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第七十九話【それぞれの変化】前
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AV男優から、普通の俳優に転職し、力也と出会ってあっという間にドラマの役を貰い、更に映画にも出演し芸能界の大物俳優とも親しくなることができた。それだけではなく、色々と経験を重ね、Sランクにもなることができた。
今までよりも広い部屋に住み、Subを二人抱えるという贅沢までできる。
その全てが力也の影響力だ。もう凄いとしか言えない。何がなんだかわからない内に、どんどん上げられている。それでも力也には適わないが。
不安は沢山あったが、ついて行けないなど言っている暇はなかった。気づけばその不安さえ取り除かれ、進むだけしかなかった。
力也は冬真の事を強引だと言うが、内容を考えれば力也の方が強引だと思う。
それでも、力也の安心した笑顔を見ればいくらでも振り回されていいと思えるのだから単純なものだ。
「力也さんマジ、アゲマン。さすが王のSub」
「アゲマンって本人の前で絶対に言うなよ?」」
「あれ褒めてるのにダメ?」
「下ネタにしか聞こえねぇんだよ」
「ってか、何してんの」
「引っ越しの準備だよ」
あまり多くはない食器類を段ボールに詰める作業をしながら、冬真は有利からのテレビ通話に出ていた。先日の喧嘩以来、二度目の連絡だ。
有利本人は力也に連絡を取りたいのだろうが、冬真も港も連絡先を教えず、更に港が怒るからという理由で諦めているらしい。
「引っ越し!? 何でせっかく住所知れたのに」
「狭いからだよ」
「なんで? 二人ならいけるじゃん」
「もう一人力也の母親が増えるんだよ」
「力也さんのお母さん? 同居?」
次々投げかけられる質問にめんどくさそうに答えながらも、手を止めることなく、使っていない調理道具も段ボールにしまっていく。
仕事の力也にキッチンを綺麗にしておいて欲しいと言われたからには、のんびり電話をしている暇などないと言うのに、しつこく話を続ける有利に微妙にイライラしながら答える。
「引き取るんだよ。保護施設でれそうだから」
「Sub!?」
保護施設という言葉に、有利の声のテンションが上がる。傷ついたSubに興奮してしまう友人に嫌そうな反応を返しつつ、肯定する。
「いいな、両手に花じゃん」
「言っとくけど、まだ様子見だからな」
「え? 親子丼すんじゃなくて?」
「しねぇよ!」
その誤解は受けるのではないかと思っていたが、決めつけるように聞いてきた有利の言葉に冬真ははっきりと否定した。
「お前もう力也と話すの禁止」
「え、ちょっと横暴!」
「碌でもないことばかり言うからだろ!」
「だってSubの親子って言ったらそれしかないじゃん」
「ちげぇよ!」
何故、皆あえて聞かなかったデリケートな話題を聞くのか。相変わらず見た目と思考回路があっていない友人の質問に、怒鳴り返す。
「今まで大変だったから、引き取って甘やかすだけだ!」
「でも、Playするんだよね」
「するけど、それは軽いので、SEXはしねぇよ!」
思い浮かべているだろう展開をはっきりと否定すれば、有利が驚き声を上げる。
「なんで!? もったいない!」
「負担は絶対にかけないって決めてんだよ!」
「ちょっとキツイぐらいの方が楽しんじゃなくて?」
「やっぱお前、もう一度じいちゃん先生にしごかれてこい」
「やだ。じいちゃん先生怖いもん」
少しだけならと通話を受け入れたのが運の尽き、デリカシーのない会話に、冬真はさすがにめんどくさくなっていた。
「とにかく、俺はそういうのやる気はないから! もう切るぞ」
「え、ちょっと・・・・・・」
その瞬間だった電話口からドアの音が聞こえ、港のただいまと言う声が聞こえた。
「あ、港帰ってきたから! じゃあまた!」
あんなにうるさかったのに、コロリと電話を切った様子に、冬真は呆れると共に、怒った。
「あのやろー! 散々邪魔ばかりして! 当分連絡来ても無視してやる」
