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Chapter One. 軍役時代。
Report.05 軍人としての最後の任務を完遂する。【後編】
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親爺さんからコンバットスーツとヒュージ・キャリバーを受け取った俺は、カタパルトデッキへと急いだ。
「ユージ」「済まん、遅れた」
既にフェイトらフェアリーズは待機中。
俺のタクティカルアクターであるスレイプニルも準備してくれていた。
「フェイト、親爺さんからの餞別だ。制御ROMとリンクして、マニュアルをダウンロードしておけ」
「イェッサー」
ヒュージ・キャリバーをフェイトへ預け、急ぎコンバットスーツを装着する。
「出撃後、テリアは先行。タロスは後方で食い止めて」
俺が準備を整える傍らでヒュージ・キャリバーを装備しながら、同行する二人のフェアリーズにブリーフィングを施すフェイト。
「テリア、了解。撹乱しつつ先行します」
返事を終えたテリアは、口にバイブレーション・ソードを咥え、犬のような四つん這いの姿勢――陸上競技で言うクラウチングスタートの姿勢になり、カタパルトデッキで待機する。
外見は犬娘の容姿で、獣人と言えば一発。
たぶん設計者の趣味丸出しなんだろう。
名は体を表すと言うが、赤茶色の犬耳ヘアーが示す通り、猟犬の特質をその身に宿している。
嗅覚、聴覚、視覚などの索敵能力に特化し、四つん這いで走る機動力も、他の追従を許さないほどに群を抜いている。
機動特化の彼女には、別段、足代わりの乗り物は必要とせず、単体で偵察任務に陽動作戦、敵陣の撹乱を余裕で熟す。
「タロス、了解。壁役は任せな! ただのアーマノイドなんざ一歩も通しやしないよ! 核弾頭だろうが弾き返してやるさね!」
俺達のやや後方でホバー型ドローンに乗り、畳んでいる巨大なシールドを自慢げに掲げて力強く応えるタロス。
ギリシャ神話に登場する巨大な自動人形の名を冠するだけあって、その名が示す通り二メートルを超える巨躯。
ボディビルダー真っ青な、凄まじい筋肉に包まれた強靭な身体が最大の特徴ゆえに、外見も少女とか女性のそれとは言い辛く、更に脳筋。
常に力技一本、なんでもかんでもパワーで押し切る性格の彼女は、自慢げに掲げている盾を展開し、強固な要塞となって敵の進行を食い止める役割を担う。
加えて、本来であれば装甲車などに取り付けて運用するほど巨大な重武装を、軽々と肩に背負っている。
そのMML――マルチプルミサイルランチャーで迎え撃つと言った、固定砲台役をも担う。
そう言った理由もあり、超重装備かつ巨躯で鈍重なタロスのみ、移動手段としてのホバー型ドローンに乗せられての射出となる。
「二人とも無茶は駄目。ボクのヒュージ・キャリバーの射程に入り次第、先ずは一気に数を減らす。着弾効果範囲、そこから割り出す安全圏、射程圏からの退避、戦線からの離脱ルート及びタイミング、退避後の待機ポイントなど、各種戦術情報もボクにダイレクトリンクで同時にシェア。通信チャンネルはホット、リニューアルはリアルタイムに」
「「ラジャー」」
そしてフェアリーズ達の指揮を担う、俺の頼れる相棒たるフェイトは、プロトタイプの末っ子――七体目。
数々の実験の為、様々な戦場に送り込まれるも、過酷な実戦を耐え抜き最後まで生き抜いた、唯一無二の個体となる。
既に失われた六体のプロトタイプには、後に実戦配備されたマスプロ・フェアリーズと区別する為の便宜上から“ ロストナンバーズ ”と言うTACが、あとから与えられている。
後世に続くインプロやマスプロなどの、現存する全てのフェアリーズのベースとなった、オリジンボディでもある彼女。
姉妹達の設計思想のその全てを内包し、如何なる戦略、戦術級の作戦にも、即時、順応可能な汎用性に特化した個体となる。
兵器として産み出され、戦うことを宿命つけられ、命令に縛られる哀しい運命を背負わされた、全てのバイオノイド達の起源にして頂点。
現状、最強を誇るフェアリーズ――それがフェイトだ。
俺にしてみれば、共に命を賭して歩む彼女が、実際、何であろうとも、大切な相棒と言う不変の事実に、未来永劫、相違はない――。
◇◇◇
とっくに準備を済ませ、リフトで待機している俺達に、ようやく順番が回ってきたのか通信が入る。
(やっとか。随分と待たせやがって)
通信を受けると、スマートヘルメットのバイザーの片隅に、ナビゲーターが映し出される。
緊張しているのか、表情がかなり強張っている若い男性ナビゲーター。
「――あれ、チェイミーは?」
チェイミーとは、普段、俺の担当をしているナビゲーターで、小動物っぽさがウリの韓国籍の女性――チャン・ミュウ軍曹の愛称。
美人ではないが、言動や仕草が可愛らしいので、殺伐とした戦況でも随分と癒される。
特に弄ったあとのリアクションが面白いので、通信の度に良く揶揄っていたり。
「――申し訳ありません、ユージ少尉。チャン・ミュウ軍曹も出撃されるそうなので、代理で自分が入りました。――出撃どうぞ」
(愛玩小動物が狩りに出たら、逆に狩られやせんか? あいつ……一応の軍曹、ヘタレもいいとこだし……大丈夫なのか?)
