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第23話 性なる革命家
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『でたぁあああああああ!! 蛙ゴブリンことゴブゾウ選手の大跳躍! これにはさすがのトロールも手が出せないッ!』
昨夜とは打って変わって、コロッセオには司会者然としたアマンダの声が響き渡る。
この会場で、昨日の淫らな彼女を知っているのは俺だけ。なんという優越感。
『竜騎士も真っ青な超絶ジャンプからのゴブリンキック! これにはさすがのトロールもたまらずダウン! 脳震盪を起こして立ち上がれないッ!!』
観客たちの声が合わさり、地鳴りとなって会場を揺るがした。
「くそったれぇッ! なんでトロールかゴブリンなんかに負けんだよ!」
「ふざけんじゃねぇぞ! 2日連続で大損じゃねぇか!」
「金返せッ! あんな雑魚いトロールを出した飼い主はどこだ!」
「全員で取っ捕まえて吊るし首にしてやれ!」
「――ヒィッ!?」
北東の出入口付近から観戦していた商人風の青年が、情けない声を上げて逃げ出すように会場をあとにする。
「やったぁ、やったよゴブゾウ!」
大はしゃぎのアーサーだったが、特別席に腰掛ける夜の妖精王、その脇でアヒル座りのジャンヌを見て、怒りに打ち震えている。
「絶対に助け出すからな、ジャンヌ!」
「……アーサー」
勇ましく拳を突きだすアーサーなのだけど、戦うのはゴブゾウである。
「ウゥル♡」
アマンダがこちらに跳びはねながら手を振っている。アマンダはすでに俺の虜だ。
「ちょっ、ちょっと! なんであの司会の娘があんたを見て、ああああんなに目をハートにするのよ! おかしいじゃない!!」
「あっ、居たのか?」
「居るわよ!」
昨日羞恥心から逃走してどこかに行ってしまったクレアだっだが、気がつくと当然のように隣で観戦していた。
「クレアは知らんかもしれんがな、俺はこう見えてもモテるのだ!」
「モ、モテるからって、あたしを口説いておいてそれってどうなのよ!」
「何かまずいのか?」
「あ、当たり前でしょ! あたしの胸を揉んで、舌まで入れてきたくせにっ! こんなの浮気じゃない!」
「ダークエルフにはそういうルールや文化があるのか?」
「え……? 人間ってそうじゃないの?」
「人間の男は複数の女と結ばれて嫁にもらうのが普通だ(地域によるがな)。むしろ娶った数が少ない男は若輩者と揶揄される。よって強く権力のある男は複数の女を嫁に取る」
というか、天界は一夫多妻制なので浮気とかいう概念自体存在しない。
現に親父にも複数妻がいる。それをおかしいと思ったこともない。
「……そ、そうなんだ。ちょっと複雑だけど、強さの象徴なら……まぁ」
強さを求める魔族だからこそ、他者に強さを示すための行為にも理解がある。
俺はアマンダに今夜も店に行くからなと、ウインクを投げかけて身を翻す。
「あら、これ意外と儲かるわね」
昨日あんなにブチ切れていたのが嘘のよう、ロキも軽快な足取りで換金窓口に向かう。
「本当に現金なやつだな」
とはいえ、俺も今日の勝ち分を換金するためあとに続く。ゴブヘイとゴブスケは投げ捨てられた剣闘券を必死に漁っている。
今夜も娼館に行きたくて仕方がないのだろう。バカな奴らだ。
「はい、締めて六千万ギルです」
「おお! これは圧巻だな!」
元手の十二万ギルをオッズ(99.9倍)で約一千ニ百万ギルに変えてからの、本日のゴブゾウオッズ(10.5倍)で六千万ギルに変える。昨日のゴブゾウの大活躍によって、大幅なオッズ減少となってしまったものの、これには大満足である。
昨日詐欺師にイチャモンつけられて半分持っていかれなければ、一億二千万ギルとなっていた。
ま、タラレバを言っても仕方がない。
「す、すごいですね神様!」
「まあな! とはいえ、大半は今後の村の開拓資金に当てるからな。つーか、全然足らない」
