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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード52-13

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ゲームセンター『モナカ 太刀川店』 リナ回想――

 リナが『アドワーズ』に行ってしまった後の『モナカ』で、リナの取り巻きたちは困惑していた。
 後で合流した取巻きの一人が慌てて入って来た。

「おい、何だかヤベェ事になってんぞ?」
「何があったんだ? 説明しろ」

 説明を聞いた取巻きたちのテンションが次第に下がっていく。 

「アネキ、大丈夫かなぁ……?」
「ったりめぇだろ? アネキならサチコ先輩を無事に連れ戻してくれるさ!」

 取巻きたちが状況を整理している。 

「五中の片桐って、あの?」
「片桐英二。 最近じゃ『ダーク・エイジ』とか呼ばれてるってヤツだな……」
「サチコ先輩は、何だってそんなヤツにロックオンされてんだよ?」 
「わかんねぇ。 強いて言えば……」
「あんだよ? ハッキリ言えよ!」
「十中八九、 胸、だろ? ブラのサイズ、 『F70』だぜ?」
「おいおいそれって、限りなく『G』って事か?」
「大人の階段、何段飛ばしだよ!?」
「おかしいな、見た目じゃそんなに無いと思うんだけど……」
「サラシ巻いてぎゅうぎゅうにしてんだ。 型崩れしなきゃイイんだけどよ……」
「カッケェー! くのいちみてぇだな」

 取巻きの一人が、ふと視線を外に向けると、奥にいる客に見覚えがあるようだ。

「お! おーい! 蘭の字じゃねぇか?」
「おー! ヤスか? 久しぶりだな!」

 声をかけられたのは、白いラインが入った緑のジャージを着た、朱色の髪をした少女だった。

「ヤス子、知り合いか? この辺じゃ見ねぇ顔だな?」
「ああ、コイツは蘭子。 ウチの幼馴染だ。 中学上がる時引っ越したんだ」

 ヤス子に紹介され、会釈する蘭子。

「うす。国尼三中の加賀谷蘭子、 ヨロシク」
「アタイらは太刀川四中だ。 ココをアジトに使ってる」

 紹介を受けた蘭子だったが、あまり関心はないようだ。

「ときに蘭の字、おめぇ、ココに何の用だ?」
「ココしかねぇだろ? 『レトロコーナー』、 やりに来たんだよ『ギャラデウス』をな」
「お、わかってんじゃん。 目の付け所が蘭の字らしいや!」

 上機嫌なヤス子は、そう言って蘭子の肩をバンバンと叩いた。

「あ、そだ! おめぇ、『ディグデグ』出来るか?」
「あ? ああ。 最高で128面までなら……」

 それを聞いたヤス子たちが、顔を見合わせた。

「……ホントか? それ?」
「どうしても席を外さなきゃならなくってよ……それがなきゃもうちっと進んでたと思う」
「あんだよそれ?」
「一時間以上やってりゃわかんだろ? ……便所だよ」

 蘭子は少し顔を赤くして言った。

「……イケる。 おい蘭の字、頼みがある」
「ヤス? 何をやらせるつもりだ?」
「『ディグデグ』、100面トライしてみてくんねぇか?」
「あ? マジで言ってんのか? 時間潰しならもう少しマシなもんを――」