「了解。第一小隊“ ノーライフキング ”――ユージ、フェイト、テリア、タロス、以上の四名。これより迎撃に打って出る。――皆、遅れるな」
「「「イェッサー」」」
「尚、戦闘領域内はジャミングが強く、こちらからの指示は届かないかと思われます。エンゲージ後は各自の判断でお任せします」
そう伝え終えると、敬礼で見送ってくれる男性ナビゲーター。
(まぁ……エンゲージするまでの周辺情報だけでも、ありがたいと割り切っておくか)
「了解だ、任せろ。――スレイプニル、ユージ少尉、出る」
スレイプニルのスロットルを握り締め、そう答える。
「――同じくフェイト、出撃します」
スレイプニルの後部座席に乗っているフェイトも、射出の重圧に備え、身構えつつ同様に答える。
「テリア、少尉に続きます」
クラウチングスタイルから腰を浮かせ、射出の勢いに乗り一気に飛び出せるように準備をする。
「タロス、しんがりは任せな!」
ホバー型ドローンに身を伏せ、射出の衝撃に備える。
「――どうかご無事で」
男性オペレーターから伝えられた直後、シグナルがグリーンへと変わり、カタパルトデッキから勢い良く射出された――。
――――――――――
「ユージ」「済まん、遅れた」
既にフェイトらフェアリーズは待機中。
俺のタクティカルアクターであるスレイプニルも準備してくれていた。
「フェイト、親爺さんからの餞別だ。制御ROMとリンクして、マニュアルをダウンロードしておけ」
「イェッサー」
ヒュージ・キャリバーをフェイトへ預け、急ぎコンバットスーツを装着する。
「出撃後、テリアは先行。タロスは後方で食い止めて」
俺が準備を整える傍らでヒュージ・キャリバーを装備しながら、同行する二人のフェアリーズにブリーフィングを施すフェイト。
「テリア、了解。撹乱しつつ先行します」
返事を終えたテリアは、口にバイブレーション・ソードを咥え、犬のような四つん這いの姿勢――陸上競技で言うクラウチングスタートの姿勢になり、カタパルトデッキで待機する。
外見は犬娘の容姿で、獣人と言えば一発。
たぶん設計者の趣味丸出しなんだろう。
名は体を表すと言うが、赤茶色の犬耳ヘアーが示す通り、猟犬の特質をその身に宿している。
嗅覚、聴覚、視覚などの索敵能力に特化し、四つん這いで走る機動力も、他の追従を許さないほどに群を抜いている。
機動特化の彼女には、別段、足代わりの乗り物は必要とせず、単体で偵察任務に陽動作戦、敵陣の撹乱を余裕で熟す。
「タロス、了解。壁役は任せな! ただのアーマノイドなんざ一歩も通しやしないよ! 核弾頭だろうが弾き返してやるさね!」
俺達のやや後方でホバー型ドローンに乗り、畳んでいる巨大なシールドを自慢げに掲げて力強く応えるタロス。
ギリシャ神話に登場する巨大な自動人形の名を冠するだけあって、その名が示す通り二メートルを超える巨躯。
ボディビルダー真っ青な、凄まじい筋肉に包まれた強靭な身体が最大の特徴ゆえに、外見も少女とか女性のそれとは言い辛く、更に脳筋。
常に力技一本、なんでもかんでもパワーで押し切る性格の彼女は、自慢げに掲げている盾を展開し、強固な要塞となって敵の進行を食い止める役割を担う。
加えて、本来であれば装甲車などに取り付けて運用するほど巨大な重武装を、軽々と肩に背負っている。
そのMML――マルチプルミサイルランチャーで迎え撃つと言った、固定砲台役をも担う。
そう言った理由もあり、超重装備かつ巨躯で鈍重なタロスのみ、移動手段としてのホバー型ドローンに乗せられての射出となる。