「こんなにあるのに足らないんですか!?」
「当たり前だろ」
国というか村を発展させるためには、国民というか住民の数を増やす必要がある。そのためには食料の確保が最重要課題となってくる。住居を建設する上で必要な資材などは、大森林から調達すれば問題ない――が、それもいつまでもという訳にはいかない。度が過ぎると生態系を破壊しかねないからな。
後でどんなしっぺ返しが来るか分かったものではない。
なにより人数が増えればいつまでも自給自足というわけにもいかなくなる。
そこで重要になってくるのが貿易。
しかしここでネックになってくるのが外貨獲得方法。もちろんその方法についても考えてはいるのだが(コンドーム以外で)、今は人手もそれをするための資材も全然足らない。そこをクリアにするためにも、食材確保と国民の増加は避けられないだろう。
「神様は色々と考えているんですね」
「……まあな」
アテナ保険に入っているとはいえ、できることならトリートーンに勝ちたいからな。
大切な国家運営資金を風呂敷に詰めていく。
「よっこらせ」
中々に重い。
「そんなに沢山あるなら今夜も連れて行ってほしいじょ!」
「お願いするだがや!」
「ダメだ!」
これっぽっちで国が経営できるわけないだろ。
「ケチだじょ!」
「ケチなんだがや!」
「喧しい! クソの役にも立たんお前らにタダ飯食わせてやってるだけ有り難く思え!」
ブーブーと愚痴をこぼす二匹を尻目に、闘技場から戻ってきたゴブゾウが不満気な視線を向けてくる。
「オラはゴブスケやゴブヘイとは違って役に立ってるべさ!」
「……たしかに、まあ、そうだな」
言われてみればたしかにその通りなので、御褒美にゴブゾウだけ娼館に連れて行ってやるか。アメとムチは大切だ。
「ズルいんだじょ! いつもいつも神様はゴブゾウだけ贔屓してるんだじょ!」
「神様は公平でなぐ不公平なんだがや!」
床の上を転がっては暴れまわり抗議する二匹に、ため息がこぼれる。まるで5歳児の駄々っ子攻撃である――いや、実際に5歳だった。
といっても、ゴブリンの5歳は人間で言うところの20歳くらいだ。
「なら、お前らも役に立て」
そう言って俺は二匹に大量のコンドームを手渡した。
「んっだぁ、これ?」
「こんなのどうするんだじょ?」
「もちろん売るのだ」
「こんなの金になるだがぁ?」
「なる!」
「嘘くさいじょ」
俺はこの世界の性事情に革命をもたらすであろうコンドームについて、熱く語る。
性に関する事となった途端、二匹は正座して真剣に耳を傾けた。
「避妊をする意味がわがらねぇげんど、売れるなら売って今夜もメスを抱くだがや!」
「ゴブヘイ! どっちがたくさん売れるか勝負だじょ!」
意気揚々と駆けていく。
これである程度は宣伝になるだろう。
アマンダにもいくつかコンドームを渡してある。今夜あたりに店の嬢たちが使って話題になれば、情報に敏感な商人ならば必ずコンタクトを取ってくるはず。
そうなればワンダーランドを往来している人間側の商人と、交渉のテーブルにつくことになるだろう。
それもこちらから頭を下げて買ってくれと頼みこむのではなく、商人側はからどうか売ってくれと頭を下げての交渉。有利な交渉に持っていけるだろう。
人間の国に行かずして、大々的に貿易を開始する。
まさに一石二鳥。
「随分ご機嫌じゃない」
「……」
クレアにめちゃくちゃ睨まれている。
「金が入ったからな」
「またいやらしい話してたみたいだけど?」
「……」
鋭い。
ゴネられたら面倒だし、少しご機嫌伺いしておくか。
「今夜はまだ時間があるから、その……クレアとデートしようかなと思ってな」
「本当ッ!?」
予想に反してめちゃくちゃ嬉しそうなんですけど……。
やっぱりこいつも可愛いな。
「う、うん。少し金も入ったしな。別れる前に、なんか記念になるもんでも買ってやるよ」
「指輪!」
「へ……?」
「あたし指輪がいいっ!」