学生時代から何も変わらない、相手へブツブツと文句を言いながらも、食器類を傷つけないように段ボールへ入れようとするが、その途中でガチャッと大きな音を立ててしまう。
「ヤバい、ヤバい、落ち着け俺」
こんな時は深呼吸と、力也コレクションを使うに限る。スマホを操作し、この前とった力也の歌声を流す。
「うん、落ち着いてきた」
スマホから流れるのは、力也らしい軽快な音楽だが、冬真にとってはなによりも癒やしの声となる。どうせなら、料理教室の映像を見たいが、そうなると作業を続けられる自信がない。
「これ終わったらみるか」
この前力也の部屋に転がり込んできただけなので、自分の荷物はまだほとんどが段ボールに入れてある。力也もそれほど物が多い訳ではないので、台所を片付けてしまえば大分楽になる。
「ってか使ってない物が多いな、誰かに貰ったのかな」
あきらかに新品のままの物もあれば、随分使われていないだろう物もある。一人暮らしではつかう事のないだろう、コンロと鍋を見たときに冬真は悟った。
「これ、母さんのか」
おそらく母と二人暮らしをしていた頃に使っていた物なのだろう、いつまた使うかわからないそれが、いつでも使えるように大事に保管されていた。
「三人で住むようになったら活用しなきゃな」
幼い頃の力也は母と二人、どんな生活をしていたのだろうか。父親であるはずの男は他に住まいを持ち、Playをしにくるだけの関係で母と二人、質素ながらも穏やかに暮らしていたのだろうか。養育費も貰っていなかった母はどうやって力也を育て、どんな風に愛したのか。
力也が赤ちゃんの時は? 力也が幼児の時は? 小学校の時はどんな風だったのだろうか。
きっと力也本人ではわからないことだらけで、聞いてもわからないだろう。
(母さんがもっとよくなったら話してくれるかな)
できれば昔の写真とかも見せて欲しいし、二人の話も沢山聞きたい。二人で楽しそうに笑い合っている姿を見ていたい。
まだしばらくは叶わないだろうが、三人で買い物に出かけたり、旅行に出かけたりもしたい。
刃物も持たせられないし、料理も任せられない、一人で置いておくのも心配な今の状態では道のりは遠いが、きっといつか叶うだろう。
そうなったらまずは冬真の実家に連れて行かなければならないが、それ以外でも沢山の楽しい思いをして欲しい。
(インドア派とアウトドア派どっちだろう)
まだまだ知りたいことが多すぎる。
(そういえば、力也とのキャンプもまだだったな)
せっかく菊川に貰ったグランピングの割引券もまだ使っていない。母さんを引き取ったらしばらく家を空けられないだろうから今のうちにいかなければ。
(せっかくなら二泊ぐらいしたいし・・・・・・)
留守にするなら、また保護施設に泊めて貰うこともできるだろうが、動かしたばかりでそれはしたくない。
(帰ってきたら力也と仕事のスケジュール確認しよう。クレイム旅行もまだだし)
二人共に忙しく、色々なことも起こる所為で、のんびり旅行にも出かけられていない。
一日中まったり過ごすのも、ほとんどベッドの上で過ごすのも、近場に買い物に行くのも好きだが、遠出もしたい。遠出をしてまた新しい力也の顔を見たい。
そのためなら、例えどんな絶叫ものだって力也の望みのまま頑張ろうと思え、なくもない。多分。
そんなことを考えながらキッチンの周りを纏めると、一息ついた。
少し休憩してからスカスカになった棚などを拭こうかと思っていると、再び電話がかかってきた。
誰かと思いながら画面を開けばそこには神月の名前があった。
「はい、冬真です」
「よう、今平気か」
「はい、今日は休みなので」
「力也は?」
「力也は仕事です。どうかしましたか?」
力也の予定まで聞いてきたということは至急の用だろうかと、思いながら聞き返せば、神月は丁度よかったと呟いた。
「今どこだ?」
「力也のマンションですけど」
「ちょっと話があるからそっち行く」
「わかりました」
口調的にはあまり深刻そうな感じはないが、二人きりで話したいのかも知れない神月に了承し、電話をきった。
「って・・・・・・この状況で!?」
電話を切ってから気づくが、いまは引っ越しの準備が終わったところで廊下にも玄関にも段ボールが置きっぱなしだ。