「二人とも無茶は駄目。ボクのヒュージ・キャリバーの射程に入り次第、先ずは一気に数を減らす。着弾効果範囲、そこから割り出す安全圏、射程圏からの退避、戦線からの離脱ルート及びタイミング、退避後の待機ポイントなど、各種戦術情報もボクにダイレクトリンクで同時にシェア。通信チャンネルはホット、リニューアルはリアルタイムに」
「「ラジャー」」
そしてフェアリーズ達の指揮を担う、俺の頼れる相棒たるフェイトは、プロトタイプの末っ子――七体目。
数々の実験の為、様々な戦場に送り込まれるも、過酷な実戦を耐え抜き最後まで生き抜いた、唯一無二の個体となる。
既に失われた六体のプロトタイプには、後に実戦配備されたマスプロ・フェアリーズと区別する為の便宜上から“ ロストナンバーズ ”と言うTACが、あとから与えられている。
後世に続くインプロやマスプロなどの、現存する全てのフェアリーズのベースとなった、オリジンボディでもある彼女。
姉妹達の設計思想のその全てを内包し、如何なる戦略、戦術級の作戦にも、即時、順応可能な汎用性に特化した個体となる。
兵器として産み出され、戦うことを宿命つけられ、命令に縛られる哀しい運命を背負わされた、全てのバイオノイド達の起源にして頂点。
現状、最強を誇るフェアリーズ――それがフェイトだ。
俺にしてみれば、共に命を賭して歩む彼女が、実際、何であろうとも、大切な相棒と言う不変の事実に、未来永劫、相違はない――。
◇◇◇
とっくに準備を済ませ、リフトで待機している俺達に、ようやく順番が回ってきたのか通信が入る。
(やっとか。随分と待たせやがって)
通信を受けると、スマートヘルメットのバイザーの片隅に、ナビゲーターが映し出される。
緊張しているのか、表情がかなり強張っている若い男性ナビゲーター。
「――あれ、チェイミーは?」
チェイミーとは、普段、俺の担当をしているナビゲーターで、小動物っぽさがウリの韓国籍の女性――チャン・ミュウ軍曹の愛称。
美人ではないが、言動や仕草が可愛らしいので、殺伐とした戦況でも随分と癒される。
特に弄ったあとのリアクションが面白いので、通信の度に良く揶揄っていたり。
「――申し訳ありません、ユージ少尉。チャン・ミュウ軍曹も出撃されるそうなので、代理で自分が入りました。――出撃どうぞ」
(愛玩小動物が狩りに出たら、逆に狩られやせんか? あいつ……一応の軍曹、ヘタレもいいとこだし……大丈夫なのか?)
「了解。第一小隊“ ノーライフキング ”――ユージ、フェイト、テリア、タロス、以上の四名。これより迎撃に打って出る。――皆、遅れるな」
「「「イェッサー」」」
「尚、戦闘領域内はジャミングが強く、こちらからの指示は届かないかと思われます。エンゲージ後は各自の判断でお任せします」
そう伝え終えると、敬礼で見送ってくれる男性ナビゲーター。
(まぁ……エンゲージするまでの周辺情報だけでも、ありがたいと割り切っておくか)
「了解だ、任せろ。――スレイプニル、ユージ少尉、出る」
スレイプニルのスロットルを握り締め、そう答える。
「――同じくフェイト、出撃します」
スレイプニルの後部座席に乗っているフェイトも、射出の重圧に備え、身構えつつ同様に答える。
「テリア、少尉に続きます」
クラウチングスタイルから腰を浮かせ、射出の勢いに乗り一気に飛び出せるように準備をする。
「タロス、しんがりは任せな!」
ホバー型ドローンに身を伏せ、射出の衝撃に備える。
「――どうかご無事で」
男性オペレーターから伝えられた直後、シグナルがグリーンへと変わり、カタパルトデッキから勢い良く射出された――。
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