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第二十八話【生き生きしてる】中

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「力也」

 名前を呼ばれ、後ろに気を取られていたはずの力也はすぐに冬真をみた。その反射のような反応に冬真の機嫌はさらに上昇した。

「次どれが食べたい?」
「え…?」
「その位置からでも見えるだろ?どれが食べたいか言ってみろよ」

 つまりは、どれを口移しで食べさせてほしいか自分で選んでねだれという、命令に力也の視線がテーブルの上をさまよう。食べたいものはあるけど、口移しと考え、冬真の顔をチラリとみる。言うのを待っている冬真に、ため息をつき、渋々ねだる。

「……からあげ」
「OK」

 そういえば、冬真は唐揚げを咥え差し出してきた。丸い唐揚げでは咥えた瞬間、唇が互いに触れる。親鳥から餌をもらうひな鳥のような感覚に、いつもとは違う羞恥心が沸き起こる。
 冬真は、今度はご褒美とでも言うように自分で食べることはせずに、すべてを力也の口の中へと押し込んだ。モグモグと唐揚げを丸々一個食べている力也の頬をペロリと舐め離れていく。
 先ほどの客はすでに移動し、今度は他の客が後ろからみているのを感じる。この席は入り口から近い席で、このコースはこの店独特のコンセプトが含まれている。
 ここにきてやっと力也はわかった。自分と冬真のやっていることが、この店に来た客に説明するための見本にされていることに。

「…冬真…」
「恥ずかしい?」

 あの口ぶりから、すでに打ち合わせ済みだったのだろうと予想がつき、力也は訴えるように睨み頷いた。上半身裸で自分で食べることもできず、食べさせてもらっているのを見られ、しかも笑われるわけでもなく、ほほえましいような眼を向けられるのがまた羞恥心を煽る。

「だよな。でも、お仕置きだから、頑張れるよな?」

 そういわれてしまうと、言い返すこともできずに、目線だけで訴える力也に、冬真はいたわるような微笑みを浮かべた。

「こんな目に合うなら疑わなきゃよかったよな~?そうすれば、服は着ていられたし、ここまで恥ずかしくはなかったのに」
「どっちにしてもやるつもりだったのかよ」
「ダチと約束してたんだよ。この前ちょっと借り作っちゃったから、力也に協力してもらおうかなって」
「俺、巻き込まれただけかよ」
「ごめんって」

 聞き返した力也の言葉に、一瞬置いたものの、冬真は謝罪となだめるような笑みを浮かべた。実のところ、力也にまったく関係ない話ではないのだが、それを口にすれば知らなくていいことを話さなきゃいけなくなる。せっかく終わったことになっているのだから蒸し返すことはしない。それに、あれは冬真が勝手にしたことで、力也が望んだことでもない。

