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神月家編【暴露はほどほどに】前
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自分のDomに求めることは? そう聞かれたらどう答えればいいのか未だ自分はわからないでいる。
構ってほしいかと言われれば、言わないと構ってくれないのかと思う、かと言って好きに構われるのも違うと思える。適度にほっておいて欲しいが、自分が必要なときには近くにいて欲しい。
望まれれば努力して望みを聞きたいと思うけど、飾りのようにそこにいるだけで褒められ、満足されるのも悪くない。
一人は気楽だけど、一人きりは違う気がする。自分で言っていてもなんだかわからない。
好きな事も嫌いな事もはっきりと断言することはできなくて、明言することを避けて自分でも狡いなと思う。
ただなぜそうなってしまっているのか理由だけはわかっている。傑がいるからだ。
傑がいるから自分は自分で明言することも、答えを出す必要もない。グチャグチャ考えるのが大変になったら傑に任せてしまえばいい。
理由などわからなくても気になったらそのまま言えばいいし、言葉を選ぶ必要もない。自分の意思に自信がなくとも、傑に任せてしまえば適切に扱ってくれる。
考えるのが嫌いな訳じゃないけど、考えていると疲れるし、余計よくわからなくなる。
傑はそんな俺を理解して、誘導したり、先回りしたりしてくれるから凄く楽だ。
だから俺は傑がいいのだと思っている。
多頭飼いなんてと、いう人もいるかも知れない。だけど、その状況も俺にとっては悪い環境だとは思えない。血など繋がっていなくとも傑を含めて俺の家族で、心強い仲間で、頼りになる人々だ。
それに俺にできないことを彼らがしてくれることもある。どんなに傑に望まれても、躊躇ってしまうことでも彼らがいればなんとかなる場合もある。
結局は自分の都合なのかと言われると言い返すことができないけど、しょうがないじゃないか。だって皆が頑張っていたら頑張ろうと思うし、皆が笑っていたら楽しいって思えるし、幸せそうにしていたら幸せを感じられるのだから。
ご主人様である傑がいないある日、二度寝から目を覚ましてみるとなにか賑やかな声が聞こえてきた。
「あれ? だれか来てる?」
結衣の他に声が聞こえてくるから他の家族達が来ているのかと思ったが、その声は違った。
明美さんでも浩さんでも、辰樹さんでもない。切れのいい、その声は結衣の友達で、今は自分の友達でもある力也の声だった。
「りっくん、来てたんだ」
「マコさんお邪魔してます」
リビングに入ってきたマコを見て、力也は振り向き軽くお辞儀をした。
「すみません。マコさん起こしちゃいましたか?」
「むしろ、起きて良かったよ」
寝ているよりも、参加した方が楽しそうな状況に笑いながら、とりあえず自分の分の飲み物を用意する。
「りっくんいつから来てたの?」
「さっき来たばかりっすよ。トマトときゅうりが沢山できたって聞いて」
「ってことは、野菜もらいにきたんだ」
「はい」
今この部屋の広いベランダに並べられたプランターには、沢山の野菜が育っている。
元々タワーマンションの契約上椅子を置いてくつろぐことはできても、洗濯を干すこともできず、役に立つときと言えば花火を見るときぐらいだったが、今は家庭菜園の場所になっている。
毎日こまめに世話をする結衣のおかげで、どれも豊作になり花も綺麗に咲いている。時には傑も植物の世話を手伝っていたり、料理に使ったりしている。
「とうくんの分もとれた?」
「はい、今日帰ったら食べます」
うれしそうに、ビニールに入れた野菜を見せられ、マコは笑いながら近くの椅子に座った。
「是非力也さんには食べて欲しくて」
「元々はりっくんのアイデアだって言ってたもんね。結衣に趣味ができて良かったよ。傑も楽しそうに参加してるし」
ああ見えて意外と家庭的な事が傑は好きらしく、興味深そうに家庭菜園を眺め、機会があれば収穫している。思えば、光輝の世話についてもしっかりと調べ参加していたし、家事も気軽にする。
