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7、俺のコト、好き?

「Tボーンステーキ ハスカップのソース」

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「うまいっ!」

「うん」

「うまいっ。うまいよ、瞬」

「うん。分かったから」

「だって、ホントにうまいんだよぉ」

「ああ、ああっ、分かったっつのっ!」

 Tボーンステーキのサーロイン側をむしゃむしゃ頬ばって、伸幸は大興奮だ。

 その喜びように若干ひるんで、瞬は反対のヒレ側をひと切れ箸でつまんだ。

 Tボーンステーキとは、真ん中の骨をはさみ、片側にいわゆるサーロイン、もう片方にヒレ肉をつけた切り方をした肉を焼いた料理のこと。骨がちょうどTの形をしていることから、そう呼びならわされている(瞬調べ。出典:ネット)。

 多分、うまいのだろうと、分かる。

 和牛の脂が溶け出したコクではなく、肉そのものの味と香りが熟成により深まっている。瞬の味覚は回復してきた。以前仕事で味を見ていたときの六、七割くらいまで来ただろうか。

「うまみの濃い赤身肉に、このソースもうまいなあ。これ、瞬のオリジナルだな?」

 瞬はドキッとした。どうして分かっちゃうんだろ。照れかくしにわざと乱暴に言いすてた。

「ハスカップを使ったベリーのソースなんて、ネットのどこにも上がってねえよ。まあ、テキトーだ、テキトー」

 そう言いながら、手放しで瞬をほめる嬉しそうな伸幸に、ドキドキしてしまう。頬が熱い。

 伸幸は珍しく買ってきた赤ワインをひと口含んで、とろけそうな笑顔を瞬に向けた。

「本当に、瞬は料理の才能あるなあ」

「毎回毎っ回、ナンのチャレンジだっつー組み合わせを押しつけておいて、よく言えるな、そんなこと。才能ってより、おかしな鍛え方されてるんだわ」

 瞬も珍しく、コップに何センチか注いだワインに口をつけた。ワインはあまり飲んだことがない。だから伸幸が買ってきたこれが、うまいのかまずいのか分からない。鼻に抜ける香りがやけに華やかで、熟成肉に合う……気がする。

「ハスカップをワインで煮て、……そして醤油も入ってるよな」

「よく分かるね」

 瞬はコップに唇をつけたまま、上目づかいに伸幸を見た。

 伸幸は瞬の腕をほめるが、伸幸の舌だって大したものだ。この間のタコの煮物のときだって。

(何モノなんだ、このオッサン)

 ふらっといなくなる数日、伸幸がどこで何をしているのか。

 ATMから下ろしたら、むぞうさにパンツのポケットに突っこむ万札は、どうして得ているものなのか。

「牛肉には、醤油が合うんだよなあ。昔どっかのマンガで読んだけど、その通りだったわ」

「オッサンの舌なんて、結局最後には『おふくろの味』だろ。醤油ぶっ込んどきゃいいんだよ。日本人にうまいと感じるものはどれも和食なんだ」

 瞬の言葉に、テーブルの向かいで伸幸がパタリと動きを止めた。

 瞬は眉をひそめた。

「……なんだよ」

「瞬……それ、『真理』だ」

「はあ?」

「そうだよ! 日本人にとって、『うまいもの』ってのは和食なんだ」

 瞬は首を振った。

「何を言ってるのかサッパリ……」

「瞬!」

 伸幸はテーブルを回りこみ、瞬の肩を抱きしめた。

「な、なんだよ」

 いきなりのことに瞬は驚き、床に落とすまいと慌ててコップをテーブルに置いた。

「瞬、君はやっぱり最高だ」

 伸幸は回した腕に力を入れ、近づいた瞬に頬ずりした。

「の……伸幸さん?」

 抱きしめられると胸がドキドキしてしまう。

 瞬はおずおずと伸幸の背に腕を回した。

 瞬が抱きかえしたのが珍しいのか、伸幸は嬉しそうにまた笑って、瞬の口の端にキスをした。

 伸幸の唇の感触に、瞬は思わず伸幸のシャツを握りしめてしまった。

 伸幸はしがみついている瞬に体重をかけた。

 瞬の身体は素直に崩れおちる。

「あんた、腹減ってるんじゃなかったの? 肉、冷めると固くなるよ」

「うん……」

「肉だけじゃなくて、付けあわせもほめてくれない? ……ホウレンソウもさ、裏ごし器がないからマッシュできなかったけど、細かく切って生クリームで仕立てたよ」

「うん……」

「トウモロコシはソテーして、カマンベールをソースにして和えてみた。……ねえ、これってアリ? 俺、洋食は分かんないから教えてよ」

「うん……」

「『うん』『うん』って伸幸さん、俺の話聞いてる?」

「……聞いてない。だって瞬の身体、ピクピク可愛い動きしてる」

「あ……んっ」

 瞬の言葉に生返事しながら、伸幸の唇は瞬の身体を下へと伝う。 

 もう、瞬の方がガマンできなくなっていた。
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