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四年後に向けて
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「────銀閃殿、この一年、我が領土を守っていただきありがとうございます。 ささやかですがお礼として、宴会の席を設けさせていただきました。 本日は存分にお楽しみください」
セニアがヴァレンシール村に来て、今日で丁度一年。
彼女が来てからというもの、非常に楽になった。
大型魔物には多少手こずるものの、中型、小型の魔物はほぼ瞬殺出来る腕。
流石はSランクの冒険者である。
斥候の騎士や他の冒険者が見つけてからしか討伐に向かえないから、どうしても騒ぎになってしまうのは致し方ないものの、よくやっている方だと思う。
本当は俺みたく、半径20キロ以内に侵入した魔物を瞬時に発見して、誰にも見つからない内に処理して欲しいんだが、それは幾らなんでも高望み。
四年後には少なくとも三年間、父さん達やセニアに丸投げしないといけないんだから、ここら辺が落とし所か。
「リュートちゃん、なに食べる? 好きなの頼んで良いのよ?」
「じゃあ焼き鳥追加で」
「はーい、注目するからちょっと待っててね。 あっ、貴女。 焼き鳥持ってきてくれる? タレ味を十本ね」
注文し過ぎだろ、どんだけ食わす気だ。
そんな俺の心境など知る筈もない店員のお姉さんは、「かしこまりました!」と元気よく返事をすると厨房へと急ぎ駆けていった。
こんな居酒屋で飲み食いしてるが、うちはこの村を収めてる家系だ。
焼き鳥の注文をするだけで騒ぎになってしまう。
申し訳無さすぎて食事が喉に通らない。
「リュート、全然食べてないじゃないか。 食べ盛りなんだからもっと食べないと。 どれ、お父さんがオススメを注文してやろう。 君、この子にグラタンを持ってくれ。 急ぎで頼むよ」
「は、はい! すぐにお待ちします! 少々お待ちください!」
ああ……厨房が火の車に……。
良いんだよ?
もっとゆっくり作っても。
俺は急いでないから。
「くっ……くくく……」
なに笑ってやがんだ、このアマ。
「セニアお姉ちゃん、どうしたの? 何か面白かった?」
「くく……いやなに。 リュート様は随分とご両親に愛されてるのだと思ってな。 羨ましいよ、本当に。 ……ぷっ」
殺すぞ。
「もー、セニアお姉ちゃんの意地悪ー。 そんなお姉ちゃんにはこうだ! えい!」
「ぐっ!」
一見すると仲の良い知り合いのお姉さんとじゃれているようにしか見えないが、今しがた脇腹を小突いたパンチはやや本気のパンチ。
セニアは耐えきれず悶絶した。
「あらあら、大丈夫? 顔が真っ青よ? ごめんなさいね、子供って手加減出来ないから」
「リュート、やりすぎだぞ。 ごめんなさいしなさい」
「はーい。 お姉ちゃん、ごめんね? 大丈夫?」
これ以上笑ってみろ、今度はこのくらいじゃ済まさんぞ、の意を笑顔の裏に感じ取ったセニアは、無理矢理笑みを取り繕い。
「あ、ああ……大丈夫だ。 少し変な所に入っただけだから、気にしないでくれ」
「そう? なら良いけど……」
「それよりも、ほら。 料理が来たみたいだぞ、リュート様」
「ホントだ! 良い匂い! 美味しそ…………」
ピシッ。
振り向いた瞬間、時が止まった音がした。
何故なら料理を持ってきた奴と言うのが……。
「はーい、お待ちどおさまー。 グラタンと」
「こちら焼き鳥になります! ゆっくり食べてくださいね、皆さん。 勿論、リュートくんも。 えへへ」
アリンとリーリンの双子姉妹だったからである。
「ふ……二人とも、なんでここに!?」
「はあ? なんでもなにも、ここうちらの親がやってる店だし」
そういえばそうだった。
すっかり失念していたが、この店は二人の両親が経営する居酒屋。
二人が働いていてもなんら不思議はない。
「にしても、あんたさあ。 相変わらず大人の前だと猫被ってんのねー。 あたしらには結構明け透けな癖に」
「な、なんの話かな。 全然わかんないや……あはは…………とっ、ところでさ!」
「あ、話題すり替えた」
ちょっとは空気読めよ。
「リーリンが接客してるなんて珍しいよね! いつもは家で家事してるのに」
「えっと、それはそのぉ……」
「気になる? やっぱ気になる? だよねー、気になるよねー。 どうしてもって言うなら話してあげよっか?」
「!」
やめて、お願いだから聞かないで。
とでも言わんばかりに、リーリンが瞳で必死に訴えかけてきている。
それほどまで人に言いたくない内容なのか。
なら無理に聞くのも悪いな、と。
「実は、リーリンってば……」
「……ううん、気になるけどいいや。 聞かないでおくよ」
「……なによ、聞かないの?」
「うん、聞かない。 だってその方が良いんでしょ?」
アリンではなくリーリンに向けて言うと、喜ぶ妹とは反面、姉はムッと頬を膨らませて。
「あっそ。 ならあたしもわざわざ教えてやる義理なんかないし、話してやんなーい。 今更教えてなんて言っても遅いんだからだから! リュートのばーか! ほら行くわよ、リーリン! まだ仕事残ってるんだから!」
「あ……待ってよ、アリンちゃーん!」
よく領主の目の前で息子をばか呼ばわり出来るな、あいつ。
どういう神経してんだ。
度胸があるのか、はたまたアホなのか……。
「あらあら」
「ほほう」
「ふむ」
……ん?
