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卓也と翼編【【貴方がいれば】】中
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その後も温泉街をゆったりと観光すると旅館に戻ってきた。
「お帰りなさいませ」
出迎えてくれた仲居さんからこの辺りの事や、観光先についての話しを聞きつつ、部屋に向かう。
「こちらのお部屋です」
「ありがとうございます」
「ありがとう」
不意に翼が、耳へ口を寄せてきた。なにかと思えば、小さな声でコマンドと呟く。
「翼Kneel」【おすわり】
言いたいことがわかり、優しく命じれば床に何かがついたような音が聞こえる。おすわりをしたのだろう翼の頭を探し、撫でる。
「注意事項などありますか・」
「他のお客様もいらっしゃるのでグレアとコマンドとPlayはお部屋以外ではお控えください」
「わかりました」
「お食事はお部屋と食堂どちらにしますか? 朝食はバイキングを選ぶこともできます」
「夜は部屋で、朝はバイキングにさせてもらおうか」
「かしこまりました。ご質問などございますか?」
「いや、大丈夫だ。俺はこんなだから翼に全て任せている。何かあったら翼に伝えてくれて構わない」
そう答えれば、仲居さんは翼に食事の時間などを言付けし“かしこまりました。なにかありましたら、お呼びください”と一言添え、部屋を出て行った。
「よし」
卓也が許可を出す前に立ち上がった翼は、逆に卓也の腕を引き座布団へ案内した。
「Collar見えなかったとかか?」
「うーん、多分見えてたけど。アクセサリーっぽいから迷ってたみたい」
「そうか」
翼が今日しているCollarはチョーカータイプで前にハートの金具がついている物だ。ハートの金具には小さいながらも宝石が輝き、Collarというよりアクセサリーに見える。
卓也は気にしないが、Domの中にはSubに確認をとることをよく思わない主人思考が強いDomもいる。その為仲居はどちらがDomか探ったのだろう。
「それより大浴場行く?」
「そうだな、行くか」
そう言われ、翼は二人分の入浴の準備を整えると纏めて持った。楽しみにしていたお風呂へ二人して向かう。部屋にも露天風呂はついているが、せっかくだから両方楽しみたい。
大浴場ではイチャイチャすることはできないが、それは後にとっておけばいい。
「滑らないようにね」
「中は混んでるか?」
「空いてるよ。俺たち以外に五人ぐらいかな」
「そうか。いやらしい目つきの奴はいないか?」
「いるよ。俺の隣に」
冗談半分で聞けば、翼は呆れたように言い返してきた。だらしないだのいやらしいだの言いたい放題だと思いつつ笑い返す。
「そいつはジロジロみててもたかが知れているんだから大目にみてやってくれ。他には?」
「あとは興味なさそうだから大丈夫」
その答えに満足し、体を洗い広い浴槽に浸かる。家の風呂もいつも二人で入るため広めに作り直したが、並んで浸かることはできない。とはいえ、体が触れあうお風呂はもちろん楽しい。
ゆっくりと風呂を堪能し、部屋に戻ってくると既に夕食の用意が調えられていた。
「おいしそうだよ」
「ああ、いい匂いだ」
一つずつ料理の説明をしてくれる翼の前で、手を動かし位置を確認する。長年パートナーをしているだけあり、翼は補助も卓也の好みも癖も全てわかっている。
「卓也が嫌いなものはとくにないかな」
「本当か? どこからかキノコの匂いがするが?」
「・・・・・・バレたか。見えないからいいかなと思ったのに」
そう言いながら翼は卓也の料理から、キノコを取り除き自分の皿に移した。ちょっとした悪戯のつもりでとぼけていただけなのに、予想以上に早く気づかれてしまった。
「お前の言葉を信じるしかない俺に酷いじゃないか」
「いいじゃん。毒じゃないし」
「毒なら食べてもいいけどな」
「毒より嫌なんだ」
多くのDom達はSubに食べさせるのが好きだが、卓也の場合食べさせるよりも食べさせられる方が多くなる。毒でも食べると言うのはたとえではなく実際差し出されたら卓也はなにであっても躊躇なく食べるだろう。
「翼だって食べてくれるだろう?」
「俺は食べないよ。大体俺がいなくなったら誰が卓也の相手をするんだよ」
