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第一章

疑問と僕自身の

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「「レリィお兄ちゃん!!!ただいま!」」


 目の前には色とりどりの小さい物から大きい物まで沢山の種類の果実が目の前に現れた。いや、お母様とカレアが現れた。

 部屋にはフワっと良い匂いが漂い、花も目に映る。

 色んな事が同時に起き過ぎて目をぱちくりさせていると、お母様はお父様に、カレアは僕の口にマスカットを入れたので、僕達の驚きの声はマスカットによってかき消されてしまった。

 美味しいでしょ?と悪戯に笑って抱き着いてくる二人は、自分達も口にマスカットを含んでいる様だ。それを見て自分の口の中にマスカットが入っていた事を思い出した。

 食べると甘くてみずみずしい沢山の果汁が、噛む度にどんどん出てくる。美味し過ぎて驚きだ。

 無くなったと同時に、次はぶどうを入れられる。もちろんそれも美味しくて。次も次もその次も・・・。美味しい。オレンジも桃もライチも、りんごもさくらんぼも・・・。

 凄く、幸せだった。

 ──────ツキン


 ―――


 一週間位かな。

 皆と居る日々は、ずっと幸せだった。新しい事を沢山教えてくれた。でも、僕以外の三人には何かが欠けている様に見えた。ずっと傍に居てくれるのが不思議で堪らなかった。


 僕が話を振って、仕事の話をした。

 仕事は僕のために休んでいると言った。研究が大好きな二人を、二人を好きなお父様に申し訳無かった。仕事に行くようお願いをした。そうすれば少しだけ、と了承してくれた。

 その代わり、大神官様に面倒を見て頂く事になった。

 三日目位。いつもみたいにお父様と大神官様がお話をするために少し席を外した。僕は、辞書を読んでいた。


 ・・・指でなぞって、声に出す。


 ───スライト

 取るに足らない・くだらない・僅かな・少しばかりの・ちょっとした・・・


 パタンと本を閉じる。


 抑えていた涙さえも、ぼたぼたと溢れて止まらない。自暴自棄になってしまった様に、口元には笑顔が浮かぶ。

 ──────ツキン、ツキン

 僕のために休んでいる・・・・・・・・・・

 違うだろう?ずっと気付いてた。

 僕のせいで仕事を休まなくてはならなかったんだ。現に三人は仕事へと行って居る。本当に僕のせいなんだ。

 僕が居なければ皆にあんな辛い顔なんてさせる事が無かった。あの時いっそ死んでいれば・・・。もっと良い結果があったのかもしれない。

 ──────ズキン、ズキン

 あの時・・・・・・?あの時って、何だ?僕は何を忘れて居るんだ。分からない、教えられて居ないから。結局大事な事は教えてくれない。どうせ、どうせ僕なんて要らないんだ。取るに足らない、くだらない存在なんだ。

 そう理解しても涙は溢れ続ける。

 自問自答を繰り返しても、どんなに拭っても止まらない。口に手を当てても、決して止まらない。試しに手を齧ってみても、目を強く擦っても止まらない。

 止めないとイケナイ。なんでかは分からないけど。早く止めないと、止めないとイケナイのに。止めようと思えば思う程溢れて来る。

 こんな自分を刺せる勇気が、殺す勇気があったのならば。

 迷いなく自分を傷付けた事だろう。それが出来ないのが現実なのだ。逃避しようとしても逃げられないと涙が、僕自身が教えて来る。だから怖いんだ。

 痛いんだ、辛いんだ、嫌なんだ


「・・・レリィ?」

「おと、ぅ様・・・」

「レリィ・・・レリィ!どうしたんだ!」


 優しく、お父様は駆け寄って来てくれる。そう、ずっとずっと優しい。いつまでもそれは変わらないだろうし、今までも変わった事など無かった。


「何でも言ってくれ・・・!」


 今だって優しい。声が、表情が、僕を映す目が、手を握る暖かい手が。全部全部優しいんだ。信じられなかったけど、不安になって怖かったけど・・・

 ──────頼っても、良いですか・・・?


「お父様・・・っ、僕、本当は、怖かった・・・!」


 ずっとずっと言えなかった言葉。

 伝えてしまったら何かが変わってしまう気がして、言い出せなかった簡単な言葉。だって、これは僕のエゴでしかないから。

 聞いて欲しかった。僕に起きた事なんて、皆にとってはどうでも良いモノなのだと思ってしまった。


 死にそうになったあの時、いっぱい後悔した。

 もっと騎士団の皆と仲良くなりたかった。話して見たかった。一人一人打ち合いをしてあげたかった。最後まで酷い事言ってごめんって謝りたかった。・・・皆揃って、お疲れ様って、言いたかった。

 家族にも、もっと会っておけば良かったって思った。プレゼントをもっと沢山贈れば良かった、もっと家に帰れば良かった、頑張って居る研究も覗きに行けば良かった・・・。

 大好きだって、伝えれば良かったって。

 例え魔法を使っても、時間は戻らないのだから。後悔しても遅いって、その時に気付いたって何も変わらない。

 僕が今生きているのは結果なだけであって、死ぬ可能性は十二分にあった筈だ。今、生きれて居るのは・・・僕の事を治してくれた人が居たから。助けてくれた人が居たから。願ってくれた人が居たから。

 怖かったと、泣きながら言う弱い僕なんかを現にお父様・・・父上は強く優しく抱き締めてくれるのだ。

 もっと早く言えば良かった。

 そしたらもっと・・・。後悔は止まない。

 後悔しても遅いなど、死以外には存在しない。

 生きて居るなら・・・きっと、きっと・・・。


 泣き疲れた僕は、そのまま眠りに落ちた。


 
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