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第七十八話【完全に巻き込まれた】後

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 冬真が出かけて、随分一時間余り、港の愚痴が止まらない。泊まるならと途中から酒を飲ませてみたら、予想外に弱かったのか愚痴が止まらなくなってしまった。

「大体、アイツは俺の事全然信用してないんだ!」
「そうなのかな」
「そうだって、それじゃなきゃあんなにしつこく連絡しないだろ! 俺がアイツから逃げて他の奴のとこにいくかもしれないって思ってんだ!」
「港は逃げたいとは思わないのか?」

 そう問いかければ、港は一瞬正気に戻ったかのように口を紡ぐともう一口酒を口にした。

「逃げたいって思う、もう無理だって何度も思う、それなのに逃げれない。アイツが嬉しそうに笑うと安心するんだ」
「そっか・・・・・・」
「痛くても、苦しくても、ありがとうって言われるとなんかムズムズして、もう少し付き合ってやってもいいかなって思うんだ。それで気づいたらクレイムまでしちゃったんだよ!」

 最初の頃はパートナーになるなんて思っていなかったが、気づいたら離れられなくなっていた。何度も喧嘩をして、うんざりしているのにどうしても有利の傍に戻ってきてしまう。
 おかえりと迎えられるだけで、帰ってきたと思える。あんなにひどいことをされているのに、腕の中にいるとほっとしてしまう。

「プロポーズは?」
「されたけど」
「へぇ、どんな感じだった?」

 こういう話は初めてなので、好奇心のまま尋ねれば、港が目をそらした。話したくなかったかなと思うも、明らかに嫌そうではない。

「因みに俺は何度か言われたけど、正式なのはCollar買いに行くとき、俺の物に、パートナーになって欲しいって言われた。不意打ちだったけど、嬉しかった」

 思い出すだけで、恥ずかしいが心が温かくなる。そっと首元のCollarとタグに触れ、指先で冬真から送られた文字をなぞる。

「俺は・・・・・・朝起きたら着替えと共にCollar・・・・・・渡された。これからも一緒にいてくれるならつけて欲しいって、パートナーになって欲しいって」
「嬉しかった?」
「・・・・・・正直あの時トイレ行きたくてそれどころじゃなくて・・・・・・腹痛くて」

 その台詞に、どういう状況だったか全てを悟った力也は、なんとも言えない表情になった。

「とりあえず、パンツだけ持ってトイレまでダッシュしたら、帰ってきたら悲しそうな顔で土下座しててどうしても離せる気がしないから、受け取って欲しいって言われて・・・・・・そのまま受け取っちゃったんだよ」

 なんとも締まらないプロポーズに、力也はどう返事をしたらいいのかわからず、乾いた笑いを返した。

「後から受け取らないでどっか行ったから焦ったとか言ってたけど、しっかり処理しなかったお前の所為だって」
「あー、残ってると、どうしてもそうなるよな」
「拒否られたと思ったって言うから、タイミング考えろって怒ちゃったんだよな」
「まあ、それは仕方ないと思うよ」

 おそらくプロポーズすることで頭がいっぱいになっていたのだろうが、それにしてもタイミングが悪すぎる。サプライズでCollar店まで連れてきた冬真が凄く、よく見える。

「おかげで笑い話にしかなんねぇよ」
「でも嬉しかったんだろ?」
「そりゃ、Collarつけられると俺だってSubだし、嬉しかったけど・・・・・・」

 港だってSubだ。Domに支配され、従う快感も安心感も知っている。Collarをつけて貰った時の、あの幸福感から目をそらすことはできない。

「でもなー。冷静になってみるとPlayでもよくつけてたし、今更ってのもあるし」
「拘束多いとそうなるか」
「ってか、アイツ散々人の体にピアス開けてたんだから、パートナー断られるとか考えてなかっただろ」
「そのピアスって全部、有利が開けた?」
「一応、耳の二つは自分で開けたけど他は全部アイツ。なんか他にも開けていいかって聞かれ、気づいたらどんどん増えてた」

 実のところ、元々所謂ヤンチャ系ではあったが、そこまでではなかった港だが、有利の所為であっという間にピアスだらけの見た目へ変化していた。

「ピアスだけかと思ったらタトゥーも入れたいとか言い出すし」
「タトゥー?」

 文字か絵かで内容は大分変わるが、所有欲が強いDomが入れたがるのは文字が多い。かつて悪趣味なDomが入れた言葉を見たことのある力也は、その言葉に心配そうな表情を浮かべた。ピアスもそうだが、タトゥーも一生体に残ってしまう物だ。

「言っとくけど、下品な内容じゃないぜ。名前だって」
「そっちか」
「でも、痛そうだろ。ピアスより大変そうだし、だから俺、せめてイニシャルにしろって言ったんだ」
(それでいいんだ)

 嫌だとはっきり断ったのかと思えば、そうではなかったらしい。拒否したようでしきれてはいないことに力也は心の中で突っ込みを入れた。

「結局イニシャル入れた?」
「それが、勉強してねぇから勉強してからにするって」
「そういうとこ王華学校の生徒だな」
「イニシャルぐらいなら普通にいれれると思うけどな」
「そこは喜んどこうよ」

 一度いいとしてしまえば、もうどうでもいいのか、最初は拒否した割にあっさりと受け入れてしまっている。こういうとこが犠牲型なのかもしれない。

「他に任すとかなかったのか?」
「他の奴がつけた傷が残るのは嫌だって」
「うっわ」
「アイツ、めんどくせーんだよ! 人がせっかくその気になってるのに!」

 わかりやすい独占欲に、思わずうめくと港がテーブルに酒をたたき付けるようにそう言った。

「大体、アイツは・・・・・・」

 そう再びグチグチと言い出した港の様子に、相づちをうちながら、チラリとスマホを確認すると冬真からの連絡が入っていた。
 コンビニに寄ってから帰るというメッセージに、二日酔いに聞くような物もよろしくと打つ。

