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第三十八話【目を反らしたいもの】前
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ダイナミクスを持つ者たちの専門の学校【王華学校】そこは、Dom科とSub科に分かれていた。全寮制の外部からの干渉もほとんどない、そこで生徒たちは三年間を過ごす。
校内ではDom生徒よりSubの生徒は大幅に少なく、その為マウントというDomの生徒同士の力比べも日常的に行われていた。
そもそも、この学校に来るのはDomであれば高ランクがほとんどで、欲が強く自分に自信を持っている者たちばかりだ。そんな欲を持て余した生徒たちが大人しくしていられるはずもなく、それでも先生たちはなんとか制御方法を教えようと日々翻弄していた。
そんな生活の中、Domの生徒にとって唯一の癒しが、Sub科の生徒との交流だった。
Playの授業はSubの取り合いだった。一人のSubに数人のDomが群がり選んでほしいと頼むのだからすごい光景だ。
外に出てしまえば、Domを求めるSubは多くいるのだが学校の中には少なく、生徒たちは真剣だった。その為、Subの生徒たちは気づけばパートナーができていて、学校を卒業してもフリーな生徒などいない。
多くが在学中にクレイムを申し込まれ、自分で選んで一人に決めている。
つまり、学校を卒業してもパートナーがいないDomは振られたか、好みのタイプがいなかったその二択である。
なら冬真はどうだったのだろうか?
「ってのが大体の流れ、なんとなくわかった?」
「わかった。他に注意事項は?」
「その辺は知ってるでしょう?」
赤いカラコン越しに、浮かぶその狂気を含む愉快そうな瞳に冬真はため息をついた。椅子の背もたれへ背中を倒し、足を組む。
普段の軽率な様子などどこにもなく、憮然とした態度で調べていた注意事項を口頭で述べる。
「うん、正解。それだけわかってるのに、なんで俺のとこにきたの?」
「これについてはお前は専門だからな。念を入れることになんの不思議があるんだよ」
「あんな丈夫そうな人相手に」
可笑しそうに笑いだした友人に、冬真はわざと聞こえるように舌打ちをした。こんな態度だが、目の前の彼は高校以来の友人でいまも連絡を取り合う仲だ。
彼、有利には先日も目障りなDomを一人つぶすときに協力してもらった。もっとも、冬真が頼んだのは探し出すだけなので、そこから先は彼らの自主的な協力だった。
曰く“そんなの野放しにして自分のSubが被害にあったら”と善意でなく、ましてや友情でもない。それでも、この前奢るという約束を力也に手伝ってもらいながら終え、恩は返した。
「力也さん、最近どう? もっと過激な写真あるでしょ? 送ってほしいなぁ」
「お前には絶対見せねぇよ」
そもそも、そんな物を冬真は本人である力也以外の誰にも見せるつもりもなかった。恥ずかしがる力也に見せて、いじるだけならやりたいと思うが、公開して見世物にするつもりなどない。
「やっぱ、あるんだ。みたいな~、俺も送るから交換しない?」
「しねぇから絶対送ってくんなよ」
そんな頑なな態度でも、目の前の有利は歪んだ笑みを崩さず、その唇は弧を描く。コイツはいつ見ても、相変わらずだと冬真は思った。相変わらず、見た目と中身が一致していない。
どんなに見たいと言ってもこの男だけには絶対に見せられない。
「みんなそういうんだよね。俺は見せびらかしたいのに」
「お前が相手の許可取らないからだろ」
「失礼な、その時はちゃんと取るつもりだよ」
その言葉を信用できるほど、この友人を知らないわけがない。むろん、この友人も王華学校を卒業しているのだから自分を制御できるのはわかるが、それでも信用できない。
「じゃあ聞くが、あれもしっかり許可とったのか?」
「あれ?」
「ピアス、また増えてただろ?」
「ああ、もちろんだよ」
当たり前だと頷くその様子は嘘をついているようには見えない。実際彼からすればちゃんと許可を得ているのだろう。どういう状態かはわからないが、Subの様子からそれほど強引な強制をしているようでもない。
「よく気づいたね。右に三つ、左に四つだったからバランス悪いと思って増やしたんだ」
「口は?」
「ああ、あれもね。舐める時とか当たって面白いよ」
その様子をリアルに想像できてしまうほどに、経験を重ねている冬真からすれば、笑い流せる内容ではなくもう一度ため息をついた。
「Domの友情は互いを監視するために存在する」
「わかってるよ。そういうとこほんと、ブレないよねぇ」
冬真が言った言葉に、有利は苦笑を浮かべた。これはSubを第一に考える王華学校だからこそ、言われているDom同士の友情を育む心構えのようなものだ。一般的に言われる友人とは違い、互いにSubに害を及ぼさないか監視する役目がある。
何か異変を感じた時は、すぐさま止めに行く、それは高ランクだからこそだ。むろん、一般的な仲のいい人というのもあり、友人たちは相談相手としても頼りになる。
しかし、目の前の有利は友人の中でも特に危険相手だ。
「力也さんも大事、大事にしてるんでしょう?」
「当たり前だろ、俺は奉仕型だからな」
