雇われオメガとご主人様

筍とるぞう

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第六十話 君と遅めの夕食を・3

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「ん……」


おかゆを口の中へ運ぶと、シグレさんの口が閉じ、僕はゆっくりとスプーンを引き抜いた。

鼓動はもうマックスに達しており、バクバクと音を立てている。


「お……っお味は、いかがですか?」


「うん……おいしい。すごく」


「……っホントですか?良かった……!」


色々考えて作った食事を褒められると、やはり嬉しくて笑みが漏れる。

もっと食べて欲しくて、僕はもう一度スプーンでおかゆを掬い上げた。

更に、まだ熱そうなので ”ふぅふぅ” をすることに。


「ふぅ、ふぅ……」


「……」


その様子を、隣でシグレさんは黙って見守っている。

僕は何度かふぅふぅを繰り返し、頃合いを見てスプーンを差し出した。


「はい、シグレさん」


少しだけ、慣れてきた。

内心、一息つきつつ様子を窺っていると、シグレさんはおかゆを食べずに甘いため息をついた。


「はぁ……なんか、夢でも見てるみたいだ」


「え?」


僕はキョトンとしてシグレさんを見つめた。

暫くそのままでいると、シグレさんは再び「はぁ」とため息をつき、スプーンを持っていない方の僕の手に自分の手を重ねた。


「主人に教わった下らない事を、こんな風に健気にやってくれる……セイラは従順過ぎるよ」


「えっ……!?」


瞬間、かぁっと顔が熱くなった。

まさか、シグレさんは冗談のつもりだったのに、真に受けて真面目にやってしまっていたのだろうか。

そう思うと恥ずかしくてたまらない。

けれど、反論するわけにもいかず、僕はなんとか正当な理由を探した。


「で、でも……!確かに、冷まさないと、シグレさんが火傷してしまいます、から……っ」


そう言って頬を染め、オロオロしていると、シグレさんがふっと小さく笑った。

そして僕の手の甲を指先で優しくなぞる。


「……っ」


「セイラ、あんまり可愛いと、また襲いたくなっちゃうから……おかゆ、ちょうだい」


「あ……はいっ」


うっかり取り落としそうになったスプーンをしっかり持ち直し、僕は再度、スプーンをシグレさんの口元へと運んだ。


「ん、おいし」


「良かったです。あの……全部、こうやって食べますか?」


念のため、最後まで食べさせるか否かを確認する。

すると、シグレさんはクスッと笑って小さく首を傾げてみせた。


「ん……じゃあ、あと一口だけ、セイラが食べさせて?」


「……っは、はい……!」


あと一口で、このミッションは終了だ。

食べさせてあげるのも楽しかっただけに、少し寂しい気持ちになる。

僕は最後の想いを込めておかゆをスプーンで掬い、シグレさんの口元へ運んだのだった。


・・・


そして、約一時間後。

ようやく食事を終えたシグレさんは、薬も飲み終え、着替えをする事になった。

シャツは汗でぐっしょり濡れているので、取り替えなければならない。

それと、寝る前にもう一度熱を測って、身体の汗を濡れタオルで拭きとらなければ。


(ええと、タオルと洗面器と……)


現在、シグレさんはまた熱が上がってしまったので、一旦横になっている。

その間に僕はタオルやお湯の準備をする。その際、運ぶのが大変だろうということで、食事の時にたまに使っている小ぶりのダイニング・ワゴンを使用する事になった。

これなら一気に運べるので、使用人としてはとても助かる。


(シグレさん、早く良くなるといいな)


そんな事を思いながら、僕はワゴンを押して部屋に向かった。

部屋に入ると、ベッドサイドにワゴンを止め、湯の張った洗面器にタオルを浸け込む。

ちゃぷちゃぷと水音を立てていると、うとうとと眠っていたシグレさんが目を覚ました。


「ん……あ、セイラ。身体を拭く準備、してくれたのか」



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