かと言って父親ではなく、どちらかと言えば祖父や伯父など第三者的な感じだが。
「みたいっすね。直接採ってペパーミント食べてたってのは驚きでしたけど」
「あー、たまに食べてるよね。でもあれって、俺たちにバレてないと思ってるんだよね」
「そう・・・・・・なんですか?」
驚く結衣に、マコはおかしそうに笑った。それもその筈、実際に採って食べているのを結衣もマコも直接見ていた。無意識なのだろうか、仕事をしていたかと思えば、台本を持ったままベランダに行き適当にペパーミントをもぎ取り食べる。そんな姿を二人は何度か見ていた。
「料理に使うとかじゃないんすね」
「料理にも使ってるけど、多分脳の活性化とかじゃないかな。額に皺寄せてるときによくやってるよね」
「そうですね。コーヒーと一緒に食べてるのも見かけます」
「あー、たまにコーヒーのクリームの上に乗ってるけど。あんな感じか」
「ちょっと違うかな。傑の場合ブラックでそのままだから」
甘党の力也らしい想像に、マコは笑いながら訂正した。力也は飾りのミントのような物をイメージしているのだろうが実際は付け合わせとしてしっかり味わっている。
「そこまで見られてるのに、バレてないと思ってるんすか?」
「多分ね。隠してる訳じゃないだろうけど、話題に出さないからバレてないと思ってると思うよ」
「私この前、コーヒーと一緒に出しちゃいました」
気を利かせたつもりが失敗してしまったかと心配する結衣の言葉マコは声をあげて笑った。
「傑なんか言ってた?」
「ありがとうって笑いながら言ってくださいましたけど・・・・・・」
「さすがに気づいたんじゃないっすか?」
「そうだね。残念見たかったな」
もしかしたらまだバレていないと思っているかも知れないが、多分見破られているとは思った筈だ。こそっとつまみ食いをしていたところを見られていたとわかった時に、傑はどんな反応だったのだろうか。
結衣は笑っていたと言っていたが、おそらく苦笑だろう。もしかしたら恥ずかしそうな笑いだったかも知れない。日々、役者相手に演技について語っている傑が、ごまかせていなかったのはさぞ恥ずかしかっただろう。
「ど、どうしましょう」
「どうもしなくていいよ。俺もやろうかな、面白そうだし」
ミントを作っている結衣だけでなく、マコにまでバレていると知ったら傑はどんな顔をするのだろう。
「傑さんも結構面白いんすね」
「そうなんだよ。仕事じゃ気をはっているかも知らないけど、家だと素だからね。普通にマイペースだし、俺たちにもデレデレだしね」
「いつも沢山優しくしてくれます」
「Sub贔屓ってのは現場でもバレてますけど」
「まぁ、その辺は王華学校のDomの共通だよね」
ダイナミクス専門の王華学校のDom達はもれなく、Subに甘くSubに目がない。それこそ、全てのSubが好みだと言わんばかりに、Subがいるだけで上機嫌になる。
「あの学校ほんと凄いからね」
「マコさんも王華学校卒業なんすか?」
「うん、一応ね。俺の場合は先に傑に出会ってたから売約済みって感じだったけど」
マコは王華学校に上がる前に、傑と出会い、傑のすすめで王華学校に進んだ特待生のようなSubの生徒だった。フリーではなかったので、お誘いは多くなかったが、それでもDomの生徒達からはアイドル扱いされた。
「そういうパターンもあるんすね」
「うん、普通の学校に行かせてもいいんだけど、王華学校のほうが校内まで目が行き届くし、いざと言うときにどうにでもなるからね。その頃傑、まだ駆け出しで外国に連れて行かれたりしてたから余計だよね」
「確かに寮なら安全に確保できますよね」
「そうそう、さすがに駆け出しで勉強中じゃ俺を連れてけないからね」
今ならば誰か一人ぐらいならば連れて行けるだろうが、駆け出しの身でそんな事ができるわけがない。王華学校以外に行きたい学校があるならば別だが特にマコの希望はなかった。それならば下手にちょっかいを出されるよりは王華学校にいれた方がいいだろう。
「あの頃は傑もSランクじゃなかったし、お金だってなかったからね」
「傑さんって、いつSランクになったんですか?」
「傑がSランクになったのは32だよ。それでも早いほうなんだけどね」
