106 / 331
第三十九話【限界】後
しおりを挟む
真剣に映像をみるスタッフの後ろから、冬真は覗き込んだ。今日の役は天才医師に助けられる不良の高校生というものだった。
傷だらけで痛がる演技というのは初めてだった為、うまくできただろうかと見ていると先に休憩していた将人が隣にきた。
「どうだ?」
「一応それっぽくはできたと思うんすけど……」
「鬼気迫る感じが足りねぇんだよな。死にそうなんだから、もっと必死さをだせよ」
「撮り直しですかね?」
「まぁ、及第点だろ。ミステリーでもホラーでもないし」
これがミステリーやホラーなら悲鳴にも苦しむ様子にも見せ方が求められたと思うが、重要なのはこれ以外のシーンのため、問題ないと暗に言われ冬真は苦笑を返した。
救急救命士の活動をテーマにしたこのドラマは、現在放映されている人気ドラマで、将人はメインで出てくる救命士の中の一人だ。
冬真は今回の患者であって、今後の出番はない。
「よし」
結局監督からもOKがでて、冬真はほっと息を吐いた。今後の出番はなくとも、この回ではずっと出番があったのでそれなりにやりきった気がする。
「今日はこれであがりだろ?事務所よるのか?」
「行ったほうがいいですかね」
「さぁな、マネージャーに聞いてみろよ」
せっかく早く終わっても事務所によるとなんだかんだ時間がかかってしまうので、気分が乗らずとりあえず言われる通りにスマホを取り出す。
「あれ、なんだこれ」
「どうした?」
「なんか知らない番号から連絡来てて」
どうやら電話番号でメッセージを送ってきたらしく、不思議に思いながら開く。
【お疲れ様です。力也のマネージャーの氷室です。時間が空いたら連絡ください】
その内容に、何かあったら連絡してほしいと番号を渡していたことを思い出し、慌てて返信を返す。
「知ってるやつからだった?」
「はい、力也のマネージャーでした」
【お疲れ様です。冬真です。力也になんかありましたか!?】
将人に答えながら返信を返すと、すぐに“電話しても大丈夫ですか?”というメッセージが来たので、将人に一言いうとその場を離れた。
「お疲れさまです」
「お疲れ様です!力也がどうしたんですか!?」
「落ち着いて。緊急じゃないから」
わざわざ連絡を取ってくるぐらいだからなにかあったのだろうと思ったのだが、相手の笑い声に息を吐いた。
「本当に心配性なご主人様で、安心というかなんというか」
「アイツが無頓着なんで、こうなるんですよ。で、どうしたんですか?」
「その様子だとやっぱり力也はなんにも言ってないか。最近忙しいからか調子悪いみたいで」
「え?」
電話でもL●NEでもいつも通りで、そんなことは何も聞いていないと思いながら聞き返す。
「ほら、いつだか予定をキャンセルした日ぐらいから」
「え、あの日から?」
「俺にも言わないから多分だけど、仕事だけじゃないと思うほど疲れてて、食欲もあまりないみたいなんだ」
その説明に冬真は軽く頭を抱えた。大丈夫だと思い込む力也の悪い癖がまたでたようだ。
「ずっとですか?」
「ずっとってことはないんだが、Play不足だと体調不良になったりするんだろ?それかなと思って」
「うーん、力也はそういうのあんまりないはずなんすけど……とりあえず俺行きますよ」
確かにPlay不足で精神的不安定状態に陥るのは聞くが、それはそれで連絡しろと伝えてある。絶対連絡するとまでは言えないが、不調のまま撮影を続けていれば、周りにも迷惑がかかる。あの真面目な力也がそれを気にしないわけがない。
「ああ、そう言ってくれると思ってこの後開けといた」
「さすが!気が利く、じゃあすぐ行きます」
「頼むよ」
どこに行けばいいか聞き出すと、冬真は通話を切り将人の元へ走り寄った。成り行きをみていたらしい、将人へ力也の具合が悪いらしいことを伝え、さらにマネージャーに直帰する旨を伝えた。