「ハハハッ、それもそうだな。俺はお前がいなければ生きていけないからな」
身の回りの事も一通り出来き、昔持っていた両親の土地を売ったためそれなりの財産もある。いざとなれば施設に入ることもできるとわかっているが、それでも翼がいなくなると言うことは卓也にとって死を意味する。
翼がいなくなれば、卓也の世界からは唯一の光がなくなり、暗闇の中に落とされ這い上がる気力さえ失うだろう。
もう人生の半分以上を一緒に暮らしている。王華学校に入る前からパートナーになってくれると言ってくれた翼は卓也にとって自分の体の一部になっている。
「まったくいつまでたっても甘えん坊なんだから」
そんな言い方ながらも、どこか嬉しそうな声色を聞きながら刺身に手を伸ばす。まろやかなマグロの旨みに舌鼓をうつ。
「うまい」
翼に教えて貰ったことを思い出しつつ、刺身の一つをつまみ翼の前に差し出す。
「あーん」
先ほど言ったのとは逆に、卓也が刺身を差し出せば翼はあっさりとそれを食べた。教えて貰った刺身の中にあった翼が好きなイカを卓也は聞き流してはいなかった。
「おいしい。じゃあ、お礼に」
「キノコじゃないよな?」
「さてどうだろうね」
からかうように言われるが、差し出された物を疑うことなく食べるとそれはワサビが多めについたマグロだった。
「辛ッ!」
「引っかかった!」
子供のような悪戯をされ、慌てて水を飲むと楽しそうな笑い声を上げる翼に苦笑を浮べる。
「やったな」
「キノコではなかったでしょ?」
「確かに、キノコじゃなかったな」
こちらは好きな物をあげたと言うのにとんだお礼をされたのに、楽しそうな翼をみているとそんなことはどうでもよくなる。
「油断してるから」
「まったく、後で覚えてろよ」
「ゲッ」
Domらしい悪い笑みを浮べこの後の事を匂わせれば、しまったという風に声を上げた。
「他のあげるから」
「楽しみだな」
他の物は必要ないと聞き流せば、うなり声を上げつつ諦めたように翼は食事を再開した。
そんな翼に手を伸ばし、軽く顔を撫でれば唸りながらも甘えるように顔を寄せてきた。
愛らしい仕草に早く可愛がりたいと気持ちが強くなる。
この後の時間を楽しみに卓也も食事を再開した。
「お帰りなさいませ」
出迎えてくれた仲居さんからこの辺りの事や、観光先についての話しを聞きつつ、部屋に向かう。
「こちらのお部屋です」
「ありがとうございます」
「ありがとう」
不意に翼が、耳へ口を寄せてきた。なにかと思えば、小さな声でコマンドと呟く。
「翼Kneel」【おすわり】
言いたいことがわかり、優しく命じれば床に何かがついたような音が聞こえる。おすわりをしたのだろう翼の頭を探し、撫でる。
「注意事項などありますか・」
「他のお客様もいらっしゃるのでグレアとコマンドとPlayはお部屋以外ではお控えください」
「わかりました」
「お食事はお部屋と食堂どちらにしますか? 朝食はバイキングを選ぶこともできます」
「夜は部屋で、朝はバイキングにさせてもらおうか」
「かしこまりました。ご質問などございますか?」
「いや、大丈夫だ。俺はこんなだから翼に全て任せている。何かあったら翼に伝えてくれて構わない」
そう答えれば、仲居さんは翼に食事の時間などを言付けし“かしこまりました。なにかありましたら、お呼びください”と一言添え、部屋を出て行った。
「よし」
卓也が許可を出す前に立ち上がった翼は、逆に卓也の腕を引き座布団へ案内した。
「Collar見えなかったとかか?」
「うーん、多分見えてたけど。アクセサリーっぽいから迷ってたみたい」
「そうか」
翼が今日しているCollarはチョーカータイプで前にハートの金具がついている物だ。ハートの金具には小さいながらも宝石が輝き、Collarというよりアクセサリーに見える。
卓也は気にしないが、Domの中にはSubに確認をとることをよく思わない主人思考が強いDomもいる。その為仲居はどちらがDomか探ったのだろう。
「それより大浴場行く?」
「そうだな、行くか」
そう言われ、翼は二人分の入浴の準備を整えると纏めて持った。楽しみにしていたお風呂へ二人して向かう。部屋にも露天風呂はついているが、せっかくだから両方楽しみたい。
