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第一章
家族とあの人
しおりを挟むハッと思い出した様にお父様が口を開いた。
「そうだ、レリィ、何が食べたい?」
「お兄ちゃん!カレア、りんご食べた~い!」
「あら、私はさくらんぼが食べたいわ!」
「イベとカレアには聞いていない!」
とっても賑やかで楽しい。ふふっと笑うと、レリィは何が食べたいかと聞かれる。思うままに答えた。
「みんなが好きなのが良い、な・・・?」
「「任せて!今すぐ行って来る!」」
シュンっとお母様とカレアは消えてしまった。瞬間移動した様で、お父様は苦笑いをしている。
お父様によると二人は世界一の行動力を持って居るらしい。研究が大好きで、いっぱい新しい物を開発したりして世の中のために頑張って居るんだって。
凄いと言うと、自慢の家族だろう?と聞かれた。無難に、そうだねと言った。
記憶があった時の僕は・・・凄く幸せだっただろう。
どうして記憶が無くなってしまったのだろう。説明をされて居ないから、今一情報が呑み込めない。教えて欲しいけど・・・気になるけれど・・・なんだか嫌だな。
「・・・レリィ?どうかしたか?」
「あ・・・この部屋って、誰の部屋なんですか?」
そう言えば、と気になっていた事を質問した。本とか剣とかがあるけど、一つ一つ丁寧にお手入れされている様だった。
枕元には何故かクマのぬいぐるみがあるが、統一感があって落ち着く。にしてもなんだこのクマは。白くてもふもふで・・・可愛い。なんだか見ているとソワソワする。
そんな僕を分かったのか、クマのぬいぐるみを取ってくれた。もちもちと頬っぺを触って柔らかさを堪能する。ふと・・・懐かしい気がした。
「レリィ、この部屋はレリィの部屋。私はシンプルで好きなんだ、良いセンスをしているよ。そうそう・・・そのクマは小さな頃からずっと従者・・・いや、友達の人が誕生日プレゼントにくれたヤツだ。その人に・・・会って見るか?きっと泣いて喜ぶぞ。」
「会って、見たいです・・・?」
「ハハっ・・・なんで疑問形なんだい?興味が無いなら別に良いんだ。それと・・・敬語は無しだと言っただろう?」
興味はあるし、喜んで貰えるなら会って見たい気持ちはある。でも会いたいと言ったら我儘になってしまうかも知れないし、自分でも良く分からないから疑問形になってしまった。
そんな僕を怒らず笑ってくれる人・・・なんて優しいのだろう。僕の手を握る手は温かい。
素直に会って見たい有無を伝え、敬語に関しては気をつけますと言った。また敬語だと注意されたのであっと思い、大分遅いが口を手で塞いだ。
目が合うと微笑まれ、髪に手が通った。
心地良かった。
お父様は魔法を放ち、今呼んだと言った。かっこいいと呟くと照れている様だった。僕もなんだか、恥ずかしくなった。
紛らわす様にクマをもちもちして、だんだんクマが餅に見える様になった頃にその人は来た。静かに鳥の囀りを聴きながらもちもちしていたのに。
急にドンガラガッシャンドンドンバーンみたいな音が響いて、ズテンと転んで入って来た。一言で言うと・・・、騙されやすそう。
──────ツキン
ふと、頭が痛んだ。
「失礼します旦那様、お呼びでしょうか?」
何事も無かったかの様に飛び起き、良い姿勢でそう言った。
「ベイン君、楽にして良い。」
「っ・・・ライト様~!!!うえぇ・・・私、ライト様のっ、従者です!名をベインと申しますっ!気軽にっベンと呼んで下さい・・・しくしく・・・」
うわぁ、キャラが濃い。この人と一緒に生活していたと思うと相当僕は阿呆だったの?う、嫌だな。
──────ツキン
「よ、宜しくお願い致します・・・ベン様・・・」
「様?!う・・・他人行儀・・・他人行儀・・・嫌だ・・・」
「ベイン君、それが当たり前になる日は必ず来る。」
ちょっとヤバい人かもしれない。息の仕方がゼェハァしてるし、ずっと泣いてるし・・・。なんか、なんか・・・!
うわぁぁあああ!って感じ!
なんと言うかイライラとは少し違って、面白いかと聞かれたらそうじゃなくて、モヤモヤも少し違くて。落ち着かないと言うか、変な感じ。
ベイン様はスっと僕を見てボロボロ泣いて、お父様は呆れ顔になっている。何となく、涙を拭ってあげた。
なのに余計にボダボダ涙は溢れまくって止まらなくなってしまった。両手で拭うのに涙は溢れていく。目は真っ赤に腫れて痛々しい。どうすれば良いか分からなくて、取り敢えず回復魔法を唱えた。
赤みは引いたのに泣き止まないから終わらない。
──────ツキン
この人が泣くと胸が、頭が痛くなる。
「ラ゙イド様は本当゙にぃぃい゙!〇▲※□゙?*▽☆゙!◎◇∀♂●※~」
ちょっと意味は分からなかったけどベイン様は何処かに行った。少し見覚えがあった気がしたけれど、多分気のせいだろう。
──────ツキン、ツキン
ベイン様にクマの事を聞くのを忘れてしまった。ついでにこのクマのセンスがベイン様なのか心配になって来た。これが絶対良い!と選んだ訳では無さそうだった。・・・性格とか行動とかが。
でも衝動買いとかしちゃいそうな人の気がする。あっちも好きこっちも好き、一目惚れしたとか。あと口にクリーム付けてそう・・・。
──────ツキン、ツキン
そんな事があったなんて気のせいだと思えば、次第に頭の痛みは和らいでいった。
そんな事よりクマのぬいぐるみの名前が知りたい。
「お父様、この子の名前を教えてく、教えて?」
「その子はレリィのクマだ。新しく付けてやれば良い。」
敬語にしない様に気をつけクマの名前を問うと、新しく付れば良いと言われ、自分には無い発想だと思った。僕のお父様は凄い、とっても尊敬する。
このクマはもちもちして居てフワフワで丸っとしている。これを前提として、もちもちしながら考えた。
「・・・この子の名前、もちまるにする。」
「そうか、良い名だな。」
もちもちしてて丸くて。だから、もちまる。名前がフワフワしてるから前提三つを組み込んだ事になる。
でも、どうして深緑のリボンを付けて居るんだろう。不思議に思ってお父様に聞いて見た。
お母様の目の色が深緑らしく、僕はお母様と同じ色をしているらしい。つまりは僕の目の色って事か。先程お母様と話した時の記憶をたどると、確かに深緑色だった気がした。
お父様の目も素敵ですと言えば、また照れて笑ってくれた。
──────ツキン
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