奉仕型というのは五つあるDomのタイプの一つだ。Domには奉仕型のほかに、束縛、飼育、調教、破壊の五つのタイプがある。冬真の奉仕型はSubに尽くし甘やかしたいと思う、珍しいタイプだ。対して、有利の破壊型はSubを壊すことが多く、狂気に一番近い欲を持つ。
しかも、有利の好きなSubは冬真と同じで壊れにくいSubだ。堕ちたくないし堕としたくない一心で選ぶ冬真とは真逆に、相手が堕ちる過程を楽しむためだけだが。
だからこそ、すでに目をつけられている力也を守るために油断はできない。
「そういうとこ尊敬するよ。俺にはまねできないから」
「お前もやろうと思えばできるだろ」
「できるけど、疲れちゃうし。なんだかんだで気づいたらひどいことしてるんだよ。ほんと情けないよねぇ」
「わかってんなら、あれどうにかしろよ」
ため息交じりに、冬真が目線を向けた先には目隠しをされたままくぐもった唸り声をあげる有利のSubである港の姿があった。彼の体は猿轡をされ裸のまま縄で縛られ床に転がされていた。その官能的な姿を隠すのは、冬真が訪れた際に、有利がかけた自分の上着だけだ。
「だって、お仕置き中に冬真がいきなり来るから」
「連絡しても気づかなかったのはそっちだろ」
「Play中に気づくわけないじゃん」
こんなこともあるだろうと前もって連絡したときはいつでも来ていいと言ってたのに、実際はこれだ。普通のPlayならまだしも、お仕置きの最中と聞き冬真は最初帰ろうかと思った。一番気を遣うお仕置きの最中にこちらにかまっている暇はないはずだった。
しかし、有利に引き留められ、あろうことか少し休ませたいからと頼まれたのだ。
「お仕置きの理由は?」
「門限破り。港いつも連絡もしないで遊び歩くんだよ」
「GPSつけてんだろ」
「つけてるけどねぇ」
休ませるためとはいえ状況だけ見れば放置プレイだ。今、港は主人の顔も見えない触れることもできない不安を抱えていることだろう。慣れない者であればサブドロップに陥ってしまってもおかしくない、そんな状況だが彼が落ちないでいられるのは、信頼しているからだろう。
彼は主人である有利が座る椅子のすぐそばに転がされており、先ほどからの話も全部聞こえていた。多くのSubが嫌がる無視をされているのに、彼がサブドロップに落ちないのは気配が遠のくことがなく、かけられた上着から体温を感じているからに過ぎない。
とはいえ、冬真からみればあまり気分のいいものではなく、有利が“Stay”を言い渡し頭をなでたのを見ていなければ止めただろう。
「外ぐらい自由に歩かせてやれよ」
「わかってるんだってば。そうだ、ちょうどいいからお仕置きに協力してよ」
「いやだ」
「そんなこと言うなって、正直終わり時が分かんなくなってんだよ。お前が協力してくれればそれで終わりにできるし」
その言葉に冬真はチラリと床に横たわる港へと視線を向けた。開始前には一応セーフワードが言えない代わりの合図を決めているか確認し、大丈夫だろうと思ったうえで話を始めた。むろん話をしながら、二人とも彼の様子を探っていたが、意外なことであの状態でもちゃんと休憩にはなっているらしい。
しかし、今は慣れているのか意外なほどに落ち着いているが、このまま有利の言葉に乗らなければまだまだこれが続くことになる。
「わかった。何をすればいい」
「鞭打ち、回数は冬真が決めていいよ」
渋々ながらも了承すれば、有利は嬉しそうにほっとした声に変わった。
止めるきっかけを探すぐらいならここで終わりにしろよとは思うが、目の前の有利がそれで納得するわけがない。
冬真が一言いえば、とりあえずは終わるかもしれないが、後を引いてしまえばそれはそれで厄介だろう。
「10回、それ以上はやらない」
「OK。だってさ、港よかったねぇ。冬真うまいから、安心して」
その言葉を聞きながら、冬真は立ち上がり上着を脱ぐと作業台の上に置かれているバラ鞭を手に取った。久しぶりの感覚に、深呼吸をしてAV男優時代を思い出す。
振り返った冬真からはDom特有の支配の張り詰めるようなグレアが放たれていた。
校内ではDom生徒よりSubの生徒は大幅に少なく、その為マウントというDomの生徒同士の力比べも日常的に行われていた。
そもそも、この学校に来るのはDomであれば高ランクがほとんどで、欲が強く自分に自信を持っている者たちばかりだ。そんな欲を持て余した生徒たちが大人しくしていられるはずもなく、それでも先生たちはなんとか制御方法を教えようと日々翻弄していた。
そんな生活の中、Domの生徒にとって唯一の癒しが、Sub科の生徒との交流だった。
Playの授業はSubの取り合いだった。一人のSubに数人のDomが群がり選んでほしいと頼むのだからすごい光景だ。
外に出てしまえば、Domを求めるSubは多くいるのだが学校の中には少なく、生徒たちは真剣だった。その為、Subの生徒たちは気づけばパートナーができていて、学校を卒業してもフリーな生徒などいない。
多くが在学中にクレイムを申し込まれ、自分で選んで一人に決めている。
つまり、学校を卒業してもパートナーがいないDomは振られたか、好みのタイプがいなかったその二択である。
なら冬真はどうだったのだろうか?