「じゃあ、お疲れ様です」
「ああ、気をつけろよ」
バタバタと帰り支度をすると、バイクで来ていなかった為タクシーを捕まえ、慌てた様子で現場を後にした。
自分の出番が終わり、力也は局内にある休憩スペースに移動した。自動販売機で、飲み物を選ぶとボタンを押す。出てきたリンゴジュースを手に取り、もう一本同じものを出す。
「いた力也さん!」
「弥生くん?」
孝仁の分の飲み物を手に戻ろうとした時、不意に声をかけられ見上げれば吹き抜けの上の階に弥生がいた。
「そっちいくんで、待っててください」
「ああ」
同じ局内にいたのを知らなかった力也は若干驚きながらも、言われた通りその場でまった。弥生は息を切らしながら慌てて降りてくると、力也の前に来た。
「もうあがりですか?」
「ああ、弥生君は?」
はぁはぁと息を切らす、弥生に手に持っていた飲み物を差し出し尋ね返せば、弥生はジュースを受け取り飲むと息をついた。
「僕はこの後もまだ写真撮影があります」
「さすが、今人気の子役だ」
そう褒めれば、弥生は満足そうに笑った。そんな様子を見ながらふと気になったことを口に出す。
「そう言えば、いたって。俺がいること知ってたんだ」
「はい、力也さんのマネージャーの車を駐車場でみたんです」
「そうか、記憶力いいんだな」
力也のマネージャーの車は自家用車なので、確かに目につくと言われればわかるが、いくら同じ系列の事務所だとしても、それだけで覚えているとは思わなかった。
「他にも覚えましたよ」
「他にも?」
「はい、滝上力也28歳、身長182cm、特技は格闘、パルクール、バイクスタント。誕生日は11月の・・・」
「え……あ、そうかちゃんとプロフィール見てくれたんだ」
一瞬びっくりしたが、よく考えれば自分が出演する番ドラマに、力也を呼んでくれていたのだからしっかり見たのだろうと思えた。
「はい、大事なことなので」
嬉しそうに笑うその笑顔に、なぜかぞわっとしたものを一瞬感じ、力也は振り切るように自動販売機でもう一つ飲み物を買おうとした。先ほど買ったのは弥生にあげてしまったから、自分の分をもう一本買おうとした時、力也がボタンを押す前に他のボタンが押された。
「え?」
「力也さんに似合うと思ったので」
「あ、ありがとう?」
出てきたのは、カロリー0と書かれたコーラだった。別に減量しているわけじゃないから、カロリーはあっていいのにと思うが、飲めないわけじゃないと思いなおす。
「この後ってどうするんですか?」
「うーん、マネージャーが戻ってきたら、事務所寄って帰る感じかな」
力也のマネージャーは力也の出番が終わると同時に連絡をしてくると言い残し、外へ出てしまった。多分そのうち戻ってくるだろう。
「なら、僕が終わるの待って一緒に行きましょうよ」
「え?」
「写真撮影だけなのですぐ終わるんです」
仕事があるとわかっているのに、そんなことをいきなり言い出したことに驚き、聞き返せば楽しそうな笑顔を向けられた。
「でもマネージャーがすぐ戻ってくるはずだし」
「急いでるわけじゃないんでしょ?」
「そうだけど……」
「ならいいじゃないですか」
なんでダメなのかと問いかけるような瞳に見つめられ、どうやって断ろうかと困っていると不意にスマホが震えた。
「ごめん、電話」
慌ててでれば、相手は孝仁だった。
「力也君どこいっちゃったの?」
「すみません。ちょっと休憩してて、なんかありました?」
「僕も撮影終わるから、控室いこうと思って」
「あ、じゃあすぐ行きます」
孝仁の誘いで、一緒の控室にした力也はそう答え、通話を切ると弥生を振り返った。
「ごめん、行かなきゃ。この後も無理だと思うからまた」
そう言うと立ち去ろうとした瞬間だった。弥生が上着の裾をつかみ引き留めた。なにかと思い振り返れば、次の瞬間ぐらりと視界が揺れた。
「僕が誘っているのになんで断るの?」
「や、弥生君?」
