ツンデレでごめんなさい!〜素直になれない僕〜

ハショウ 詠美

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第一章

そこに在るモノ

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 ・・・後もうちょい

 ・・・後もうちょっと

 だから、頑張れ。僕なら出来る。走れ。

 この見回りで最後だから、走るんだ。皆のために。

 自分に暗示を掛けるように心で唱えた。


 もう避難は終わってるみたい。こんな傷だらけな僕、他の人に見られたく無いから、良かった。

 地下も平気。侵入者無し、異常無し。

 この部屋も、この部屋も、死角が多い図書室も侵入者は居ない。城への被害はゼロ。血も、傷も一つも無い。これは皆の努力のお陰で成り立ったモノ達。

 だから、僕は頑張れる。


 このまま何事もなく無事に終われば良いのに。



 ―――



「・・・ぅ・・・ぇなぁ!・・・」



 ──────誰かの声

 走れ僕、頑張れ。速く、出来るだけ速く。


 ・・・だんだんと、はっきり声が聞こえてくる。


「ホンットにうっぜぇなァ!『 炎の弓 fire bow』」

「『 結界 barrier』!はぁ・・・」

「おっとォ?やっとかァ!『 炎の弓 fire bow』」

「・・・『 結界 barrier』も、魔力が・・・ぅっ!」


 声が聞こえた方に着くと、そこに居たのは二人のエルフで。一人は知らない人で、もう一人は・・・毎日見たいと願う人で。

 姿が見えたと同時に、毎日みたいと願う人に、ルドウィン様の頬には傷が付き、ゴンと頭が壁に強くぶつかってしまった。僕は瞬時で悟った。アイツはルドウィン様を殺す気だなんだ、と・・・。

 させない、させたくない。絶対守って見せる。

 走って、走って、間に合って。


「これで最後だァ!『 炎の弓 fire bow』」


 お願い!

 どうか、どうか間に合って──────!


「『 結界 barrier』!」


 僕の声とキンとする音が響いた。

 息が、息が辛い。

 深呼吸だ。深呼吸をして息を整えろ。焦る事は無い。まだ、大丈夫。魔力消費は激しいが命を救った。

 ──────ルドウィン様は生きてる。

 そう、間に合ったのだ。

 でも、まだこれから。しっかり相手を見つめて、目を逸らさない。余裕がある様に、冷静に騎士団長らしく。


 でも、


「騎士団長様のお出ましかァ!でもよォお前、ボッロボロじゃねェか!ハッハッハ!笑いが止まんねぇなァ!」

「・・・貴様は何をしていた?」

「あァ?」

「・・・貴様は何をしていたのかと聞いている。」

「このうっぜぇヤツを殺そうとしてたんだぞォ?折角体力温存してたのによォ、見付けやがって・・・ガチでよォ、うぜぇったらありゃしねェぜ!」


 そんな事を、ニヤニヤしながら言ってくる。コイツは何が楽しいんだ。自分の仲間だって傷付いて、目の前に居る人も僕達も、皆傷付いているのに。

 冷静でなんて、居られない。

 心の奥底からフツフツと怒りが湧き上がる。許せない。人を簡単に殺して良いのだと、そんな風に笑っていうコイツが、・・・本当に許せない。

 でも、さっきの僕もこうだったのかもしれない。そうだったら嫌だけど、ちゃんと憎んで貰える。

 なら、それで良いのかもしれない。僕のせいになるから、騎士団や、魔術団の皆は、何も悪くないって事になる。良かった、心配事は無くなった。

 やる事は一つ。


「・・・一対一で勝負だ。」

「良いぞォ覚えろよォ?俺の名前はなァ、アルダーだ!騎士団長を殺すエルフ様の名だァ!」


 ガハハハと品の無い笑い声が響いた。


「随分と品の欠けらも無い笑い方だな。腹立たしい。・・・俺は貴様などに殺されて良い安い命では無い。上手くいくなどと思うな。」

「プライドが高いこったァ!そちらからどうぞ?因みになァ、俺は眠り魔法耐性が有るからよォ、騎士団長様のお得意な魔法は効かないぜェ?」


 バレてるのか・・・僕の魔力がもう無い事も、全身傷だらけの事も、・・・。勝手に油断しておけばいい。傷如きでへこたれる騎士団長では無いから。

 レイピアに眠りの魔法石をはめる・・・。そうすればカッと天色の光に包まれて、キラキラと僕の周りに星が降った。出来るなら、やりたく無かった。

 このレイピアは、僕が騎士団長になった時のお祝いの品として父上から贈られたモノだった。

 僕の背丈的に普通の剣を持つのは体力が要るから、レイピアを使っている。一応普通の剣も帯剣しているけれど、滅多に使う事は無い。入団した時にレイピアと剣を、副団長になった時には新しいレイピアを、団長になった時には剣と・・・


『 炎 』『 風 』『 水 』『 土 』

『 雷 』『 氷 』『 光 』『 花 』

 八つの魔法石と、僕のために開発された

 『 眠りの魔宝石・・・ 』が

 付いたレイピアを。


 父上や母上達が多額の金を積み、研究に協力して出来たモノ。

 多くの魔力が必要だったから、父上と母上が倒れながらも作ってくれたやつ。渡された時なんてどんなにびっくりした事か・・・。壊れたらまた作るね!と疲れ切った様子で言われたから使わないと決めたのに。一生忘れないよ。

 使ったら魔力を補給しないといけないらしい。皆に迷惑・・を掛けたく無いから、使いたく無かった。

 結局僕は、自分に甘々なんだ。

 もっと強くなりたいと願う・・・だから、せめて、

 僕はコイツを許さない。


 
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