「ああ、別にいいぞ」
ということで、アーサーたちには先に宿に戻ってもらい、俺はクレアと夜のデートに出掛ける。
昨夜とは打って変わって、コロッセオには司会者然としたアマンダの声が響き渡る。
この会場で、昨日の淫らな彼女を知っているのは俺だけ。なんという優越感。
『竜騎士も真っ青な超絶ジャンプからのゴブリンキック! これにはさすがのトロールもたまらずダウン! 脳震盪を起こして立ち上がれないッ!!』
観客たちの声が合わさり、地鳴りとなって会場を揺るがした。
「くそったれぇッ! なんでトロールかゴブリンなんかに負けんだよ!」
「ふざけんじゃねぇぞ! 2日連続で大損じゃねぇか!」
「金返せッ! あんな雑魚いトロールを出した飼い主はどこだ!」
「全員で取っ捕まえて吊るし首にしてやれ!」
「――ヒィッ!?」
北東の出入口付近から観戦していた商人風の青年が、情けない声を上げて逃げ出すように会場をあとにする。
「やったぁ、やったよゴブゾウ!」
大はしゃぎのアーサーだったが、特別席に腰掛ける夜の妖精王、その脇でアヒル座りのジャンヌを見て、怒りに打ち震えている。
「絶対に助け出すからな、ジャンヌ!」
「……アーサー」
勇ましく拳を突きだすアーサーなのだけど、戦うのはゴブゾウである。
「ウゥル♡」
アマンダがこちらに跳びはねながら手を振っている。アマンダはすでに俺の虜だ。
「ちょっ、ちょっと! なんであの司会の娘があんたを見て、ああああんなに目をハートにするのよ! おかしいじゃない!!」
「あっ、居たのか?」
「居るわよ!」
昨日羞恥心から逃走してどこかに行ってしまったクレアだっだが、気がつくと当然のように隣で観戦していた。
「クレアは知らんかもしれんがな、俺はこう見えてもモテるのだ!」
「モ、モテるからって、あたしを口説いておいてそれってどうなのよ!」
「何かまずいのか?」
「あ、当たり前でしょ! あたしの胸を揉んで、舌まで入れてきたくせにっ! こんなの浮気じゃない!」
「ダークエルフにはそういうルールや文化があるのか?」
「え……? 人間ってそうじゃないの?」
「人間の男は複数の女と結ばれて嫁にもらうのが普通だ(地域によるがな)。むしろ娶った数が少ない男は若輩者と揶揄される。よって強く権力のある男は複数の女を嫁に取る」
というか、天界は一夫多妻制なので浮気とかいう概念自体存在しない。
現に親父にも複数妻がいる。それをおかしいと思ったこともない。
「……そ、そうなんだ。ちょっと複雑だけど、強さの象徴なら……まぁ」
強さを求める魔族だからこそ、他者に強さを示すための行為にも理解がある。
俺はアマンダに今夜も店に行くからなと、ウインクを投げかけて身を翻す。
「あら、これ意外と儲かるわね」
昨日あんなにブチ切れていたのが嘘のよう、ロキも軽快な足取りで換金窓口に向かう。
「本当に現金なやつだな」
とはいえ、俺も今日の勝ち分を換金するためあとに続く。ゴブヘイとゴブスケは投げ捨てられた剣闘券を必死に漁っている。
今夜も娼館に行きたくて仕方がないのだろう。バカな奴らだ。
「はい、締めて六千万ギルです」
「おお! これは圧巻だな!」
元手の十二万ギルをオッズ(99.9倍)で約一千ニ百万ギルに変えてからの、本日のゴブゾウオッズ(10.5倍)で六千万ギルに変える。昨日のゴブゾウの大活躍によって、大幅なオッズ減少となってしまったものの、これには大満足である。
昨日詐欺師にイチャモンつけられて半分持っていかれなければ、一億二千万ギルとなっていた。
ま、タラレバを言っても仕方がない。
「す、すごいですね神様!」
「まあな! とはいえ、大半は今後の村の開拓資金に当てるからな。つーか、全然足らない」
「こんなにあるのに足らないんですか!?」
「当たり前だろ」
