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「そのようなこと、ありえないッ――グッ」
 まるで言い聞かせるように叫ぶ雪也であったが、それでも動揺を隠しきることができず男の刀を避け損ねる。急いで後ろに引くが、その横腹はゴプリと血を噴出した。立っているのが不思議なほどの傷に男はスッと背筋を正し、血に濡れた刀を構える。
「先程も言ったように、そなたに恨みはない。そなたから見れば理不尽なことだろう。だが、春風を止めなければ衛府に打撃を与えることはできない。衛府が治め続ければ、いずれこの国は亡びるだろう。ゆえに、この国のため、数多くの光ある民のために――死んでくれ」
 地を蹴り、男が雄叫びをあげて襲い掛かってくる。雪也はゆっくりと瞼を閉じた。
(光ある民のため、か……)
 美しい言葉だ。美しく、残酷な言葉だ。
 カチャッ、と小さく音が鳴る。弥生から貰った刀を強く握った。
「覚悟ォォォ――――ッッ!!」
 刀が振り下ろされる。その動きが、やけにゆっくりと見えた。刀の柄をめり込ませるように薙ぎ払えば、男の手から刀が弾き飛ばされる。ゴポリと傷口から血が溢れた。
 僅かに目を見開く男の動きを利用するかのように、その腹を峰で切る。血が噴き出ることはないが、それでも意識を奪うには充分な力だ。
 ドサリと、男が地に倒れる。この場に立つのは雪也一人だけとなった。だが、すべての息が奪われたわけではない。結局、雪也は最後まで命を奪うことはできなかった。奪ってしまえば、死んでくれと言った彼らと同じになるような、そんな気がしたからかもしれない。
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