「これはアレだな、俗にいう」
「春、というやつか」
「そうねぇ、春ねぇ。 青春ねぇ」
…………うぜえ。
「シンシアー、紅茶のおかわりお願ーい。 ……シンシア? 紅茶のおかわり…………あいつどこ行った?」
本から目を離して室内を見渡すが、シンシアどころかリルの姿すら見当たらない。
あの二人が俺に黙っていなくなるなんて、珍しい事もあるもんだ。
いつもなら俺に一言残していくのに。
あ、でも最近はそうでもないか。
気付いたら席を外していた事が、数回あったっけ。
二人してなにしているんだか。
「……まあいっか。 その内帰ってくるだろ」
二人の動向が気になるっちゃ気になるけど、今は小説の続きの方が気になるんだよなあ。
……よし、ほっとこ。
と、一度は本に集中しようとしたものの。
「ん……んん…………ダメだ、やっぱり気になる。 少し探ってみるか」
どうにも気になってしまった俺は、一旦本をソファーに置き、
「魔力探知」
で、魔力を頼りに行き先を探査開始。
二人の魔力は他より特殊だから探知がしやすい。
案の定、すぐに見つけられた。
が、これは一体どういう事なのだろう。
「シンシアとリルの他に誰か居るのか? この魔力反応は確か…………セニア?」
屋敷の南に広がる森の中で、三人が何故か一堂に会している。
なにしてんだこいつら、こんな森の中で。
まさか俺に隠れて密会でもしてるのか?
気になる……非常に気になる。
ちょっと覗き見してやろうかな。
「えっと……この魔法式でいけたハズ…………おし、完成っと。 あとはこれを発動させて……」
おっ、見えた見えた。
位置的に、木の枝のどこかって所か。
全体を俯瞰で見れて丁度良い位置だ。
今しがた使用した魔法は「千里眼の瞳」。
その名の通り、範囲内の距離ならどこにでも出現させられる一つ目で、遠くに居ながら覗き見る事が可能となる魔法である。
例えるなら、監視カメラが近いかもしれない。
少しばかりエグい瞳がカメラの役割を、俺の右目がモニターの役割を担っている。
この魔法を使っている間は右目が見えなくなるのが、唯一の難点。
「遅かったな、二人とも」
「すいません、セニアさん! リュート様の目を掻い潜るのが難しくて、少し遅れてしまいましたぁ!」
「がふっ」
ふむ、やはり実際口に出した言葉じゃないと聞き取るのは難しいか。
テレパシーの特性上仕方ないとはいえ、少し残念だ。
「リュート殿は何をするにも完璧だからな。 我々のような凡人では、そう易々と彼の目は欺けんさ」
「ですねえ。 流石は我らが崇高なる主ですぅ。 今この瞬間も実はどこかで見ておられたとしても、まったく不思議ではありませんよねえ」
「ふっ、確かに」
「わおーん!」
こいつら、俺が居ないところではこんな会話してたのか。
こっ恥ずかしいからやめてほしい。
影でディスられるよりかは幾分マシだけど。
「さて、雑談はここまでにしようか。 折角の定例会なのだ、どうせなら有意義な時間にしたいのでな。 では、シンシア殿。 本日の議題を発表してくれ」
「はいぃ。 今回の影の円卓騎士団会議の議題は、主にこの三点となりますう」
ちょっと待て。
なんだ、影の円卓騎士団って。
お前らまさかとは思うが、自分達の事そう呼んでんの?
