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Chapter One. 軍役時代。

Report.02 基地を去る前に会っておきたい人物。【前編】

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 執務室をあとにした俺は、碌に戻ってもいやしない宿舎へと足を運んだ。

 来る日も来る日も、任務に続く任務。
 生活の大半をベースキャンプで過ごしていた。
 そう言うわけで、家具と呼べるそれらしい物は必要なく、置いてすらいない。
 僅かばかりの生活必需品と数着の軍装、あとは替えの下着があるくらい。
 部屋を引き払う為の身支度なんて、態々、する必要すら皆無なほど物がない。

「持って出る物はこんなもんか。あとは処分してもらえば良いな」

 小一時間程度でちゃっちゃと手荷物を纏め、とっとと宿舎をあとにした俺は、この駐屯基地を離れる前に、どうしても会っておきたい人物の元へと向かうのだった――。


 ◇◇◇


 次に向かった先は、基地内にあるドッグ格納庫
 その一角に併設される、銃火器などの武装が保管されているアーモリー兵器庫だった。

 保管されている物が物だけに、当然、幾重にもセキュリティが施され、常に厳重に管理されている所。
 俺は言わずもがな。用事があろうと誰かれ構わず、気軽に入れる場所じゃない。

 面倒臭いが、エントランスに設置される、チェックイン・ゲート入出管理所に立つ見張り二人に、俺のドッグタグ軍の認識票を提示したのち、用件を伝える。

 まずは全身隈なく厳しいボディチェックを受け、次にバイオメトリックス・スキャナ生体認証機による、虹彩認証と指紋認証での本人確認を経て、ようやく先へと通される。

 そして各種セキュリティ・センサーが配置された、狭くも細長い通路をひた進み、辿り着いた重々しいドアの前にいる見張り二人に断りを入れ、やっと施設内へと足を踏み入れた。

 アーモリー自体に用事はないので、一番奥にある機械や工具がそこら中に散乱しているかなり小汚い一角へと、足早に向かうのだった――。


 ◇◇◇


「――おう、ユージじゃねぇか」

 軍支給の迷彩ツナギの袖を腰で括り、臭ってきそうな黄ばんだタンクトップを露わにし、ヨレヨレの迷彩柄なワークキャップを前後反対にかぶると言った出立ちの、短髪角刈りで体躯の良いおっさんが居た。

親爺おやっさん、またジャンク壊れた部品漁ってんのかよ? 飽きもせず良くやんよ……」

「儂の趣味にとやかく口を出すな。呼んでもいないのに、儂のサンクチュアリ神聖なる聖域にのこのことやって来るってことは……さてはまたなんかぶっ壊しやがったか?」

「俺をデストロイヤー破壊者みたく言わないでくれる?」

「駆逐艦の別称だな」「要らんわその知識」

「じゃあ……なんの用だ? 儂を連れ戻――」

「ここを離れる前に、単にに来ただけだって」

 目的の場所に辿り着くや否や、そんな失礼なことを平然と仰る人物と、まるでそこいらのおっさんとでも話すかのように、軽い口調で受け答えする。

「あぁ……。なんだ? また任務で離れるのか? 忙しない奴だな、ユージ?」

「こんなとこで油売ってないで、真っ当に仕事しろ、仕事」

「ステフに丸投げしてるから儂は良いんだよ! 事務作業は男よりも女が向いている。それに儂はもう隠居だ、隠居」

「都合が悪いと直ぐにそれかよ。相変わらずフリーダムの極みだな。良いんかそんなで? ――で、フェイト何処?」

「ああ、お目当てのなら、いつもの所に。今は調整中だ。培養槽の中で良い夢見てる頃だぞ? ――さては狙って来やがったか。この変態め」

「機械フェチの親爺さんにだけは、そんな風に言われたかねぇけどな?」

 どう見ても小汚いだけのただのおっさんが、厳重に管理されている区画で、暢気にジャンク漁りなんかをしてて良いわけがない。本来ならあり得ない。
 実は階級も身分も俺の遥か上なお人だからこそ、こんなこともまかり通る。


 この基地内で最高位の将官――エルダリィ准将じゅんしょうその人だからだ。
 

 准将の仰る通り、大事な仕事を中佐に丸投げし、厳重に管理されているここに、四六時中、職権濫用で入り浸っているってわけ。
 別の言い方だと、退屈なデスクワークから逃げて引き篭もっている、だな?
 大体、こんな所で油を売ってるから、俺が除隊させられることも知らないんだろうけどな。

「あとさ、腐っても准将だろ? ちょっとは身形にも気を配った方が良くね? 風呂に入るなりしてさ、身綺麗にしたらどーよ? 汗くっさいは見窄らしいわで、ただのおっさん……否、危ない兵隊崩れにしか見えんっての。威厳もへったくれもないし、准将の肩書きも泣くぞ?」

「喧しい! でっかいお世話だ! ユージ、何処ぞの小姑みたいなこと言っとらんで、とっとと去ね!」

 手に持っていたスパナを投げつけてきた。

「――うぉっ、あぶねっ⁉︎ 工具も大事な備品だろっ! 投げんなっ! 大切に扱えってのっ!」

「煩ぇっ! 儂の私物だから良いんだよっ! 早よ去ねっ!」

「全く……」

 いつも世話になって気心の知れた親爺さんだけに、顔を合わせる度に、最後の方はいつもこんな調子の漫才と化す。
 親爺さんも俺の実の親の如く、容赦なくズケズケと言いたい放題だし、俺にしても実の子の如く、言葉を選ばず本音で返しているからな。
 当然、上官だからと言って遠慮なんてしないし、そもそも元からするつもりもない。



 そんな家族ごっこ的な親子のやり取りも、今日で最後になるんだけどな――。



 ――――――――――
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