大浴場ではイチャイチャすることはできないが、それは後にとっておけばいい。
「滑らないようにね」
「中は混んでるか?」
「空いてるよ。俺たち以外に五人ぐらいかな」
「そうか。いやらしい目つきの奴はいないか?」
「いるよ。俺の隣に」
冗談半分で聞けば、翼は呆れたように言い返してきた。だらしないだのいやらしいだの言いたい放題だと思いつつ笑い返す。
「そいつはジロジロみててもたかが知れているんだから大目にみてやってくれ。他には?」
「あとは興味なさそうだから大丈夫」
その答えに満足し、体を洗い広い浴槽に浸かる。家の風呂もいつも二人で入るため広めに作り直したが、並んで浸かることはできない。とはいえ、体が触れあうお風呂はもちろん楽しい。
ゆっくりと風呂を堪能し、部屋に戻ってくると既に夕食の用意が調えられていた。
「おいしそうだよ」
「ああ、いい匂いだ」
一つずつ料理の説明をしてくれる翼の前で、手を動かし位置を確認する。長年パートナーをしているだけあり、翼は補助も卓也の好みも癖も全てわかっている。
「卓也が嫌いなものはとくにないかな」
「本当か? どこからかキノコの匂いがするが?」
「・・・・・・バレたか。見えないからいいかなと思ったのに」
そう言いながら翼は卓也の料理から、キノコを取り除き自分の皿に移した。ちょっとした悪戯のつもりでとぼけていただけなのに、予想以上に早く気づかれてしまった。
「お前の言葉を信じるしかない俺に酷いじゃないか」
「いいじゃん。毒じゃないし」
「毒なら食べてもいいけどな」
「毒より嫌なんだ」
多くのDom達はSubに食べさせるのが好きだが、卓也の場合食べさせるよりも食べさせられる方が多くなる。毒でも食べると言うのはたとえではなく実際差し出されたら卓也はなにであっても躊躇なく食べるだろう。
「翼だって食べてくれるだろう?」
「俺は食べないよ。大体俺がいなくなったら誰が卓也の相手をするんだよ」
「ハハハッ、それもそうだな。俺はお前がいなければ生きていけないからな」
身の回りの事も一通り出来き、昔持っていた両親の土地を売ったためそれなりの財産もある。いざとなれば施設に入ることもできるとわかっているが、それでも翼がいなくなると言うことは卓也にとって死を意味する。
翼がいなくなれば、卓也の世界からは唯一の光がなくなり、暗闇の中に落とされ這い上がる気力さえ失うだろう。
もう人生の半分以上を一緒に暮らしている。王華学校に入る前からパートナーになってくれると言ってくれた翼は卓也にとって自分の体の一部になっている。
「まったくいつまでたっても甘えん坊なんだから」
そんな言い方ながらも、どこか嬉しそうな声色を聞きながら刺身に手を伸ばす。まろやかなマグロの旨みに舌鼓をうつ。
「うまい」
翼に教えて貰ったことを思い出しつつ、刺身の一つをつまみ翼の前に差し出す。
「あーん」
先ほど言ったのとは逆に、卓也が刺身を差し出せば翼はあっさりとそれを食べた。教えて貰った刺身の中にあった翼が好きなイカを卓也は聞き流してはいなかった。
「おいしい。じゃあ、お礼に」
「キノコじゃないよな?」
「さてどうだろうね」
からかうように言われるが、差し出された物を疑うことなく食べるとそれはワサビが多めについたマグロだった。
「辛ッ!」
「引っかかった!」
子供のような悪戯をされ、慌てて水を飲むと楽しそうな笑い声を上げる翼に苦笑を浮べる。
「やったな」
「キノコではなかったでしょ?」
「確かに、キノコじゃなかったな」
こちらは好きな物をあげたと言うのにとんだお礼をされたのに、楽しそうな翼をみているとそんなことはどうでもよくなる。
「油断してるから」
「まったく、後で覚えてろよ」
「ゲッ」
Domらしい悪い笑みを浮べこの後の事を匂わせれば、しまったという風に声を上げた。
「他のあげるから」
「楽しみだな」
他の物は必要ないと聞き流せば、うなり声を上げつつ諦めたように翼は食事を再開した。
そんな翼に手を伸ばし、軽く顔を撫でれば唸りながらも甘えるように顔を寄せてきた。
愛らしい仕草に早く可愛がりたいと気持ちが強くなる。
この後の時間を楽しみに卓也も食事を再開した。
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