これは痛い、痛すぎる。
「ほう……いよいよあの計画の話をする時が来たか」
ホワイトボード風の木の板に貼られた紙に目を通したセニアはしたり顔で呟くと、更に意味深な言葉を溢す。
「リュート殿が後顧の憂いなく王都の学園に通えるようにするべく、我らが影より領主殿を支える計画。 四年計画を」
「「…………」」
…………。
いや、感慨深く頷いてなくて良いから、誰か話を進めろよ。
その四年計画とかいうの、すっごい気になるんですけど。
と、まるで映画鑑賞しているが如く、ソファーに寝転がって今か今かと待っていたら、そこへ予想外の男が現れた。
「む……? なんだ、お前も来たのか。 最近は何かと屋敷が騒がしいから、今回は欠席だと思っていたのだがな。 護衛騎士筆頭、ルーク=アルブレム殿」
「もちろんですよ、セニアさん。 僕とて影の守護者の一人ですからね。 余程の理由がない限り、欠席するつもりはありませんよ」
言いながら丸太椅子に座ったこの金髪男の名は、ルーク=アルブレム。
俺が秘密裏に進めてきた大型魔物退治やギルド活動を知る、最後の一人だ。
ルークの登場には少しばかり驚かされたが、彼ならこの怪しい組織に加入していてもなんら不思議はない。
なにせルークは雇い主である当代の父さんよりも、まだ子供の俺に忠誠を誓っている変わり者だからな。
むしろ、収まるところに収まった気すらしてくる。
「それで、本日は何が議題に上がっているのですか? 特に決まっていないのであれば、自分は前回開催された、リュート様がいかに素晴らしいお方か語り尽くす議論をまたしたいのですが」
おい。
「残念だが、今回の議題は他にある」
「と言いますと?」
「今回は皆さんお待ちかねの、あの計画について詰めていこうかと思っていますぅ」
「あの計画……? ………………! まさか四年計画を遂に!?」
「ああ、そのまさかだ」
セニアが頷くと、ルークは待ってましたと言わんばかりに。
「なんと! であれば、こんな雑談をしている場合ではありませんね! すぐ話合いましょう、今すぐに! シンシアさん、お願いします!」
「は、はい! ではこれより、リュート様を快く送り出す作戦! 題して四年計画会議を始めようと思います!」
遂に始まる謎の組織による謎の会議。
一体、四年計画とはなんなのか。
その全貌が今明らかに────!
セニアがヴァレンシール村に来て、今日で丁度一年。
彼女が来てからというもの、非常に楽になった。
大型魔物には多少手こずるものの、中型、小型の魔物はほぼ瞬殺出来る腕。
流石はSランクの冒険者である。
斥候の騎士や他の冒険者が見つけてからしか討伐に向かえないから、どうしても騒ぎになってしまうのは致し方ないものの、よくやっている方だと思う。
本当は俺みたく、半径20キロ以内に侵入した魔物を瞬時に発見して、誰にも見つからない内に処理して欲しいんだが、それは幾らなんでも高望み。
四年後には少なくとも三年間、父さん達やセニアに丸投げしないといけないんだから、ここら辺が落とし所か。
「リュートちゃん、なに食べる? 好きなの頼んで良いのよ?」
「じゃあ焼き鳥追加で」
「はーい、注目するからちょっと待っててね。 あっ、貴女。 焼き鳥持ってきてくれる? タレ味を十本ね」
注文し過ぎだろ、どんだけ食わす気だ。
そんな俺の心境など知る筈もない店員のお姉さんは、「かしこまりました!」と元気よく返事をすると厨房へと急ぎ駆けていった。
こんな居酒屋で飲み食いしてるが、うちはこの村を収めてる家系だ。
焼き鳥の注文をするだけで騒ぎになってしまう。
申し訳無さすぎて食事が喉に通らない。
「リュート、全然食べてないじゃないか。 食べ盛りなんだからもっと食べないと。 どれ、お父さんがオススメを注文してやろう。 君、この子にグラタンを持ってくれ。 急ぎで頼むよ」
「は、はい! すぐにお待ちします! 少々お待ちください!」
ああ……厨房が火の車に……。
良いんだよ?