「やっぱ、冬真みたいにきっかけとかあったんですか?」
「きっかけって言うか大変だったよ」
力也の質問にマコは昔の事を思い出し笑った。
構ってほしいかと言われれば、言わないと構ってくれないのかと思う、かと言って好きに構われるのも違うと思える。適度にほっておいて欲しいが、自分が必要なときには近くにいて欲しい。
望まれれば努力して望みを聞きたいと思うけど、飾りのようにそこにいるだけで褒められ、満足されるのも悪くない。
一人は気楽だけど、一人きりは違う気がする。自分で言っていてもなんだかわからない。
好きな事も嫌いな事もはっきりと断言することはできなくて、明言することを避けて自分でも狡いなと思う。
ただなぜそうなってしまっているのか理由だけはわかっている。傑がいるからだ。
傑がいるから自分は自分で明言することも、答えを出す必要もない。グチャグチャ考えるのが大変になったら傑に任せてしまえばいい。
理由などわからなくても気になったらそのまま言えばいいし、言葉を選ぶ必要もない。自分の意思に自信がなくとも、傑に任せてしまえば適切に扱ってくれる。
考えるのが嫌いな訳じゃないけど、考えていると疲れるし、余計よくわからなくなる。
傑はそんな俺を理解して、誘導したり、先回りしたりしてくれるから凄く楽だ。
だから俺は傑がいいのだと思っている。
多頭飼いなんてと、いう人もいるかも知れない。だけど、その状況も俺にとっては悪い環境だとは思えない。血など繋がっていなくとも傑を含めて俺の家族で、心強い仲間で、頼りになる人々だ。
それに俺にできないことを彼らがしてくれることもある。どんなに傑に望まれても、躊躇ってしまうことでも彼らがいればなんとかなる場合もある。
結局は自分の都合なのかと言われると言い返すことができないけど、しょうがないじゃないか。だって皆が頑張っていたら頑張ろうと思うし、皆が笑っていたら楽しいって思えるし、幸せそうにしていたら幸せを感じられるのだから。
ご主人様である傑がいないある日、二度寝から目を覚ましてみるとなにか賑やかな声が聞こえてきた。
「あれ? だれか来てる?」
結衣の他に声が聞こえてくるから他の家族達が来ているのかと思ったが、その声は違った。
明美さんでも浩さんでも、辰樹さんでもない。切れのいい、その声は結衣の友達で、今は自分の友達でもある力也の声だった。
「りっくん、来てたんだ」
「マコさんお邪魔してます」
リビングに入ってきたマコを見て、力也は振り向き軽くお辞儀をした。
「すみません。マコさん起こしちゃいましたか?」
「むしろ、起きて良かったよ」
寝ているよりも、参加した方が楽しそうな状況に笑いながら、とりあえず自分の分の飲み物を用意する。
「りっくんいつから来てたの?」
「さっき来たばかりっすよ。トマトときゅうりが沢山できたって聞いて」
「ってことは、野菜もらいにきたんだ」
「はい」
今この部屋の広いベランダに並べられたプランターには、沢山の野菜が育っている。
元々タワーマンションの契約上椅子を置いてくつろぐことはできても、洗濯を干すこともできず、役に立つときと言えば花火を見るときぐらいだったが、今は家庭菜園の場所になっている。
毎日こまめに世話をする結衣のおかげで、どれも豊作になり花も綺麗に咲いている。時には傑も植物の世話を手伝っていたり、料理に使ったりしている。
「とうくんの分もとれた?」
「はい、今日帰ったら食べます」
うれしそうに、ビニールに入れた野菜を見せられ、マコは笑いながら近くの椅子に座った。
「是非力也さんには食べて欲しくて」
「元々はりっくんのアイデアだって言ってたもんね。結衣に趣味ができて良かったよ。傑も楽しそうに参加してるし」
ああ見えて意外と家庭的な事が傑は好きらしく、興味深そうに家庭菜園を眺め、機会があれば収穫している。思えば、光輝の世話についてもしっかりと調べ参加していたし、家事も気軽にする。
かと言って父親ではなく、どちらかと言えば祖父や伯父など第三者的な感じだが。
「みたいっすね。直接採ってペパーミント食べてたってのは驚きでしたけど」
「あー、たまに食べてるよね。でもあれって、俺たちにバレてないと思ってるんだよね」
「そう・・・・・・なんですか?」
