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バックストーリー集
バックストーリー No.2「椿」
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NO.2並行世界線0023
ゲル状の液体の中に裸でいたのが、最初の記憶だった。
目が覚めると、そこは液体に満たされた大きなカプセルの中。
目が覚めるなりカプセルの中に満たされていたゲル状の液体は、外に漏れる様にして抜かれていき、最終的にカプセルの中を満たしていた液体は空となり、中に入っていた少女はカプセルの外へと放り出された。
痛み、それが初めての感触だったのかもしれない。
人であり人ならざる者。それが彼女であった。
人でありながら、動物の遺伝子を組み込まれ、人体に変異を見せたのが彼女。
研究者達から与えられた名前は「椿」であった。
頭部には、狼を彷彿とさせる二つの耳。そして尾てい骨辺りからはモフモフとした尻尾が生えていた。
白銀色の髪と同じ色とした耳と尻尾は、さながら白い銀世界を駆ける狼の様であった。
◇◇
しかし、外の世界を知らぬ少女の前に立ちはだかる現実と言うのは非情であった。
毎日毎日、耐え難い苦痛と終わらない戦闘訓練の日々。
薬剤を、鋭い注射の針で投与され毎日毎日同じ様に改造を施された者同士で戦い、負ければ叱責と罰が待っていた。
優秀だったのか、それとも相手が無能なだけだったのかは分からないが椿はそんな劣悪で目を背けたくなる様な世界を前にしても臆する様な事はなかった。
獣の遺伝子をその体に組み込まれた事で、並の人間では絶対に得られない様な力と身体能力。
更に口の中に生えてきた狼さながらの鋭い牙は、敵の頸動脈を噛みちぎるには丁度良い代物であった。
この研究施設と言う、閉鎖的で狭い世界の中。
椿は自らの生を伸ばし続けて生き長らえる為にただ只管になって対抗馬をただ潰していく。
自分が生きる為に、他者の犠牲は仕方の無い事だ。
異常かもしれないが、彼女にとってはこれが普通だった。
しかし、負け知らずして生き長らえていくにも限界が存在する。
誰かを肉塊に変えれば、また新しい奴らが現れる。
鶏が卵を何度も産む様にして、自分の存在意義を証明しようと自分に牙を向く奴は何人も存在した。
冷たい部屋の中、ろくに休める様な場所もなく、自分だけの空間を生み出す事すらも出来ずに長い時間を椿を過ごしていた。
そうなれば、時を刻むにつれて彼女の体が衰弱していくのは明白であった。
◇◇
だからなのか、それとも自分の実力が及ばなかったのか、はたまた運が悪かったのか。
気が付けば、何度も何度も傷付きながら戦っていた自分は負けていた。
相手は昨日新たに目覚め、生まれて直ぐに狂戦士としての才覚を見せた者。
遅咲きながら、その実力は9歳になるまで何年も戦い続けていた自分の実力を簡単に上回っていた。
負けた、自分は確実に負けたのだ。
そして敗者である自分の辿る道は死への一択だ。
完璧な兵士としての力を証明出来なければ、安価な毒薬の注入により処分されるだけだ。
しかし、負ければこれが普通。死んで普通、死ぬ事に対して何か恐れる事を……。
◇◇
夜、気が付けば一人。その研究施設から彼女は一人逃げ出していた。
死が迫る事に対して、何か恐怖を抱いたのだろうか。
何故かは分からないが、このまま死ぬぐらいならせめても外へと逃げる選択を取る。
誰がそう判断したのかは分からない。
しかし、本能が告げたのか彼女は外の世界へと駆けて行った……。
◇◇
しかし、逃げた所で彼女がすぐに外の世界に適応出来る、訳がなかった。
自分が生活していた研究施設と外の世界は全くと言って別物だ。
何もかもが違う、常識もルールも全てにおいて分からない。
何をすれば良いのか、どうやって生きていけば良いのか分からなかった。
路頭に迷った彼女は人気の無い街の路地裏に一人座り込む。
偶然拾ったボロボロで殆ど破れかけている布を体に包み、何とか暖を取ろうとしている。
どんよりとした天気、雨雲が迫ると同時に、彼女の先行きの見えない不安な心情を表すかの様にして、空からは水の粒が降ってくる。
―――寒い、誰か……。
助けを求める様にして、顔を上げる事も、泣き叫んで、声を上げる事も出来ないまま彼女はただ心の中で声を上げる事しか出来なかった。
―――おい、大丈夫か?