もっとゆっくり作っても。
俺は急いでないから。
「くっ……くくく……」
なに笑ってやがんだ、このアマ。
「セニアお姉ちゃん、どうしたの? 何か面白かった?」
「くく……いやなに。 リュート様は随分とご両親に愛されてるのだと思ってな。 羨ましいよ、本当に。 ……ぷっ」
殺すぞ。
「もー、セニアお姉ちゃんの意地悪ー。 そんなお姉ちゃんにはこうだ! えい!」
「ぐっ!」
一見すると仲の良い知り合いのお姉さんとじゃれているようにしか見えないが、今しがた脇腹を小突いたパンチはやや本気のパンチ。
セニアは耐えきれず悶絶した。
「あらあら、大丈夫? 顔が真っ青よ? ごめんなさいね、子供って手加減出来ないから」
「リュート、やりすぎだぞ。 ごめんなさいしなさい」
「はーい。 お姉ちゃん、ごめんね? 大丈夫?」
これ以上笑ってみろ、今度はこのくらいじゃ済まさんぞ、の意を笑顔の裏に感じ取ったセニアは、無理矢理笑みを取り繕い。
「あ、ああ……大丈夫だ。 少し変な所に入っただけだから、気にしないでくれ」
「そう? なら良いけど……」
「それよりも、ほら。 料理が来たみたいだぞ、リュート様」
「ホントだ! 良い匂い! 美味しそ…………」
ピシッ。
振り向いた瞬間、時が止まった音がした。
何故なら料理を持ってきた奴と言うのが……。
「はーい、お待ちどおさまー。 グラタンと」
「こちら焼き鳥になります! ゆっくり食べてくださいね、皆さん。 勿論、リュートくんも。 えへへ」
アリンとリーリンの双子姉妹だったからである。
「ふ……二人とも、なんでここに!?」
「はあ? なんでもなにも、ここうちらの親がやってる店だし」
そういえばそうだった。
すっかり失念していたが、この店は二人の両親が経営する居酒屋。
二人が働いていてもなんら不思議はない。
「にしても、あんたさあ。 相変わらず大人の前だと猫被ってんのねー。 あたしらには結構明け透けな癖に」
「な、なんの話かな。 全然わかんないや……あはは…………とっ、ところでさ!」
「あ、話題すり替えた」
ちょっとは空気読めよ。
「リーリンが接客してるなんて珍しいよね! いつもは家で家事してるのに」
「えっと、それはそのぉ……」
「気になる? やっぱ気になる? だよねー、気になるよねー。 どうしてもって言うなら話してあげよっか?」
「!」
やめて、お願いだから聞かないで。
とでも言わんばかりに、リーリンが瞳で必死に訴えかけてきている。
それほどまで人に言いたくない内容なのか。
なら無理に聞くのも悪いな、と。
「実は、リーリンってば……」
「……ううん、気になるけどいいや。 聞かないでおくよ」
「……なによ、聞かないの?」
「うん、聞かない。 だってその方が良いんでしょ?」
アリンではなくリーリンに向けて言うと、喜ぶ妹とは反面、姉はムッと頬を膨らませて。
「あっそ。 ならあたしもわざわざ教えてやる義理なんかないし、話してやんなーい。 今更教えてなんて言っても遅いんだからだから! リュートのばーか! ほら行くわよ、リーリン! まだ仕事残ってるんだから!」
「あ……待ってよ、アリンちゃーん!」
よく領主の目の前で息子をばか呼ばわり出来るな、あいつ。
どういう神経してんだ。
度胸があるのか、はたまたアホなのか……。
「あらあら」
「ほほう」
「ふむ」
……ん?
「これはアレだな、俗にいう」
「春、というやつか」
「そうねぇ、春ねぇ。 青春ねぇ」
…………うぜえ。
「シンシアー、紅茶のおかわりお願ーい。 ……シンシア? 紅茶のおかわり…………あいつどこ行った?」
本から目を離して室内を見渡すが、シンシアどころかリルの姿すら見当たらない。
あの二人が俺に黙っていなくなるなんて、珍しい事もあるもんだ。
いつもなら俺に一言残していくのに。
あ、でも最近はそうでもないか。
気付いたら席を外していた事が、数回あったっけ。
二人してなにしているんだか。
「……まあいっか。 その内帰ってくるだろ」
二人の動向が気になるっちゃ気になるけど、今は小説の続きの方が気になるんだよなあ。
……よし、ほっとこ。
と、一度は本に集中しようとしたものの。
「ん……んん…………ダメだ、やっぱり気になる。 少し探ってみるか」
どうにも気になってしまった俺は、一旦本をソファーに置き、
「魔力探知」
で、魔力を頼りに行き先を探査開始。
二人の魔力は他より特殊だから探知がしやすい。
案の定、すぐに見つけられた。
が、これは一体どういう事なのだろう。
「シンシアとリルの他に誰か居るのか? この魔力反応は確か…………セニア?」
屋敷の南に広がる森の中で、三人が何故か一堂に会している。
なにしてんだこいつら、こんな森の中で。
まさか俺に隠れて密会でもしてるのか?