「そんなにいや?嫌なら嫌って言っていいよ?」
「……いやじゃない」

 お仕置きだと言っていたのに、譲歩してくれる冬真らしい言葉に、力也は首を振った。恥ずかしいことは違いないが、嫌なわけじゃない。

「よかった」

 力也の返事など、わかっていただろうに、嬉しそうに笑う冬真にせめてもの意趣返しのような威嚇するような唸り声をあげる。

「あ、いたいた!冬真!」

 そんな時に、異様にテンションの高い男の声が聞こえ力也の体が少しこわばる。口調に対し、しっかりと男の声で冬真の名前を呼ぶと力也の後ろへと近づいてくる。

「早かったな」
「楽しみすぎてね。これが例の力也くん?」

 冬真と同じ高ランクのDomの気配に、力也は振り返るべきか悩んでいた。足音は二つ聞こえ、またSubをつれているとわかる。

「そう。力也」

 冬真は男の言葉を肯定すると、呼ぶように両手を広げた。素直にその腕の中へ、体を預けた力也の背中をポンポンと叩くと、後ろを向くように促した。

「コイツ、俺のダチ」
「こんばんは、素敵なお化粧ですね」

 後ろには予想通り、にこにこと笑顔を浮かべる優男風の男性と髪を赤く染め、いくつものピアスをつけた目つきの悪い男がいた。

「こんばんは……化粧?」
「これのこと。色鮮やかですごくきれい」

 そういうと彼はロープに指を這わせ軽く引いた、ロープを引っ張られ、熱を持ったままため続けている力也の体がピクリと反応した。

「日に焼けた肌によく似合っている」

 ツーっと指をロープに滑らせ、締め付けられ敏感になっていた部分を刺激され、力也は反射的に唇を噛み声を殺した。

「おい、あんま触んなよ。かわいそうだろ」
「残念、声を聞いてみたかったんだけど…ッテ!」

 ピクピクとしながら、必死に感じまいと耐えている力也に気づいたのだろう。冬真がそう止めると、彼は苦笑しながらロープから手を離した。次の瞬間、彼の口から、短い悲鳴が聞こえた。力也からは見えない位置で、彼の連れがその足を踏んだのだ。

「ごめん港。…冬真、俺のかわいい子がお怒りみたいだからもういくよ。約束忘れるなよ?」

 彼は連れのSubに一度謝ると、なだめるようにその肩へと手を置き、冬真たちの傍から離れていった。

「力也、俺声出しちゃだめとか言ったっけ?」
「言ってない」
「だよな。嫌なら言えっていった覚えはあるけど、我慢しろとは言ってないよな?」
「つい…。声出したほうがよかった?」
「怪我してほしくないだけ。感じないようにしてくれたのはうれしいGood Boy」【よくできました】

 多くの場合、こういう時はDomが指示するものだろうが、冬真は特に指示はしていなかった。ダチのことは信用しているし、力也がすでにギリギリなのもわかっている。だから我慢しなくてもよかったし、羞恥心と罪悪感に駆られながらも感じている姿も悪くないだろうと思っていた。
 しかし、力也は体を冬真に預けているからか、感じるのを抑えようとしていた。自らの意思で操を立てようとする行動を喜ばないわけがない。
 いい子いい子と、力也の頭をなで、ぎゅっと強く抱きしめる。

「んっ…」

 今度は素直に声をだした力也がかわいくて、その耳へと軽く息を吹きかければその体がビクッと跳ねた。

「冬真~」
「ハハッ、いい反応」

 すでにその瞳は欲情の色が見て取れ、非難めいた口調であっても、力は全くない。無駄な威嚇をする力也の様子に笑うと、その体が両手の中からすり抜けた。
 捕まえる前に、元の位置へと戻った力也に、空いてしまった両手を仕方なく下ろすと苦笑した。
 ニヤッと笑い返した力也は急かすように口を開けた。

「はいはい」

 唐揚げを咥え、その口へと運び、中へと舌で押し込む。少しゆっくり目に食べる力也の様子を見ながら、もうひとつ取り自分の口へと運んだ。

「そういえば、さっきの約束って何?」
「奢れって言われてんだよ…」
「冬真、何人に借り作ったんだよ」
「四人かな?」
「もしかして、今日全員くるんじゃ…」

 その瞬間、またカランカランとベルがなり今度は数人の声が聞こえた。入ってきたグループは冬真を見ると軽く手をあげた。
 後ろに立たれ、また高ランクだとわかり、今度はチラリと振り返った力也へと二人の男が笑い、見分するかのようにその姿をみた。

「これが噂の力也君か」
「さすがいい体してんじゃん」
「触んなよ」

 今度は冬真が触る前に、止めた。二人はわかっているという風に笑うと、背後にいた連れへと振り返り前へと出した。

「大丈夫、俺にはコイツがいるし」
「ほら、挨拶しろよ」

 後ろに隠れていたSub二人は力也たちの前に出されるとペコっとお辞儀をして、すぐにまた後ろへと隠れてしまった。どうやら人見知りするたちのようだ。

「じゃあな」
「ごゆっくり」

 碌に挨拶もせずに隠れたSub二人の態度に何か言うわけでもなく、ご機嫌なまま彼らはすぐに去って行ってしまった。

「今のも?」
「そうそう、ダチ」

 力也からはどの子も見るからに甘やかされているように見えた。別に我儘という感じはないが、主人の顔色をうかがう様子がなく、素直に自分をだしているようにみえた。

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