「ってのが大体の流れ、なんとなくわかった?」
「わかった。他に注意事項は?」
「その辺は知ってるでしょう?」
赤いカラコン越しに、浮かぶその狂気を含む愉快そうな瞳に冬真はため息をついた。椅子の背もたれへ背中を倒し、足を組む。
普段の軽率な様子などどこにもなく、憮然とした態度で調べていた注意事項を口頭で述べる。
「うん、正解。それだけわかってるのに、なんで俺のとこにきたの?」
「これについてはお前は専門だからな。念を入れることになんの不思議があるんだよ」
「あんな丈夫そうな人相手に」
可笑しそうに笑いだした友人に、冬真はわざと聞こえるように舌打ちをした。こんな態度だが、目の前の彼は高校以来の友人でいまも連絡を取り合う仲だ。
彼、有利には先日も目障りなDomを一人つぶすときに協力してもらった。もっとも、冬真が頼んだのは探し出すだけなので、そこから先は彼らの自主的な協力だった。
曰く“そんなの野放しにして自分のSubが被害にあったら”と善意でなく、ましてや友情でもない。それでも、この前奢るという約束を力也に手伝ってもらいながら終え、恩は返した。
「力也さん、最近どう? もっと過激な写真あるでしょ? 送ってほしいなぁ」
「お前には絶対見せねぇよ」
そもそも、そんな物を冬真は本人である力也以外の誰にも見せるつもりもなかった。恥ずかしがる力也に見せて、いじるだけならやりたいと思うが、公開して見世物にするつもりなどない。
「やっぱ、あるんだ。みたいな~、俺も送るから交換しない?」
「しねぇから絶対送ってくんなよ」
そんな頑なな態度でも、目の前の有利は歪んだ笑みを崩さず、その唇は弧を描く。コイツはいつ見ても、相変わらずだと冬真は思った。相変わらず、見た目と中身が一致していない。
どんなに見たいと言ってもこの男だけには絶対に見せられない。
「みんなそういうんだよね。俺は見せびらかしたいのに」
「お前が相手の許可取らないからだろ」
「失礼な、その時はちゃんと取るつもりだよ」
その言葉を信用できるほど、この友人を知らないわけがない。むろん、この友人も王華学校を卒業しているのだから自分を制御できるのはわかるが、それでも信用できない。
「じゃあ聞くが、あれもしっかり許可とったのか?」
「あれ?」
「ピアス、また増えてただろ?」
「ああ、もちろんだよ」
当たり前だと頷くその様子は嘘をついているようには見えない。実際彼からすればちゃんと許可を得ているのだろう。どういう状態かはわからないが、Subの様子からそれほど強引な強制をしているようでもない。
「よく気づいたね。右に三つ、左に四つだったからバランス悪いと思って増やしたんだ」
「口は?」
「ああ、あれもね。舐める時とか当たって面白いよ」
その様子をリアルに想像できてしまうほどに、経験を重ねている冬真からすれば、笑い流せる内容ではなくもう一度ため息をついた。
「Domの友情は互いを監視するために存在する」
「わかってるよ。そういうとこほんと、ブレないよねぇ」
冬真が言った言葉に、有利は苦笑を浮かべた。これはSubを第一に考える王華学校だからこそ、言われているDom同士の友情を育む心構えのようなものだ。一般的に言われる友人とは違い、互いにSubに害を及ぼさないか監視する役目がある。
何か異変を感じた時は、すぐさま止めに行く、それは高ランクだからこそだ。むろん、一般的な仲のいい人というのもあり、友人たちは相談相手としても頼りになる。
しかし、目の前の有利は友人の中でも特に危険相手だ。
「力也さんも大事、大事にしてるんでしょう?」
「当たり前だろ、俺は奉仕型だからな」
奉仕型というのは五つあるDomのタイプの一つだ。Domには奉仕型のほかに、束縛、飼育、調教、破壊の五つのタイプがある。冬真の奉仕型はSubに尽くし甘やかしたいと思う、珍しいタイプだ。対して、有利の破壊型はSubを壊すことが多く、狂気に一番近い欲を持つ。
