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全てを溶かす灼熱の一線

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「あれがコカトリスか。 まんま、でっかいだけの鶏だな」

 王都から南下した所にある岩山に到着した俺とセニアは、道中襲いかかってきたグリフォンや大型トカゲの魔物、サラマンダーを倒しながらひたすら山を登っていった。
 そうして辿り着いた山頂でようやく見つけたのが、件の魔物、コカトリスだ。
 指名手配かつ、他の地域に人を派遣する余裕がないのも、これを見れば納得の一言。
 食料として無造作に置かれている動物や人間の骸以外はすべて石化され、彫刻の森とでも言わんばかりの光景となっている。
 なかなか厄介な相手みたいだ、石化されたらヤバイしここは魔法で瞬殺するか。

「リュート殿、奴のブレスには気を付けろよ。 石化されるぞ」

「わかってる、近付くつもりはないよ。 ここから魔法で狙撃して倒すから、少し離れて貰えない?」

 頷いたセニアが十分距離を取ったのを確認してから、俺はなんだかんだ今まで使う機会があまりなかったアレの準備に取りかかる。

「属性は火、構成は指向性、範囲は点。 これを混ぜ合わせて……よし、出来た! おい、そこの鶏野郎! こっち見ろ!」

「クエ?」

 魔法の構築を終え、飛び出した俺は、コカトリスに向けて右手を突きだし魔法を発動。
 
「これでも食らいやがれ、バレットレーザー!」

「クエエエエエ! クエエッ! くぇ…………」

 まるでロボットアニメのレーザービームが如く発射された熱線は瞬く間にコカトリスを消滅させ、更には、

「あ、やべ」

 直線上に存在していた岩石や山頂の一角、数十キロ先に聳え立つ断崖絶壁までをも丸ごと全て溶かし尽くしてしまった。
 流石は単属性の中でも最強クラスの魔法。
 とんでもない威力と射程である。
 撃った本人もドン引きです。

「…………」

 予想だにしていなかった展開に、セニアが放心してしまった。
 が、数秒後。
 我に返ったセニアは呆れた顔色で首を振った後、溜め息を吐きながらこっちに近付いてきて。

「色々言いたいことはあるが、とりあえず報告に戻ろうか。 説教はその後だ」

「……ういっす」

 これだけの事をしたんだから怒られて当然である。
 甘んじて説教を受けるとしよう。
 むしろ説教で済むなら安いもんだ。
 と、俺はもう一度自分が行ったやらかしを一瞥し、その場から立ち去った。






「────あの、もう一度言っていただいてよろしいですか? 何をした、と?」

「だーかーらー! ヨルムンガンド以外の奴らも全部退治してきたって言ったの! ほら、これが証拠! 嘘だと思うなら鑑定でもなんでもして!」

 しつこいギルドの受付嬢に半ばキレながら、俺はアイテムボックスからアラクネの鎌。
 リヴァイアサンから提供して貰った鱗、落ちていたコカトリスの羽を取り出し、机に叩きつけた。

「しょ、少々お待ちください! すぐ調べて参りますので!」

 慌てた様子で素材を回収したお姉さんは直ぐ様奥に引っ込む。
 
「お……お待たせしました」

 思いの外早く帰ってきたお姉さんの顔色は、あまり芳しくない。
 疑心暗鬼な表情で俺とセニアの顔色を窺っている。

「確かにこれはリヴァイアサンの鱗、アラクネの鎌、コカトリスの羽で間違いありませんでした。 ですが本当にこんな短時間で? 証拠がある以上信じざるを得ませんが、これは幾らなんでも……」

「ホントなんだって! 信じてよ、お姉さん!」

「うーん」

 どうして信じてくれないのか。
 本当に倒したのに。
 お姉さんはうーんと唸るばかりで、なかなか認めようとしない。
 そこへセニアが。

「レミリア。 疑いたくなる気持ちもわかるが、全て事実だ。 カズトは私の力を借りず一人で倒してみせた。 私が証人となろう」

「銀閃があそこまで言うんだ、嘘じゃねえんだろうな」

「マジかよ。 じゃあカズトの野郎、本当に一人で全部……」

「……フッ」

 なんだそのどや顔は。
 なんだその待ってましたと言わんばかりの微笑みは。
 嫌な予感しかしない!

「いや、すまない。 全てではないな、そこは訂正しよう。 なにしろ……」

「で、ですよね! 我々が何度討伐に乗り出しても、その度返り討ちにしてきた強大な魔物ですもの! 一人で、しかもたった1日でやれる筈……」

「ふっ、カズトはそれ以上の偉業を成したのだからな」

 おい、待てこの野郎。
 お前何を……!

「ちょ、セニ……ッ!」

「リヴァイアサンを服従させ、自分の手駒にするという前人未到の偉業をな!」

「な……」

「なな!」

「なにぃぃぃぃ!?」 

 こいつやりやがった!
 やりやがったよ、こいつ!
 なに考えてんだ、この銀髪!

「おいいいいい! おまっ、何してくれてんの? ねえ、何してくれてんの!? 俺言ったよね、あいつにはもう人を襲わないよう指示したから、ひとまず退治したことにしとけって! 人を襲わない別の個体だと思わせようって、俺言ったよね! なのになんで俺が使役してる事まで言ってんだよ! バカなの? バカなんじゃないの、お前!」

「……自慢したくてつい」

 ついじゃねえんだわ、ついじゃ。

「えっと……わ、わかりました。 だいぶ異例の形となりますが、事実であれば報酬を渡すようギルドマスターから仰せつかっておりますので、このまま手続きを進めますね。 では、カズトさん。 こちらに依頼完了のサインを」

 もう少しセニアとお姉さんに文句を言いたい所だったが、これ以上騒いで下手に突っ込まれるのは嫌だったから、俺は大人しくサインを書き、お姉さんに渡した。

「はい、これで手続きは完了となります。 次に報酬をお渡しします。 こちらをどうぞ。 報酬金はしめて、5000万コルとなります」

「5000万……」

「なんて大金だよ、少なくとも10年は遊んで暮らせる額じゃねえか」

 袋を開けてみると、金貨がゴロゴロ入っていた。
 これだけあれば村の発展も進むだろう。
 帰ったら匿名で父さん宛に送るとしよう。
 使用用途を記した手紙と一緒に。
 あ、でもその前に。

「セニア。 はい、これ分け前。 手伝ってくれたお礼に」

「よいのか? 大して役に立ってないと思うのだが」

「うん、もちろん。 一緒に仕事したんだから分けないわけにはいかないでしょ?」

「そうか、では遠慮なくいただこう」

 納得したセニアは自前の財布に金をしまうと。

「それで、これからどうする? すぐに貴殿の村へ行くか? 必要とあれば、今から移転の手続きを済ませるが」

「うーん、そうだなぁ。 とりあえず手続きは進めておいて貰うとして……村に来るのはゆっくりで良いかな。 自由気ままな冒険者って言っても、引っ越しの準備とか知り合いに別れの挨拶をしたりとか色々あるでしょ? だからそれが終わってからで良いよ、村に来るのは。 それまでは俺一人で魔物を倒しとく」

「承知した。 ではまた」

 一時の別れを済ませ、業務手続き用のカウンターに向かっていった。
 その後、ギルドが騒ぎに包まれたのは言うまでもない。

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