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第五十九話【独占欲と我儘】中
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高校をでてちまちまお金をためて買ったのが、バイクだ。子供のころから憧れていたのもあり、少ないお金で拘って二人乗りできるタイプの物を買った。
以来、実家に帰る時や趣味、通勤等に活用してきた。力也と出会ってからは主に、力也を連れ去るために活用している。
会話はあまりできないけど、密着した背中から伝わる体温や、微かに感じる息遣い、そえられる両手に、幸福を感じる。
だからそこまで、車に憧れをもっていなかった。流石に車になれば、今みたいに勝手に庭を駐車場ようにしているだけでは間に合わないだろうし、会話も遠出も楽でも助手席じゃ少し距離が遠い。
そのぐらいと言われそうだが、考えると嫌だなと思うのだから仕方ない。だから、もし必要な時はレンタカーでいいかと思っていた。
それでも、こういう時は車がほしいかなと思える。
「え、会員になるの冬真だけ?」
「ああ、同行者も一人なら入れるんだし、二人で作らなくてもいいだろ」
「冬真そんなにくる?」
「くるくる。食いしん坊いるからくる」
つまり、力也と一緒にくると言いたいんだろう、自分の為というわけじゃないのに会員費を払おうとしていた。
「本当は、家族カード作れればいいんだけど。住所違うし、同棲するようになったらだな」
「同棲」
急に出たその話題に思わず、繰り返してしまう。確かに冬真にそれらしいことを言われた覚えはあるが、クレイムしたことにより、より現実味を帯びてきた。
「お前の部屋でもいいけど、あそこじゃちょっと狭いよな。母さんの部屋も欲しいし」
「ってことは2LDK以上?」
「ああ、できればなるべく広めの、余裕があるとこで防音も期待できるとこ」
「防音」
「必要だろ?」
確かに、なんだかんだ大きな音や大きな声を上げてしまう事があるから必要なのはわかる。
「まあ、もう少し俺が稼げるようになってからだけど」
「俺の借金も終わってからだな」
「まだ残ってるのかよ」
「闇金だし」
ヤクザ関係のところなのだから、間違いなく闇金だとわかっていて借りたのだから、利息が多くなかなか終わらなくとも力也は返す気でいる。
「奨学金とか考えなかったのかよ」
「あー、そこはとっさに考えられなかった。後で使えばよかったって思って慌てて、桐生さんに交渉したんだけどダメだって言われた」
「そこは融通きかなかったのか」
「返せる分は返すって言ったのに、予備で持っておけって言われて結局減らなかった」
「流石ヤクザ」
話すと意外と落ち着いて見えるから、忘れてしまいそうになるが、ヤクザはヤクザだ。気がいいからと言って油断してはいけない。
「闇金にしては良心的って感じか」
「闇金の良心ってのがわかんねぇけどな」
そんなことを言いながら、会員登録を済ませた二人はコ●トコの中へ入った。
「広いな」
「あんま時間ないし、とりあえず食い物のとこいくか」
そう言うと、食料品のコーナーに向った二人だが予想外の種類の多さに、どれにするべきか頭を抱える結果になった。
「これ食いたい」
「ピザか、いいけどどうやって焼くんだ?」
「そこは適当に」
「適当にって」
「あ、こっちもいいな」
食欲旺盛な力也よりも、人並みの冬真方が意気揚々と籠に入れていくのはどういうことだろうか。入る前は力也のほうが、沢山持って帰る気だったのに、いつの間にかすっかりその気になっている。
「力也はこっちとこっちどっちがいい?」
「うーん、どっちも気になるけど……冬真が食べるんだし好きなほう買えば?」
「俺も食べるけど、力也の餌付けようだし」
「餌付けって……既に懐いてんだから、これ以上必要ないだろ」
懐いていないなら好きな物をあげて餌付けするのもわかるが、これほど気を許しているのにする必要はないだろ。ましてや、クレイムまでしたのだから安心して扱いが軽くなることも十分にあり得た。
だが、冬真は今のところはその傾向がなく、むしろ愛情表現が重くなってきている。
「必要ないわけないだろ。もっと、もっと懐かせんだから」
その夢を語るようなギラギラとした瞳に、力也はそっと距離を取った。信頼する冬真に恐怖を感じることはないはずだが、これはなんとなく怖い。
「上手いもん沢山食べさせて、愛情注ぎまくって、生まれてきて、生きてきてよかったって思えるようにするんだから!」