そうして少しして帰ってきた冬真が見たのは、ソファーに潰れている港と、苦笑している力也の姿だった。尚、港が飲んだのは缶チューハイたったの二缶だった。

 次の日の朝早くに、ソファーで寝ていた冬真のスマホが鳴り響いた。電話の相手を確認し、とりあえず電話に出る。

「はよっ」
「おはよう、港は?」
「力也と一緒に寝てる」
「そっか、いつどこに迎えに行ったらいい?」
「とりあえず、様子見てから連絡するから、いつでもでれるようにしとけ」

 そう伝えて、通話を切ると、声が聞こえたのか力也が起きてきた。

「はよっ、有利からの電話?」
「そうそう、港の様子どう?」
「うーん、なんかぐっすり寝てる。会わすならもう少し後のほうがいいと思う、ここくる?」
「もうすぐ引っ越すし、そうだな。呼ぶか」

 しばらくはこっちにちょっかい出している場合じゃないだろうから、大丈夫だろうと考え呼ぶことにし、力也には港の相手を任せ朝食を作ることにした。

 それからしばらくして起きてきた港は見事二日酔いを煩っていた。

「頭いてぇ・・・・・・」
「あんなに弱いなんて思わなかった。これ二日酔いに効く奴と水」
「ありがとう」
「朝ご飯食べれる?」
「少しなら」

 頭を抱えながら、お茶漬けを口にすると薬を飲んだ港は、その場に突っ伏した。

「有利が迎えに来たいって言うんだけど、会えそう?」
「有利? あー、会う」
「わかった」

 あまり大丈夫そうじゃないなと思いながらも、連絡すれば有利はすぐにマンションを訪れた。

「港!」
「うるさい」
「港! ごめん! 俺が悪かった!」
「うるさい!」

 二日酔いの状態で大声で叫ばれ、痛む頭を抱えながら港は怒鳴り返した。その声でまた頭が痛くなるのを堪えつつ、有利を睨む。

「二日酔いなんだよ。静かに話せ」
「う、うん。・・・・・・昨日はお前の気持ち無視してごめん。心配してくれてたんだよね」
「お前完全にヤバかったからな」
「ごめん、色々見えなくなってた。せっかく港が料理作ってくれるって言ったのに、怒っちゃって、挙げ句にあんなことして、本当にごめん」

 冷静に考えてみれば、スーパーに行くと言ってもすぐ傍だし、仕事がある自分がついて行ける訳でもない。料理を作ると言っていたのだからどこかへいく筈もなかった。
 港は何も言わずに出かけることもあるが、行く場所を言っているときはけして嘘は言っていない。その事を忘れていた。

「力也さん達があんなことになって不安だってのはわかるけど、俺だってお前と会うまでSub隠して生きてきたぐらいだし、ちゃんと防衛ぐらいできる」
「そうだよね」
「お前が変態なのもわかってるから、今更逃げない」
「でも・・・・・・いつも嫌な事沢山してるし」

 もっと普通にできたらと思うことが有利にもある。相手の痛みも苦しみもわかっているのに、どうしても欲求を止められず求めてしまう。きっと港は自分の傍では安らげないのではと何度も思う事もある。

「今更すぎんだろ」
「え?」
「お前が、わがままなのも、自分勝手なのも、めんどくさいのも、うっとうしいのも、変態なのも今更だって。俺はそういうのわかってて相手をしてるんだから・・・・・・だから・・・・・・頭痛ぇ・・・・・・」

 大事なところで、再び頭を抱えだした様子に、見学していた力也と冬真は苦笑した。

「はい、港お水」
「ありがとう、力也さんマジ、イケメン。かっこいい」
「港、俺が飲ませてあげる!」
「うっさい、黙れ」

 渡した水を飲み干すと、再び睨む様子は、どうみても立場が逆転しているようにしか見えない。

「一々、力也さんに対抗しようとすんなよ。迷惑なんだよ」
「いやだって、俺も懐いて貰いたいし」
「どうせお前じゃ敵わねぇし、それにお前だって力也さんに尻尾振ってんだろ」
「それはそうかもしれないけど」
「今日だって力也さんに会えるの喜んでんだろ」
「違う! 今日は港を迎えに来ただけで、力也さんのことは・・・・・・その・・・・・・」
「ほらやっぱりそうじゃねぇか!」
「あの・・・・・・痴話げんかに俺の力也を巻き込むのはやめて欲しいんだけど」

 論点がずれてきたのを察知し、冬真が言いにくそうに言葉を挟む。先ほどからいきなり話を振られ、話について行けなくなっている力也がとんだとばっちりだ。

「ほら、お前の所為で力也さん困っただろ!」
「え、言い出したのお前じゃ・・・・・・」
「謝れよ!」
「ごめんなさい! すみませんでした!」
「あ、うん。俺は別にいいけど・・・・・・で、二人とももう大丈夫?」

 その力也の言葉で、再び港の文句が始まったのは言うまでもない。
 結局、なんだかんだと文句をいいすっきりしたのか、港は有利に連れられ帰って行った。

「嵐だったな」
「あれが喧嘩するほどってやつ?」
「どっちかっていうと一方的に怒られたけどな」

 完全に痴話げんかに巻き込まれた形になった二人は、一応元の鞘に収まった港と有利をこれからも応援し、見守ろうと笑いあった。

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