気になる……非常に気になる。
ちょっと覗き見してやろうかな。
「えっと……この魔法式でいけたハズ…………おし、完成っと。 あとはこれを発動させて……」
おっ、見えた見えた。
位置的に、木の枝のどこかって所か。
全体を俯瞰で見れて丁度良い位置だ。
今しがた使用した魔法は「千里眼の瞳」。
その名の通り、範囲内の距離ならどこにでも出現させられる一つ目で、遠くに居ながら覗き見る事が可能となる魔法である。
例えるなら、監視カメラが近いかもしれない。
少しばかりエグい瞳がカメラの役割を、俺の右目がモニターの役割を担っている。
この魔法を使っている間は右目が見えなくなるのが、唯一の難点。
「遅かったな、二人とも」
「すいません、セニアさん! リュート様の目を掻い潜るのが難しくて、少し遅れてしまいましたぁ!」
「がふっ」
ふむ、やはり実際口に出した言葉じゃないと聞き取るのは難しいか。
テレパシーの特性上仕方ないとはいえ、少し残念だ。
「リュート殿は何をするにも完璧だからな。 我々のような凡人では、そう易々と彼の目は欺けんさ」
「ですねえ。 流石は我らが崇高なる主ですぅ。 今この瞬間も実はどこかで見ておられたとしても、まったく不思議ではありませんよねえ」
「ふっ、確かに」
「わおーん!」
こいつら、俺が居ないところではこんな会話してたのか。
こっ恥ずかしいからやめてほしい。
影でディスられるよりかは幾分マシだけど。
「さて、雑談はここまでにしようか。 折角の定例会なのだ、どうせなら有意義な時間にしたいのでな。 では、シンシア殿。 本日の議題を発表してくれ」
「はいぃ。 今回の影の円卓騎士団会議の議題は、主にこの三点となりますう」
ちょっと待て。
なんだ、影の円卓騎士団って。
お前らまさかとは思うが、自分達の事そう呼んでんの?
これは痛い、痛すぎる。
「ほう……いよいよあの計画の話をする時が来たか」
ホワイトボード風の木の板に貼られた紙に目を通したセニアはしたり顔で呟くと、更に意味深な言葉を溢す。
「リュート殿が後顧の憂いなく王都の学園に通えるようにするべく、我らが影より領主殿を支える計画。 四年計画を」
「「…………」」
…………。
いや、感慨深く頷いてなくて良いから、誰か話を進めろよ。
その四年計画とかいうの、すっごい気になるんですけど。
と、まるで映画鑑賞しているが如く、ソファーに寝転がって今か今かと待っていたら、そこへ予想外の男が現れた。
「む……? なんだ、お前も来たのか。 最近は何かと屋敷が騒がしいから、今回は欠席だと思っていたのだがな。 護衛騎士筆頭、ルーク=アルブレム殿」
「もちろんですよ、セニアさん。 僕とて影の守護者の一人ですからね。 余程の理由がない限り、欠席するつもりはありませんよ」
言いながら丸太椅子に座ったこの金髪男の名は、ルーク=アルブレム。
俺が秘密裏に進めてきた大型魔物退治やギルド活動を知る、最後の一人だ。
ルークの登場には少しばかり驚かされたが、彼ならこの怪しい組織に加入していてもなんら不思議はない。
なにせルークは雇い主である当代の父さんよりも、まだ子供の俺に忠誠を誓っている変わり者だからな。
むしろ、収まるところに収まった気すらしてくる。
「それで、本日は何が議題に上がっているのですか? 特に決まっていないのであれば、自分は前回開催された、リュート様がいかに素晴らしいお方か語り尽くす議論をまたしたいのですが」
おい。
「残念だが、今回の議題は他にある」
「と言いますと?」
「今回は皆さんお待ちかねの、あの計画について詰めていこうかと思っていますぅ」
「あの計画……? ………………! まさか四年計画を遂に!?」
「ああ、そのまさかだ」
セニアが頷くと、ルークは待ってましたと言わんばかりに。
「なんと! であれば、こんな雑談をしている場合ではありませんね! すぐ話合いましょう、今すぐに! シンシアさん、お願いします!」
「は、はい! ではこれより、リュート様を快く送り出す作戦! 題して四年計画会議を始めようと思います!」
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