「いうこと聞かないとメッだよ」
ここまで来てやっと力也は理解した。弥生はDomだと、しかも目覚めたばかりで不安定な力を持った。初めて自覚し、発するグレアは溜まりに溜まった欲の塊のようにドロッとし、狙いを定めた獲物に容赦なく浴びせられる。
「ぐっ」
途端に襲い来る気持ち悪さと吐き気に、とっさに口を覆い、屈んだ力也へと弥生は楽しそうな笑みを浮かべ更にグレアを放った。
「やっぱりコマンドを使わなきゃダメなの?じゃあ、使ってあげるよ。力也さんKneel」【おすわり】
子供特有の我儘な独占欲まで織り交ぜたグレアとコマンドに、力也の足から力が抜ける。
(やばい)
「力也!」
そう思った瞬間だった。自分の名を呼ぶ声と共に、力也の体は支えるように抱きしめられていた。
「ごめん、見たくない」
「冬真?」
弥生と力也の間に割って入るようにしながら、その体を抱きとめ、おすわりの状態になるのを防いだのは冬真だった。
支えきれずにズルズルと、崩れながらも、冬真はけして離さないというように抱きしめる力を強める。
「邪魔しないでよ」
怒ったようなその声と共に湧き出るグレアと共に吐き気が襲い掛かり、力也の体が震えた。そんな力也の背中を軽く落ち着けるように叩きながら、冬真は弥生を振り返った。
「目覚めたばかりのガキが、俺の力也になにすんだ」
「俺の?」
「力也は俺の物だ」
「なにそれ!そんなの聞いてない!力也さんは僕の物になるの!あんたになんか渡さない」
駄々っ子のように叫んだ弥生からは噴き出すようなグレアが湧き出した。
「お前の意思なんか関係ない。力也の主人は俺だ」
そうはっきりと冬真が宣言した瞬間、その体からディフェンスと言われる強い攻撃にも似たグレアが湧き出し、弥生を襲った。
「うわっ!」
本当に一瞬だった。冬真が発したディフェンスに弥生はあっさりと押し負け、その場に尻もちをつき脅えるようにガタガタと震えだした。
傷だらけで痛がる演技というのは初めてだった為、うまくできただろうかと見ていると先に休憩していた将人が隣にきた。
「どうだ?」
「一応それっぽくはできたと思うんすけど……」
「鬼気迫る感じが足りねぇんだよな。死にそうなんだから、もっと必死さをだせよ」
「撮り直しですかね?」
「まぁ、及第点だろ。ミステリーでもホラーでもないし」
これがミステリーやホラーなら悲鳴にも苦しむ様子にも見せ方が求められたと思うが、重要なのはこれ以外のシーンのため、問題ないと暗に言われ冬真は苦笑を返した。
救急救命士の活動をテーマにしたこのドラマは、現在放映されている人気ドラマで、将人はメインで出てくる救命士の中の一人だ。
冬真は今回の患者であって、今後の出番はない。
「よし」
結局監督からもOKがでて、冬真はほっと息を吐いた。今後の出番はなくとも、この回ではずっと出番があったのでそれなりにやりきった気がする。
「今日はこれであがりだろ?事務所よるのか?」
「行ったほうがいいですかね」
「さぁな、マネージャーに聞いてみろよ」
せっかく早く終わっても事務所によるとなんだかんだ時間がかかってしまうので、気分が乗らずとりあえず言われる通りにスマホを取り出す。
「あれ、なんだこれ」
「どうした?」
「なんか知らない番号から連絡来てて」
どうやら電話番号でメッセージを送ってきたらしく、不思議に思いながら開く。
【お疲れ様です。力也のマネージャーの氷室です。時間が空いたら連絡ください】
その内容に、何かあったら連絡してほしいと番号を渡していたことを思い出し、慌てて返信を返す。
「知ってるやつからだった?」
「はい、力也のマネージャーでした」
【お疲れ様です。冬真です。力也になんかありましたか!?】
将人に答えながら返信を返すと、すぐに“電話しても大丈夫ですか?”というメッセージが来たので、将人に一言いうとその場を離れた。
「お疲れさまです」