しかも、有利の好きなSubは冬真と同じで壊れにくいSubだ。堕ちたくないし堕としたくない一心で選ぶ冬真とは真逆に、相手が堕ちる過程を楽しむためだけだが。
だからこそ、すでに目をつけられている力也を守るために油断はできない。
「そういうとこ尊敬するよ。俺にはまねできないから」
「お前もやろうと思えばできるだろ」
「できるけど、疲れちゃうし。なんだかんだで気づいたらひどいことしてるんだよ。ほんと情けないよねぇ」
「わかってんなら、あれどうにかしろよ」
ため息交じりに、冬真が目線を向けた先には目隠しをされたままくぐもった唸り声をあげる有利のSubである港の姿があった。彼の体は猿轡をされ裸のまま縄で縛られ床に転がされていた。その官能的な姿を隠すのは、冬真が訪れた際に、有利がかけた自分の上着だけだ。
「だって、お仕置き中に冬真がいきなり来るから」
「連絡しても気づかなかったのはそっちだろ」
「Play中に気づくわけないじゃん」
こんなこともあるだろうと前もって連絡したときはいつでも来ていいと言ってたのに、実際はこれだ。普通のPlayならまだしも、お仕置きの最中と聞き冬真は最初帰ろうかと思った。一番気を遣うお仕置きの最中にこちらにかまっている暇はないはずだった。
しかし、有利に引き留められ、あろうことか少し休ませたいからと頼まれたのだ。
「お仕置きの理由は?」
「門限破り。港いつも連絡もしないで遊び歩くんだよ」
「GPSつけてんだろ」
「つけてるけどねぇ」
休ませるためとはいえ状況だけ見れば放置プレイだ。今、港は主人の顔も見えない触れることもできない不安を抱えていることだろう。慣れない者であればサブドロップに陥ってしまってもおかしくない、そんな状況だが彼が落ちないでいられるのは、信頼しているからだろう。
彼は主人である有利が座る椅子のすぐそばに転がされており、先ほどからの話も全部聞こえていた。多くのSubが嫌がる無視をされているのに、彼がサブドロップに落ちないのは気配が遠のくことがなく、かけられた上着から体温を感じているからに過ぎない。
とはいえ、冬真からみればあまり気分のいいものではなく、有利が“Stay”を言い渡し頭をなでたのを見ていなければ止めただろう。
「外ぐらい自由に歩かせてやれよ」
「わかってるんだってば。そうだ、ちょうどいいからお仕置きに協力してよ」
「いやだ」
「そんなこと言うなって、正直終わり時が分かんなくなってんだよ。お前が協力してくれればそれで終わりにできるし」
その言葉に冬真はチラリと床に横たわる港へと視線を向けた。開始前には一応セーフワードが言えない代わりの合図を決めているか確認し、大丈夫だろうと思ったうえで話を始めた。むろん話をしながら、二人とも彼の様子を探っていたが、意外なことであの状態でもちゃんと休憩にはなっているらしい。
しかし、今は慣れているのか意外なほどに落ち着いているが、このまま有利の言葉に乗らなければまだまだこれが続くことになる。
「わかった。何をすればいい」
「鞭打ち、回数は冬真が決めていいよ」
渋々ながらも了承すれば、有利は嬉しそうにほっとした声に変わった。
止めるきっかけを探すぐらいならここで終わりにしろよとは思うが、目の前の有利がそれで納得するわけがない。
冬真が一言いえば、とりあえずは終わるかもしれないが、後を引いてしまえばそれはそれで厄介だろう。
「10回、それ以上はやらない」
「OK。だってさ、港よかったねぇ。冬真うまいから、安心して」
その言葉を聞きながら、冬真は立ち上がり上着を脱ぐと作業台の上に置かれているバラ鞭を手に取った。久しぶりの感覚に、深呼吸をしてAV男優時代を思い出す。
振り返った冬真からはDom特有の支配の張り詰めるようなグレアが放たれていた。
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