雇われオメガとご主人様

筍とるぞう

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第五十八話 君と遅めの夕飯を・1

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■□■

目を覚ますと、もう夜の22時だった。


(うそ……もうこんな時間!?)


いつも夕食は20時までに摂るようにしているのだけれど、今日はその時間をとっくに過ぎてしまった。

シグレさんはただでさえ徹夜で生活習慣が乱れがちなので、食事ぐらいはきちんとした時間に食べるように心がけている。それなのに……


(早く準備しなきゃ!)


今日は体調も悪いのに、結局、けっこう激し目にイチャイチャしてしまった気がする。

僕は慌てて身を起こすと、隣で眠るシグレさんの髪にそっと触れた。


「夕食の支度、してきますね」


「……すー」


さすがに疲れたのか、シグレさんが起きる様子はない。

心配になり、おでこに手を当ててみると、明らかに先ほどよりも熱が上がっているようだった。

これは早く食事をさせて、薬を飲ませなければ。

僕はベッドから降りると、キッチンへ向かった。


(えーと、さっき研いだお米を鍋に移して……)


時間が遅いので、なるべく手際よく準備を進めていく。

米を煮ている間に、飲み物や薬、その他の食材の準備を済ませ、トレーに乗せて寝室へ。

今回はシグレさんがまだ寝ているかもしれないので、僕は軽くノックをして静かにドアを開けた。


「失礼します。シグレさん……?」


「ん……セイラ?」


「良かった、起きてたんですね。体調はいかがですか?」


「んー……だるい」


そう言って、シグレさんは身を起こすと気怠そうに後ろ頭を掻いた。

サラサラの髪が乱れ、ボタンが外されたシャツからは汗ばんだ白い肌がチラリと見えている。


(……っ)


なんとも色気のあるその姿に、僕はまたドキドキしてしまって、さっと顔を俯けた。

それから気を取り直し、トレーに乗った食事を運ぶ。


「これ、夕食です。シグレさんの体調に合わせて、なるべく消化の良いものにしましたから、ゆっくり召し上がってください」


「わ、美味しそうだ……こほっ、ありがとう。早速、頂くよ」


「はい。ここ、置きますね」


僕はトレーに乗った食事をサイドテーブルの上に並べていく。

その姿を見つめながら、シグレさんは僅かに眉を寄せた。


「……ごめん。さっきので本当に、セイラにも風邪をうつしてしまったな」


「……っい、いえ!大丈夫です、こう見えて、結構丈夫ですから!」


先程のイチャイチャが脳裏に蘇り、僕は顔を真っ赤に染め上げながらブンブンと首を横に振った。

シグレさんはそんな僕の横で、申し訳なさそうに小さく微笑んだ。


「ありがとう、セイラ。でも、この風邪けっこうキツイから、セイラが倒れたら、俺がしっかり看病してあげるからね」


ふいに手を取られ、甲にチュッとキスを落とされる。


「……っ」


瞬間、心臓が大きく跳ね上がった。

いつもより少し憂鬱そうな表情に、手に触れる長い指先、甘いセリフ……僕はすっかりポーっとなってしまい、うっとりとその姿を見つめた。

そして、そのままボーっとしていると、シグレさんが「さて」と場の空気を切り替えた。


「食事、いただきます」


「あっ、はい……!じゃあ、僕はリビングに居ますので……」


食事の邪魔になるだろうと思い席を外そうとすると、後ろから手が伸びてきて、きゅっとシャツの裾を掴まれた。

振り返ると、儚げな表情で見つめられ、その美しさにドキリとしてしまう。


(……っ、本当に、シグレさんって美形……)


ドキドキしつつもなんだろうと小首を傾げると、弱々しい笑みと、少し甘えるような掠れた声音が返ってきた。


「待って、セイラ……食べさせてくれる?」


「え……っ」
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