体に降り注いでいた冷たい水の粒が、何かによって遮られた。
恐る恐る椿は顔を上げた。
そこには1人の男が立っていた。年齢は自分と殆ど同じぐらいの見た目だ。
あの日、この冷たい雨降る世界で2人は出会ったと言う。
レイヤ、そして椿。
傭兵としての身分を持つ2人は、この場所で偶然出会ったと言われている。
◇◇
そこからは正に驚きの連続だった。
同じく9歳であるレイヤに拾われて、早十年と言う長い時間が流れていた。
椿は彼と同じ傭兵となり、レイヤと同様に幾多の戦場を彼と共に駆けていた。
そしてこの日も、変わらず終わる事のない戦争を続ける為に敵を滅ぼしていた。
滅ぼしていた、はずだ。
―――レイヤと同じだ。
突然、何かに巻き込まれた。飲み込まれる様にして、血の匂いがする霧と闇と影だ。
呑まれる、一瞬の時。2人はその闇に包まれていく。
完全に闇に呑まれた時、2人が戦場から忽然として消える事に気が付くのに然程時間はかからなかった。
ゲル状の液体の中に裸でいたのが、最初の記憶だった。
目が覚めると、そこは液体に満たされた大きなカプセルの中。
目が覚めるなりカプセルの中に満たされていたゲル状の液体は、外に漏れる様にして抜かれていき、最終的にカプセルの中を満たしていた液体は空となり、中に入っていた少女はカプセルの外へと放り出された。
痛み、それが初めての感触だったのかもしれない。
人であり人ならざる者。それが彼女であった。
人でありながら、動物の遺伝子を組み込まれ、人体に変異を見せたのが彼女。
研究者達から与えられた名前は「椿」であった。
頭部には、狼を彷彿とさせる二つの耳。そして尾てい骨辺りからはモフモフとした尻尾が生えていた。
白銀色の髪と同じ色とした耳と尻尾は、さながら白い銀世界を駆ける狼の様であった。
◇◇
しかし、外の世界を知らぬ少女の前に立ちはだかる現実と言うのは非情であった。
毎日毎日、耐え難い苦痛と終わらない戦闘訓練の日々。
薬剤を、鋭い注射の針で投与され毎日毎日同じ様に改造を施された者同士で戦い、負ければ叱責と罰が待っていた。
優秀だったのか、それとも相手が無能なだけだったのかは分からないが椿はそんな劣悪で目を背けたくなる様な世界を前にしても臆する様な事はなかった。
獣の遺伝子をその体に組み込まれた事で、並の人間では絶対に得られない様な力と身体能力。
更に口の中に生えてきた狼さながらの鋭い牙は、敵の頸動脈を噛みちぎるには丁度良い代物であった。
この研究施設と言う、閉鎖的で狭い世界の中。
椿は自らの生を伸ばし続けて生き長らえる為にただ只管になって対抗馬をただ潰していく。
自分が生きる為に、他者の犠牲は仕方の無い事だ。
異常かもしれないが、彼女にとってはこれが普通だった。
しかし、負け知らずして生き長らえていくにも限界が存在する。
誰かを肉塊に変えれば、また新しい奴らが現れる。
鶏が卵を何度も産む様にして、自分の存在意義を証明しようと自分に牙を向く奴は何人も存在した。
冷たい部屋の中、ろくに休める様な場所もなく、自分だけの空間を生み出す事すらも出来ずに長い時間を椿を過ごしていた。
そうなれば、時を刻むにつれて彼女の体が衰弱していくのは明白であった。
◇◇
だからなのか、それとも自分の実力が及ばなかったのか、はたまた運が悪かったのか。
気が付けば、何度も何度も傷付きながら戦っていた自分は負けていた。
相手は昨日新たに目覚め、生まれて直ぐに狂戦士としての才覚を見せた者。
遅咲きながら、その実力は9歳になるまで何年も戦い続けていた自分の実力を簡単に上回っていた。
負けた、自分は確実に負けたのだ。
そして敗者である自分の辿る道は死への一択だ。
完璧な兵士としての力を証明出来なければ、安価な毒薬の注入により処分されるだけだ。
しかし、負ければこれが普通。死んで普通、死ぬ事に対して何か恐れる事を……。
◇◇
夜、気が付けば一人。その研究施設から彼女は一人逃げ出していた。
死が迫る事に対して、何か恐怖を抱いたのだろうか。
何故かは分からないが、このまま死ぬぐらいならせめても外へと逃げる選択を取る。
誰がそう判断したのかは分からない。
しかし、本能が告げたのか彼女は外の世界へと駆けて行った……。
◇◇
しかし、逃げた所で彼女がすぐに外の世界に適応出来る、訳がなかった。
自分が生活していた研究施設と外の世界は全くと言って別物だ。
何もかもが違う、常識もルールも全てにおいて分からない。
何をすれば良いのか、どうやって生きていけば良いのか分からなかった。
路頭に迷った彼女は人気の無い街の路地裏に一人座り込む。
偶然拾ったボロボロで殆ど破れかけている布を体に包み、何とか暖を取ろうとしている。
どんよりとした天気、雨雲が迫ると同時に、彼女の先行きの見えない不安な心情を表すかの様にして、空からは水の粒が降ってくる。
―――寒い、誰か……。
助けを求める様にして、顔を上げる事も、泣き叫んで、声を上げる事も出来ないまま彼女はただ心の中で声を上げる事しか出来なかった。
―――おい、大丈夫か?
体に降り注いでいた冷たい水の粒が、何かによって遮られた。
恐る恐る椿は顔を上げた。
そこには1人の男が立っていた。年齢は自分と殆ど同じぐらいの見た目だ。
あの日、この冷たい雨降る世界で2人は出会ったと言う。
レイヤ、そして椿。
傭兵としての身分を持つ2人は、この場所で偶然出会ったと言われている。
◇◇
そこからは正に驚きの連続だった。
同じく9歳であるレイヤに拾われて、早十年と言う長い時間が流れていた。
椿は彼と同じ傭兵となり、レイヤと同様に幾多の戦場を彼と共に駆けていた。
そしてこの日も、変わらず終わる事のない戦争を続ける為に敵を滅ぼしていた。
滅ぼしていた、はずだ。
―――レイヤと同じだ。
突然、何かに巻き込まれた。飲み込まれる様にして、血の匂いがする霧と闇と影だ。
呑まれる、一瞬の時。2人はその闇に包まれていく。
完全に闇に呑まれた時、2人が戦場から忽然として消える事に気が付くのに然程時間はかからなかった。
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