「お疲れ様です!力也がどうしたんですか!?」
「落ち着いて。緊急じゃないから」
わざわざ連絡を取ってくるぐらいだからなにかあったのだろうと思ったのだが、相手の笑い声に息を吐いた。
「本当に心配性なご主人様で、安心というかなんというか」
「アイツが無頓着なんで、こうなるんですよ。で、どうしたんですか?」
「その様子だとやっぱり力也はなんにも言ってないか。最近忙しいからか調子悪いみたいで」
「え?」
電話でもL●NEでもいつも通りで、そんなことは何も聞いていないと思いながら聞き返す。
「ほら、いつだか予定をキャンセルした日ぐらいから」
「え、あの日から?」
「俺にも言わないから多分だけど、仕事だけじゃないと思うほど疲れてて、食欲もあまりないみたいなんだ」
その説明に冬真は軽く頭を抱えた。大丈夫だと思い込む力也の悪い癖がまたでたようだ。
「ずっとですか?」
「ずっとってことはないんだが、Play不足だと体調不良になったりするんだろ?それかなと思って」
「うーん、力也はそういうのあんまりないはずなんすけど……とりあえず俺行きますよ」
確かにPlay不足で精神的不安定状態に陥るのは聞くが、それはそれで連絡しろと伝えてある。絶対連絡するとまでは言えないが、不調のまま撮影を続けていれば、周りにも迷惑がかかる。あの真面目な力也がそれを気にしないわけがない。
「ああ、そう言ってくれると思ってこの後開けといた」
「さすが!気が利く、じゃあすぐ行きます」
「頼むよ」
どこに行けばいいか聞き出すと、冬真は通話を切り将人の元へ走り寄った。成り行きをみていたらしい、将人へ力也の具合が悪いらしいことを伝え、さらにマネージャーに直帰する旨を伝えた。
「じゃあ、お疲れ様です」
「ああ、気をつけろよ」
バタバタと帰り支度をすると、バイクで来ていなかった為タクシーを捕まえ、慌てた様子で現場を後にした。
自分の出番が終わり、力也は局内にある休憩スペースに移動した。自動販売機で、飲み物を選ぶとボタンを押す。出てきたリンゴジュースを手に取り、もう一本同じものを出す。
「いた力也さん!」
「弥生くん?」
孝仁の分の飲み物を手に戻ろうとした時、不意に声をかけられ見上げれば吹き抜けの上の階に弥生がいた。
「そっちいくんで、待っててください」
「ああ」
同じ局内にいたのを知らなかった力也は若干驚きながらも、言われた通りその場でまった。弥生は息を切らしながら慌てて降りてくると、力也の前に来た。
「もうあがりですか?」
「ああ、弥生君は?」
はぁはぁと息を切らす、弥生に手に持っていた飲み物を差し出し尋ね返せば、弥生はジュースを受け取り飲むと息をついた。
「僕はこの後もまだ写真撮影があります」
「さすが、今人気の子役だ」
そう褒めれば、弥生は満足そうに笑った。そんな様子を見ながらふと気になったことを口に出す。
「そう言えば、いたって。俺がいること知ってたんだ」
「はい、力也さんのマネージャーの車を駐車場でみたんです」
「そうか、記憶力いいんだな」
力也のマネージャーの車は自家用車なので、確かに目につくと言われればわかるが、いくら同じ系列の事務所だとしても、それだけで覚えているとは思わなかった。
「他にも覚えましたよ」
「他にも?」
「はい、滝上力也28歳、身長182cm、特技は格闘、パルクール、バイクスタント。誕生日は11月の・・・」
「え……あ、そうかちゃんとプロフィール見てくれたんだ」
一瞬びっくりしたが、よく考えれば自分が出演する番ドラマに、力也を呼んでくれていたのだからしっかり見たのだろうと思えた。
「はい、大事なことなので」
嬉しそうに笑うその笑顔に、なぜかぞわっとしたものを一瞬感じ、力也は振り切るように自動販売機でもう一つ飲み物を買おうとした。先ほど買ったのは弥生にあげてしまったから、自分の分をもう一本買おうとした時、力也がボタンを押す前に他のボタンが押された。
