのか……くっ!」
「おおっと、その手は食わねぇ!」

 女格闘家が起き上がり様に蹴りを見舞うと、忍者はハイジャンプでかわした。

「ヤベェ、読まれてる」
「どうした? 今度はこっちから行くぜ!」

 忍者は宙返りする際の慣性を利用した蹴りを放つと、女格闘家が宙に舞い、ダウンした。
 さらに、ダウンした女に向かって忍者はハイジャンプし、女の腹に着地した。

『K.O.』

「スゲェ……スゲェぜアニキ!」

 1ポイントを取られてしまったリナ。

「ちっ、やっとパターンがわかってきたってのに……」
「ドンマイ。 次取ってサドンデスに持ち込もう」

 結果的には2セット目も片桐に取られてしまった。

「いよっしゃあ! これで五分、イーブンでぜ?」
「切り替えようリナ、次勝てばイイのよ!」

 リナは片桐に提案した。

「10分休憩にしないか? ここまで長丁場になるとは思わなかったんでな」
「イイだろう。 せいぜい悪あがきするんだな」

 片桐はあっさりと提案を受け入れた。



              ◆ ◆ ◆ ◆


アドワーズ内 女子トイレ――

 三人は女子トイレに行き、作戦を練るつもりらしい。

「ふぅ。マズいな。流れは向こうにある」
「そんな事言わないでよリナ。 あんな奴に触られるなんて、イヤよ!」

 サチコは体全体で拒否反応を示した。

「で、当然策はあるのよね? リナ?」
「フッ、まぁな」

 アケミの問いに、リナは余裕の笑みを浮かべ、そう答えた。

「何なの? 策って?」
「今までの戦いでわかった事がある。 それは……」



              ◆ ◆ ◆ ◆



 10分の休憩時間が終わり、リナたちが戻って来た。

「作戦は決まったか? まぁ、無駄だろうがな」
「無駄かどうかは、試してから決める」

 3回戦の1セット目が始まった。
 女格闘家は瞬時に距離を詰めると中腰となり、忍者にパンチを3発放った。

「ぐっ!」

 忍者は絶妙なタイミングでガードしたが、何故かダメージは通った。

「ガード無視かよ? バグか?」

 たまらず忍者がバックダッシュを決め、距離を取る。
 すると女格闘家は宙を一回転し、蹴りを見舞う。

「イイわよリナ! 有効みたいね?」
「アニキ、しゃがみパンチっス!」
「うるせぇ、黙ってろ!」

 それを聞いた片桐は、ステックを斜め下に入れ、パンチを連打した。

「オラオラ、オラー!」
「くっ!」

 今度は女格闘家がバックダッシュで回避した。

「下Pぐらい知ってるっての! こちとら導入してから毎日やってんだからよ!」
「……バレたか。 ならしょうがねぇ」

 しゃがんだ体制からの攻撃が地味に有効なのを、今までの戦いでリナは感じ取っていた。
 しかし、それは相手も当然知っていたようだ。

「しかし! 俺はそんなセコイ戦いはしない!」
「こんなの、 勝ちゃあイイんだよ!」

 女格闘家は堅実なしゃがみスタイルで忍者ににじり寄る。
 そして下Pを出すタイミングで忍者はしゃがんだ。

「あ! 自分もやってんじゃん! カッコ悪ぅ」 
「うるせぇ! 外野は黙ってろ!」

 取巻き同士が野次を飛ばすが、当人たちはお構いなしで殴り合っている。
 すると女格闘家はしゃがみを解除し、通常のパンチを繰り出した。
 
「負けを認めたか! ウラァ! うぉ!?」
「うぅーう!」ドサ

 忍者が繰り出した下Pを回避した女格闘家が、忍者の腰に手を回し、頭上まで抱え、下に叩き付けた。

「下段投げ!? この状況で?」
「おい、どんな操作すればあんな技が出るんだ?」

 ダウンしている忍者に向け、女格闘家は高くジャンプし、忍者の腹に着地した。

『K.O.』

「よし! ハメ技成功よ♪」
「流れはコッチにある!」

 アケミたちの言った通り、片桐は調子を狂わされたのか動きが鈍くなった。
 2セット目をリナが取り、トータル2-1でリナが勝ち越した。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

クジを引いたら幼馴染と異世界に来て能力身につけた

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:61

斎王君は亡命中

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:2

愚者の狂想曲☆

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:311

召喚勇者の餌として転生させられました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:6,433pt お気に入り:2,248

イートターンセックス 食事と性的な事が入れ替わった世界

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:47

さようなら旦那様

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:46,208pt お気に入り:435

処理中です...