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第五十九話 君と遅めの夕食を・2
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食べさせて――
まさかのお願いに、僕は目を見開いて固まってしまった。
こんな目でご主人様にお願いなんてされたら、断れるわけがない。
僕はおずおずと、全身をシグレさんの方へ向けた。
「あの……僕が、シグレさんに……?」
「ん、そうだよ。風邪で上手く力が入らないし、ちょっとクラクラするんだよなぁ……」
言いながら、シグレさんは気怠そうに首を傾け、目を細めて悪戯っぽく口の端を上げた。
(も、もうっ……)
そうやっておどけてみせるシグレさんもカッコよくて、僕は頬を赤く染めて目を逸らした。
上がってしまった呼吸を整えてから、改めてシグレさんに向き合う。
「……分かりました。じゃあ、どれから食べますか?」
「んー、ここはやっぱり、おかゆかな」
「おかゆですね」
言われるまま、僕はお粥の入った器とスプーンを手に取った。
おかゆはまだアツアツなので、スプーンで掬ってから少し冷めるまで待つ……と思ったら。
シグレさんは更にリクエストをしてくる。
「あ、セイラ?こういう時は、ちゃんとふぅふぅするんだよ」
「え?あ……」
一瞬何かと思ったけれど、すぐに意味を理解して顔が熱くなる。
「ふぅふぅって……っ」
「ん、やって?」
「も、もう……っシグレさんっ」
「あれ、やってくれないの?じゃあ俺、ヤケドしちゃうなぁ」
「うぅ、もう……っなんかシグレさん、いつもと違って、その……子供みたいです」
言おうかどうしようか戸惑ったけれど、僕は素直な感想を述べた。
すると、シグレさんも自覚があるのか「うん」と頷いた。
まぁ、風邪のせいだと思うけれど、今のシグレさんは子供みたいに甘えてくる。
これは、仕事の時のあの大人びた表情からは想像もつかない。
(はぁ……でも、なんか)
時折り咳き込んでいるし、顔も赤いので早く休ませなければと思いつつ、僕もなんだか楽しくなってきてしまっている。
それに、こんなプライベートな顔を見られるのは僕だけかもと思うと、とても嬉しい。
おかゆの乗ったスプーンを口元に近付け、僕はそっと息を吹きかけた。
「ふぅ……」
「……っ」
すると、横で見ていたシグレさんが小さく息を呑んだ。
見れば、熱で赤くなっていた顔を更に赤く染めている。
「あの、シグレさん……?」
「ん?ああ、その……ははっ、自分でお願いしたのに、いざされると……ヤバい」
「え……」
暫しの沈黙が落ちる。
そして、僕もまた顔を赤くして俯いた。
「お……っおかゆ、冷ましてるだけですよっ?」
「うん……でも、それがいい」
「なにがいいんですか……!」
シグレさんの言葉に恥ずかしさが倍増し、僕は肩を竦めて更に顔を俯けた。
まったく、夕食を前に何をしているんだろうか……。
そうこうしているうちに、スプーンに乗ったおかゆはすっかり冷めてしまった。
「あ、シグレさん、もう大丈夫ですよ。というか、冷めちゃいました」
「ああ、ごめん。じゃあ……あ」
おもむろに、シグレさんは口を開けて睫毛を伏せた。
「……!」
伏せられた長い睫毛と、いつも変わらず丹精な顔立ちに鼓動が跳ね上がる。
というか、僕は今からこのイケメン過ぎるご主人様に、おかゆを食べさせなければならないというミッションを抱えているのだ。
(き、緊張してきた……っ)
僕は震える手でスプーンを握り締めると、そっとシグレさんの口元にスプーンを運んだ。
まさかのお願いに、僕は目を見開いて固まってしまった。
こんな目でご主人様にお願いなんてされたら、断れるわけがない。
僕はおずおずと、全身をシグレさんの方へ向けた。
「あの……僕が、シグレさんに……?」
「ん、そうだよ。風邪で上手く力が入らないし、ちょっとクラクラするんだよなぁ……」
言いながら、シグレさんは気怠そうに首を傾け、目を細めて悪戯っぽく口の端を上げた。
(も、もうっ……)
そうやっておどけてみせるシグレさんもカッコよくて、僕は頬を赤く染めて目を逸らした。
上がってしまった呼吸を整えてから、改めてシグレさんに向き合う。
「……分かりました。じゃあ、どれから食べますか?」
「んー、ここはやっぱり、おかゆかな」
「おかゆですね」
言われるまま、僕はお粥の入った器とスプーンを手に取った。
おかゆはまだアツアツなので、スプーンで掬ってから少し冷めるまで待つ……と思ったら。
シグレさんは更にリクエストをしてくる。
「あ、セイラ?こういう時は、ちゃんとふぅふぅするんだよ」
「え?あ……」
一瞬何かと思ったけれど、すぐに意味を理解して顔が熱くなる。
「ふぅふぅって……っ」
「ん、やって?」
「も、もう……っシグレさんっ」
「あれ、やってくれないの?じゃあ俺、ヤケドしちゃうなぁ」
「うぅ、もう……っなんかシグレさん、いつもと違って、その……子供みたいです」
言おうかどうしようか戸惑ったけれど、僕は素直な感想を述べた。
すると、シグレさんも自覚があるのか「うん」と頷いた。
まぁ、風邪のせいだと思うけれど、今のシグレさんは子供みたいに甘えてくる。
これは、仕事の時のあの大人びた表情からは想像もつかない。
(はぁ……でも、なんか)
時折り咳き込んでいるし、顔も赤いので早く休ませなければと思いつつ、僕もなんだか楽しくなってきてしまっている。
それに、こんなプライベートな顔を見られるのは僕だけかもと思うと、とても嬉しい。
おかゆの乗ったスプーンを口元に近付け、僕はそっと息を吹きかけた。
「ふぅ……」
「……っ」
すると、横で見ていたシグレさんが小さく息を呑んだ。
見れば、熱で赤くなっていた顔を更に赤く染めている。
「あの、シグレさん……?」
「ん?ああ、その……ははっ、自分でお願いしたのに、いざされると……ヤバい」
「え……」
暫しの沈黙が落ちる。
そして、僕もまた顔を赤くして俯いた。
「お……っおかゆ、冷ましてるだけですよっ?」
「うん……でも、それがいい」
「なにがいいんですか……!」
シグレさんの言葉に恥ずかしさが倍増し、僕は肩を竦めて更に顔を俯けた。
まったく、夕食を前に何をしているんだろうか……。
そうこうしているうちに、スプーンに乗ったおかゆはすっかり冷めてしまった。
「あ、シグレさん、もう大丈夫ですよ。というか、冷めちゃいました」
「ああ、ごめん。じゃあ……あ」
おもむろに、シグレさんは口を開けて睫毛を伏せた。
「……!」
伏せられた長い睫毛と、いつも変わらず丹精な顔立ちに鼓動が跳ね上がる。
というか、僕は今からこのイケメン過ぎるご主人様に、おかゆを食べさせなければならないというミッションを抱えているのだ。
(き、緊張してきた……っ)
僕は震える手でスプーンを握り締めると、そっとシグレさんの口元にスプーンを運んだ。
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