言っているうちに、熱が入ってきたのか、ここがどこかも考えず、冬真は大げさなほどの宣言をした。
「わ、わかったから」
「今まで辛くても頑張ってきてよかったって思えるように、Subでよかったって思えるように、俺がさせるんだから!」
「わかったって!」
人目を気にせずに、堂々と言い切るその様子に、力也は慌ててその口を押さえに入った。
既に二人は他の買い物客からの注目の的だ。力也の首にあるCollarのおかげでなんとなく関係はわかるのだろうが、それ以上になにを騒いでいるのかと訝しげな視線を送られている。
「あれ、あの人どこかで……」
その声が聞こえた瞬間、慌てて力也は冬真が持っていたピザを籠に詰めると、逃げるように手を引っ張り移動した。
人目の少ない場所までくると、顔色一つ変えていない冬真へ詰め寄る。
「冬真、自分が芸能人だってわかってる?」
「そんな警戒しなくても大丈夫だって」
「そんなこと言って週刊誌に載ったらどうすんだよ!」
「俺が載っても話題性ないから載らないって」
既に、互いに所属している事務所には言ってあるのだが、冬真は公にはまだ発表していない。無論、冬真は発表したほうがいいのかと聞いたのだが、聞かれた社長はそもそもそこまで探られてないと、なんとも悲しい事実を突き立ててきた。
しかし、そんな事情を知らず、孝仁や将人、翔壱といった大物ばかりみてきた力也はピンと来ていないようだった。
「スクープじゃなくて?」
「向こうもそんな誰でも飛びついてこねぇよ」
ブログで一言言っただけでも、その商品が売り切れになってしまうと聞いたことのある力也は不思議そうに首を傾げた。基準がずれている。
「ならいいけど、でもあんまり目立つような事すんなよ」
「はいはい、わかりました」
本当にわかっているのかと思いながらも、もう少し買い物をするために、見逃した場所まで戻る。丁度人が少ないタイミングで戻れた二人は、他に気になる物を選び始めた。
「力也! プロテイン! プロテインがあった!」
「あ、ほんとだ。買ってこうかな」
「力也、こっちチョコがある! 母さんに買ってこう!」
「冬真の物になったら、母さん一気に太りそうだな」
「痩せすぎだし、いいじゃん」
「それはそうなんだけど」
力也も母が不健康に痩せているのはわかっているし、沢山食べて健康体になってほしいと思っている。しかし、一つ懸念があるのは元々食べるほうではない母の胃が、冬真の餌付けに耐えられるかということだ。
痩せすぎだからと言って、与え続ければ、母はそれを拒否することなく食べ続けるだろう。
ご主人様から与えられたものなら、母はどこまでも、どんなものでも食べてしまう。
「まぁ、冬真が気にしないならいいけど。量は加減しろよ?」
「残ったらお前に回すから安心しろ」
「俺かよ」
結局自分に戻ってきたことに、力也は顔を顰めた。このままでは箸も持たせてもらえないのではと若干嫌な予感がする。
手で食べさせてもらえるのは、余計おいしく感じられるし、楽しいし、嬉しいが、自分で食べられるのにと、思ってしまう。冬真もそれをわかっているのだろう、選んでいる食べ物はどれも手づかみで食べられる物ばかりだ。
「しょうがねぇじゃん、俺から貰ったの食べるお前すきなんだよ。すごい幸せそうで」
考えていたことを言い当てられるような言葉とニヤニヤとした笑みを向けられ、力也は肯定することもできずに目線を反らした。
「お前も俺に食べさせられるの好きだろ?」
せっかく目線を反らしているのに、回り込まれ至近距離で尋ねられれば、それ以上逃げることも叶わなくなる。仕方なくため息をつき、素直に答えるしかできない。
「……好きだけど」
「けど?」
「色々手加減してほしい」
それでも、ニコニコと確信を持ったまま聞き返され、その瞳に恥ずかしさがこみ上げやはり目を反らしたくなる。
「だーめ。力也? ご主人様の望みは?」
「最優先」
「よくできました」
ほんのりと力也だけにわかる様に愛情を込めたグレアを送られそれだけで、幸福に満たされてしまうのだから、元々勝てるわけがなかったのだ。
人目が気になるからとこうして何度も隠れたのに、褒められ、甘やかされることを望んでしまう。このほんの少しのグレアだけでもご褒美のように感じてしまう。
グレアは与える人によって、こんなにも嬉しくさせてくれるものなのだと冬真が初めて教えてくれた。