驚く結衣に、マコはおかしそうに笑った。それもその筈、実際に採って食べているのを結衣もマコも直接見ていた。無意識なのだろうか、仕事をしていたかと思えば、台本を持ったままベランダに行き適当にペパーミントをもぎ取り食べる。そんな姿を二人は何度か見ていた。
「料理に使うとかじゃないんすね」
「料理にも使ってるけど、多分脳の活性化とかじゃないかな。額に皺寄せてるときによくやってるよね」
「そうですね。コーヒーと一緒に食べてるのも見かけます」
「あー、たまにコーヒーのクリームの上に乗ってるけど。あんな感じか」
「ちょっと違うかな。傑の場合ブラックでそのままだから」
甘党の力也らしい想像に、マコは笑いながら訂正した。力也は飾りのミントのような物をイメージしているのだろうが実際は付け合わせとしてしっかり味わっている。
「そこまで見られてるのに、バレてないと思ってるんすか?」
「多分ね。隠してる訳じゃないだろうけど、話題に出さないからバレてないと思ってると思うよ」
「私この前、コーヒーと一緒に出しちゃいました」
気を利かせたつもりが失敗してしまったかと心配する結衣の言葉マコは声をあげて笑った。
「傑なんか言ってた?」
「ありがとうって笑いながら言ってくださいましたけど・・・・・・」
「さすがに気づいたんじゃないっすか?」
「そうだね。残念見たかったな」
もしかしたらまだバレていないと思っているかも知れないが、多分見破られているとは思った筈だ。こそっとつまみ食いをしていたところを見られていたとわかった時に、傑はどんな反応だったのだろうか。
結衣は笑っていたと言っていたが、おそらく苦笑だろう。もしかしたら恥ずかしそうな笑いだったかも知れない。日々、役者相手に演技について語っている傑が、ごまかせていなかったのはさぞ恥ずかしかっただろう。
「ど、どうしましょう」
「どうもしなくていいよ。俺もやろうかな、面白そうだし」
ミントを作っている結衣だけでなく、マコにまでバレていると知ったら傑はどんな顔をするのだろう。
「傑さんも結構面白いんすね」
「そうなんだよ。仕事じゃ気をはっているかも知らないけど、家だと素だからね。普通にマイペースだし、俺たちにもデレデレだしね」
「いつも沢山優しくしてくれます」
「Sub贔屓ってのは現場でもバレてますけど」
「まぁ、その辺は王華学校のDomの共通だよね」
ダイナミクス専門の王華学校のDom達はもれなく、Subに甘くSubに目がない。それこそ、全てのSubが好みだと言わんばかりに、Subがいるだけで上機嫌になる。
「あの学校ほんと凄いからね」
「マコさんも王華学校卒業なんすか?」
「うん、一応ね。俺の場合は先に傑に出会ってたから売約済みって感じだったけど」
マコは王華学校に上がる前に、傑と出会い、傑のすすめで王華学校に進んだ特待生のようなSubの生徒だった。フリーではなかったので、お誘いは多くなかったが、それでもDomの生徒達からはアイドル扱いされた。
「そういうパターンもあるんすね」
「うん、普通の学校に行かせてもいいんだけど、王華学校のほうが校内まで目が行き届くし、いざと言うときにどうにでもなるからね。その頃傑、まだ駆け出しで外国に連れて行かれたりしてたから余計だよね」
「確かに寮なら安全に確保できますよね」
「そうそう、さすがに駆け出しで勉強中じゃ俺を連れてけないからね」
今ならば誰か一人ぐらいならば連れて行けるだろうが、駆け出しの身でそんな事ができるわけがない。王華学校以外に行きたい学校があるならば別だが特にマコの希望はなかった。それならば下手にちょっかいを出されるよりは王華学校にいれた方がいいだろう。
「あの頃は傑もSランクじゃなかったし、お金だってなかったからね」
「傑さんって、いつSランクになったんですか?」
「傑がSランクになったのは32だよ。それでも早いほうなんだけどね」
「やっぱ、冬真みたいにきっかけとかあったんですか?」
「きっかけって言うか大変だったよ」
力也の質問にマコは昔の事を思い出し笑った。
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