Tactical name: Living dead. “ Fairies never die――. ”

されど電波おやぢは妄想を騙る

文字の大きさ
1 / 12
Chapter One. 軍役時代。

Report.01 問題児の俺が軍を除隊させられた日。

しおりを挟む
 軍の問題児だった俺は、いつも通りの小言を上官から喰らう為、軍の執務室へと強制出頭を命じられていた。

「失礼します」

 軽くノックをし、執務室の扉を開ける。

「やっと来たか……」

 俺を出迎えたのは、机に肘をつき、切れ長の鋭い目で俺を睨む、かっちりと軍服を着こなす見目麗しい妙齢の女性。
 しかも眼鏡が良く似合う超美人。
 俺よりも二、三歳ほど上なだけなのに、所属する部隊の大隊長と言う立場を担っており、更に俺の直属の上官でもある人。
 色んな意味で切れ者でも有名な、部隊の内外でも大人気のステファニー中佐だ。

「そこの床に座れ」「イエス、マム」

「誰が胡座あぐらで座れと? 正座だ、正座」

「嫌です、マム」

「――あ?」「イ、イエス、マム」

 そこから小一時間ほど、そのままの状態で叱責されまくるが、当然、いつも通りに適当な返事で相槌を打つ。

 そしていい加減、脚が痺れて感覚が薄れてきた頃、中佐の態度がニヤリと急変する。

「さて――」

 徐に席を立ち、正座する俺の目の前にやって来たかと思えば、持っていたハンドポインターを伸ばし、俺の痺れた脚を容赦なくポクポクとしばくわ、ツンツンしだす。

(くっ……地味な嫌がらせを……)

「――軍内部で貴様がどう呼ばれているのか、まさか知らんわけではあるまい?」

 ハンドポインターでポクポク、ツンツンされながら顎を持ち上げられ、中佐の睫毛の長さがはっきり見て取れる距離でそう尋ねられた。

「“ リビング・デッド生きた死体 ”のことでしょうか?」

 一応、平静を装って答えておく。

「そうだ。どんな過酷な最前線に送り出されようとも、所属部隊が全滅しようとも、貴様だけは必ず帰ってくることからついたTACネーム戦術的呼称だ。本部のエースたる“ グリムリーパー戦場の死神 ”にしても、殺しても死なない奴だと呆れていたぞ。実際、その点についてだけは、奴も舌を巻いていたからな」

「勝手につけられた非公式の愛称――いいえ、ですね」
 
「蔑称などではない。を込めたTACだ!」

「左様で……」

(大枠で合ってんじゃん。意味も大差ねーし)

 “ Tactical name ”の略号で“ TAC ”と言う。
 過去の時代に空軍のパイロットと一部の戦略兵器にのみ与えられていた、コードネーム、コールサインとはまた別のタクティカルネーム戦術的呼称――平たく言えば、軍内で非公式で呼ばれるのことだ。
 ある意味で戦術兵器に等しいにも、これが当て嵌めて使われている。

「数々の武勲を挙げ、若干、二十歳ハタチにして小隊長に抜擢され、僅か数年で少尉にまで昇進した貴様がだ! 幾多の戦場で迫り来る敵軍を震撼させた貴様がだ! それほどの実力、実績を誇る貴様がだ!」

 語気荒く説教しつつ、持っていたハンドポインターで痺れた脚を容赦なくしばくしばく。

「何故に命令違反、軍規違反を平然と繰り返す? あまつさえ、作戦行動中に陣頭指揮の上官に対して罵詈雑言、並びに暴行を加えた? 貴様のことだ、そうせざる止むを得ない事情があったのだろうが……最早、私とて流石に庇いきれん」

「現場に理不尽なことを要求するからです。腐った阿呆どもに何を言っても無駄です」

「――まぁ、良い。貴様に説教は無意味だと言うことは、この数年で嫌と言うほど思い知った。どの道、貴様が改心したところで、この決定は変わらん。軍上層部からのお達しである以上、私にもどうにもできん。故にここに貴様の居場所は最早ない」

 切れ長の目を瞑り一度頷く。
 一拍の間をおき開かれた目は、哀しそうに俺を見つめてくる。

「――本日付けをもって貴様を小隊長から解任、並びに軍籍も剥奪。除隊ののち故郷へと強制送還する。軍法会議で裁かれ、極刑に処せられなかっただけマシだと思え」

「軍に未練はないんで、それで構いません。お話しは以上で?」

「焦るな。話しは終わってない。貴様をただ在野に放つのには、あまりにも惜しい……個人的にもな? ――そこでこれだ。貴様の為に、あらゆる手を尽くした私に大いに感謝することだな」

 豊満な胸の谷間から、丸められた紙が取り出される。
 目の前で広げ、内容を読めと見せつけてくる。

「――これは?」

 ヒラヒラと見せつけられる所為で、書いてある内容が解らない。

「解らんか? 貴様の新しい就職先だ。これを持ってそこに行け」

 そう言ったあと、ぞんざいに投げ捨てられる紙。

「了解。中佐の顔を立てる意味でも、一応、有り難く、嫌々でも受けておきます」

「一応でも嫌々でも構わん、そうしてくれ。それとな――」

 いきなりグィっと顎を持ち上げられ、息が掛かる至近距離で、切れ長の目に睨まれた。

「な、なんでしょう?」

「私は貴様を、大層、気に入っている。狡い言い方だが……家族同然のように愛している。実の弟のように、な? くれぐれも生き急ぐ真似だけはするな。私を悲しませるな。貴様が有事の際には世界が敵になろうとも、私が立場を追われようとも、全てを捨てて――に味方してやる」

 そう力強く言い切ると、キスとは呼べない程度にほんのりと軽く――唇を重ねてくれた。

「最後の最後で駄洒落っぽくカミングアウトで照れ隠しですか、中佐? まぁ……実を言うと……俺も密かに慕っておりましたけどね」

「そうか……」

「今まで色々とお世話になり、尻拭いばかりさせてお手を煩わせ、本当にすいませんでした。今回のお気遣いに配慮についても、また嬉しい餞別にも深く感謝致します。心身共に大切になさって下さい」

「ふっ――貴様が去ることで、私の職務的な負担は減るだろうからな。私としてもこんなに嬉しいことはない。だがしかし、弄り甲斐のある貴様が居ない寂しさは……まぁ良い」

「中佐――いえ、義姉ねえさん、今日こんにちまで有難う御座いました」

たもとを分かつ最後の日に、近しい者からの愛称ステフで呼んでくれようとはな……」

おおやけの場では遠慮致しますけどね。――では、ステフ義姉ねえさん……お達者で」

「うむ、貴様もな……」

 最後に痺れる脚を我慢して姿勢を正し、礼を尽くした軍の形式に則った敬礼を披露する――せめてもの謝罪と感謝、僅かばかりの敬意を込めて。


 そして俺は世話になったステフ義姉さんに見送られ、執務室から退出した――。



 ――――――――――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...