 蘭子に被せるように、ヤス子は得意げに言った。 

「見たくねぇか? 幻の256面を……」
「無理だ! 無謀過ぎる! おめぇはわかってねぇ! あの苦行を……」

 蘭子が手をブンブン振りながら断固拒否の構えを見せた。

「一人だけクリアした人がいるって、 知ってっか?」
「ああ、 聞いた事あるけどそれ、都市伝説だろ?」

 ヤス子の話を完全否定する蘭子に、ヤス子は言った。 

「実は、 実話なんだな。 会ってみたくねぇか? その人に」
「何? 会えるのか? ヤス!」

 予想以上に食いついた蘭子に、ヤス子たちは大きく頷いた。

「おおよ。 なんつったってそのお方は、我らがアネキ、篠田サブリナ様だからなっ!」ビシッ

 ヤス子が奇怪なポーズを取っているのは無視し、蘭子は唸った。

「名前だけなら聞いた事がある。 『クレイジー・ボルダラー』で、エクストラステージをクリアした、 とか……」
「それだけじゃねぇぞ? イイか? アネキはな……」

 ヤス子がリナの偉業の数々を自慢げに語っていると、取巻きもいつしか集まって来た。

「な? アネキのスゴさ、わかったろう?」
「確かにスゲェな……是非ともお会いしてみたいぜ」

 目を輝かせてヤス子に食いつく蘭子に、ヤス子が提案した。

「紹介してやる代わりに、アタイらの頼み、聞いてくれよぉ」
「やるだけ、やってみるか……」
「そう来なくちゃ♪」

 ヤス子と取り巻きがニヤリと笑い、後ろ手で親指を立てた。



              ◆ ◆ ◆ ◆



アドワーズ 太刀川店――

 狂気じみた笑顔で、片桐がリナに言った。

「折角来たんだ。 俺と遊んでもらおうか?」
「それは、サチコを賭けた勝負か?」
「そうとってもらってもイイよ♪ 俺が負けたら、 何もしないで今日はお開きにする」
「アタイが負けたら?」

 リナの問いに、片桐は狂気じみた顔を一層歪ませながら言い放った。

「そうだな……宴の場所を『とまと』に移して、俺に『ご奉仕』するんだ。 お前たち三人でな♪」
「アニキ、それじゃあ4Pになっちまうぜ?」
「なっ……んな事出来るか!? キモ過ぎ!」

 アケミが青ざめた顔で全否定した。

「アニキ、レンタルルームで『スマブロ』でもやるんスか? なんつって」

「「「ハーッハッハッハ!!」」」

 冗談を言って爆笑する取巻きの男子たち。
 すると片桐がさっきより低い声で取巻きに言った。

「……ちっとも笑えねぇな。 お前、罰として『アレ』買って来い」
「『アレ』っスカ? はて、何でしょうね?」
「フッ、とぼけんじゃねぇ!『明るい家族計画』に決まってんだろ? とっとと行きやがれ!」

 周囲の温度が急激に下がっていき、使い走りの男子は身震いした。

「で、ですよねぇ……ちょっくら行って来やす」ピュー
「わかってんだろうな? 一番高けぇやつだぞ!」

 使い走りはいそいそと店を出て行った。
 片桐はリナに向き直った。

「そう言うこった。 お前たち一応聞くが、 今月、 まだ来てねぇよな? アノ日」

 リナ以外の二人の顔が、次第に赤くなった。 

「信じらんねぇ……狂ってやがる」

 そう言いながら、二人はリナの後ろに立ち、小刻みに震えていた。
 腕を組んで微動だにしなかったリナが、ゆっくりと口を開いた。

「で? 何して遊ぶんだい? こちとら忙しいんだ、 とっとと終わらせないとカワイイ後輩たちが待ってるんでね」
「なっ!? このアマ、口の利き方に気を付け――」
「止めろ! イイぜ。 選ばしてやるよ。 好きなもんでやろうぜ♪」

 片桐はまた『アノ顔』になり、リナに近付いた。
 リナはサチコの方を向き、話しかけた。

「あれか? 最近入荷した『バーチャ・ファイターズ』とやらは?」
「うんそう。まだ攻略されて無いから、お互いにハンデになると思ったんだけど……」

 リナは二台が背中合わせに設置された白い筐体を見て、片桐に言った。

「面白れぇ、 アタイもコレで勝負する!」

 リナが自信満々に宣言すると、片桐は思わず吹き出した。

「プッ、イイのか? 見た感じコイツに関しては初心者みたいだが?」
「ああ。 今日が初めてだ!」

 リナは片桐の煽りには一切動じず、腕を組んで仁王立ちしている。
 リナの暴挙にたまらずアケミたちがリナに言った。

「リナ! それは無謀じゃないの?」
「対戦ゲーはアタシらの方が得意なくらいでしょ? いくらアンタでも……」

「問題ねぇよ。 余裕でボゴってやるぜ!」

 アケミたちの心配をよそに、リナは強がった。 

「……イイ覚悟だ。 お前も今日で『バーチャ処女』、 喪失だな? クックック」
「黙れ! キモい発想すんな! ぶん殴るぞ!」

 こうして、リナVS片桐の勝負が決まった。
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