このままじゃ、尋ねてきた神月が入れないことになる。そう悟った冬真は、慌てたように段ボールを手に、リビングとキッチンを行ったり来たりすることになった。
今までよりも広い部屋に住み、Subを二人抱えるという贅沢までできる。
その全てが力也の影響力だ。もう凄いとしか言えない。何がなんだかわからない内に、どんどん上げられている。それでも力也には適わないが。
不安は沢山あったが、ついて行けないなど言っている暇はなかった。気づけばその不安さえ取り除かれ、進むだけしかなかった。
力也は冬真の事を強引だと言うが、内容を考えれば力也の方が強引だと思う。
それでも、力也の安心した笑顔を見ればいくらでも振り回されていいと思えるのだから単純なものだ。
「力也さんマジ、アゲマン。さすが王のSub」
「アゲマンって本人の前で絶対に言うなよ?」」
「あれ褒めてるのにダメ?」
「下ネタにしか聞こえねぇんだよ」
「ってか、何してんの」
「引っ越しの準備だよ」
あまり多くはない食器類を段ボールに詰める作業をしながら、冬真は有利からのテレビ通話に出ていた。先日の喧嘩以来、二度目の連絡だ。
有利本人は力也に連絡を取りたいのだろうが、冬真も港も連絡先を教えず、更に港が怒るからという理由で諦めているらしい。
「引っ越し!? 何でせっかく住所知れたのに」
「狭いからだよ」
「なんで? 二人ならいけるじゃん」
「もう一人力也の母親が増えるんだよ」
「力也さんのお母さん? 同居?」
次々投げかけられる質問にめんどくさそうに答えながらも、手を止めることなく、使っていない調理道具も段ボールにしまっていく。
仕事の力也にキッチンを綺麗にしておいて欲しいと言われたからには、のんびり電話をしている暇などないと言うのに、しつこく話を続ける有利に微妙にイライラしながら答える。
「引き取るんだよ。保護施設でれそうだから」
「Sub!?」
保護施設という言葉に、有利の声のテンションが上がる。傷ついたSubに興奮してしまう友人に嫌そうな反応を返しつつ、肯定する。
「いいな、両手に花じゃん」
「言っとくけど、まだ様子見だからな」
「え? 親子丼すんじゃなくて?」
「しねぇよ!」
その誤解は受けるのではないかと思っていたが、決めつけるように聞いてきた有利の言葉に冬真ははっきりと否定した。
「お前もう力也と話すの禁止」
「え、ちょっと横暴!」
「碌でもないことばかり言うからだろ!」
「だってSubの親子って言ったらそれしかないじゃん」
「ちげぇよ!」
何故、皆あえて聞かなかったデリケートな話題を聞くのか。相変わらず見た目と思考回路があっていない友人の質問に、怒鳴り返す。
「今まで大変だったから、引き取って甘やかすだけだ!」
「でも、Playするんだよね」
「するけど、それは軽いので、SEXはしねぇよ!」
思い浮かべているだろう展開をはっきりと否定すれば、有利が驚き声を上げる。
「なんで!? もったいない!」
「負担は絶対にかけないって決めてんだよ!」
「ちょっとキツイぐらいの方が楽しんじゃなくて?」
「やっぱお前、もう一度じいちゃん先生にしごかれてこい」
「やだ。じいちゃん先生怖いもん」
少しだけならと通話を受け入れたのが運の尽き、デリカシーのない会話に、冬真はさすがにめんどくさくなっていた。
「とにかく、俺はそういうのやる気はないから! もう切るぞ」
「え、ちょっと・・・・・・」
その瞬間だった電話口からドアの音が聞こえ、港のただいまと言う声が聞こえた。
「あ、港帰ってきたから! じゃあまた!」
あんなにうるさかったのに、コロリと電話を切った様子に、冬真は呆れると共に、怒った。
「あのやろー! 散々邪魔ばかりして! 当分連絡来ても無視してやる」
学生時代から何も変わらない、相手へブツブツと文句を言いながらも、食器類を傷つけないように段ボールへ入れようとするが、その途中でガチャッと大きな音を立ててしまう。
「ヤバい、ヤバい、落ち着け俺」
こんな時は深呼吸と、力也コレクションを使うに限る。スマホを操作し、この前とった力也の歌声を流す。
「うん、落ち着いてきた」