国というか村を発展させるためには、国民というか住民の数を増やす必要がある。そのためには食料の確保が最重要課題となってくる。住居を建設する上で必要な資材などは、大森林から調達すれば問題ない――が、それもいつまでもという訳にはいかない。度が過ぎると生態系を破壊しかねないからな。
後でどんなしっぺ返しが来るか分かったものではない。
なにより人数が増えればいつまでも自給自足というわけにもいかなくなる。
そこで重要になってくるのが貿易。
しかしここでネックになってくるのが外貨獲得方法。もちろんその方法についても考えてはいるのだが(コンドーム以外で)、今は人手もそれをするための資材も全然足らない。そこをクリアにするためにも、食材確保と国民の増加は避けられないだろう。
「神様は色々と考えているんですね」
「……まあな」
アテナ保険に入っているとはいえ、できることならトリートーンに勝ちたいからな。
大切な国家運営資金を風呂敷に詰めていく。
「よっこらせ」
中々に重い。
「そんなに沢山あるなら今夜も連れて行ってほしいじょ!」
「お願いするだがや!」
「ダメだ!」
これっぽっちで国が経営できるわけないだろ。
「ケチだじょ!」
「ケチなんだがや!」
「喧しい! クソの役にも立たんお前らにタダ飯食わせてやってるだけ有り難く思え!」
ブーブーと愚痴をこぼす二匹を尻目に、闘技場から戻ってきたゴブゾウが不満気な視線を向けてくる。
「オラはゴブスケやゴブヘイとは違って役に立ってるべさ!」
「……たしかに、まあ、そうだな」
言われてみればたしかにその通りなので、御褒美にゴブゾウだけ娼館に連れて行ってやるか。アメとムチは大切だ。
「ズルいんだじょ! いつもいつも神様はゴブゾウだけ贔屓してるんだじょ!」
「神様は公平でなぐ不公平なんだがや!」
床の上を転がっては暴れまわり抗議する二匹に、ため息がこぼれる。まるで5歳児の駄々っ子攻撃である――いや、実際に5歳だった。
といっても、ゴブリンの5歳は人間で言うところの20歳くらいだ。
「なら、お前らも役に立て」
そう言って俺は二匹に大量のコンドームを手渡した。
「んっだぁ、これ?」
「こんなのどうするんだじょ?」
「もちろん売るのだ」
「こんなの金になるだがぁ?」
「なる!」
「嘘くさいじょ」
俺はこの世界の性事情に革命をもたらすであろうコンドームについて、熱く語る。
性に関する事となった途端、二匹は正座して真剣に耳を傾けた。
「避妊をする意味がわがらねぇげんど、売れるなら売って今夜もメスを抱くだがや!」
「ゴブヘイ! どっちがたくさん売れるか勝負だじょ!」
意気揚々と駆けていく。
これである程度は宣伝になるだろう。
アマンダにもいくつかコンドームを渡してある。今夜あたりに店の嬢たちが使って話題になれば、情報に敏感な商人ならば必ずコンタクトを取ってくるはず。
そうなればワンダーランドを往来している人間側の商人と、交渉のテーブルにつくことになるだろう。
それもこちらから頭を下げて買ってくれと頼みこむのではなく、商人側はからどうか売ってくれと頭を下げての交渉。有利な交渉に持っていけるだろう。
人間の国に行かずして、大々的に貿易を開始する。
まさに一石二鳥。
「随分ご機嫌じゃない」
「……」
クレアにめちゃくちゃ睨まれている。
「金が入ったからな」
「またいやらしい話してたみたいだけど?」
「……」
鋭い。
ゴネられたら面倒だし、少しご機嫌伺いしておくか。
「今夜はまだ時間があるから、その……クレアとデートしようかなと思ってな」
「本当ッ!?」
予想に反してめちゃくちゃ嬉しそうなんですけど……。
やっぱりこいつも可愛いな。
「う、うん。少し金も入ったしな。別れる前に、なんか記念になるもんでも買ってやるよ」
「指輪!」
「へ……?」
「あたし指輪がいいっ!」
「ああ、別にいいぞ」
ということで、アーサーたちには先に宿に戻ってもらい、俺はクレアと夜のデートに出掛ける。
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