もっと浴びたい、もっと強く、もっと深くまで染み込ませてほしい。中も外も満たされたい。こんな人目があるところで、甘やかしてくる冬真も大概だが、すぐにそんな気持ちになってしまう自分も大概だなと思えた。
以来、実家に帰る時や趣味、通勤等に活用してきた。力也と出会ってからは主に、力也を連れ去るために活用している。
会話はあまりできないけど、密着した背中から伝わる体温や、微かに感じる息遣い、そえられる両手に、幸福を感じる。
だからそこまで、車に憧れをもっていなかった。流石に車になれば、今みたいに勝手に庭を駐車場ようにしているだけでは間に合わないだろうし、会話も遠出も楽でも助手席じゃ少し距離が遠い。
そのぐらいと言われそうだが、考えると嫌だなと思うのだから仕方ない。だから、もし必要な時はレンタカーでいいかと思っていた。
それでも、こういう時は車がほしいかなと思える。
「え、会員になるの冬真だけ?」
「ああ、同行者も一人なら入れるんだし、二人で作らなくてもいいだろ」
「冬真そんなにくる?」
「くるくる。食いしん坊いるからくる」
つまり、力也と一緒にくると言いたいんだろう、自分の為というわけじゃないのに会員費を払おうとしていた。
「本当は、家族カード作れればいいんだけど。住所違うし、同棲するようになったらだな」
「同棲」
急に出たその話題に思わず、繰り返してしまう。確かに冬真にそれらしいことを言われた覚えはあるが、クレイムしたことにより、より現実味を帯びてきた。
「お前の部屋でもいいけど、あそこじゃちょっと狭いよな。母さんの部屋も欲しいし」
「ってことは2LDK以上?」
「ああ、できればなるべく広めの、余裕があるとこで防音も期待できるとこ」
「防音」
「必要だろ?」
確かに、なんだかんだ大きな音や大きな声を上げてしまう事があるから必要なのはわかる。
「まあ、もう少し俺が稼げるようになってからだけど」
「俺の借金も終わってからだな」
「まだ残ってるのかよ」
「闇金だし」
ヤクザ関係のところなのだから、間違いなく闇金だとわかっていて借りたのだから、利息が多くなかなか終わらなくとも力也は返す気でいる。
「奨学金とか考えなかったのかよ」
「あー、そこはとっさに考えられなかった。後で使えばよかったって思って慌てて、桐生さんに交渉したんだけどダメだって言われた」
「そこは融通きかなかったのか」
「返せる分は返すって言ったのに、予備で持っておけって言われて結局減らなかった」
「流石ヤクザ」
話すと意外と落ち着いて見えるから、忘れてしまいそうになるが、ヤクザはヤクザだ。気がいいからと言って油断してはいけない。
「闇金にしては良心的って感じか」
「闇金の良心ってのがわかんねぇけどな」
そんなことを言いながら、会員登録を済ませた二人はコ●トコの中へ入った。
「広いな」
「あんま時間ないし、とりあえず食い物のとこいくか」
そう言うと、食料品のコーナーに向った二人だが予想外の種類の多さに、どれにするべきか頭を抱える結果になった。
「これ食いたい」
「ピザか、いいけどどうやって焼くんだ?」
「そこは適当に」
「適当にって」
「あ、こっちもいいな」
食欲旺盛な力也よりも、人並みの冬真方が意気揚々と籠に入れていくのはどういうことだろうか。入る前は力也のほうが、沢山持って帰る気だったのに、いつの間にかすっかりその気になっている。
「力也はこっちとこっちどっちがいい?」
「うーん、どっちも気になるけど……冬真が食べるんだし好きなほう買えば?」
「俺も食べるけど、力也の餌付けようだし」
「餌付けって……既に懐いてんだから、これ以上必要ないだろ」
懐いていないなら好きな物をあげて餌付けするのもわかるが、これほど気を許しているのにする必要はないだろ。ましてや、クレイムまでしたのだから安心して扱いが軽くなることも十分にあり得た。
だが、冬真は今のところはその傾向がなく、むしろ愛情表現が重くなってきている。
「必要ないわけないだろ。もっと、もっと懐かせんだから」
その夢を語るようなギラギラとした瞳に、力也はそっと距離を取った。信頼する冬真に恐怖を感じることはないはずだが、これはなんとなく怖い。
「上手いもん沢山食べさせて、愛情注ぎまくって、生まれてきて、生きてきてよかったって思えるようにするんだから!」
言っているうちに、熱が入ってきたのか、ここがどこかも考えず、冬真は大げさなほどの宣言をした。
「わ、わかったから」
「今まで辛くても頑張ってきてよかったって思えるように、Subでよかったって思えるように、俺がさせるんだから!」