スマホから流れるのは、力也らしい軽快な音楽だが、冬真にとってはなによりも癒やしの声となる。どうせなら、料理教室の映像を見たいが、そうなると作業を続けられる自信がない。
「これ終わったらみるか」
この前力也の部屋に転がり込んできただけなので、自分の荷物はまだほとんどが段ボールに入れてある。力也もそれほど物が多い訳ではないので、台所を片付けてしまえば大分楽になる。
「ってか使ってない物が多いな、誰かに貰ったのかな」
あきらかに新品のままの物もあれば、随分使われていないだろう物もある。一人暮らしではつかう事のないだろう、コンロと鍋を見たときに冬真は悟った。
「これ、母さんのか」
おそらく母と二人暮らしをしていた頃に使っていた物なのだろう、いつまた使うかわからないそれが、いつでも使えるように大事に保管されていた。
「三人で住むようになったら活用しなきゃな」
幼い頃の力也は母と二人、どんな生活をしていたのだろうか。父親であるはずの男は他に住まいを持ち、Playをしにくるだけの関係で母と二人、質素ながらも穏やかに暮らしていたのだろうか。養育費も貰っていなかった母はどうやって力也を育て、どんな風に愛したのか。
力也が赤ちゃんの時は? 力也が幼児の時は? 小学校の時はどんな風だったのだろうか。
きっと力也本人ではわからないことだらけで、聞いてもわからないだろう。
(母さんがもっとよくなったら話してくれるかな)
できれば昔の写真とかも見せて欲しいし、二人の話も沢山聞きたい。二人で楽しそうに笑い合っている姿を見ていたい。
まだしばらくは叶わないだろうが、三人で買い物に出かけたり、旅行に出かけたりもしたい。
刃物も持たせられないし、料理も任せられない、一人で置いておくのも心配な今の状態では道のりは遠いが、きっといつか叶うだろう。
そうなったらまずは冬真の実家に連れて行かなければならないが、それ以外でも沢山の楽しい思いをして欲しい。
(インドア派とアウトドア派どっちだろう)
まだまだ知りたいことが多すぎる。
(そういえば、力也とのキャンプもまだだったな)
せっかく菊川に貰ったグランピングの割引券もまだ使っていない。母さんを引き取ったらしばらく家を空けられないだろうから今のうちにいかなければ。
(せっかくなら二泊ぐらいしたいし・・・・・・)
留守にするなら、また保護施設に泊めて貰うこともできるだろうが、動かしたばかりでそれはしたくない。
(帰ってきたら力也と仕事のスケジュール確認しよう。クレイム旅行もまだだし)
二人共に忙しく、色々なことも起こる所為で、のんびり旅行にも出かけられていない。
一日中まったり過ごすのも、ほとんどベッドの上で過ごすのも、近場に買い物に行くのも好きだが、遠出もしたい。遠出をしてまた新しい力也の顔を見たい。
そのためなら、例えどんな絶叫ものだって力也の望みのまま頑張ろうと思え、なくもない。多分。
そんなことを考えながらキッチンの周りを纏めると、一息ついた。
少し休憩してからスカスカになった棚などを拭こうかと思っていると、再び電話がかかってきた。
誰かと思いながら画面を開けばそこには神月の名前があった。
「はい、冬真です」
「よう、今平気か」
「はい、今日は休みなので」
「力也は?」
「力也は仕事です。どうかしましたか?」
力也の予定まで聞いてきたということは至急の用だろうかと、思いながら聞き返せば、神月は丁度よかったと呟いた。
「今どこだ?」
「力也のマンションですけど」
「ちょっと話があるからそっち行く」
「わかりました」
口調的にはあまり深刻そうな感じはないが、二人きりで話したいのかも知れない神月に了承し、電話をきった。
「って・・・・・・この状況で!?」
電話を切ってから気づくが、いまは引っ越しの準備が終わったところで廊下にも玄関にも段ボールが置きっぱなしだ。
このままじゃ、尋ねてきた神月が入れないことになる。そう悟った冬真は、慌てたように段ボールを手に、リビングとキッチンを行ったり来たりすることになった。
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