「え?」
「力也さんに似合うと思ったので」
「あ、ありがとう?」
出てきたのは、カロリー0と書かれたコーラだった。別に減量しているわけじゃないから、カロリーはあっていいのにと思うが、飲めないわけじゃないと思いなおす。
「この後ってどうするんですか?」
「うーん、マネージャーが戻ってきたら、事務所寄って帰る感じかな」
力也のマネージャーは力也の出番が終わると同時に連絡をしてくると言い残し、外へ出てしまった。多分そのうち戻ってくるだろう。
「なら、僕が終わるの待って一緒に行きましょうよ」
「え?」
「写真撮影だけなのですぐ終わるんです」
仕事があるとわかっているのに、そんなことをいきなり言い出したことに驚き、聞き返せば楽しそうな笑顔を向けられた。
「でもマネージャーがすぐ戻ってくるはずだし」
「急いでるわけじゃないんでしょ?」
「そうだけど……」
「ならいいじゃないですか」
なんでダメなのかと問いかけるような瞳に見つめられ、どうやって断ろうかと困っていると不意にスマホが震えた。
「ごめん、電話」
慌ててでれば、相手は孝仁だった。
「力也君どこいっちゃったの?」
「すみません。ちょっと休憩してて、なんかありました?」
「僕も撮影終わるから、控室いこうと思って」
「あ、じゃあすぐ行きます」
孝仁の誘いで、一緒の控室にした力也はそう答え、通話を切ると弥生を振り返った。
「ごめん、行かなきゃ。この後も無理だと思うからまた」
そう言うと立ち去ろうとした瞬間だった。弥生が上着の裾をつかみ引き留めた。なにかと思い振り返れば、次の瞬間ぐらりと視界が揺れた。
「僕が誘っているのになんで断るの?」
「や、弥生君?」
「いうこと聞かないとメッだよ」
ここまで来てやっと力也は理解した。弥生はDomだと、しかも目覚めたばかりで不安定な力を持った。初めて自覚し、発するグレアは溜まりに溜まった欲の塊のようにドロッとし、狙いを定めた獲物に容赦なく浴びせられる。
「ぐっ」
途端に襲い来る気持ち悪さと吐き気に、とっさに口を覆い、屈んだ力也へと弥生は楽しそうな笑みを浮かべ更にグレアを放った。
「やっぱりコマンドを使わなきゃダメなの?じゃあ、使ってあげるよ。力也さんKneel」【おすわり】
子供特有の我儘な独占欲まで織り交ぜたグレアとコマンドに、力也の足から力が抜ける。
(やばい)
「力也!」
そう思った瞬間だった。自分の名を呼ぶ声と共に、力也の体は支えるように抱きしめられていた。
「ごめん、見たくない」
「冬真?」
弥生と力也の間に割って入るようにしながら、その体を抱きとめ、おすわりの状態になるのを防いだのは冬真だった。
支えきれずにズルズルと、崩れながらも、冬真はけして離さないというように抱きしめる力を強める。
「邪魔しないでよ」
怒ったようなその声と共に湧き出るグレアと共に吐き気が襲い掛かり、力也の体が震えた。そんな力也の背中を軽く落ち着けるように叩きながら、冬真は弥生を振り返った。
「目覚めたばかりのガキが、俺の力也になにすんだ」
「俺の?」
「力也は俺の物だ」
「なにそれ!そんなの聞いてない!力也さんは僕の物になるの!あんたになんか渡さない」
駄々っ子のように叫んだ弥生からは噴き出すようなグレアが湧き出した。
「お前の意思なんか関係ない。力也の主人は俺だ」
そうはっきりと冬真が宣言した瞬間、その体からディフェンスと言われる強い攻撃にも似たグレアが湧き出し、弥生を襲った。
「うわっ!」
本当に一瞬だった。冬真が発したディフェンスに弥生はあっさりと押し負け、その場に尻もちをつき脅えるようにガタガタと震えだした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
498
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる