Tactical name: Living dead. “ Fairies never die――. ”

されど電波おやぢは妄想を騙る

文字の大きさ
4 / 12
Chapter One. 軍役時代。

Report.04 軍人としての最後の任務を完遂する。【前編】

しおりを挟む
 ファーストクラス・コンバットアラート第一種戦闘配備を告げる緊急警報が鳴り響いた直後、作戦中を示す赤い照明へと切り替わる室内。

 だがしかし。
 そんな状況になろうとも、俺は言わずもがなだがフェイトにしても、全く慌てる素振りは見せない。マイペースを崩さず、話しを続ける。

「フェイト。実は俺はな……本日付けで小隊長を解任、軍籍も剥奪される身だ。一応は尋ねるが……俺が出れなくても単独で出るのか?」

 脇に置いてあった可愛いらしい柄のバスタオルを手渡しつつ、そう尋ねてみる。

「今までのボクなら、そう命令が下れば、そうせざるを得なかったね。でも今現在は違う。下された命令に対し盲目的に従うことはせず、するかな? 理由はさっきのユージからの命令――違うね、お願いだね。それでボクの優先順位に関するアルゴリズム問題を解決する為の思考が、ユージ最優先へと上書きされたから」

 バスタオルを受け取ると、頭をゴシゴシと拭きながらそう答えてくれた。

「そうか。じゃあ、どうするべきがモアベターいちばん良いか。なんだが……実は選択肢があるようで、あまりないんだよな」

 今現在、俺の取れる行動の選択肢は、大きく分けて三つ。
 何もしないってのがまず一つ。
 だがしかし、当然、それは選ばない。

 残る選択肢は二つ。
 普通に小隊を率いて、一緒に出撃する、だ。
 俺が軍籍を剥奪されるのが『現時刻をもって』ではなく『本日付け』となっている為だ。
 従って今日までは軍に在籍している身である以上、出撃命令が下れば……それに従わざるを得ない。
 そうでないと、敵前逃亡に問われる場合もあり得る。

 残った最後の選択肢。
 これ幸いと混乱に乗じ、フェイトを連れ出し行方をくらますって案なんだが……。

「親爺さんや中佐、世話になった戦友らを見捨てるわけにはいかない以上、スクランブル緊急出撃発令の有無以前に、参戦する腹積りで居た方がモアベターだな」

 フェイトの生着替えをガン見する趣味はないので、背を向けて思案する。

「軍規違反は日常茶飯事なのに?」

 拭き終わったバスタオルを俺の背後から頭に被せ、そう言う意地悪を言ってきやがる。

「最後だからな、素直に従う。ただフェイトにシャワーを浴びさせ、ゆっくり身支度を整える時間くらいは取らせてやりたかったが……済まないが着替えを急いでくれ」

 バスタオルを被ったまま、側にある着替えを背後のフェイトに手渡してやる。

「ユージ、ボクが浸かってる時さ、しっかりと見てたよね? 今更、そんな気を遣わなくても大丈夫だけど?」

 背後から手を伸ばし着替えを受け取ると、悪戯っぽく問いかけてきた。
 しかも空いてる方の手で俺の尻を抓って。

「……怪我が治ってるかどう――嫌、言い訳は男らしくないな。済まん、あんまりにも寝顔が可愛かったもんで……つい」

 そう素直に謝る。

「ま、良いか。ユージだもんね」

 そう言って俺の背中から離れると、カチャカチャと音がする。
 どうやら着替え始めたようだ。

 丁度その時、通信機を兼ねる俺のスマートウォッチからコールサインが鳴り響く。
 ちなみに出撃のオーダー命令ではなくリクエスト要請。発信者はステファニー中佐だ。
 通話に出ると、申し訳なさそうな中佐の顔が映る。
 それはやや余裕のない、強張った表情。

「中佐、このアラートは?」

『ユージ、除隊の件は、一旦、反故だ。当基地は現在、何者かにハッキングを受けている。マザーが堕とされた為、インターセプト迎撃システムが機能しない状況下に置かれている。同様にセキュリティもダウンしている。居住区のライフラインだけは、元々、スタンドアロン独立した制御なので、今のところ影響もない。だがしかし、このままでは――』

「ステファニー中佐。外部にエネミー敵影をキャッチした。と」

『フェイトか……流石だな。その通りだ。おそらく一時間もしない内に、エンゲージ交戦状態へと移行する。エネミーを捉えて直ぐに、こちらのレダーもジャミング電波妨害を受け潰された……つまり現状、それ以降の詳細の一切が不明だ。尚、補足したエネミーの数は、ドローンを含むエアボーン空挺部隊タスクフォース機動部隊と合わせ、およそ――三万」

「状況把握しました。速やかに作戦行動に移ります」

「中佐、俺も出る」『悪いが頼む』

 そして通話を終えると、振り返ってフェイトを見る。

「では、ユージ。フェアリーズ、個体名フェイト。これよりファーストクラス・コンバットに移行します。兵装準備後は直ちにカタパルト射出口へと移動。以後は別命、或いはスクランブルが発令されるまで、一時、待機とします」

 軍の形式に倣った敬礼を披露するフェイト。
 華奢な少女然とした容姿に、軍装がとてもシュールに思う。
 普段から見慣れている筈だが、今日は特に。
 あと、肩にかかる濡れた髪が申し訳なくも思う。

「オーライ。俺もドック格納庫で使えそうな武器を適当に見繕って、直ぐに向かう。合流次第、迎撃に打って出るぞ」

「イェッサー」

 そうフェイトに伝えた直後、急ぎ出撃準備を整えに向かった――。


 ◇◇◇


“ 現在進行中の敵勢力、所属不明、凡そ三万。総員、直ちに第一種戦闘配備。機動各小隊は準備整い次第、出撃願います。尚、出撃後は速やかに目標を迎撃に向かって下さい。防衛各部隊は可及的速やかに所定の配置に就いて下さい。出撃する機動部隊の援護を願います。救護班各隊は基地周辺にて警戒体制のまま別命あるまで待機。非戦闘員は速やかにシェルターへと避難願います。尚、これは演習ではありません。繰り返しします―― ”

 アラートと共に物々しく流れるアナウンス。
 兵員が慌ただしく動き回る中、それを避けて親爺おやっさんの元へ。

「親爺さん、俺のコンバットスーツ戦闘強化服は直ってやがるか?」

「誰に物を言ってやがるっ! バッチこいに決まってんだろうがっ!」

タクティカルアクター戦術兵装も?」

「当然だっ! スレイプニル戦術級機動二輪にしても、いつでも出張れるように整備済み、常に万全にしてあるってのっ! 機械弄りは儂の生き甲斐だからなっ!」

「こっち方面だけは流石だな。愛してるぜ、親爺さん」

 こんなヒッキーな准将でも、実は超一流かつ凄腕の技術屋――メカニック機械工ってんだから摩訶不思議。
 
「ユージ、歪んだ愛に応えてやる。あれも持ってけ。ロールアウト完成配備したばかりの電磁射出式 ヒュージ・キャリバー大口径対物ライフルだ。大概な威力に恐れ慄け――って、真面目な話し、扱いには気をつけろよ? 味方を巻き込んだら笑えんからな?」

 整備台に載せてある、銃身の長い巨大な銃を指差し、単に照れ隠しの仕草か、或いは不適切極まりないエグい笑顔を隠す為か、ワークキャップを正しく戻すと、目深に被って表情を隠した。

「了解、フェイトに持たせる。あれを有効利用する戦術となると……俺らの小隊が真っ先に出張るのがモアベターいちばん良いだな」

「けっ、モアベターなんて全時代的過ぎだろ? 歳、幾つだよ? 現代では既に死語だろうが。解り易くベストと言え、ベストと。儂ならまだしも、若い世代の兵員には通用せんぞ?」

「ああ、俺の世話になってた教官の口癖でな? 随分と前に、戦場でコロッと逝っちまったけどな」

「そうか……茶化して悪かった。――ユージ、先行するのは良いが、御体満足で生きて帰ってくるってのがだ。儂より先に逝くなよ」

 握り拳を俺に向け突き出してくる。

「誰に物を言ってやがる、親爺さん。“ リビングデッド生きた死体 ”のTAC戦術的呼称持ちな俺だぜ? 戦場で死んでも、ちゃんと帰ってくるさ」

 俺も握り拳を突き出して、親爺さんと打ち合わす。

「そうだったな……違いない。なら今度はちゃんと。意図は解るな?」

 背中を思いっきり平手打ち。気合いを入れられて送り出される。

「えっと……それについては約束しかねるわ」

 頭をポリポリと掻いて、申し訳なさそうに答えておく。
 敵側はおよそ三万。
 流石に御体満足の状態で、無事にとは思えんし、一発も被弾しない自信も皆無だからな――。



 壊して帰ったら……俺、殺されるかも。



 ――――――――――

 


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...