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第一章
こんにちは
しおりを挟むダメだよ、そのためにやらないとイケナイのに。ソレを忘れてしまった僕は、生きる意味はあるのか?
だから忘れてはイケナイ。
きっと、大丈夫。こうやってすぐ吐く様になったけど、たまに手からモノが落ちるけど、────のこと覚えてないけど、良く、人の名前を忘れてしまうけど・・・。
あれ?なんだっけ?
何かが何かを遮るように・・・フッと忘れてしまう。
カンカンと金属同士がぶつかり合う音が聞こえる。皆真剣だ。もしどちらかの者でも気を抜いてしまったら、僕の視界はあの時と同じ様に・・・どうなってしまうだろう。
誰かが・・・ニタァと僕を嘲笑うんだ。
トンと肩に触れた手を跳ね除ける。
お前は・・・触るな、気持ち悪い、ふざけるな・・・
そんな事なんて、言ってはイケナイと誰かが言う。なのに勝手に言葉が出てしまった。
誰だ?
違う、知っている。知っているんだ。なのに・・・君と過ごした日々の記憶が無い。ある筈なのに無くて、知っている筈なのに知らない。
誰だ誰だ誰だ?君は、君は騎士団で、それで・・・?あれ、やっぱり分からない。
君も君も目の前で泣いている人さえも・・・全ての人の事が分からない。もちろん自分の事も分からない。
思い出せない。やらなくちゃ、やらなくちゃイケナイのに。何かをしないとイケナイのに、何をすれば良いのか分からない。何をしないとイケナイんだ。僕は、何かに追われて居た。誰かのためにしなければならない事がある。
それしか分からない。
誰なんだ、やめてくれ!泣かないでくれ!さっき言ったじゃ無いか、最近泣き過ぎだと。・・・ついさっきも言ったじゃ無いか・・・。
──────ツキン
僕は、そんな事、言ったっけ?
僕は本当に僕なのか?僕は存在するのか?コレが、夢だとしたら・・・?僕の世界は暗く・・・
赤く染まる。
分からない、分からない。
痛い痛い痛い痛い!苦しい辛い!
僕は誰なんだ!
『貴方を守りたかったから』
『涙は似合わない』
『最期に、─────様に会えて良かった』
誰なんだ。誰の事も思い出せない。忘れたく無いのに、ガラガラと記憶が、思い出が、想い出が消えて行く。遠くに遠くに行ってしまう。
嫌だなんて、こんな事しちゃダメなのに。分からなくて怖いんだ。誰でも良いから・・・誰でも良いから────────────!
そこで、意識が途切れた。
―――
ズキズキと傷む頭を抱えて起き上がった。
既に外は明るく、日が昇って居た。まだ真上を過ぎて居ないので、出来事は今日の事では無いと悟った。
自分が誰だか分からなくて、知ってる筈の人を知らない、悲しい出来事。
だんだんと視界がハッキリと見えるようになり、違和感を感じて下に視線を移すと誰かが居た。凄く大切な筈の、決して忘れてはいけない人。
でも分からない。そう思うと身体が硬くなった。
そんな少しの動きに反応してその人は起きた。ポカンと凄く驚いた表情をしたと思えば、良かったと言って荒く擦って涙を拭った。ぎゅっと優しく、抱き締めてくれた。分からないけど、凄く安心した。
その人はまた、自分の目を荒く擦って涙を拭った。赤く腫れてしまったので、そっと触れて涙を拭った。
──────ツキン
この人が泣くと痛い。大切な人だから痛い?
大切な人は僕が寝ていた時と同じ様に、手を握って言った。
「自分と、私の事は分かるか?」
分からない。分からないけど口にしたく無くて、横に首を振った。責められるのだと身構えたのに、大丈夫だと言ってくれた。
一つ一つ、ゆっくり丁寧に教えてくれた。
「レリスライト、それが名前だ。」
「レリスライト・・・」
なんかこの人に言われると落ち着かない響きだなと思った。その理由はすぐ分かった。呼び方で印象が大きく変わる。
「私は君の家族だ、父だ。他にも母と妹が居る。私達家族はレリィと愛称で呼ぶ。レリィと呼んで良いか?」
「はい・・・お父、様?」
何故かぎゅっと抱き締められて、そう呼んでくれと言われた。けど・・・もう、無理・・・苦しい!
トントンと胸板を叩いて、離してアピールをするとやっと離してくれた。ぷはっと大きく息を吸う。
すまんと頭を撫でられる。
「だ、大丈夫です・・・。」
「・・・私はレリィの父なのだ。敬語はやめてくれないか?」
「善処・・・するね?お父様?」
敬語抜きは難しい。でも、この人・・・お父様が喜ぶなら。
よしよしされて居ると扉が開き、女の人が二人入って来た。この人達も、大切な筈の人。でも分からない。
「こんにちは・・・?」
「レリィ!」「お兄ちゃん!」
ガバッと飛びつかれて倒れ込む。それにも関わらず、お父様ごと抱き締められる。うっ・・・首が、首が締まってる・・・!吸えないし吐けない!
そもそも声が出ない・・・も、無理・・・
「・・・っは・・・」
「「レリィ!ごめん!」」
「んはぁっ・・・苦しかった・・・んんぅ・・・」
「「あ、レリィがエロい!」」
お父様が僕の事を起き上がらせてくれた。身体に力が入らなくて支えられる。少し違和感がある喉を抑えて居ると、お父様と同じ銀色の髪の女の子が僕に水をくれた。
ありがとうございますと言うと、うげぇと言う目で見られる。何か悪い事を言ってしまっのかと不安になると、お父様に肩を掴まれた。
「レリィ、この人達はお母様と妹のカトレアイス・・・カレアだ。」
「お母様・・・?カレア、様?」
「あらヤダ!レリィちゃんったら可愛い!」
「カレアって呼んで!様付けなんて気持ち悪い!」
えぇ・・・気持ち悪いって、なんか傷付く。でも、可愛いな。
「カレア・・・お母様、こんにちは?」
「「こんにちは!」」
僕の家族は、抱き締めるのが好きな様だ。抱き締められる力は強い筈なのに、心地よいと感じた。
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