「わかったって!」
人目を気にせずに、堂々と言い切るその様子に、力也は慌ててその口を押さえに入った。
既に二人は他の買い物客からの注目の的だ。力也の首にあるCollarのおかげでなんとなく関係はわかるのだろうが、それ以上になにを騒いでいるのかと訝しげな視線を送られている。
「あれ、あの人どこかで……」
その声が聞こえた瞬間、慌てて力也は冬真が持っていたピザを籠に詰めると、逃げるように手を引っ張り移動した。
人目の少ない場所までくると、顔色一つ変えていない冬真へ詰め寄る。
「冬真、自分が芸能人だってわかってる?」
「そんな警戒しなくても大丈夫だって」
「そんなこと言って週刊誌に載ったらどうすんだよ!」
「俺が載っても話題性ないから載らないって」
既に、互いに所属している事務所には言ってあるのだが、冬真は公にはまだ発表していない。無論、冬真は発表したほうがいいのかと聞いたのだが、聞かれた社長はそもそもそこまで探られてないと、なんとも悲しい事実を突き立ててきた。
しかし、そんな事情を知らず、孝仁や将人、翔壱といった大物ばかりみてきた力也はピンと来ていないようだった。
「スクープじゃなくて?」
「向こうもそんな誰でも飛びついてこねぇよ」
ブログで一言言っただけでも、その商品が売り切れになってしまうと聞いたことのある力也は不思議そうに首を傾げた。基準がずれている。
「ならいいけど、でもあんまり目立つような事すんなよ」
「はいはい、わかりました」
本当にわかっているのかと思いながらも、もう少し買い物をするために、見逃した場所まで戻る。丁度人が少ないタイミングで戻れた二人は、他に気になる物を選び始めた。
「力也! プロテイン! プロテインがあった!」
「あ、ほんとだ。買ってこうかな」
「力也、こっちチョコがある! 母さんに買ってこう!」
「冬真の物になったら、母さん一気に太りそうだな」
「痩せすぎだし、いいじゃん」
「それはそうなんだけど」
力也も母が不健康に痩せているのはわかっているし、沢山食べて健康体になってほしいと思っている。しかし、一つ懸念があるのは元々食べるほうではない母の胃が、冬真の餌付けに耐えられるかということだ。
痩せすぎだからと言って、与え続ければ、母はそれを拒否することなく食べ続けるだろう。
ご主人様から与えられたものなら、母はどこまでも、どんなものでも食べてしまう。
「まぁ、冬真が気にしないならいいけど。量は加減しろよ?」
「残ったらお前に回すから安心しろ」
「俺かよ」
結局自分に戻ってきたことに、力也は顔を顰めた。このままでは箸も持たせてもらえないのではと若干嫌な予感がする。
手で食べさせてもらえるのは、余計おいしく感じられるし、楽しいし、嬉しいが、自分で食べられるのにと、思ってしまう。冬真もそれをわかっているのだろう、選んでいる食べ物はどれも手づかみで食べられる物ばかりだ。
「しょうがねぇじゃん、俺から貰ったの食べるお前すきなんだよ。すごい幸せそうで」
考えていたことを言い当てられるような言葉とニヤニヤとした笑みを向けられ、力也は肯定することもできずに目線を反らした。
「お前も俺に食べさせられるの好きだろ?」
せっかく目線を反らしているのに、回り込まれ至近距離で尋ねられれば、それ以上逃げることも叶わなくなる。仕方なくため息をつき、素直に答えるしかできない。
「……好きだけど」
「けど?」
「色々手加減してほしい」
それでも、ニコニコと確信を持ったまま聞き返され、その瞳に恥ずかしさがこみ上げやはり目を反らしたくなる。
「だーめ。力也? ご主人様の望みは?」
「最優先」
「よくできました」
ほんのりと力也だけにわかる様に愛情を込めたグレアを送られそれだけで、幸福に満たされてしまうのだから、元々勝てるわけがなかったのだ。
人目が気になるからとこうして何度も隠れたのに、褒められ、甘やかされることを望んでしまう。このほんの少しのグレアだけでもご褒美のように感じてしまう。
グレアは与える人によって、こんなにも嬉しくさせてくれるものなのだと冬真が初めて教えてくれた。
もっと浴びたい、もっと強く、もっと深くまで染み込ませてほしい。中も外も満たされたい。こんな人目があるところで、甘やかしてくる冬真も大概だが、すぐにそんな気持ちになってしまう自分も大概だなと思えた。
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