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7、俺のコト、好き?

食材は「北海道物産展」!?

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 今日も今日とて。

「あのさあ……」

「ん? なに?」

 伸幸はなんだか嬉しそうな笑顔で、呆れてものも言えずにいる瞬をのぞきこんでいた。

「『なに?』じゃねえわっ!」

 瞬はいつものように、小さなテーブルいっぱいに載せられた食材を指さし、吠えた。

「どーしろってえのよ。この……」

 伸幸がニコニコと瞬が指さす卓上を見下ろす。

「北海道産のグラスフェッドビーフ。三週間熟成済みだって」

「だからーーー!」

 瞬は伸幸の襟首をつかみ、ゆすぶった。

「どうしろってんだよ、こんなぶ厚いTボーン。一般家庭でナントカするようなモンじゃねえだろ。ここにはグリルだってオーブンだってねえんだぞ」

「ええー?」

 伸幸は変わらずむじゃきに笑っている。まるで、大好きな飼い主にジャレつかれている子犬のように。

(なにが子犬だ。デカイ図体のオヤジじゃねえか)

「もういいわ」

 瞬は乱暴に伸幸の襟から手を離した。

「で? ほかには何があんの。このちっちゃいの、何?」

「ああそれ? ハスカップ」

「ハ……何だって?」

「ハスカップだよ。ブルーベリーに似てるけど、香りが全然違うんだ。酸味が強くてお菓子にもするよ」

 瞬はさらに目をつり上げた。

「菓子は作らねえよ」

「うん、俺もそこまではリクエストしない」

 伸幸は紫の実の詰まったジッパーバッグを手に取った。

「肉のソースに、いいんじゃないかな」

「そーねえ。いいでしょうねえ。赤身肉にはよく合うでしょうね。誰が作んだよ」

「えー? そりゃもちろん……」

「はいはい。俺ね。言っとくけど、俺、和食の板前だから。洋食は専門外だからね」

「ふふふ」

 伸幸は一切動じることなく、ニコニコし続けている。

(このオッサン、確信犯だな)

 瞬に経験のないメニューでも、こうやって材料を渡してニコニコ期待して見せれば、調理してもらえると信じている。

 一緒に出てきたのは、トウモロコシにタマネギに缶入りカマンベールチーズ……。

「今日は『北海道物産展』か」

 瞬は軽くためいきをついた。食材そのものは、今回も質がいい。

 ブツクサ言っててもしょうがない。

 瞬は腰に手を当てて胸をそらした。

「分かった。伸幸さん、ひとっ走り生クリーム買ってきて。あとホウレンソウを一把と、それから……」

 伸幸は飛び上がるように反応し、瞬の言いつけた材料を紙片に書きつけた。

「急いでね」

「はぁい」

 キビキビと玄関へ向かいつつ、伸幸の口調はのんびりだ。瞬は伸幸が早口になったり、焦ったりするのを、見たことがない。熊のような風貌だったのも初めだけで、綿のパンツにポロシャツといったラフな格好でも、不思議とパリッとカッコいい。

(カッコいい? ……ただのオヤジじゃん!)

 瞬はプルプルと首を振った。

「行ってきまぁす」

「あ。ああ、うん。行ってらっしゃい」

 伸幸の背が吸いこまれ、部屋のドアがパタリと閉まった。
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